一時、この日にパレスチナ側が一方的に「独立宣言」をしてしまうのでは、と懸念されていたが(だってやっちゃったらイスラエル始め周辺諸国に混乱を招くのは目に見えているし、パレスチナ側だって名ばかりの独立になってしまう)、9月10日にパレスチナ自治政府の中央委員会は「建国準備宣言」なるものを代わりに発表した。ここでパレスチナ自治政府は「独立宣言」の実行をひとまず二ヶ月ほど先送りした「11月15日」に設定、この間に国会や選挙などの「国家」としての諸制度を固め、国連にも正式に加盟を求めていくとの意志を示した。
なんでもこの「11月15日」という日付は、PLO(パレスチナ解放機構)のアラファト議長が1988年に領土も何もないまま一方的、というか形式的に「独立宣言」を行った日なのだそうで、それなりに彼らにとっては「記念日」になっているわけ。もちろんそれにかこつけてひとまず「延期」をし、その間にイスラエルやアメリカとの交渉進展を期待してみよう、ということなのだろうが。これはアラファト議長はじめパレスチナ側の精一杯の努力であると言える(パレスチナにも「強硬派」がいるわけで)。めいいっぱいガンバってイスラエル側に「猶予」を与えたとも言えますね。
イスラエル側も先日の「史点」で書いたように、ただいま大変な情勢なのだ。和平派であるバラク首相の連立政権は政党の離脱が相次いで青息吐息の状態(バラク首相で内閣の多くのポストを兼任するはめになった)。どうも内閣不信任決議まで出されかねない状況になっているそうな。ここでパレスチナ側から一方的に「独立宣言」なんてされたら、バラク首相が失脚し、イスラエル国内の強硬派が台頭してまとまる話もまとまらなくなってしまう可能性も多大にあった。今回の「延期」でひとまず時間の猶予ができたことにはなるんだけど、事態はまるきり楽観できない(でもパレスチナ側は「楽観」の姿勢を強調していた)。
話をまとめようとしているアメリカにしても、当事者のクリントン大統領の任期切れが迫り、次の大統領を決める選挙の真っ最中。新大統領が誰になるかでまた情勢が変わる可能性もある。もちろん基本線は変わらないとは思うが、蓄積した交渉のノウハウが政権交代で無くなっちゃう可能性は否定できない。
そんなこんなでもうこれ以上の「延期」は難しい情勢になりつつある。次の注目は11月15日…ということですね。そのころの「史点」は何を書いている事やら。
さて、先週は「アスホール」発言騒動が巻き起こっていたが、今度はなんと「サブリミナルCM疑惑」ときた。
9月12日、明かとなって大騒ぎの元となったのは、ブッシュ候補側が製作したライバルのゴア候補を攻撃するテレビCM(それにしてもこういうのを露骨にやるあたりがアメリカンである)。ゴア候補の医薬政策を批判するたった30秒の攻撃CMだったのだが、その中で「ゴアの医薬政策」という文字が映る部分に、見えるか見えないかという一瞬だけ、大きく「RATS」という文字列が重なっていることが暴露されたのだ。「RATS」は「ネズミ」であるが、隠語として「ずるい、きたない」といったニュアンスを含むらしい。
映画は一秒間に24枚、テレビでは一秒間30枚ぐらいの画像を次々と映し、それが人間の目には「残像効果」によって動く映像に見える。そこに一枚だけ違う絵が紛れ込んでいたとしても普通はほとんど気がつかない。しかしこの「紛れ込んだ一枚の絵」が無意識のうちに見た人の頭の中に入り、意識下で重大な影響を与える、というのがいわゆる「サブリミナル効果」というやつだ。ある実験で、映画フィルムに「コーラを飲もう」「ポップコーンを食おう」という文字のある絵を一枚だけ紛れ込ませておき観客に見せたところ、コーラ・ポップコーンの売り上げが急増したという「伝説」で有名だ。
