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2000年4月16日

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 ◆今週の記事

◆「金金会談」実現か?

 4月10日午前10時(日本時間同じ)、世界をアッといわせるような発表が朝鮮半島でなされた。しかも大韓民国・朝鮮民主主義人民共和国が同時に発表を行い、テレビでそれが流された。その内容は、なんと金正日国防委委員長の招請により、金大中大統領が六月十二日から十四日まで平壌を訪問し、歴史的な南北首脳会談に臨むことになった」(韓国側の発表)あるいは「金大中大統領の提議により首脳会談が開催される」(北朝鮮側の発表)というものだった。第二次大戦後分裂し、朝鮮戦争を戦い、その後も延々と「戦争状態」を続けてきた南北朝鮮国家が、なんといきなりトップ会談をすると発表しちゃったのだ。つい前年に「黄海海戦」をやっちゃった両国だというのに。

 確かに歴史的会談なのだが、過去にこうした話が全くなかったわけではない。1994年6月に北朝鮮を訪れたカーター元米大統領が南北首脳会談をお膳立てして、当時の金日成主席と金永三大統領がその年の7月に会談することに決まったことがある。しかし会談の直前に金日成主席が死去、話はお流れになってしまっている。その後北朝鮮は金日成の息子である金正日さん(肩書がコロコロ変わるのでこう書いておく)が最高実力者の地位を引き継いだが、ご存じの通り外交はおろか国内においても表舞台にほとんど姿を見せない謎のお方で、首脳会談なんて誰も想像すらできなかった。それがいきなり今回の発表になってので、その意味も含めて世界中が驚いたわけだ。

 しかしこのいきなりの「トップ会談」実現にこぎつけるまでにはずいぶんすったもんだがあったらしい。この発表の北朝鮮側の表現を見ると分かるが、「金大中大統領」の名はあっても「金正日総書記」の名は見当たらない。ただ「首脳会談が行われる」と告げるのみだ。発表後に韓国の担当者が記者会見で明らかにしたところによると、上海や北京で行われていた秘密交渉においても北朝鮮側は「金正日」の名が合意文に記載されることにひどく難色を示したという。あくまで「最高位級会談」と表現するよう要求したと言うのだ。
 北朝鮮の最高位、といやぁ金正日総書記に決まっているだろと思う所だが彼は北朝鮮政府の中での地位は「国防委員長」に過ぎない(総書記は労働党内の肩書だ)。形としては現在の北朝鮮の最高位は金永南・最高人民会議常任委員長ということになるのだそうで、北朝鮮側はホンネのところこの人を立てた「金・金会談」にすりかえたい気分もあったようだ。…ってことはそれだけ金正日氏を人前に出したくないということなのだろうか(それともご本人が嫌がっているのか)
 しかし韓国側はここで譲らなかった。「金大中・金正日会談」の明記を要求し、この4月8日にようやく北朝鮮側がこれを認め、このたびの発表となったわけだ。それでもあの北側の発表の仕方じゃどうなるもんだか分からない。形だけチラッと会って、ちゃんとした話し合いなどは別の人とすることになるんじゃないか、という憶測も流れている。まぁどっちにしても、ここまで言っちゃったら会談をすっぽかすのはかえって面子丸つぶれということになりかねないので金正日さんいくらなんでも出てくるでしょう。初の外交現場ということで注目を集める所だ。

 そういえばすったもんだしたのは金正日の名前明記だけではなかったらしい。今回の会談は金大中大統領が北朝鮮の首都である平壌に赴いて行われるのだが、これが「金大中の提案」であるのか「金正日の招待」であるのか、合意文の表現でもめたらしい。ちなみに今回の発表では前者を北側が、後者を南側が表現として使っている。合意文の方ではどっちにもとれるような表現でごまかしたそうだが、こういう「形」にこだわるところも外交というやつの面白い所だ。ついでながら金大中さんの方が年上ということで、南北とも「儒教の国」として面子上いろいろとこだわるところも出てくるそうだ。

