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朝比奈 無制限一本勝負
ブルックナー 交響曲第4番「ロマンティック」


 9番に続き早くからレパートリーに加えていた4番ですが、意外と録音は多くありません。
 標題の示す通りにロマンティックな楽想を持つ1〜3楽章と、プチ8番といえるような傑作の終楽章とのギャップが激しいため、全体をブルックナーらしくまとめるのが意外と難しい曲です。

ブルックナー…交響曲第4番「ロマンティック」

1976.7.29 L 大阪フィル 東京文化会館 ★★★★★
LP ジャン・ジャン JJ-1600/16 全集・限定盤
CD ジャン・ジャン JJ-008/019 全集・限定盤
CD グリーンドア JJGD-2001/17 全集・限定盤
演奏について
 速いテンポを採りグイグイと力で押していくような演奏で、ゴツゴツとした手触りの中、低音から積み上げられた中身の充実した響きが聴ける。
 オケの機能としては少々拙い所が散見できるが、演奏自体は最初から最後まで持続する集中力と尻上がりに高まっていく熱気が大変魅力的で、特に終楽章では全曲を締めくくるのに相応しい緊密な構成力と畳み掛けるような迫力でこちらをまったく飽きさせない。非常に男性的で雄大な演奏だ。
録音について
 オーケストラの中へ飛び込んだようなオンマイクの録音で、音響的に優れているとは言い難いホールでの収録とは思えない繊細さをもって個々の楽器の音を非常に細かく拾っている。音の分離も良い方で、左右の広がりも良い。また会場の最前列で聞くような臨場感も充分にある。
1980.5.12 L 日本フィル 東京カテドラル教会・聖マリア大聖堂 ★★★★★
LP Victor SJX1151-9 選集・限定盤
演奏について
 会場が教会ということもあってか、ゆったりとしたテンポを採り、深い呼吸をもって音楽が息づいている。またとうとうと流れるように音楽が紡がれていき、聴いていると包み込まれるような包容力を感じて大変心地よい。それがフィナーレになるとこれに豪放さが加わり、扱いにくいこの楽章を緊密にまとめ上げていく。
 一歩一歩登り詰めるように音楽は昂揚して行き、終楽章でその頂点を迎える構成力の確かさは凄まじく、すべての力を解放する様なコーダでのカタルシスは息を呑んでしまう。
 なお、オケの方はやや拙い点もあるが、残響と録音のおかげか、幾分目立たなくなっている。
録音について
 かなりのオンマイクで、金管が奥に引っ込んだイメージがあるもの、残りの楽器は前面に貼り付いた感じがする。
同時収録
・第5番/東京都交響楽団
・第7番/東京交響楽団
・第8番/大阪フィル
・第9番/新日本フィル
・序曲ト短調/新日本フィル
 このLPセットはシリアル番号が付いた予約限定盤で、5番と9番のみがビクターの全集に再録されCD化されている。
1985.3.10or12 L ホノルル交響楽団 ホノルル・コンサートホール
CD 朝比奈会 B3066 自主制作
演奏について
 朝比奈会が自主制作したもの。海外のオケとの演奏はODEレーベルによるNDRとの7枚組みCDとこれしかない。
 ジャケットには権利の都合と思われるが、オケが“Sinfonie Orchester”と記載されている。実際はホノルル交響楽団との演奏。
 
