ニュースな
2000年4月30日

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 ◆今週の記事

◆ヒトラーのしゃれこうべ?

 有名な小咄(こばなし)から。
 フランスのとある祭りで見せ物を出している男がいた。彼はしゃれこうべ(最近使わない言葉なので一応注釈。頭蓋骨のこと)を一つ取り出し、「さあさあみなさんご覧なさい、これはなんとあのナポレオンのしゃれこうべだ!」と言い出した。たちまち群がる野次馬達。ところがその中の一人がこう言った。「ナポレオンって頭がデカかったそうだが、そのしゃれこうべはちと小さいんじゃないのかい?」すると見せ物の男、鋭いツッコミにひるむことなく言ってのけた。「そうそう、よくお気づきになりました。実はこれ、ナポレオンの子供の時のしゃれこうべでございまして」すると見物人達は「いやぁ、さすがナポレオンだ。子供にしては頭が大きい」と感心して見入っていったそうな。

 昔聞いたこんな小咄を思い出させたのが、今回のロシア連邦保安局(元KGB)からの発表だった。なんとあのアドルフ=ヒトラーの頭蓋骨なるものが公表されたのである!ヒトラーについてはもう説明の必要はないと思うが、あのナチス・ドイツの独裁者だったまさにあの人物のこと。しかしなんでまた彼の頭蓋骨がロシアから出て来なきゃならないのか?

 ヒトラーが自殺したのは1945年4月30日のこととされる。だから毎年この時期になるとヒトラー話が何か一つぐらい出てくる。そうそう、過去記事見るとわかるけどアメリカの高校で銃を乱射した少年もヒトラー信奉者で、それでこの時期に事件を起こしたのだった。つい先日の20日にはイギリスの公文書館からナチス親衛隊の幹部将校の証言記録が公表されている。なんでもこの幹部将校ゴットリーブ=ベルガーなる人物は1945年4月22日にヒトラーに対して「国民を裏切るべきではない」と自殺を勧め、「銃で死のうが毒薬で死のうが自殺は簡単な事だ」と言ってやったという。これを聞いたヒトラーは動揺して「軍は私にウソをつき、親衛隊は私を見捨てた」と騒いで部屋に引きこもってしまったという。実際の自殺はその8日後のことだ。一般に史実とされているところでは、死ぬ間際に結婚した妻のエヴァ=ブラウンに青酸カリを与えて楽に死なせてやり、自らは銃で頭を撃ち抜いたという。このあたりいろいろと憶測を呼ぶところがあるようで、実は死なずに逃げ延びたとか自殺ではなく部下に殺されたという説も昔からよく行われている。後者で有名なのは手塚治虫の「アドルフに告ぐ」かも。そういえば「機動戦士ガンダム」でも「ヒトラーは身内に殺されたのだぞ」というセリフがあったっけ。
 そもそもこういう憶測を呼ぶ原因に、ヒトラーの死体がどこにいったのか不明となっていたことがある。僕が聞いたところでは確か遺言により遺体はただちに焼かれ、跡形もなく消し去られたというのだが…。ところがロシア側が93年になって「実はヒトラーの頭蓋骨を保存している」と発表したのだ。そしてなぜか今頃になってその頭蓋骨が公開されたわけだ。

 公開された写真を見ると、なるほど側頭部に大穴が開いている。ロシア側の説明によれば、この穴こそヒトラーが自らの頭を拳銃で打ち抜いた跡だという。で、どうやってこの頭蓋骨を入手したのかというと、なんでもソ連兵がヒトラーのいた地下の執務室に突入した際、そこにヒトラーとエヴァの遺体がそのままあったのだという説明をしているらしい。だとするとこれまで言われていた「部下達がただちに火葬にした」という話はどうなっちゃうのであろうか。
 どうも時期のこともあって半信半疑のお話。こういうのこそDNA鑑定で確認がとれるんじゃないでしょうかね。