この手の話に詳しい方はご存じだろうが、上記の「伝説」は宣伝用のデッチ上げ話であったことが判明しており、事実ではない。そしてキチンとした実験で「サブリミナル」の劇的な効果が証明されたことは一度もない(一瞬は見えているはずで全くゼロとは言い切れないらしいが、ほとんど影響はないと考えていいそうだ)。ただその「伝説」が一人歩きして、そういう効果が本当にあるのだと信じている人が多くいるのは事実。かの名作ミステリドラマ「刑事コロンボ」に「意識の下の映像」(邦題)という一編があり、殺人者がこの「サブリミナル効果」を利用して「アリバイのある殺人」を犯し、コロンボもまた犯人を追いつめるために同じ効果を利用していた(写真フィルムを映画フィルムに混ぜるというムチャをしているが)。日本ではオウム事件の際に日テレとTBSがお互いに「教祖の顔」が入ったサブリミナル映像をTVで流したとスクープ合戦をしたことがある(TBSはその後それどころじゃない大問題が発覚したが)。映画「RAMPO」(奥山版)でも「サブリミナル効果」を使ったとか言っていったっけなぁ。あの映画だけでも「サブリミナル効果」なんてのが無いことは分かりますがね(爆)。
CNNなどの報道では「こうした手法を規制する規則はないが、人を欺くものだと見られている」と伝えていたと言うから、なんとなくあちらでも「効果」を否定しきれないでいるのかもなぁ。このCMの製作者も「人々はテレビを見飽きているので、関心を引きつけようと狙ったものだ」などと言っているそうだが、やっぱりそれって少なくとも「意識して」やったということだよね。このニュースが流れた日、ブッシュ氏は一日中このCMに関する釈明に追われていたという。やれやれ。
そんなこんなでこのところ支持率でゴア候補に逆転され、停滞を続けているブッシュ候補。そんな息子を父・ブッシュ元大統領が慰める(?)コメントを出していた。「私は生ける世論調査エクスパート。支持率は上がったり、下がったりする。私ほどローラースコーターに乗ったことのあるは人はいないと思うよ」(読売新聞の記事より)とのこと。そうなんだよなぁ、このブッシュ大統領って一時いまいちだった支持率が、湾岸戦争やったとたんに80%あたりにまで急上昇し(アメリカ人って単純だなと改めて実感したものだ)、その後日本訪問中に晩餐会で倒れて一気に支持率急落、結局クリントンに敗れるという結果になったという、波瀾万丈の在任期間だったものだ。
そういやあ、最近イラクあたりがにわかにキナ臭くなり、アメリカが再びイラクを攻撃するんじゃないかという話も出てきている。大統領選直前にこういう動きが出てくるってのは、もしや…
さてさて、どうなりますか。これも11月に注目ですね。
一つ一つは小ネタなのだが、「イギリス」というキーワードでまとめると記事になるかな、ということで。
イギリスといえば「議会政治」のルーツ。日本の議会制度だって基本的にはイギリススタイルを導入したものであると言える。しかしそのルーツ、なにぶんにも古い。発祥が中世の13世紀(日本は鎌倉時代)までさかのぼってしまうものだから、逆に古くさい歴史的遺物を残し続けているところもあった。その「歴史的遺物」の代表が「上院」の議員たちだった。昨年の8月30日付「史点」でもこの件を採り上げているが、イギリス議会での「上院」とは「貴族院」にほかならず、1200名(!)の上院議員のうち759人が世襲貴族(まだこんなにいるんですよねぇ、この国には)の議員で、もちろん選挙なんて必要とされていない。ほかに「イギリス国教会」の主教などが議席を持っているという。ただし、この「上院」は実質的には飾りものに過ぎず、下院が圧倒的な優越性を持っている。
で、ちょうど一年ほど前に採り上げたネタは、現在のブレア労働党政権が「上院改革」についに着手、手始めにこれら世襲貴族の議席を約8分の1に削減するという話題だった。いずれは全廃していく方向で今も動いているわけだが…とうとうその上院議員に一般市民も立候補することが出来るという制度改革が実行に移される模様だ。何を今ごろって気もしなくはないが(笑)。
報道によれば、21歳以上の市民なら誰でも立候補でき、立候補したい人は推薦人二人の推薦状を用意してインターネットのHPに出ている応募用紙に記入して応募する(このあたりがホントの「IT革命」ってやつですか(笑))。そして「上院任命委員会」なるものが立候補者を書類選考で絞り込んで、さらに面接を行い「市民上院議員」を決定するのだそうな。なんだか就職試験みたいであるが、第一弾の今回はたった10議席という狭き門だそうである(今後しだいに増やすとのこと)。この方式だと選挙はやらないわけだが、有権者の選挙によって選ばれる「民選上院議員」も部分的におくことも検討されているという。
