ニュースな
2001年2月26日

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 ◆今週の記事

◆スパイやってたFBI職員
 
 FBIです。CIAじゃなくって。説明の必要は無いかも知れないが一応説明しておくと「FBI」とはアメリカ連邦捜査局で「CIA」は中央情報局。CIAがほんまもんの情報機関であるのに対して、FBIはアメリカ全土を管轄する広域警察みたいなもの。本来アメリカでも警察捜査は地方ごとの地元警察によって行われるが、それでは手に負えない広域・重大な犯罪が起きた場合などにこのFBIが対処する。この辺は映画「ダイ・ハード」で地元警察の刑事とFBIの職員がテロリストへの対応をめぐってややコミカルな対立を見せたりするのでちょっと参考になる。もっとも以下を読めば分かるがFBIの活動がかなりCIAの領分に入り込んでしまうこともあるようだ。
 さて、そんなFBIの職員がスパイ活動をやっていたのだ。もちろん「本職」ではなく「副業」として。それもロシアに情報を15年間も流していたってんだから穏やかではない。

 2月20日午後(日本時間だと21日)、FBIはベテランFBI職員フィリップ=ロバート=ハンセン(56)をスパイ活動容疑で逮捕した。なんとこの人テロ対策の専門官だったそうで、ホントに「ダイ・ハード」に出てきそうな人だったのだ。ともかくこの人物、けっこう前からマークされていたようで、それこそCIAとFBIが協力し合って極秘に捜査を進めていたそうだ。なにせ彼もプロだから常に用心してFBIの捜査状況をコンピュータなどでチェックしていたとのことで、なかなか苦労の多い捜査であったらしい。逮捕に結びついたのは、ハンセン容疑者が機密文書の入った封筒を近所の公園の橋の下に置いていくという決定的現場を張り込んでいた捜査陣に押さえられたから。ハンセン容疑者はこの公園内の数カ所に場所を決めてそこに文書を埋めるなどして隠しておき、彼が立ち去ったあとにロシア側スパイがそれを回収しに来るという方法で情報を引き渡していた。これはスパイの古典的手法で「デッド・ドロップ」などと呼ぶのだそうな。

 こんな方法で彼は15年もの長きにわたってさまざまな情報をロシア(ソ連時代からだな)に流し続けていた。そして累計140万ドルもの報酬を受け取っていたという。流した情報は電子監視装置の操作方法から外交機密にいたるまで幅広かったようだ。なんでFBI職員がそこまでできたのかというと彼は1995年から国務省(つまり日本で言えば外務省)に出向していて、外交特別任務部顧問なんて重要なポストにまで就いていたのだ。おかげで彼は国務省の中を自由に歩き回ることができ、部署内でも重宝がられていたらしい。なんでも「彼がやったかどうか分からないが最近機密情報の入ったノートパソコンが一台なくなった」なんて国務省の職員がCNNのインタビューに対して答えていたそうで。彼が犯人としか思えないけど、まぁ結構あちらのお役所もいい加減なところがあるようである。
 国務省内でも全く疑われることの無かった彼は、もちろん近所でも「仕事熱心で良き夫・良き父」となかなかの評判だったそうだ。捜査情報によれば、彼の妻も夫がスパイ活動をしているとは全く知らなかったらしい。確かにかなり有能かつ用心深い人物のようだから、この点は徹底していたでしょうね。どうやら情報を流す相手のロシア側スパイに対しても直接の接触はなるべく避け、自分の実際の身分すら明かさなかったとか伝えられている。それは報道によると「旧KGBの中にもFBIのスパイがいることを知っていたから」なんだそうな。ふう、お互いによくやりますねぇ。

 それにしてもなんでこんなエリート職員がソ連ひいてはロシアのスパイになったのだろうか?いや、もちろんエリートが自分の国を裏切ってスパイ(あるいは情報提供者)になることは割とよくあることなんですけどね。「動機」がなんだったのか興味があるところ。以前ここで採り上げたイギリスにいたKGB協力者みたいに社会主義信奉者だった様子もないし。
 CNNの報じたところによると、彼がイギリスの「MI6」に潜り込んでいたKGBのスパイ(つまり二重スパイ)キム=フィルビーに憧れていたことがあったらしい。少年時代にフィルビーの自伝を読んで感動したとか言う話を手紙に書いているそうで、CNNの記者は「ひょっとすると最初から二重スパイになる目的でFBIに入ったのかも知れない」などという憶測も書いていた。うーん、二重スパイ志願者。ちょっと無理があるような気もするが。なんとなく映画「トゥルーライズ」みたいな話だよな。