 未聴のため批評できず。
1989.2.17 L 大阪フィル 大阪フェスティバルホール ★★
CD Victor VDC-1374 単売
CD Victor VICC-40190/9 全集
CD Victor VICC-60281/91 全集
演奏について
 ジャンジャン盤あった突進力は後退したもの、音色が澄み、広がりを持つようになっている。堂に入ったインテンポは悠然とした流れを持ち、この曲を完全に掌握した安定感があるが、音楽に緻密さがなく、熱気がこちらに伝わって来ないせいかあまり心に迫ってこない。
 また大フィルも終楽章になると、かなり疲れを感じさせるプレイが多くなることも残念に思う。
録音について
 単売の方は音の分離が良くなく、奥行き感も乏しいためベターッとした音場をしている。また音の密度も低く、フォルテで「鳴り響く」といった印象を持つことが出来ない。
 追悼盤として発売された全集の方は音の粒が細かくなり、小さい音が良く聞こえるようになる。それに併せて各楽器の位置もよく判るようになっている。リマスターとしてはこちらの方が断然優れている。
1992.5.13&15 L 新日本フィル 東京文化会館(13日)、オーチャードホール(15日) ★★★★★
CD fontec FOCD9050/5 選集
CD fontec FOCD 9061  
演奏について
 音のつながりが滑らかで、なだらかに推移していく印象を持つ演奏。特に冒頭部分では各フレーズに細かいニュアンスが盛り込まれ、それらが生き生きと湧き上がるように奏でられるので、聴いていて心躍る気分になってしまう。
 また高い技術力による目の詰んだアンサンブルは抜群の安定感があり、重厚ながら澄んだ音色は聴いているだけで心地よい。
 4つの楽章がバランス良く並べられ、ヘタするとここだけが突出してしまうおそれのある終楽章でさえ前3楽章と完全に一体となっている様は非常に素晴らしい。
 そして全曲を締めくくるコーダでの雄大さが感銘の深さをさらに大きくしている。
録音について
 くぐもって聞こえるが音の鮮度は良く、音場自体は極めて自然で、適度な奥行きと広がりを持っている。
1993.7.21-23&25 L 大阪フィル 大阪フィルハーモニー会館(21-23日)、サントリーホール(23日)、大宮ソニックシティ(25日) ★★★★
CD Pony Canyon PCCL-00191  
CD Pony Canyon PCCL-00400 全集
CD Pony Canyon PCCL-00472 HDCD
演奏について
 5日間3会場で収録されたテイクをミックスしたディスクだが、サントリーホールでのものが中心となっているようで、後述のアートン盤との区別はほとんど付かない。
 オケが大フィルということもあり、野暮ったさは拭えないが、音のエッジは良く立っており、粘らない響きは透明感があり、各声部の見通しが良い。そのため急なフォルテッシモでも最強音へスパッと切り替わり、キレの良い音楽を展開する。
 演奏自体は非常に安定したもので、どの楽章も突出したものがなく、中庸的なテンポを採りながら悠久とした流れを感じさせる。しかし表現がやや平坦で面白みに欠ける演奏となっている。
 ところがどういう訳か終楽章になると突然音楽が生き生きとしだし、腰が据わって充実したものとなっている。(なにか録音自体が前3楽章と違う) また楽想の飛躍が激しいこの楽章を一切の破綻なくクライマックスへと確かな足取りでじっくりと登り詰めていく様子は大変素晴らしい。
 終楽章のみの出来が全てだと言える演奏だ。
録音について
 音の粒がクッキリとしており、繊細なニュアンスがよく判るものとなっている。音場は左右に良く広がり、奥行きも抜群ではないものしっかりしている。
 その一方で臨場感に乏しく、演奏されたホール内の空間を感じさせるものではない。
1993.7.23 L 大阪フィル サントリーホール ★★★★
CD Pony Canyon PCCL-00263 アートン
演奏について
 アートンで発売される際、複数会場でのミックス編集をやめ、サントリーホールでのテイクのみを使用したCDとなった。(ただし修正はしている模様) しかしこの方針はアートン盤のみの特徴のようだ。
 基本的なアプローチは前出のミックス盤とまったく同じだと言って良いが、単一会場であるためか演奏上のキズはミックス盤より多く聴かれる。しかし楽章を追うごとに熱くなっていくライブ独特の雰囲気はこちらの方が断然濃厚で自然だ。
 ミックス盤と比較すると、全体のまとまりの良さと前3楽章の活きの良さではこちらの方が好ましいが、終楽章のみを見ると、その盛り上がりにおいてミックス盤の方が優れている。
録音について
 このCDは指揮者の登場から楽章間のインターバルや楽譜をめくる音、そして演奏後の拍手までが収録されている。
 ミックス盤とは違い、演奏されたホールの空気が伝わるもので、楽器の広がりや奥行きがぐっと自然なものとなっている。
2000.11.3-4 L NHK交響楽団 NHKホール ★★★
CD fontec FOCD 9150  
演奏について
 N響と協演した最後の演奏で、9番に続き、この演奏も2日にわたるコンサートの模様を編集したもので、N響にしては異例の最初からCD化が決まっていた演奏会だった。なお2日目の様子がこちらにある。
 技巧的には何の不満もないが、全体的に熱もなく、ただ淡々と音楽が流れていく。しかし演奏にはテクニックに裏打ちされた確かさがあり、対位法を構成する旋律線がどれもしっかりと聞き取れるのが大変良い。
 従来の演奏より少しだけ速めのテンポが採られているためか、最晩年のものとは思えない程、音楽に瑞々しさがあるのが意外だ。
 しかしそれだけでなく、第2楽章では何とも言えない寂しさがしみ出すように歌われ、寂寞とした感情が支配する辺りは引き込まれてしまうような魅力があり、堪らないものがある。
 演奏の方は、尻上がりに盛り上がって終楽章では非常に落ち着いた中に集中力の高まりが見られる。
 何より第2楽章が素晴らしく、この楽章だけでも価値がある演奏だと思う。
録音について
 ホールの特性もあるだろうが、金管などは結構鮮明に録れているのに対して弦楽器がぼやけ気味で、各楽器の分離も良くない。
2000.11.27 L 大阪フィル ザ・シンフォニーホール ★★★★★
CD EXTON OVCL-00065 HDCD
演奏について
 N響と同曲を演奏した24日後に大フィルと行った演奏。当日の様子がここにある。
 速めに感じたN響盤よりさらに速く、滑るように音楽が進行していく。しかし音符をしっかりと刻み込むように演奏しているので、大変キレの良い歌い口となっている。それでもアンダンテやスケルツォのトリオなどしみじみとした哀愁があり、味わい深い。また響きには無駄な力みがまったくなく、そのためか響きが清潔でかつ透明であり、非常に美しい。
 対位法については、各旋律がしっかりと鳴っている(若干頼りない所もあるが)のに加えて、それぞれの絡み合いが練れたものとなっている。また時には思い切ったクレッシェンドなどを行っているが、それに嫌らしさはまったくなく、外見上は素朴な風味を保ったままでいる。
 最後の楽章では以上のことに加えて、千変万化の楽想が有機的に紡がれていき、コーダでは輝かしく締めくくられるのが非常に印象的だ。
 ここで聴かれる透明さは朝比奈最後の心境と言えるかもしれない。
録音について
 音源が遠くにあるため、全体的に引っ込んだイメージがあるが、楽器同士の遠近感は満足できるレベルにある。
 楽器の細かいニュアンスは録れているが、音の粒にクリアーさが不足している。またホール内の空間を感じさせることがやや少ない。