お次は「イギリスっていざとなるとやっちゃいますねぇ」と言う話。
ところは西アフリカのシエラレオネ。この国の政府軍の訓練のためにイギリス軍の部隊がここに来ているのだが、その部隊のイギリス兵士・シエラレオネ兵士ら合計11名が、8月25日に同国の武装勢力「ウェストサイドボーイズ」(なんちゅー名前だ)に誘拐され、人質にとられるという事件が起こっていた。その後5人が解放されたが、交渉は決裂。そしてさる9月10日、この武装勢力の拠点をイギリス空挺部隊が急襲、激戦の末、人質の解放に成功するというハリウッド製アクション映画みたいな話を実際にやってしまっていた。この激戦で空挺部隊の兵士一名が死亡、武装勢力側は17名もの死者を出したという。こういうあたり、この国はアメリカ並みに強攻策でいきますな。
そして締めはミステリファンにとっては見逃せない話題(^^)。
名探偵の代名詞にもなっている「シャーロック=ホームズ」の作者・コナン=ドイルの研究を続けてきたイギリス人ロジャー=ギャリック=スティール氏が、このたび「ドイルの代表作である『バスカヴィルの犬』("TheHound of the Baskervilles")は、ドイルの友人フレッチャー=ロビンソンの『ダートムアの冒険』("Adventureon Dartmoor")を盗用したもの」という説を発表した。しかも「ドイルはロビンソンの妻と愛人関係にあり、ドイルは彼女を通じてアヘンをロビンソンに盛って、病死に見せかけて毒殺した」という衝撃のおまけつき。この衝撃の説は『バスカヴィルの家』(原題"TheHouse of the Baskervilles"。日本語で聞いてもダジャレですな)という本となって出版されるそうで。シャーロック=ホームズといえば「シャーロッキアン」と呼ばれる熱狂的愛好家が世界中にいることで知られるが、その「シャーロック・ホームズ協会」ではこの説を当然ながら「でたらめ」と一蹴し、「ヒントをその友人から得たのは確か。しかしやはりドイルのオリジナル作と言える」とコメントがでている。
ちなみに「バスカヴィルの犬」は短編ばかりのホームズシリーズには珍しい本格長編作品(他に3編あるが、いずれも事件にいたる過去の回想部分に多くのページを割く)。イギリスの田舎を舞台に魔犬の伝説を絡め、日本の横溝正史の金田一シリーズのご先祖みたいな作品である。確かドイルも自選2位につけている自信作だったような記憶がある。
盗作、殺害の説はかなりマユツバであるが、ドイルって本人がかなりのミステリというか話題を豊富に持っているのも事実。ある殺人事件を自分で捜査して「真犯人」を名指ししたり、晩年には心霊学からオカルトにはまってゆき、明白なトリックの「妖精の写真」を「本物」と太鼓判を押しちゃったこともある(これ、最近映画になってましたね。趣旨は違かったらしいけど)。
なんか最後は趣味に走って脱線しておりました(^^;
)。
9月16日の夜、南米ペルーのアルベルト=フジモリ(フヒモリ)大統領が、国民向けのテレビ演説のなかで事実上の「辞意」をいきなり表明した。正確にいえば「近く大統領選挙・国会議員選挙をおこなう。そして私はそれに立候補はしない」という表現をしたのだが、まぁどう読んだって辞任を決意したということには違いないだろう。つい先日と言っていい5月末の大統領選挙で勝利(といっても「不戦勝」みたいなもんだけど)し、三期目に突入したばかりのことで、大統領選挙で激しくフジモリ大統領を非難したアレハンドロ=トレド氏の側でも最初は「ほんとかよ」と半信半疑の呈であったらしい。さて、なんだってフジモリさんはいきなり「辞任」を決意したのだろうか。