 しかしなんだかんだ言っても北朝鮮がこれまでにない態度の変化を見せたことは間違いない。僕も北朝鮮の発表の様子をテレビで見たが、「金大中大統領」という表現をしているのには驚かされた。南北はともに形式的には朝鮮半島全域を領土とする正統国家であると主張しており、相手のことを対等の「国家」と認識するような表現は基本的にしなかった。韓国は民主化が進む中で現実的な表現をするようになってきたがそれでも「北韓」とか「韓半島」とか言っていた。まして北側なんか韓国を「アメリカ帝国主義のかいらい政権」としか表現してこなかった。それがいきなり「大統領」と呼びだした訳で…北朝鮮の国民はあのニュース見て不思議に思ったりしないのだろうか(笑)。ほかにテレビで聞いたことだが「金日成暦」でなく「西暦」を使用したこと、親しみのある表現を使用したことなど、北朝鮮としては異例の柔らかい姿勢を見せている。南北同時に発表したことも考えると、北朝鮮側もかなりマジなのだと思える。もっとも裏返せば「背に腹は代えられない」という切羽詰まった状況って事でもあるんだろうけど。今回の会談実現の裏では韓国から相当の経済援助が密約されたという見方も出ているが、まぁそうでしょう。

 いきなり統一を実現できるとはさすがに誰も思っていない。今回の会談は見方を変えればお互いを「国家」として認め、「分断」状態を明確にするものという見方だってできる。今年日本でも公開され韓国映画としては異例の大ヒットとなった「シュリ」という映画がある(実は劇場で二度観ました)。あの映画では南北首脳が会談を行われ南北合同サッカーチームまで結成されると言う和平ムードが描かれるが、その「欺瞞」に我慢ならず両首脳暗殺を狙う北朝鮮特殊部隊の戦いが主軸となっている。映画の主人公は韓国の情報部員なのだが、敵役であるはずの北の隊長役がカッコ良すぎるのだ!彼が言う「政治家どもの欺瞞」という言葉には観客もどこか共感を感じてしまうような作りになっていた。これに対し韓国側の主人公は「今は統一を急がずゆっくりと話し合って行くべきだ」と応じるが、これはまさに今回の会談実現とダブってくる。
 あの映画を観たのは今年1月だったが、あの時点で映画の中に描かれたような「首脳会談」なんてとてもじゃないが絵空事と思っていた。その一方で水面下ではそういう動きがあったんだなぁと思うと、裏をかかれたというか、芸術は時として現実を先取りするのだなぁなどと考えたりする。ま、二ヶ月後に無事に会談が行われ、「史点」ネタになることを祈ることにしよう(^^)。



◆世界を敵に回した(?)慎ちゃん
 
  で、この発表が行われた同じ日に世界をアッと言わせた(笑)のが、我が国の首都の知事である石原慎太郎氏。ふと言った一言が世界中で騒ぎになるというあたり、ホントに某缶コーヒーのCMを連想させる(誰か4コマ漫画で描きそうだな。やくみつるあたりが好きそうなネタ。すでに誰かやってたらすいません)

 さんざんマスコミに取り上げられ、約一週間にわたってあーだこーだと議論された話題だし、僕自身も掲示板でさんざんこのネタを書いてしまったので、今さら内容の詳しい説明はいらないと思う。要するに自衛隊の式典に出席して挨拶の中で「東京では不法入国した多くの三国人、外国人が凶悪な犯罪を繰り返している。大きな災害が起きた時には、騒擾事件すら想定される。警察の力に限りはあり、災害の救急だけでなく治安維持も目的として遂行してほしい」という個所が問題になったわけだ。
 さて、僕がこの一報を最初に聞いたのは車の運転中で、ラジオのニュースが「石原知事が在日朝鮮人・中国人などを指す言葉を使って、それが震災時に騒擾を起こす可能性があると言った」というような表現で報じていた。僕は当然ながら関東大震災の際の朝鮮人虐殺をただちに連想し、「都知事になって少し発言が大人しくなったと思ったら、ついにやっちゃったか」などとつぶやいていた。家に帰ってインターネットで情報収集するうち、「三国人」という表現を生まれて初めて知り、そしてその言葉の前に「不法入国した」という形容部があることに気が付いた。この部分はあとで石原知事の反撃の要点となったが、僕もかなり早い段階で気が付いたほうだと思う。この時点で僕はとりあえず「在日」を直接指したつもりはないな、と判断した(伝言板にも書いてます、念の為)。だが石原知事の発言が大問題であるという認識はまるで変わらなかった。