リハーサル

1976.7.29 大阪フィル 東京文化会館
CD グリーンドア JJGD-2001/17 全集・限定盤
演奏について
 本番直前のゲネプロを収録したもので、ほとんど演奏を止めずに通しで行われている。それでも朝比奈の指示はほとんど休みなく飛び、その声も非常に熱気のこもったものとなっている。
 なお第1楽章の冒頭が欠けているが、ライナーによればマイクセッティング中にリハーサルが始まってしまったため、録音ボタンを押すのが間に合わなかったためらしい。
1993.7.22 大阪フィル 大阪フィルハーモニー会館
CD Pony Canyon PCCL-00400 全集
演奏について
 3回目の全集録音のセットを購入した際についてくる特典盤。
 4番のリハーサル風景については第3楽章の一部が収録。
 
 未聴のため批評できず。
同時収録
・5番の第1,2楽章
・8番の第1,3楽章
・9番の第1楽章

《 総 評 》
 宇野功芳大先生によると“朝比奈の4番は93年から自身の厳しいスタイルを貫けるようなったのであって、それ以前は面白くなかった”そうなんですが、通して聴いてみると最初のジャンジャン盤から最後のエクストン盤までが非常に面白く、全体のまとめ方もがっしりとしたものでした。
 お薦めもすべてがそれぞれの味を持っているものなので、89年ビクター盤以外だったらどれも良いと思います。
 
 余談ですが、87年にNDRと演奏したテープは一般には残っていないそうです。非常に残念ですが、CD化はかなり厳しい状況です。
 
 当ページで使用した略称
・大阪フィル=大阪フィルハーモニー交響楽団
・日本フィル=日本フィルハーモニー交響楽団
・新日本フィル=新日本フィルハーモニー交響楽団

番外編

 以下のリンクは、CDとは別に聞きくことのできた演奏について書いたものです。
2000.11. 4 NHK交響楽団 at NHKホール (CD化済)
2000.11.27 大阪フィル at ザ・シンフォニーホール (CD化済)

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