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朝比奈 無制限一本勝負
ブルックナー 交響曲第3番


 EXTONによる録音計画がありながら、朝比奈の逝去により果たせず終了した3番です。
 3種ある全集はすべて大阪フィルとのもので、その他には新日フィルによるDVDが1種だけ残されています。
 ちなみにこの交響曲は、この世の破滅と神による奇跡が交互に訪れるような飛躍の激しい曲想がたまらない魅力を持っている曲で、オーケストラに慣れてきたブルックナーがなんでもない所にも最高度の技術を演奏者に要求しているため、非常な難曲となっているものです。

ブルックナー…交響曲第3番

1977.10.28 L 大阪フィル 大阪フェスティバルホール ★★
LP ジャン・ジャン JJ-1600/16 全集・限定盤
CD ジャン・ジャン JJ-008/019 全集・限定盤
CD グリーンドア JJGD-2001/17 全集・限定盤
演奏について
 ハイティンクに続く世界で2番目となるエーザー版による録音。
 曲の冒頭からかなりアグレッシブなテンポで進められていき、曲想の飛躍が激しいこの曲を弛緩することなく、ギュッと圧縮するようなフォルムで演奏している。ゴツゴツとした手触りは男性的で、この曲に大変似合っている。
 しかし第2楽章では旋律をほとんど歌えておらず、コクの薄いものとなっているのがいただけない。また大フィルも一所懸命にやっているのだが、やっと音にしているような印象で、響きの薄くて固い感じが拭えられない。
 それでも終楽章は堂々としたスケール感を持っており、コーダにおける威容は第3シンフォニーを聞く喜びを大いに感じさせてくれるものとなっている。
録音について
 オンマイクの録音で、残響が非常に少ないのはホールの特徴を捉えたものと言える。
 一方、マスターの経年変化か、最高音においては濁り気味だが、他の音域ではフレッシュさを保てている。また音の分離も良く、音が中央に集まりがちだが、楽器それぞれの存在感はわりとあるほうだ。
1984.7.26 L 大阪フィル 大阪フェスティバルホール ★★
LP Victor VIC-4160/1  
CD Victor VDC-1047 単売
CD Victor VICC-40190/9 全集
CD Victor VICC-60281/91 全集
演奏について
 世界初となるノヴァーク版第2稿による演奏。
 7年前のジャンジャン盤と比較しても音楽の腰が据わり、堂々としていて、ギクシャクとした所がかなり減少している。また大フィルの方もほめられた出来ではないもの、前回よりはしっかりと演奏している。
 中間2楽章などは雄大さの中にしみじみとしたものを感じさせ大変に良い。また終楽章コーダでの盛り上がりはさすがだと言えるもの、両端2楽章に覇気がなく、あまり愉しみを感じさせる演奏ではない。
録音について
 全集の方を聞いた感じでは、全体にダイナミックレンジが狭く、音も曇りがちである。一方、単売の方もさほど印象は変わらないが、幾分すっきりとした音となっている。
同時収録
・ブルックナー…アダージョ第2番(LP)
1993.10.3-6 大阪フィル 大阪フィルハーモニー会館 ★★★★★
CD Pony Canyon PCCL-00210  
CD Pony Canyon PCCL-00400 全集
CD Pony Canyon PCCL-00471 HDCD
演奏について
 このCDは発売された当初「ノヴァーク版第3稿」と表記されていたが、後に「改訂版」だったことを指摘された。これは再販された際に訂正されたが、おかげでライナーも一部書き直しを余儀なくされてしまった。だから「ノヴァーク版第3稿」と書いてあるCDは初版物ということになる。
 これは憶測だが、朝比奈は弦楽器のボーイングにまでこだわる指揮者だったため、他人の書き込みがあるノヴァーク版(パート譜はレンタルしかない)を直接使用することを嫌い、買取できるパート譜を他のルートで探したのではないかと思われる。で、その楽譜をやっと見つけて採用したつもりが、それはノヴァーク版第3稿ではなく改訂版だったというオチがついたのではなかろうか。(そういう楽譜には当然“ノヴァーク”とは書いてないもの)
 ちなみにノヴァーク版第3稿と改訂版は小節数が同じであり、細部にも差はほとんどない。
 