 なお、この騒動の影の主役でもあるロシアのイワノフ外相は「米ロ関係の幅は広い。その問題に固執したくない」とだけコメント。まぁお互いにスパイを送り込んでいるだろうが、という気分もあるだろう。今度の逮捕は深読みするとどちらかと言えば強硬姿勢のブッシュ新政権によるロシアに対する揺さぶり(および米国民世論の喚起)と取れなくもないですな。なにせロシアのプーチン大統領はKGB職員出身だし。あ、お父さんブッシュもCIA長官だったりしたっけ。
 なお、この事件を機にFBIは長官から下っ端まで全職員を「ウソ発見器」にかけることになったそーです。ご苦労なことで。
 



◆次期ローマ法王は?
 
 いきなり不謹慎なタイトルだが…まぁ当の法王庁もいろいろ考えているところのようなので。
 2月21日、カトリックの総本山・バチカンで、カトリックでは法王に継ぐ地位である枢機卿44人の認証式が執り行われた。今回の任命で中南米出身の枢機卿(27人)がイタリア出身の枢機卿(24人)を上まわったことがイタリアでは注目されているらしい。「ひょっとすると次の法王は中南米出身者では?」との憶測が出ているためだ。
 ローマ法王は枢機卿達の選挙により決定される。選挙権を持つのは80歳以下の枢機卿で総数134名。なんで80才未満なのかというと、この法王選挙というのが大変時間がかかり、候補者どうしがその忍耐力を競い合うものだからだ。その名も「コンクラーベ」というぐらいで、ってもちろん冗談だ。
 逃げ出すようにまた映画ばなしになるが、この「コンクラーベ」はあの名シリーズ「ゴッドファーザーPART3」で見ることが出来る。あのお話自体はフィクションのはずなのだが、この映画中の法王選挙で選ばれる法王ヨハネ=パウロ1世は実在の人物。映画の中ではなんとマフィアによって毒殺されてしまうが、就任してすぐに亡くなったというのは事実らしい。

 ま、とにかくそんなわけで多数派となる「中南米勢力」の存在が次の法王選挙に影響するんじゃないかという話だ。もちろんそれはどうなるか分からないのだが、ローマ法王というのがほとんどイタリア出身者で占められてきた歴史もあり、イタリア人としてはちょいと穏やかでないのかも知れない。現在のローマ法王・ヨハネ=パウロ2世ポーランド出身だが、実に455年ぶりの非イタリア出身の法王だったというぐらいで。

 他の報道によれば中南米出身の枢機卿を増やしたのは中南米でのカトリック勢力衰退傾向に歯止めをかけるためだとの見方もあるという。中南米のスペイン・ポルトガル植民地だった国々の住民は大多数がカトリック信者なのだが、近ごろの若いもんの宗教離れ傾向はここでもあるようで、おまけにプロテスタントさらにはイスラム教の中南米進出がささやかれている状況だ。中南米のカトリック教会指導者達に喝を入れるという狙いもあるようだ。実際、法王は中南米への「再布教」を呼びかけており、けっこう危機意識があるらしい。

 それと、枢機卿ではなくその下の大司教の話なのだが、なんとなく僕の関心を引く話があった。この日、ウクライナラトビアの大司教が正式に任命されたというのだ。ウクライナとラトビアといえばかつてソ連を構成していた国であり、東欧と言うことで宗教と言えば「東方正教会」が多数派という地域である。大司教を任命したところを見るとそこそこのカトリック信者がいるのだろう。実はこの両国の大司教はとっくに任命されていたのだが、それぞれの国の正教会と摩擦が生じる恐れがある、ということでその事実は伏せられていたのだそうだ。この日とうとうそれがおおっぴらになったということは、カトリックもこの際東欧・ロシアへの進出を図ろうなんて意欲を燃やしているのかも知れない。



