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第19回(平成10年 7月20日)
岐路に立ったかK−1(7月18日)
 7/20 1998.

これまでも可能な限りK−1シリーズに足を運んでいた私だが、今回の名古屋はそれ以上に、なんていうか、「行かざるをえない」とでもいう感じだった。極真勢の追加参戦、特にグラウベ・フェイトーザvsマイク・ベルナルドなんていうカードをやられた日にゃ、見ないわけにいかないではないか。

というわけで、1年ぶりにやってきた名古屋ドーム。発表された入場人員は3万4千人弱で、想像していたより少ない。名古屋というハンデ(東京と比べた場合)を考えてもちょっと気になる。

1.●小川直也(反則)安生洋二○   <UFOルール>

空手対キック全面対抗戦に先だって、UFOルール(ってどんなルールなのか知らないが。ま、アルティメットルールの親戚みたいなもんだ)で小川直也vs安生洋二戦が行われた。
 小川はドンフライ戦あたりを見る限り単なるショッパイレスラーではないかと思っていたのだが、入場シーンなどはなかなかの雰囲気がある。ひとつのジャンルで頂点に立った男はさすがそれだけのことがあるということだろうか。
 対する安生は、ピンクレディーの「UFO」のイントロに、徐々に回転数が落ちフェードアウトしていくというアレンジを施した入場テーマを用意。そのあと結局はいつものテーマで入場してきたのだが、この辺りのプロレス的手法は非常に高く評価できる。
 で、試合だが、なにやらグラウンドでもそもそしていたと思ったら島田レフェリーが小川の反則負けをコール。小川の負け。なんか反則をしてたらしいが、アリーナ東6列でも分からんくらいなので会場全体に「?」のムードが広がったのみだった。なんとも中途半端な試合だ。私としてはプロレスの作法にのっとって「延長」コールをしたり安生vs佐山聡(セコンドにいた)をアオったりしたかったのだが、プロレスの「常識」を知らないファンがほとんどで、っていうかそれ以前にこんなヘボ試合さっさと終わって帰ってくれってムード。で、2人ともさっさと帰った。
 小川はヒールを指向しているらしいが、坂口社長に掴みかかったり反則したりしたくらいでヒールになれると思われたら困る。せっかく3万人のミーハー格闘技ファンにUFOの存在をアピールするチャンスだったのに、あれでは「絶対UFOに来ない客を3万人作った」ってところだ。猛省を促したい。

2.○ステファン・レコ(2RTKO)ニコラス・ペタス●

カラテ勢の先頭をきって登場は大山総裁最後の内弟子、ニコラス・ペタス。対するは最近急上昇中のステファン・レコ。極真の超人性に期待を寄せるファンは多かったが、顔面に一日の長があるレコがきっちり勝利。想像していたよりもあっけない決着だった。

3.△カークウッド・ウォーカー(ドロー)ジャビット・バイラミ△

負傷欠場のアンディ・フグにかわって弟子のジャビット・バイラミが登場。対するキック側はムサシやタケルに勝利したことのあるベテラン、カークウッド・ウォーカー。線が細いバイラミは決定力を欠き、明らかに調整不足のウォーカーはバテバテになるという切ない展開の下、ずるずると5R終了。判定はバイラミかと思ったが、1−0にしかならずドローだった。ま、どうでもいいっすわ、こんな試合。
 ここで、FNS27時間テレビオープニングの入り中継に備えて休憩、そして悪名高き「ウェーブの練習」が行われる。それも、K2の勝俣と千秋という、なんとも脱力感あるヌルタレのMCで。前にあれだけ不評だったのにまだやるか、人造ウェーブ。ケミカルライト投げるぞ、しまいにゃ。また、テレビに従順な衆愚が大喜びでそれに従っているのがムカつく。ま、G1時の手拍子と全く同じ構造だよ。メジャー化とともに失うものがあるってことだ。会場の片隅で泣いている古くからの正道会館ファンとか、絶対にいたはずだ。心から同情申し上げる。あんな茶番を観客に強要して、そこにカラテ魂はあるのか!

4.○ジェロム・レ・バンナ(2RKO)サム・グレコ●

FNSのためにさんざん待たされたこの2人。ゴングからまもなく、「拳獣」のニックネームとはうらはらにグレコが鮮やかなハイでダウンを奪う。さらにもうひとつダウンを奪ったグレコが押し切るかと思いきや、そこをしのいだレ・バンナが逆転KO劇。当然場内は大興奮・大歓声。
 試合であれだけ客を湧かせられるというのに、その前の馬鹿馬鹿しい演出はなんだったのだろう。こういう試合そのもののインパクトを中心に露出させていけば本当の流行につながるのに、小手先の演出に走るから一過性のブームで終わるのだ。本当はこんな話、私が怒るんじゃなくて格闘技委員会のヒトが社内で抵抗していかにゃならん問題でしょう。

