玄 関 口 【小説の部屋】 【交響曲の部屋】 【CD菜園s】 【コンサート道中膝栗毛】 【朝比奈一本勝負】

佐渡裕&シエナ・ウインド・オーケストラ
奈良公演

日時
2002年8月25日(日)午後6:00開演
場所
やまと郡山城ホール/大ホール
演奏
シエナ・ウインド・オーケストラ
指揮
佐渡裕
曲目
本文参照
座席
1階P列3番

はじめに

 99年にこのコンビで出した「ブラスの祭典」が爆発的なヒットを飛ばし、一躍有名になった佐渡&シエナ・ウインド・オーケストラ(SWO)ですが、去年に続き今年もやまと郡山城ホールにやってきてくれました。
 私もこのCDを持ってますが、圧倒的な技術と弾ける様な情熱で聞いていて舌を巻くものでした。去年は残念ながら行くことができなかったのですが、今年もあるとは思わなかっただけに大変楽しみにしていた演奏会でした。

 郡山城を眼前に控えたこのホールはまだまだ新しいホールで、近鉄郡山駅の真ん前にあり、JR郡山駅からでも徒歩20分ほどで到着します。
 ホールの中はこざっぱりしており、白と黒のツートンカラーを施された石造りの階段があしらわれた中庭や、ガラスで出来たオブジェが入場扉の横に飾られていました。客席に入ると木目調の落ち着いた色調は大阪シンフォニーホールを彷彿とさせ、容量はいずみホールの半分程ですが、1階の平土間席の横にはバルコニー席が設けられ、2階も同様に通常の席とバルコニー席とが設けられていました。基本的にはボックスシュータイプというやつです。座席はお尻がほんの少し前にずるのですが、なかなか疲れにくい良い椅子です。
 この演奏会は発売と同時にソールドアウトになったらしく、会場の入り口には“当日券の発売はありません”の張り紙があり、広いとは言えない会場ですが、びっしりと詰まった客席を見ると大阪市内のコンサートとなんら遜色のない賑わいを感じました。
 そして今日は吹奏楽ということもあってか、制服を着た学生が非常に多く、開演前の2階席は非常に華やかな声に包まれていました。また怪しげなハードケースを持って客席に臨む人も多く、「なんだろう?」と首をかしげている内に開演時間を告げるアナウンスが場内に響きました。

 さて、シエナのメンバーが入場してくると客席からは暖かい拍手が起こります。コンサートマスターであるアルトサックスの人(工藤さんでしたっけ?)が最後に入ってくると、客席に一礼した後、オーボエが“ラ”の音を出し音合わせを行いました。
 そして場内が静かになると、お待ちかねの佐渡さんが足早に登場して、ワッと大きな拍手が沸き起こりました。佐渡さんは黒地で金ボタンが前一列に付いた襟なしのシャツを着ていて、会場に一礼をするとクルリとバンドの方に向い、サッと指揮棒を高くかざしました。

第1部

 ジョン・ウィリアムズ…オリンピック・ファンファーレとテーマ
 ロス五輪で聞かれたあのテーマが高らかに奏でられました。最初のひと鳴りこそ響きに硬さを感じさせましたが、それもすぐに取れ、パッと弾けるような響きになりました。
 上手くやらないとダレてしまう中間部もそつなくこなし、終結部では見事な山場をつくりました。作曲者自身の指揮だと、響きが横に大きく広がるイメージを受けますが、佐渡さんの指揮はリズム良く縦に伸び上がるイメージを受けました。

 演奏が終わると、佐渡さんは退場せずに譜面台に置いてあったマイクを取り上げるとこう言いました。

(以下、この部分は演奏会中の佐渡さんの言葉です。うろ覚えなので、かなり違うと思いますが許して下さい)
 本日はようこそいらっしゃいました。え〜、きっちり5分はしゃべろうかなって思ってます。
 僕らのコンビもずいぶん長いことやってますが、このたび首席指揮者になってくれないかと、要請がありましたので、お受けしました。そのことをこの場を借りて発表いたします。(会場から拍手)
 それで今日のプログラムは最初、さっきのオリンピックのやつと大変有名なホルストの第1組曲、そしてもうひとつは吹奏の世界で有名な曲だったんですが、「あかんやろ(ダメじゃないか)、おまえらチャレンジ精神がないんか(ないのか)」と言ったんです。するとアダム・ゴウブのメトロポリスなんて聞いたこともない曲がシエナの方から出てきたんです。
 それでこの曲メチャクチャ難しい、けど楽しい曲なんで、最後に回してプログラムには3曲目に書いてありますが、ホルストの第1組曲を2曲目に演奏します。