 ところで冒頭の話のおまけですが、「源頼朝十三歳の時のしゃれこうべ」なんてのが日本にもあるのだそうな(笑)。



◆またしても謎の暗殺
 
 また起きちゃいましたよ、ユーゴスラビアの暗殺事件。
 今回殺害されたのは国営ユーゴスラビア航空の社長・ジボラド・ペトロビッチ氏。4月25日の夜、ベオグラード市内にある両親の家から散歩に出かけたところを、待ち伏せていた二人組の暗殺者に射殺されてしまったというのだ。もっとも僕が聞いている時点では警察による発表も行われておらず、ユーゴ国内の独立系マスコミが報じているだけなのだが。暗殺の理由、暗殺者の行方や背景など詳しいことは一切不明だ。

 「また」というのはご記憶の方も多いだろうが、ユーゴスラビアでは最近謎の暗殺事件が多発していて、この「史点」でも今年の2月13日付記事でネタに採り上げているのだ。その時殺されたのはパブレ・ブラトビッチ連邦国防相(当時)だった。この時はレストランで食事中に窓の外から狙撃するという荒っぽいというか手際の良いプロの手口だった。その前には1月15日に「ユーゴの闇の帝王」と呼ばれていた民兵指導者のゼリコ・ラズナトビッチ氏(通称「アルカン」)がホテルで狙撃され殺されている。他にも野党党首が不審な交通事故にあったり、連立与党の一つの党首のボディガードが狙撃されると言う事件もあった。これだけ続くと、単なる治安の問題ってことじゃないですね。明らかに何らかの政治的な意図で暗殺が続いていると考えるのが自然だろう。ユーゴ国内でも「外国の情報機関の陰謀」説からミロシェビッチ大統領による身内の粛清」説までさまざまな憶測を呼んでいるとのこと。

 一連の事件で殺された人達の共通項は姓が「ビッチ」で終わること…というのは冗談で(前にも使ったな、このネタ)、いずれもミロシェビッチ大統領に近い位置にいる、あるいは関係の深い要職に就いている人達という点だ。今回殺されたユーゴ航空社長もミロシェビッチ大統領と同郷で親しい間柄だったと報じられている。この社長が最近ユーゴ航空の民営化を画策していたとかで、暗殺の動機をそのあたりに求める推理も出ているそうだが…それだけでこんな殺しをやりますかねぇ…?
 素直に考えるとミロシェビッチさんが一番殺されそうな気がするのだが(^^; )。

◇一年後のコメント◇
このミロシェビッチさんも今や失脚した上、逮捕されてしまいました。それにしてもここでも書いているように不可解な殺害事件が次々に起こって、ほとんど迷宮入りなんですよね。このあたりの真相が見えてくる日はあるのだろうか。



◆最も危険なのは…
 
 朝日新聞の記事に出ていたのだが、ハワイ・真珠湾のアリゾナ記念館で観光客向けに公開されていた記録映画の一部が、日系の市民達の抗議を受けて2月に削除されていたのが分かったそうな。記録映画とはもちろん日本軍による真珠湾攻撃に関する記録映画なんだけど、これの一部に日系のハワイ市民を危険視する発言が入っていたことが、彼らの抗議の原因となっていたのだ。

 この記録映画は約23分程度の短編で、記念館にある二つの映写室で一日に20回以上も上映されるものだという。問題となったのはウォルター=ショート司令官が語る場面。そのセリフだが聞いてみると確かに凄い。「最も危険なのは日本軍の空襲ではなく、多くの人口を占める日本人、日系人による妨害行為だ」と言うのだ!しかもこのセリフに重ねて真珠湾近くのサトウキビ畑で働く日本人労働者の姿が映るのだという。なんでこんなシーンが今まで問題にならなかったんだろうかって気もするが、抗議を起こした日系人たちはようやく2年前から記念館側に修正を要求し始めたのだという。それまでも気になってはいたのだろうけど、おおっぴらに言いにくい空気が多少あったのかもしれないなぁ。
 映画「トラ・トラ・トラ!」でチラッとこういう空気があったことを匂わせる場面がある。日本軍の奇襲を受け、大騒ぎになっている軍の建物へ、いつものように郵便配達の日系人の少年がやってくる。それをジロリと冷たくにらみつけるアメリカ軍人達の目線…しかしこの場面では兵士達はグッとこらえて平常通り対応し、少年はイヤな空気を感じながらもそのまま立ち去っていく、という形で大事は起こらずに終わるんだけどね。でも恐らく日ごろからハワイに多くいる日本人・日系人(アメリカ国籍を持っているかどうかの違いです)に対する偏見があったところへ、この奇襲と開戦じゃ、彼らに対して相当厳しい風当たりが巻き起こったことだろう。そして実際にアメリカ政府は日系人の強制収容という措置をとることになる。その根拠となったのが、やはりこのショート司令官の発言にあるような発想だった。約半世紀後にこの強制収容が明かな誤りだったとして、だいぶ時間はたったもののアメリカ政府は公式に日系人達に謝罪し、賠償を行っている。
 