◆考古学の話題あれこれ
 
 小ネタが集まったのでひとまとめに。

 エジプト考古学と言えば日本では吉村作治教授の顔がすぐ思い浮かぶぐらいであるが(笑)、この吉村教授が2月19日にカイロで記者会見を開き、「ツタンカーメンのDNA鑑定が実施直前になってエジプト政府の命令で中止された」ことを明らかにした。この話、昨年から耳にしていたのだが、そのころからエジプト政府が渋っているとのことだった。それが今年に入っていったん最終許可がおり、実現の運びになったのだが結局土壇場になって中止命令が出たというわけなのだ。そのために現地入りしていた吉村教授は憤懣やるかたないところであろう。
 ツタンカーメン、といえばどういう人か知らなくてもなんとなく名前は知っている、という人の代表だろう。エジプトの第18王朝の少年ファラオであるが、アメン神信仰を復活させる命令を出したという以外(だからツタンク「アメン」なんだそうで)これといって何も事績を残さないうちに若死にしてしまった王様だ(殺されたって話もありますね)。近い時代に生きているアメンホテプ4世(イクナートン)なんかの方が世界史的な事績が多いのだが、ツタンカーメンはその墓とミイラが20世紀に入ってから劇的に、しかも壮麗な副葬品もほとんど手つかずの状態で発見されたために一躍世界的有名人になってしまった。棺を開けたときにその人の評価が定まる…ってそりゃ違うだろ(笑)。
 で、吉村教授らのグループは何をしようとしていたかというと、ツタンカーメンのミイラから組織片を採取してDNAを抽出、そしてそれを「王家の谷」から出てきた各ミイラや博物館に入っている親戚のアメンホテプ3世のミイラからとったDNAと比較・鑑定してその家族関係や病歴などを調べたいというものなのだそうだ。別に「ジュラシックパーク」みたいなことをやろうというわけではないのであるが…
 どうもエジプト政府がこのDNA鑑定を好ましく思っていない原因はいろいろとあるようだ。一つには新しい技術そのものへの不信感。自国の「祖先」たちの遺体をあれこれいじくられることへの嫌悪感もありそう。さらにややうがった見方とも言われているが、ツタンカーメンなどファラオのDNA鑑定をしてみたら人種が現在のエジプト人とは異なっていたなんてことが判明すると困るんじゃないか、なんて憶測もある。

 一方、南米はペルーの山奥にあるマチュピチュ遺跡が崩壊の危機に直面しているなんて話も流れた。これもまた良く知られた遺跡だ。名前を覚えていなくても、少なくともあの「空中都市」なんて呼ばれるあの山の上に広がる廃墟の写真を見たことがある人は多いだろう。15世紀から16世紀頃に建設された都市とも言われ、どうやって、またどうしてこんな高い山の頂に町を作っちゃったのかと謎が多い。1911年にたまたま発見され(その時にはすでに無人の廃墟となっていた)大騒ぎになったという。もちろんユネスコの世界遺産にとっくの昔に指定済みだ。
 この貴重な遺跡が、なんと地滑りで崩壊してしまう危険があると、日本の京大防災研究所が調査結果を示し警告を発した。なんでも一年ぐらい前から上空・地上から観測を行い、地滑りの予兆があるとの結果が出たのだそうだ。来月にも「地滑り災害軽減のための国際連合」なるものを設立するとのこと。

 考古学、かどうかよく分からないのだが、我が国の奈良県の法隆寺に関してもちょっとした話題が出ていた。
 法隆寺は現存世界最古の木造建築であるとされる。僕も中学の修学旅行で行ったことがあるが、まぁとにかく本当に古い。デザインからしてほかの寺とは違う印象を受けたものだ。で、「法隆寺を建てたのは誰?」と聞かれたらもちろん「宮大工」ではなくって、こんどNHKがドラマにして本木雅弘さんが演じるという聖徳太子(厩戸皇子と答えるのが一般的だ。しかし『日本書紀』には法隆寺は聖徳太子の死後の670年(天智天皇の時代)に火災にあって「一屋も残さず」焼失したと書かれていることなどから、現在建っている法隆寺は奈良時代に入った7世紀末ごろに再建されたものと明治以降の歴史学者たちは一般的に考えてきた。一方で美術史・建築史の専門家からは「再建ではない」とする意見も強く主張されていた。
 しかし先週、これに対して大きな疑問を呈する一つの発見が発表された。法隆寺五重塔の主軸「心柱」を「年輪測定法」で調べたところ、切り出されたのが6世紀末であるとの結果が出たのだ。切り出された時期とそれを使って建築する時期が同時期であるという保証はないが、いくらなんでも100年以上建築資材として保存しておくというのも考えにくい。ひょっとすると五重塔だけは焼け残ったものだったのかな、とかいろいろと想像が膨らむ話ではある。



◆すごいぞ自民党!
 