 ホルスト…吹奏楽のための第1組曲
 そんなに簡単な曲だとは思えないのですが、シエナは楽々と吹いているように感じました。
 特に感心したのは第1曲目で、腰の据わったインテンポが誠に堂々としていて、徐々に大きくなるスケールが大変聞き応えがありました。そのせいか、この第1曲が終わると会場から大きな拍手が湧き起こりました。佐渡さんにっこりと会釈。
 また終曲となる第3曲目も行進曲のリズムが効いた推進力あるもので、こう体を動かしたくなるような演奏でした。

 
 次はメトロポリスなんですが、さっきも言いました通りメチャクチャ難しい。大体の曲は2拍子、こうやってV字型に振るんですが、(会場の何人かが真似をする) あ、皆さんもやってください。いっちに、いっちに。(半分くらいが2拍子を刻む) なんか(昨日の)指揮セミナーみたいになってきましたが、3拍子は三角形に、いちにっさん、いちにっさん、(みんな真似) となります。テンポが速くなるとちゃんと振れませんから(2拍子みたいに)いち・にっさん、いち・にっさん、となります。基本はこの2つで、どんな拍子が来てもこれの組み合わせで、6拍子だと3がふたつまたは2がみっつ、5拍子だと2と3の組み合わせとなります。
 それがこの曲には、まあこんなに複雑に出来るなあと感心するくらいややこしくて、(ざざっとスコアをめくって) 8分の11拍子、9拍子、4分の6拍子、8分の7拍子、4拍子、4拍子……、4分の3拍子、というふうに小節ごとに目まぐるしく変わります。
 それでも見ていくと私なんかは、曲の途中にバーンスタインの臭いを感じてしまいます。
 とっても面白い曲なんで、どうか楽しんで下さい。

 アダム・ゴウブ…メトロポリス
 まず最初に気が付いたことは全員が楽譜を食い入るように睨みつけていたことです。客席から見てると目が血走っているように見えてしまいました。
 曲の方は佐渡さんが言っていたように、めまぐるしく拍子を変え、拍子が変わるごとに断片的なメロディが新しく登場するものでした。しかしアイヴィスのように片方がロマンスをやっているのに片方でジャズをするような複合的な旋律はなく、派手なシンコペーションのようなものもあまり聞き取ることは出来ませんでした。
 演奏の方は跳躍の大きい高速パッセージの連続し(と言うかそれしかなく)、ユニゾンではアインザッツをそろえるだけで必死のような雰囲気でした。それでもこの難曲を破綻なく最後まで聞かすあたりは凄まじい合奏力です。
 曲の中間部では楽器の数が少なくなり、静かな展開になりますが、再びエネルギー感が高まるとクライマックスを迎えます。そして最後では全員、楽器を打楽器に持ち替え(管楽器は拍子木のようなもの、鍵盤楽器はマラカスのようなもの)、「タタタン」を基本リズムとして全員がユニゾンで楽器を打ち鳴らしました。そして渾身の大音響と熱狂のなか曲は締めくくられたのでした。
 曲が終わると「ブラボー!」の喝采も飛ぶ、大拍手となりました。さすが、と言うかよくもまあ演奏したな、と思っちゃいました。すげえぜ、シエナ。
 しかしこの曲、素人がヘタに手を出すと大やけどを負うと思われるので、選曲には慎重に。

第2部 − 音楽のおもちゃ箱

 この第2部、プログラムには“曲目も構成もすべて未定。その日になってみないと何が飛び出すか分からない極上のおもちゃ箱。さあ、ご一緒にそのフタを開けてみようではありませんか……”と書いてある通り、まったくの白紙状態で臨むこととなりました。(実際、曲名さえ判らないものがありました。無念……)

 
 え〜、第2部はもっと楽しもう、ということで色々やっていきます。
 ワールドカップ、大変盛り上がりましたが、あれからまだ2ヶ月ほどしか経ってないんですね、ずいぶんと前のような気がします。私も韓国へ準決勝見に行きましたが、盛り上がりました。でも私が応援していたフランスはあっと言う間に負けちゃいました。(会場から笑い)
 そこでまずヴェルディのアイーダ行進曲をやります、ちゃんとアイーダトランペットも用意してあります。(左右の2階バルコニーにスポットライトが当たる。それぞれ2本ずつ待機) ほらちゃんと見せて、そこトランペットの高さをそろえて。(左側の2人は背の高さが違っていた。会場から笑い)
 それでは私もこんなものを着てみたいと思います。(譜面台の下から、「7番NAKATA」と書いた日本代表のユニホームを取り出し、上から被る。黒のシャツがユニホームの下からのぞく) なんかスカート履いとるみたい。