 それにしても。この司令官の発言を見ていると、最近日本でも似たような発想の発言を聞いたような気がするのは気のせいかな(^^; )。

◇一年後のコメント◇
来る5月から問題作と噂のある「パールハーバー」が全米公開。日本では夏休み向け大作として公開予定だけど、どんなもんだろうなぁ。すでに宣伝活動が派手に始まっているけど、「真珠湾」をネタにして『タイタニック』や『風と共に去りぬ』とならぶ感動大作!と打つ宣伝活動も謎。『アルマゲドン』の製作・監督なので狙っている線は見えてるんだけど…なんか安っぽいような予感が。
 



◆出雲大社はデカかった
 
 出雲大社といえば縁結びの神様。僕もずいぶん昔に高校の修学旅行で行ったことがあるが、その古めかしさとしめ縄のデカさに圧倒されたものだ。隣にある結婚式場のしめ縄がまた良い勝負ぐらいにデカいんですよ(笑)。それにしても未だに縁結びの御利益はないのだが。不信心がいけないのか(爆)。

 出雲大社に祭られているのは公式には「オオクニヌシノミコト」(大国主命)。『古事記』に出てくる出雲神話の神様だ。神様のくせに兄弟達に何度も殺される妙に不用心なお人であるが。あのボケぶりは白雪姫に匹敵するような(笑)。おっと、こういうこと書くから御利益がないんだろうな(^^; )。因幡の白兎を助けてあげるなど親切心のかたまりみたいな神様です、ハイ。
 『古事記』『日本書紀』の語る神話によれば、オオクニヌシは地上の支配者として君臨していたが、アマテラスの子孫である「天孫」が高天原から地上に降りてくるにあたって、その事前に「国譲り」を迫られ、「じゃあ譲るからその代わりにちゃんと社を建てて祭ってくれよな」と言ってこの姿を隠したことになっている(つまり自殺した?)。そこで立てられたのが出雲大社というわけ。見方を変えると無理矢理国を譲らされ命も奪われたオオクニヌシの怨霊を鎮めるための神社だという事もできる。まぁ前からけっこう言われていることなんですけどね。

 このたび出雲大社の境内を調査していた地元の教育委員会が発表したところによると、平安時代末期の本殿を支えていたと見られる巨大な柱の一部が発見されたという。これ、僕も少し以前から耳にしていたのだが、平安以前の出雲大社本殿はなんと高さ48mもの巨大な建物で(現在の奈良の大仏殿より高い)、太い丸太三本を組み合わせた巨大な柱を合計9本使って支える「空中神殿」だったというのだ。なんでそんなことが分かるのかというと神社に伝わる「金輪造営図」という平安時代に書かれた古図にそういう構造が記されていたからだ。しかし肝心の空中神殿は平安時代に倒壊しちゃったそうで、確証がとれなかったのだ。現在の、僕が眺めて「古めかしい」と思った本殿は、あれでも18世紀に建造されたものなんだそうだ。今回の発見で例の古図の正しさがますます証明されたかっこうだ。

 それにしても、何やら凄い発想の建物を建てていたのだなぁ、古代人は。何やらちょっとした「バベルの塔」という印象すらある。この「空中神殿」の想像図が「大林組」で製作されているが、それをみていると出雲大社というのが今日の僕らの想像以上に重要な意味を持つ神社、というか聖地だったことが想像できる。そして出雲という土地が一種独特の文化の中心地であったということにも空想の翼が広がっていく。それが平安期まで残っていたとなると、それを支える信仰心(あるいは畏れ?)の強さにも驚かされる。 
 


2000/4/30記

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