三高歌集

賄征伐の歌

明治三十六年 永井瓢齋 作詞

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湯気立ち上る食堂の
中は真黒けに染められて
青ばなたらす賄の
顎におどろの鬚はえつ
米南京の砂まじり
茶は山吹の色も濃く
噛めども切れぬ牛肉に
我が三寸の舌だるし


ゆげ たち のぼる しょくどうの
なかはまっくろけに そめられて
あおばなたらす まかないの
あごにおどろの ひげはえつ
こめ なんきんの すなまじり
ちゃは やまぶきの いろもこく
かめどもきれぬ ぎゅうにくに
わがさんずんの しただるし


人造地震の音高く
黒暗々の夜の床
身を切る風はうら寒く
電燈暗き寝室に
眼に入る塵を箒もて
あたりかまわず掃き散らす
枕ケ丘に立て籠る
三舎の健児百餘名

じんぞうじしんの おとたかく
こくあんあんの よるのとこ
みをきるかぜは うらさむく
でんとうくらき しんしつに
めにいるちりを ほうきもて
あたりかまわず はきちらす
まくらがおかに たてこもる
さんしゃのけんじ ひゃくよめい


阿彌陀時々火をたいて
機械に油をそゝげども
スチームとかく杜絶えがち
我等に風邪をひかすなり
風邪引くものゝ多ければ
喜ぶものは虎脚気
得意の鼻をうごめかし
人力車をば馳せてくる

あみだ ときどき ひをたいて
きかいにあぶらを そそげども
スチームとかく とだえがち
われらにかぜを ひかすなり
かぜひくものの おおければ
よろこぶものは とらがっけ
とくいのはなを うごめかし
じんりきしゃをば はせてくる


試験の重荷を肩にかけ
注意の點をいたヾいて
破れかぶれの袴はき
彌次馬の背に鞭ちて
樓上樓下を驅けめぐる
三舎の健児注意せよ
舎監のお目玉らんらんと
名譽のおこゞと戴かん

しけんのおもにを かたにかけ
ちゅういのてんを いただいて
やぶれかぶれの はかまはき
やじうまのせに むちうちて
ろうじょうろうかを かけめぐる
さんしゃのけんじ ちゅういせよ
しゃかんの おめだま らんらんと
めいよのおこごと いただかん

創立95周年記念の三高歌集では、「附録 以下は本歌集の歌にあらず 便宜上収録す」と書かれた歌の一つ。この本歌集というのは、海堀昶氏の御教示によると、「この歌集」という意味ではなくて、大正13年発行27曲を収録した漫画入りの”三高漫画歌集”に対して”本来の三高歌集”の意味。賄征伐は”三高漫画歌集”に収録された歌である、当時の寮の雰囲気を伝えているのでここに収録する。歌詞については、少し注を加えないと分からないと思う。人造地震=ストームのようなものと思われるが、今井 諦氏は同窓会報7(1955)にストームはこのあとのものだと書かれている。三舎=寮は北寮・中寮・南寮、阿弥陀=寮夫、虎脚気=校医。

この歌について今井氏は、作詞は 瓢斎 永井栄蔵氏(後年、朝日新聞の天声人語で麗筆をふるった)の他、佐々木望彦、山崎楽堂、今井氏の合作であると明記され、小牧茂彦作詞・佐々木氏作曲の舎歌第一号「白雲なびく」のパロディとして作詞された。作歌の動機は寄宿舎新聞発行を舎監林先生にとがめられた鬱憤晴らしで、賄夫とは何ら関係はなく、「賄征伐の歌」というのも誤りであるといわれる。そうであろう、『賄征伐』の様態については『続々思い出 伊藤 英三郎』『自由寮素描 藤安義勝』の記事から窺えるが、この歌とは内容的にも無関係な事が分かる。鈴木校医を虎脚気と呼んだのは吉原隆之介氏によると明治35年9月、脚気に罹っていた賄夫が下痢を起こし、校医鈴木宗泰先生は単なる下痢と考えておられたが、やがて虎列刺(コレラ)であることが分かったという事件があった。これが契機で鈴木先生に虎脚気というニックネームが奉られたという(会報25(1964))。こういうところから田中秀央さんの三高生活の思い出にもトラホームや脚気の事が書かれているのであろう。曲は「白雲なびく」の曲とは別に新たに、この歌のために佐々木氏が作ったもの(海堀昶氏私信)。

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