 前2つの演奏とは次元が違う安定感で、スタジオ録音のためかライブによくある恐る恐る進んで行く感じは第1楽章からしてない。オーケストラの鳴りが冒頭から素晴らしく、その充実した響きは雄大でありかつ深みがあって聞いているだけで気持ちよい。
 曲想の飛躍が激しい(その分魅力的な)この交響曲を一切のほつれなく、4つの楽章を見事なバランスでまとめ上げる手腕には感嘆の息を漏らしてしまう。また聞いているうちに指揮者や演奏者の体臭が消えて、曲のみが直に語りかけてくるような錯覚に陥るのは、演奏に作為的な解釈が極めて少ないからだと言える。
 なにより、この曲をこれ程まで愉しく聞かせてくれる演奏は古今東西探してもそうはない。
録音について
 楽器の音が細かく分離し、それぞれの位置が良く分かる録音で、高音から低音までがストレスなく収録され、そのバランスも非常に良い。
 HDCDにおける音の繊細さは非常に素晴らしい。一方、音が眼前に広がるような感じはノーマルの方が少しだけ良い。
1996.12.12 L 新日本フィル 東京文化会館 ★★★★
VHS ジャパンイメージコミュニケーションズ TOVH-8018  
LD ジャパンイメージコミュニケーションズ TOLH-8043/5 3巻セット・限定盤
DVD Columbia COBB-90002/4 3巻セット
演奏について
 2001年11月に同曲を演奏し、録音するはずだったが、朝比奈の死去に伴い、図らずも生涯最後の3番となってしまったもので、同時に東京文化会館のステージに立った最後の演奏にもなってしまった。
 “朝比奈隆 交響的肖像”の第3巻として発売されたDVDに収録された演奏。この曲に前後して他のナンバーも撮影されたが、陽の目を見たのはこの演奏のみとなっている。ちなみにこの演奏もキャニオン盤と同じ改訂版を使用している。
 
 さすがの新日フィルも難物の3番を前にして、アンサンブルのほつれを垣間見せるが、弦の刻みなどは非常に力強く、鋭いフォルムを感じさせる。朝比奈もいつも以上に激しいアクションで指揮を行っているあたり、気合の入りようが手に取るように分かる。
 大フィル盤では各楽想が非常に強い自己主張を行っていたが、この新日フィル盤ではライブということもあって、それらがなだらかにつながって行き、ひとつの大きな流れを生み出している。
 全体に少しだけ早めのテンポが採られ、曲が進むに連れて音楽に熱気がこもってくるのが判る。
 終楽章のコーダでの集中力はかなりのものだが、会場では炸裂しているであろうその爆発力がこちらへ伝わってこないのが非常に惜しい。最後の和音が鳴り響いた後に流れた沈黙がその感銘の深さを物語っているだけに残念だ。
録音について
 残響がほとんどない、非常に乾いた音をしていて、ホールの特性をとらえたものと言えるのかもしれない。音質はダイナミックレンジが狭く、各楽器の分離も悪い。また演奏上のミスはまったく修正されてはいない。
 画像のほうは通常のアングルと指揮者のアップのみを扱ったアングルが用意されているが、通常のほうも奏者のアップの積み重ねとなっている。また見ていて被写体との距離感をやや感じてしまうものとなっている。
同時収録
・リハーサルと対話 (1996.12.9新日本練習場にて収録)
 リハーサル光景は第1楽章の冒頭が収められているが、朝比奈自前のパート譜を使い、弦楽器に対するボーイングを楽員と話し合いながら念入りに仕上げていく様子は、朝比奈サウンドの秘密(と楽曲のアナリーゼ)がうかがい知れて非常に興味深い。
 3年前に大フィルとのレコーディングで使われた弓使いを「あんなものはツギハギだらけのその場限りのものです」と切って捨てるあたりは驚いてしまうと同時に飽くなき向上を目指す姿勢が見えて、襟を正したくなる。

《 総 評 》
 こうやって年代順に並べてみると、使用した版が時期に応じてすべて違っていることに気付きます。
 2001年に演奏するはずだった版は朝比奈の「最初のでやります」という言葉を受けてノヴァーク版第1稿ですると噂が流れましたが、レンタル譜しかないノヴァーク版を朝比奈が使うとは考えにくく、この言葉にはエーザー版やノヴァーク版第3稿も可能性として含まれると思います。
 死去する直前に「あの曲は俺にしかできん」と言っていた朝比奈は病院のベットにカセットテープを持ち込み聞いていたそうで、荼毘に伏される際、棺にこの曲のスコアが収められ、冥土の旅路のお供としてついていったそうです。
 ですから今となっては、何を取り上げるつもりだったのかは関係者以外、まったく闇の中へと埋もれてしまいました。
 
 演奏としてはキャニオン盤が最高の出来なので、これをお薦めします。DVDは録音が良くないので、ドキュメントとしては非常に貴重ですが、演奏としては薦められません。
 
 
 当ページで使用した略称
・大阪フィル=大阪フィルハーモニー交響楽団
・新日本フィル=新日本フィルハーモニー交響楽団

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