 マスコミが本格的に騒ぎ出しのは翌々日の12日。石原知事が反論の記者会見を行ってからだ。テレビマスコミはおおむね「問題発言」ととらえ、都知事がマスコミ批判したことも手伝って、石原発言を「三国人発言」として批判的に大きく報じた。だが僕はこの時点でのマスコミの報道に別の視点から大いに不満があった。なんか話が「三国人」という表現が差別用語であるかどうか、それが「在日」を指しているのかどうかと言うことばかりに集中していたからだ。ご丁寧にこの用語の歴史的経緯を詳しく説明し、在日韓国・朝鮮・中国の人達にインタビューして反応を見せてくれたりして、終戦直後を知らない僕には確かに非常に勉強になった。「三国人」と言われて極めて不快に思う人がいたのもよく分かった(なんか今度の騒動でかえって忘れられていたこの言葉を使用する奴が出てきそうな気も)。だけどこの発言の真の問題点はそこにはないと思う。何事もそうだと思うんだけど、この発言をその動機から考えることが必要だ。

 石原さんは要するに「軍隊を使いたい」だけなのだ。自衛隊を軍隊として認めさせる、そのためには自衛隊の存在意義を見せ付けなければならない。都知事としては国防に関わるわけにもいかないので災害訓練に自衛隊を使うことにした(実際今年9月に陸海空自衛隊参加の防災訓練が実施予定だ)。しかしただの災害救助訓練では「軍隊」らしくない。「敵」が必要で、それとの「戦闘」が必要だ。では「敵」はどこにいる?東京都内で「敵」になりそう(できそう)なのは…新宿あたりにいる不法入国外国人、凶悪犯罪を行っている外国人犯罪者だ。これが震災の時に「騒擾」を起こすならば、これと「戦う」ことができる。それを想定して自衛隊に「治安維持」の訓練をやらせよう。たぶんこんな思考経路をたどったんじゃないかな。実はこの自衛隊の災害訓練参加案は中曽根康弘元首相の示唆であったらしい(石原知事本人がそう雑誌で言ってる)。要するに憲法の平和条項のなし崩し的「破棄」が主目的なんじゃないかと感じている(最近では「憲法は改正でなく破棄せよ」とまで言っている。この日の発言でも前段は憲法批判をしていた)。もともと国粋主義的な傾向の人だから外国人が多数住みつく東京の現状に嫌悪感・警戒感は懐いていただろう。例の発言のあとも「東京にはゲットーみたいなところがある」と言ってるから(言葉を選びなさいよ、ホントに)。だから「仮想敵」を「不法入国の外国人」にするのは必然的な流れだったろう。

 しかしこの発想には落とし穴がいくつもある。まず震災時に「不良外国人による騒擾」が実際に起こるのかどうか。過去に震災時に警察ですら取り締まれないほどの「騒擾」が起きた前例はない。石原知事はこの直前に「ロサンゼルス地震の時に黒人やヒスパニックが強盗をした。これが日本でも必ず起きる」とイギリスの新聞のインタビューで発言してその無神経ぶりを記者に呆れられていたが、実際には石原知事の念頭にあったらしい1994年の大地震ではそんな事実はない(あとで他の年のものとゴッチャになったかもとは弁解しているが)。阪神大震災でも同様だ。あの関東大震災でもそんなことは全く無かった。もちろん当時と今とでは状況は違うという意見はあり、実際に起こってみなければ何が起こるか分からないとはいえるけどね。しかし石原さんの言うような凄い震災(「ビルが倒れているようなところは戦車でないと」と言ってるのでその想定規模がわかる)が起きた場合、その「不良外国人」も「被災者」になってる可能性が高いわけだが。
 次に「騒擾を起こす可能性のある対象」を特定していることだ。関東大震災の場合、逆に「不逞鮮人による騒擾」が勝手に想定されたために朝鮮人に対する無差別虐殺が起きるという結果を生んだ。虐殺を行った自警団の人々は後に罪に問われて逮捕されるが「朝鮮人を殺せば褒美がもらえると思った」と警察による逮捕の不当を訴えたりしている。「天下晴れての人殺しだから豪気なものでさぁ」という恐ろしい発言も残されている。特定の集団を勝手に「仮想敵」にした結果がこれである。このケースでは日本人がむしろ「騒擾」の主体になってしまっている。日本人にも凶悪犯罪者はいるし、「騒擾」を起こす可能性についても外国人と同様だろう。石原知事は以前「関東大震災の際、朝鮮の人たちがデマゴーグで殺されたりして気の毒だった」と雑誌で言って「彼らを守るのが私の使命」と今回も言っているのだが、その雑誌で「今度逆のことが起こる恐れがあると」とも言っている。朝鮮人でなければいいという問題じゃないと思うんだが(どーも今回の騒動でのマスコミの姿勢見てると強くそう感じる)
 対象の特定、と言ったが、「不良」だろうと「不法入国」だろうと「正規入国」だろうと「在日」だろうと、いざ震災となり混乱したら「外国人」でひとくくりにされる可能性は多分にある。関東大震災でも「不逞鮮人」という表現を使っており朝鮮人全体に広げているわけではないが、実際には「怪しい」とにらんだ人間に「十五円五十銭」と言わせて(朝鮮人は語頭にくる濁音が発音できない。中国人もたいていそう)、うまく発音できなかった人間を無差別に虐殺している。そのために中国人や日本人でも被害者が出たぐらいだ。当時とは国民レベルの意識が違うとも思うが、実際に「騒擾鎮圧」のために自衛隊が出動した場合、どの外国人を助けどの外国人を鎮圧するかという区別ができるのかどうか。犯罪が目の前で起こっているのを「鎮圧」すればいいだろうと思うだろうが、何せ事は「想定」から始まっているのだ。自衛隊も正直なところ妙なことを言われて迷惑しているに違いない(一方で警察もバカにされたものだと思う)