 ヴェルディ…アイーダ行進曲
 W杯のとき、散々聞いたあのメロディが2階のバルコニー席から響き渡ります。舞台上のバンドは音を絞ってサポートに徹していました。で、主役のアイーダトランペットの4人も吹きづらそうな面もあるみたいでしたが、そつなくその重責をこなしていました。

 
 (会場内にアラームの「ピピピ、ピピピ」という電子音が鳴り響く。当人、気付くのに遅れ、慌てて止める。佐渡さんマイクを持ったまま、じ〜っと待つ)
 メトロポリスかと思いました。(会場、笑い) え〜、まあ色々(パプニングが)ありますが、先ほどもホルストで1曲目が終わったあと拍手がありましたが、どんどんやって下さって結構です。そしてそれが嫌だったらどうぞ注意してやって下さい(関西弁特有の言い回し。「注意して下さい」を一歩引いた立場で使う)。それでどんどんもめて下さい。そのうち何らかのルールが生まれてくると思います。これはクラシック(の演奏会)じゃないんので。
 
 それではここで、去年も来てくれたひとにはお解りだと思いますが、偉大な宴会芸を披露したいと思います。それではどうぞ!

 愉快な四人組によるボディ・パーカッション
 ほっ、ほ、ほっ、ほ、と颯爽に登場してきた男女4人組がステージ中央に並ぶとその偉大な宴会芸がスタートしました。
 この面白さを言葉で説明するのは困難を極めますが、要するに膝や胸を手のひらでパタパタパタッと叩くだけなんです。それを右から順にしていって一番左の人がオチをつけるのですが、絶妙に間を外したり、意表を突いたりして、愉快なゼスチャーと合わせて抱腹絶倒の時間となりました。
 こう書くと何が面白いのかサッパリですが、こればっかりは実演を見てくださいと言うほかはありません。(スミマセン)

 
 しかし僕ら毎日のように見てますが、何度見てもおもろいわ。
 さて次はコンサートマスターの工藤さん(でしたよね?)のソロでシーガーです。

 ピート・シーガーの曲
 「シーガー」としか佐渡さんが言わなかったので詳しくは判りませんが、きっとフォーク界の神様ピート・シーガーの曲だと思います。(ロバート・ジェイガー?)
 この曲はコンマスのアルトサックスソロによってメロディアスに歌われましたが、雰囲気にフォークの面影はなく、フランスの香りがする甘く優しいロマンスでした。
 それにしてもサックスソロがめちゃくちゃ上手くて、非常に魅力的な音色を出していました。

 
 我々はクラシックだけじゃなくて、こんな軽いものもするんです。
 さて次は演歌のメドレーと言うことで、こんなもの用意してくれました。(譜面台から紅白のたすきを取り出す。なにやら字が書いてある) それにしても「人生捨ててます」って……。どうでもええけどユニホームの上にこれは何か変やな。
 それじゃ行きます。ド演歌メドレー。

 ド演歌メドレー
 去年は時代劇メドレーだったそうですが、今年はド演歌メドレーです。なじみのある演歌をソロ回しでつないでいくのですが、ソロを担当する人は男性が巨大でド派手な蝶ネクタイ、女性が同じくリボンをつけて演奏をしました。そのたびに会場から笑いがこぼれていました。
 金管の分厚い鳴りっぷりがすごく、特にトランペットの張り切り方が非常に印象に残っています。
 それにしても「青い山脈」と「りんごの唄」は演歌に入るのでしょうか?
 また佐渡さんがハッスルしすぎて、たすきを破いてしまったので、指揮台の手摺りに「人生捨ててます」の文字が見えるように引っかけました。そして最後の方では佐渡さん自身がトランペットを取り出し、ソロを披露しました。けど自爆。佐渡さんマジで悔しそうでした。

 
 え〜、僕はトランペットじゃなくて(まだ悔しそう)フルートを専攻してました。指揮は独学ですけどね。
 それでは最後に今度は僕のフルートでトリ○○ザー○(聞き取れず)です。

 トリステーザ
 曲名、良く聞き取れませんでした。同じような雰囲気の曲では深夜ラジオの「オールナイトニッポン」のテーマ曲で使われた「ビター・スイート・サンバ」に似ています。(非常に有名な曲なので、聞けば「あ〜、この曲か」と思われること必至です)
 曲の冒頭部分は佐渡さんのフルートがメロディを担当しました。トランペットに比べると抜群の腕前でした。(当たり前だけど) でもまあプロのレベルではないことはあえて言うことではないでしょう。
 この曲のサビでは手の空いたパートの人が「ラ〜ラ」と歌って曲を盛り上げました。
 ここで再び10分間の休憩に入りました。
 