5.○マット・スケルトン(1RTKO)佐竹雅昭●

レイ・セフォーにも勝った実績があるとはいえ、これは昨年(ジャパンオープントーナメント)同様に、佐竹を勝たせるマッチメークなんじゃないかと思っていた。
 それはスケルトンを過小評価していたというか佐竹を過剰評価していたというか。佐竹、あっさりダウン。もう1回ダウン。スリーノックダウンで終わり。佐竹のいいとこ全くなし。もうみんな佐竹のことは諦めた方がいいかも。もうこれだけ待ったんだし。後の試合で武蔵も負けたし、「K−1に日本人スターは必要か?」というテーマで考えることが必要になってきたといえよう。ま、私はわざわざ無理に作る必要はないんじゃないかと思うんだけど。

6.○マイク・ベルナルド(1RTKO)グラウベ・フェイトーザ●

ペタスもそうだが、グラウベもやはり顔面の防御ができない。そこにベルナルドのパンチが降ってくるのだから、この結果は読めたといえば読めた。しかし、それでも見せ場があるのが極真のすごいところで、フェイトーザの空振りした右ハイの迫力に場内騒然。とりあえず今日のところはそれだけで許す。次はもちっとディフェンスと、フランスで炸裂しまくったヒザを見せてくれ。
 なお、本文の流れとは全く関係ないが、勝ったベルナルドが四方に「だっちゅーの」のポーズを決めて帰っていったことを書き添えておく。日本に馴染みすぎだよ。

7.○アーネスト・ホースト(3RTKO)武蔵●

ムサシあらため武蔵は格闘技通信で相当に吹いていたが、実力差は歴然。1Rは武蔵が押し気味だったが、これはホーストが様子を見ていたという感じ。2Rに入るとホーストが徐々に追いつめていく。コンビネーションの最後や、接戦からの離れ際に1発入れていくローが武蔵の足にダメージを蓄積する。このあたりの抜け目なさはさすが精密機械。3R、あとはしとめるだけ。福岡に続いてハイで決めてほしかったが、パンチを1ダースくらい入れてる間に武蔵ダウン。ホースト圧勝。

8.●ピーター・アーツ(1R終了ドクターストップ)フランシスコ・フィリョ○

フィリョはここまでのキャリアで顔面の怖さを知っているので慎重な試合運び。ジリジリ間合いをはかりながら「一撃」を狙う。対するアーツはその隙を突いてパンチを入れにいこうとするが、フィリョは決定的な隙を作らない。逆にアーツはダメージの残りそうな下段を入れられてしまう。フィリョは空振りしたものの、「ミドルかと思ったらスゴいハイ」という蹴りも繰り出し、場内を湧かせる。
しかし、1R終了間際、ついにフィリョに一瞬の隙が出て、それを逃さなかったアーツのパンチがフィリョの顔面を捕らえた。フィリョ、ダウン。立ち上がったところで1R終了。
 ……ここでアクシデント発生。自分の入れたローでか、相手のローをブロックした時か、アーツのスネがぱっくり割れて骨が露出してしまったのだ。ストップに不満を唱えていたファンも、ビジョンに映った骨を見て沈黙。当たり前だ(笑)。石井館長は後日の再戦をマイクで約束したので、この続きはまた今度。

 

というわけで、事前にはかなりの期待を集めた今興行だったが、フグの欠場にはじまり小川の試合がグダグダ、極真勢の意外な不振、佐竹いいとこなし、武蔵もダメな感じ、とどめはアーツのアクシデントと、マイナス要素満載で終わってしまった。それに加えてFNS27時間テレビ絡みのしょーもない演出が過多すぎたので、私個人としては残念な気持ちが強い。それでいて客入りも超満員というわけではないのだから、K−1は岐路に立っているのではないかという気がする。
 ま、演出手法については私がなに言ったところでCXは聞く耳持たないことだろう。よって、ここでは選手に対し私が望むことだけ書いておきたい。
 やはり、見てみたいのは「強い極真」だ。ニコラスの組み手は顔面ありグローブ戦に合わないような気がするが、それでも今よりは遥かにレベルアップすることが可能なはず。グラウベは、ナチュラルパワーが強いだけにフィリョと同格かそれ以上のところまでいってほしいと思う。今回の試合は顔面丸出しって感じだったので、もう少しディフェンスがしっかりすればK−1のトップクラスに食い込んでもおかしくない。あと、とにかくヒザだ。接近戦からの強引なヒザを次回は出してみてほしい。今回見せたハイもすごかったけど。
弱い極真なんて、存在価値は無い。それは空手を知る人なら、ましてや極真の人間なら身に沁みて分かっていることだろう。
「この世に自分以外の強い人間が存在することは納得がいかない」
「キミィ、カラテは叩いたら飛ぶんだよ」(いずれも故・大山総裁)
 アーツもフグもベルナルドも、グレコもホーストもレ・バンナも、みんなまとめてぶっ飛ばせ! それをやってこそ極真! 押忍!



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