 ま、僕は石原さんの本音は「自衛隊(軍隊)に出動の機会を与えたい」だけだろうと思っているので、石原さんが実際に震災が起きた状況での問題点をそこまで考慮して発言したとは考えていないけどね。自衛隊を使いたければ「震災時に警察も持て余す凶悪犯罪が起きる恐れがあるので自衛隊に治安維持を手伝ってもらいたい」って程度に言えばよかったのだ(アドバイスしてどうする(^^; ))。わざわざ外国人をその鎮圧対象にしてしまったのが彼らしい(そしてその周辺の人達らしい)ところであるとは言える。そしてそれが本筋と違うところで騒動になってしまった。

 「三国人」って表現を使ったのはこの言葉に不良外国人(しかも国籍帰属が中途半端な状態の人)というイメージが含まれること、それと実際には「シナ人」と言いたいところをグッとこらえて(実際お得意だったこの表現を都知事就任以来耳にしなくなった)「三国人」とぼかして日ごろ使っていたのがそのまま出ちゃった、というところだろう。「外国人のつもりで使った、すぐに外国人と言い直した」と記者会見では言ってたけど、例の発言の映像観てると「三国人・外国人」とハッキリ切って区別してるように聞こえる。こればっかりは僕の主観なのでなんとも言えない。今日観た「サンデープロジェクト」でも「北鮮…北朝鮮」とつい口に出て言い換えてるシーンが二度ほどあったから、「三国人」「支那人」ともども日ごろよく使っちゃっているのだろう(「北鮮」のように「朝鮮」を「鮮」と下の字で省略するのも一般には差別表現とされている)。差別意識なんてものは言ってる方には無いもので、言われた方が強く感じるものだ。今度の発言でとくに在日朝鮮・韓国人が敏感に反応したのは「三国人」という表現と関東大震災の記憶がこの発言でバッチリ結びついたことにあるのだろう。首脳会談を発表した直後の韓国・北朝鮮でもこの発言が騒ぎを呼んだ一方で、石原氏がもっとも念頭に置いたと思われる中国がほとんど反応を示さなかったあたりにも、この発言の騒がれ方が本人の本来の意図と離れていたように僕には感じられる。
 僕なんかこの発言の後に出た「中国を分裂させたい」という発言の方がよっぽど問題だと思うんだけどね。チベットとかウイグルとか台湾とかそういう「周辺」のレベルじゃなくて、この人の過去の発言あたってみるとどうも中国全体を分裂させ混乱に陥れたいと思っているとしか思えない(「日本はそれを加速すべき」とまで言っている)。それが日本の利益になると言う発想はそれこそ昭和の軍国日本が考えたことでしょ。中国が分裂を起こして騒乱状態が起きたとき、それこそ日本に「不法入国者」が急増して混乱が波及するだけだとは想像できないらしい。そうした現実問題を抜きにしても他人の不幸を喜ぶような姿勢はあまり感心しない。
 
 石原さん、都知事は都知事らしく都の行政に専心すべきでしょう。得意のリーダーシップを発揮してそれなりに評価は得ているんだから。まさか本気で新党作って国政を狙う気なのかな?都知事なんて3期ぐらいやらんと改革の実は上がらないと思うのだが。