この突然の辞任劇の中心になっているある人物がいる。「国家情報局」のウラジミロ=モンテシノス顧問という人物だ。ここで僕はこの人物の名前を以前「史点」に自分で書いておいてコロッと忘れていたことを白状しておく(^^; )。今年の6月4日付「史点」でペルー大統領選の騒動を採り上げた際に、トレド氏のセリフの中にこの人物の名前がしっかり入っていたのだ。そのセリフは「フジモリはモンテシノスのゲイシャだ」というものだった。このセリフ、トレド氏が時折見せる日系人(中国系も含む?)への人種差別意識の一つとしてたまたま引用しただけで、この「モンテシノス」なる人物については情報不足ということもあって「へえ、そんな『影の実力者』みたいのがいるんだな」という程度の認識を持った程度だった。そして今回の「辞任発言」騒動でこの人の名前が出てきて、「あれ…ひょっとして」などと言いながら「史点」のバックナンバーを当たったら「再発見」しちゃったわけである。まぁこのコーナーもこれだけ続くとちょっとした時事ネタデータベースになってきちゃってるな、と自分で気づかされる一幕でした。
いかん、脱線癖が今回は目につくな(笑)。で、今度の騒ぎでモンテシノス顧問がどう関わってくるかというと、そもそもの発端は民間TV局が放送したビデオ映像にある。このビデオにはそのモンテシノス顧問が野党の国会議員に現金入りの封筒を渡す「買収工作」を行っている現場の映像が記録されていたのだ。ペルーの国会(全120議席)は4月に選挙が行われたが、与党連合は苦戦し過半数を下回った。ところがその後、野党議員が10人ほど与党側に鞍替えしてしまい、結局与党連合は過半数を確保することになってしまったのだ。この過程に「モンテシノスが買収工作をかけているのでは」という推測がすでに広がっていたのである。今回放送されたビデオはそれを完璧に裏付ける決定的瞬間の映像だったというわけだ(それにしてもそんな映像をバッチリ撮られるとは不用心な、という気もする)。
それならモンテシノス個人を辞任させるなり逮捕するなりすれば済むことだろ、と思うわけだが(実際ペルーでもそう思われていた)、それがひとっとびに「大統領辞任」まで行っちゃった理由については、まだまだ謎が多い。普通に思いつく一つの見方は、このモンテシノスという人物がフジモリ大統領とその政権にとって想像以上に重要な人物であったのだ、ということだろう。上に挙げたトレド氏のセリフ、「フジモリはモンテシノスのゲイシャだ」と重ねあわせてみるとよけいそう思えてくる。
報道によるとこのモンテシノス氏、確かにいろいろと胡散臭いというか影の部分の多い経歴を持っている。もともとは軍人だったが70年代に武器取引情報を外国に漏らしたというスパイ容疑で軍を追放され、その後どういう経緯かフジモリ大統領の側近となり、90年にフジモリさんにふりかかった脱税疑惑を晴らし(もみ消し?)、92年の国会封鎖・憲法停止の「作戦参謀」となり、日本人には記憶に新しい97年の「日本大使公邸人質事件」の武力解決も彼が影の指揮をとったとまで言われているそうな。こうしてまとめてみると、フジモリ大統領が時折みせる強引なまでの「強攻策」の背後にモンテシノスあり、ということになるようだ。恐らく憲法を改正して「大統領三期目」を実現したのも彼の力が大きかったのだろう。そして反対派に対しかなりの人権侵害、弾圧を行っていたのも、彼が率いる「国家情報局」だと言われている。まぁだいたいこういう看板を掲げている役所はろくなことをしませんがね。
現時点ではまだ情報が錯綜しているが、どうも野党側はフジモリ大統領の辞任よりも、このモンテシノス氏の「逮捕」にこだわっているという。それどころかすでに逮捕された、という情報もある。またこのモンテシノス氏が関わりを持っている軍の動向も今ひとつ不透明のようだ。アメリカ大陸の「親分」アメリカ合衆国はもともとフジモリ政権のやり方を批判していたから、今度の「辞意表明」を歓迎する意向を示しているが、一方で事態の混乱を恐れてもいるという。
どっちにしても現時点では問題の大統領選は来年3月の予定であり、それまで政権の空白を作る気はフジモリ政権にはないとのことで、すぐにフジモリさんが大統領をやめるというわけではない。だが、その来るべき大統領選までのあいだに何が起こるのか、全く分からないと言う情勢だ。