 「史点」の前回の更新がかなり遅れたこともあって今回はネタが少ない。いや、あるにはあったのだが「これは」と思うほど面白いネタがなかった。実際には注目しているものがいくつかあるんだけど、もう少し先行きを見ないとなんとも言えないものばかり。上に書いた考古学総まくりネタを分割して記事4つの形にしちゃおうかな、などと考えていたら(笑)、「おおっ史点ネタだ!」という話題を発見した。今朝の朝日新聞朝刊社会面の記事だ。

 見出しが凄い。

 「家康も五右衛門も入党」

 これを社会面半分、黒地に白抜きのデカ見出しですぜ。どうも朝日新聞というのは見出しに凝る傾向が強いようで内容よりも見出しのインパクトがやたら強いものが多い(ダジャレが多いのは知る人ぞ知るだ)。それにしても凄い。自民党という政党はどうやら安土桃山の時代から存在していたらしい。さすがは日本最大の保守政党である(爆)。

 この朝日記事を読んだ方はもうとっくにネタをご存じであろうが、最近騒ぎになっている「KSD問題」に絡んだ話である。記事自体は一面から続いていて要するにKSD(ケーエスデー中小企業経営者福祉事業団)が、会員となった中小企業経営者から集めた金で「自民党費」を15億円も肩代わりしていたってな話なのだ。どうやってKSDが自民党費を肩代わりするのかというと自分のところの会員を「自民党員」にしてしまうんですね。しかもその大半は本人に断り無く勝手に。そして党員が党に支払う「党費」という形でKSDが十何億という金を自民党に金を払っていたわけだ(もちろん「党員」にされた本人には断り無く)。これはかなり高等技術のヤミ献金だと言って良いだろう。まぁそれにしてもあれこれと良く思いつくものだ。
 近日中にも逮捕されそうな空気の村上正邦元参議院議員(この人、昨年の「史点」に2回ほど登場してますな)を参院選の比例順位で高位につけるために、彼の支持基盤となっていたKSD(正確にはその関連団体である「豊明会」なんだけどどうせ同じことなので面倒な正確さは省く)は大量の「党員」を創作して村上氏を推薦する党員数を水増ししていた。この方法を自民党全体に対するヤミ献金のテクニックとして転用したということのようだ(記事によるとこれも村上さんの依頼だったらしい)

ちょっとお願いしてみたい気も。あ、国会議員じゃないとダメか 大金を「党費」として献金するには「党員」が大量にいるほどよい。最初は目標獲得党員を十万人に定めて活動を開始したが思うように集まらない。そこでアルバイトを動員してKSD会員名簿から勝手に会員名を書き写して「党員」にしてしまうという水増しテクニックを使用した(おいおい)。かくして1991年には6万人の党員を創作し党費1億8000万円を肩代わりする(というか献金する)ことに成功した。こんな調子のことを10年も続けていたから延べ60万人もの「架空党員」を作ることになっちゃったんだそうな。
 こういうムチャは行き着くところほとんどギャグになる。自民党が家族党員制度(党費が一般党員の半額)を導入すると、彼らはKSD会員名簿を参考に架空の家族をデッチあげて党員にしてしまっていた。朝日の記事には存在もしない同居人が二人もいることにされ、本人もろとも知らない間に「自民党員」にされてしまっていたKSD会員の話が載っていた。検察から昨年暮れにいきなり知らされたそうだ。ほんとビックリしちゃうような話である。自民党員になると党員証などが党員に送付されるが、ここからバレるといけないってんで「架空党員」の連作先を豊明会の支部にしておいて集まった党員証を廃棄処分するなんて言う涙ぐましい努力もあったようだ(笑)。
 架空の家族をつくるだけではあきたらなかったのか、党員水増しのために架空の人名もバンバン作り上げた。ネタに困ったのか、それとも雇われたアルバイトの学生あたりが洒落っけを出したのか、党員名簿の中には「徳川家康」「豊臣秀吉」「石川五右衛門」などの名前が書かれていたという。長い文章の中でここをデカ見出しに使うあたりがこの新聞ですな。

 それにしてもそもそもKSDとオンブにダッコの関係だった村上正邦さんといえば、ついこの前まで自民党の参院議員会長ですぜ。小渕恵三前首相が去年倒れたとき、「森後継」を密室で決定した「五人組」の一人だった(ほかは青木幹雄、野中広務、亀井静香、そして森喜朗ご本人)。正確を期せないのだが、確かこの時「森でいいじゃない」と言ったのが村上さんだったような。それと、この人「神道政治連盟議員懇談会」の会長でもあって、例の森さんの「神の国発言」でも名前が登場したんだよな。とにかく自民党内においてかなりの実力者と見られていたのは確かだ。KSDの一連の呆れる話を見ていると、こういうことと関わっている人が実力者になっちゃう自民党というのはなんちゅう世界なんだろうと思っちゃうところ。まぁ昔から「集金力」がモノを言う政界ですけどねぇ。


2001/2/26記

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