◆一年後のコメント◆
で、1年後の慎ちゃんだが、相変わらず吠えている。先日、自衛隊の前で「外国人による凶悪犯罪」をダシにして軍隊の存在意義を唱えていた。自分が直接管轄しているはずの警察の立場が無いよなぁ。それにしてもそれを伝えるマスコミも相変わらず的外れ。「『三国人』という表現を避けた」なんてことを報じていた。あれじゃあ慎ちゃんに「マスコミが卑劣な手を使った」なんて言われても反論できないところがあるぞ。



◆オランダ王制論争
 
 上の二つが長すぎた。後は軽いネタで行きます(^^; )。この元ネタは確か読売。
 オランダと言えばヨーロッパに案外残っている王国の一つ。当然立憲君主制なのだが、形式的とは言え日本の天皇よりは政治に絡むようだ。たとえば政府は国王が参加する形になっていて、組閣の際にまとめ役を任命したり政府諮問機関を主催したり、はたまた毎週に首相と政治懇談を行ったりすると言う。もちろんすべて形式的なものではあるが、日本の天皇が政府とはいちおう隔絶していることを考えるとかなり政治上の役割は大きい。そしてこの状態を改正しようという動きもやはりある。
 
 4月11日、連立与党を構成する「民主66」という政党(中道左派)のデフラーフ党首がテレビで「王室近代化」案を出して議論を呼んでいる。なんでも「国王が組閣の際に果たす役割を廃止する」「王室メンバーを前・現・次期国王の三名に限定する」という二つの案だそうだ。現在のオランダ国王はベアトリクス女王(62)だが、先代の例をふまえて70歳前後で退位するとみられている。この王位継承の機会に「王室近代化」をやろうという意見があるのだそうだ。70年代に激しい王室批判があったというが、また議論再燃の空気が流れはじめているとのこと。
 コック首相は「憲法改正の必要はない」とこの案を一蹴したが、どうやらこの首相自身が王制再検討を各省庁に指示しているとの報道もあるとのこと。場合によっては他のヨーロッパ王室にも影響を与えそうな気がする。
 


◆中国大使館誤爆事件その後
 
 一年前の過去記事を見れば分かるように、ちょうど一年前はNATOによるユーゴ空爆が行われていた。そして数々の「誤爆」事件を起こして「史点」を賑わしてくれるのだが、極めつけだったのが5月に起きた「中国大使館誤爆事件」だ。ベオグラードの中国大使館をユーゴの兵器調達庁と間違えて爆撃、中国人三名を殺してしまった事件だ。直後の中国の反米騒動ぶりは世界中に流れ、この「誤爆」が故意か過失か様々な憶測が流れた。日本のどっかの週刊誌で右派系の論客がこの誤爆にアメリカの「挑戦」を読みとってはしゃいでいる(笑)のもみたことがあったなぁ。だから人の不幸を喜びなさんなって。

 当然ながら急速に冷却した米中関係、と思われたが、空爆終了後結局アメリカがわびを入れる形となり死者への慰謝料、大使館破壊に対する賠償金などがアメリカから支払われ、外交的にはこの問題は完全に決着が付いてしまった。そして今月8日、この「誤爆」の責任をとらされてかのCIA(アメリカ中央情報局)の職員一人が解雇され、幹部クラス6人が処分を受けたことがCIAから公表され、アメリカ政府がこれを中国政府に通知した。なにせCIAのことだから誰が解雇・処分されたのかは明らかにされていないが、処分の公表自体が異例のことだそうで、アメリカ政府がこの件では相当に中国に気を使っている様子がうかがえる。

 で、誰が解雇されたのかというと地図上の標的を指定する担当官だったという。これまでアメリカ側から公表された話によると、彼が古い地図(1997年作成)を持ち出してきて兵器調達庁の位置を示し、さらに番地の割り出し手法も間違うというチョンボをしでかしたため、中国大使館というとんでもない標的を誤爆する結果になったのだそうな。他に処分を受けた人間は一年間の昇進停止や口頭注意など。昇進停止になった職員は「組織的なミスを個人の責任にして「いけにえ」にしている」と文句を言っているそうだが、ごもっとも。
 この話の元ネタ(朝日新聞記事)によるとおよそ900ある爆撃個所のうち、この中国大使館誤爆の一件だけがCIAによる標的設定で、ほかは全てNATOと米軍司令部で決めていたという。じゃあやっぱり…?
 


2000/4/16記

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