 後に情報を頂き、聞き取れなかった曲名は「トリステーザ」だと言うことが判りました。どうもありがとうございました。

第3部

 レスピーギ…交響詩《ローマの祭り》
 あれだけの熱演を続けながら、未だバテないスタミナには脱帽。また先ほどのおちゃらけから打って変わったシリアスな表現にもプロの心意気を感じました。
 演奏はオーケストラ版と比べてもなんら遜色のない充実した響きが素晴らしいもので、レスピーギの硬質でカラフルな音色を損なうことなく眼前に展開されていきました。
 ただ第4部“主顕祭”では全曲の頂点らしく最高のエネルギーを見せましたが、トップギアに入れるのがやや早い感じを受け、上がり切ったテンションのまま一本調子に突き進む印象だったのが、残念と言えば残念です。

みんなでアンコール

 それでも曲が終わると同時にワッと拍手が湧き起こり、佐渡さんが答礼のため何度もステージに現れます。そして譜面台に置いてあるマイクを手に

 今日はどうもありがとうございました。感謝の意を込めて、バッハの「主よ、人の望みの喜びよ」をやります。

 と告げるとアンコールが始まりました。

 バッハ…主よ、人の望みの喜びよ
 バッハにはもっと透明な響きが欲しいのですが、それは指揮者・バンドの若さゆえか力のこもった演奏となりました。
 私はこれで演奏会も終わるものだと思っていましたが、妙に会場がソワソワしだすのに不思議な感じを受けました。すると佐渡さんがマイクを取るとこう言ったのです。

 
 さて最後には恒例の「星条旗よ、永遠なれ」をするんですが、みなさん楽器を持ってきたでしょうか? どなたでも結構なんで、どうかステージに上がって一緒に演奏しましょう。
 (客席では楽器ケースから楽器を取り出した人達がワラワラとステージへ向かう階段を降りていく)
 ほら、急いで、急いで。(それを聞いて、学生が階段をひとつ飛ばしで駆け降りる) いや急がないで、ゆっくりとで良いです。慌てないで。慌てないで。
 (ステージ上では所狭しと、人が溢れる。シエナの人も席を譲ったりして、全員が整列できようにしている。またマラカスなどを持った人は客席に座ったままスタンバイ。そして指揮棒を持った子供達もステージに登場した)
 今日はえらい可愛い指揮者がぎょうさん(たくさん)いるなあ。もう終わりかな? 締め切りますよ〜。いいですか〜。……それでは始めましょう。

 星条旗よ、永遠なれ
 祭りの最後の曲らしく賑やかで楽しげに演奏されました。ピッコロソロに果敢にも挑戦する人がいたりして皆さんはじけてました。
 客席も大きな手拍子を打ち、まさしく客席全員で演奏した「星条旗よ、永遠なれ」となりました。
 それにしても、このとき大きな身振りで指揮をして、舞台を仕切ろうとしていたあの男の人は誰ですか?

垂れ幕とともに

 演奏が終わるとステージ上では誰彼となく握手を交わし、子供たちがバンドの方を向いたままでしたので、佐渡さんが客席のほうを向かせて一緒に礼をさせていました。そして2階席からは
「ありがとう佐渡さん&SWO」
「来年も来てね」
「またCD録音してね」
 などの垂れ幕が下がりました。それに佐渡さんが
「来年も来ます!」
 と力強く応えると、会場は大いに盛り上がりました。

 佐渡さんがシメに「バイバ〜イ」をして、ステージから降りましたが、一向に拍手が止む気配がなく、再度佐渡さんが登場する破目となりました。
 それでも指揮台の子供たちと一緒に礼をすると、もう一度「バイバ〜イ」とやってこの演奏会も幕を降ろすこととなりました。
 会場を後にする時のみんなのニコニコした顔が印象的でした。

 総じて、来年も行くぞ〜。

 メモも取らずこれだけ書くのも大変だ。
 さて次回は西本智実さん指揮によるロシア・ボリショイ交響楽団“ミレニウム”の大阪公演2日目です。
 この人が主席指揮者に就任したときには大きな話題となりましたが、それ以前から一度聞いておきたかった指揮者なので、とても期待しております。(この演奏会もトークが多そうだなあ)
 また、この演奏会でなんと通算100回目のコンサート通いとなります。思えば遠くに来たもんだ。


コンサート道中膝栗毛の目次に戻る