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2001年9月23日

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 ◆今週の記事

◆とうとう投手交代、じゃない党首交代

 ここ数年間、日本政界の再編というか国会議員の順列組換えが続き、様々な政党が現れては消えてゆく。現象そのものもさることながら、面白いのがそれら現れては消えてゆく政党の名前だ。「さきがけ」みたいな斬新なものもあったが、「新生党」「新進党」なんて投げやりなものもあったし(「新・新党の名前は何になるのか?」と注目していて「新進党」だと聞いたときにに脱力したのは私だけではあるまい)、その「新進党」の崩壊の過程で「太陽党」「新党友愛」「新党平和」「改革クラブ」「フロムファイブ」「黎明クラブ」「民政党」などなどなど、どうせすぐになくなるんだからと思いつきでつけたような政党名も現れた(もはや誰も覚えてないでしょ)。そして「民主党」「自由党」なんてかつてもあったような政党が出現、そして「自由党」が政権を離脱した(というか切り捨てられた)時に、小沢一郎党首を見限って政権に残る道を選んだ人たちが結成したのが「保守党」だった。これも思いつきとしか思えない名前だが、当初はアッサリと自民党に吸収されていく運命ではないかと思われていたので誰もさして気にもしていなかった(笑)。ところがどっこい意外にも長寿(笑)を保ち、現在も存在はしている。ほとんど死滅しかかっているけど。
 「保守党」が登場したとき僕が思ったのは自民党、自由党、民主党、保守党、共産党、社民党と、世界各地でも耳にする政党名が日本でもだいたい出揃ったな、などというヘンな感想であった。あ、「労働党」はまだないな。あと「共和党」も存在しない… というか現状では日本は共和国ではないのでこの名前の政党だけはどうやっても出てこないだろうな。

 さて、この「保守党」であるが。自由党から分離を画策していた段階ではこの党は「野田新党」などと言われていた記憶がある。この新党結成の音頭をとったのが野田毅氏だったからだ。しかし実際に党が作られてみると党首には宝塚歌劇の出身でいわばタレント議員ともいえる扇千景氏になっていた。野田さんが幹事長となりトップに出てこなかったことについては日本政治の歴史的伝統である「実力者はナンバー2」のパターンをとったかな、などと僕は思ってしまった。野田さんたちにしてみりゃ扇さんは利用しやすい「飾り物」と考えていたとしか思えない。
 その実力のほどについてはコメントできないが、建設大臣→ 国土交通大臣になってしまった扇さんは少なくとも存在感は圧倒的だった。これは野田さんたちの「誤算」だったかもしれない。まぁ扇大臣はとにかくよくしゃべるし、割とズケズケと遠慮なくモノを言うのは確か。「飾り物党首」と思っていた扇さんが存在感を増してきたことに、保守党党内に妙な不満がふつふつと沸いてきていることはハタから見ていても強く感じられた。
 森喜朗内閣が内閣改造を行い、扇大臣の留任が固まった2000年12月。「大臣と党首の兼任は無理だろう」ということで保守党は扇さんの党首降板の方針を決めた、少なくとも一時確実な話としてそう報道された。ところがこれを聞いた扇さんが激怒する。なんとこの党首降板の話は党首の扇さん本人に何の相談もなく進められていたのだった。結局党首の怒りに恐れをなした(?)党幹部は党首交代の話を撤回、いったん水に流す形になった。
 次に党首問題が再燃したのは2001年7月の参議院選挙。当初から苦戦は予想されていたが、保守党は党首である扇さん本人の一議席を守るのに精一杯という惨憺たる結果に終わった。もっとも「惨憺たる」と書いたが当初「全滅」も予想されていたので頑張ったほうだと言えなくも無い。しかし「勝てた」とはとてもいえない状態で、党首の責任問題が浮上した。ここでまたすったもんだがあったのだが、扇さんが強気で押し通して党首の座を維持した。党首続投を発表した会見で、扇さんと並んでいた野田幹事長があからさまに「参ったなぁ」という顔で苦笑していたのが強烈に印象に残っている。

 9月13日、世間がアメリカにおける大規模テロ事件で大騒ぎしている最中、扇国土交通大臣は急病で入院した。肝機能障害と報じられているが、このところ懸案の特殊法人民営化問題で凄まじいドタバタが繰り広げられていた上に今回のテロ事件もあって心身ともに過労状態に陥ったというところであるらしい。
 この入院の最中の17日、保守党は両院議員総会を開き、扇党首の辞任を全会一致で決定した。「全会一致」というが、もちろん党首本人は不在のままの決定である。病院の扇さんに決定を伝えると「次の衆院選に勝ち得る党首を選ぶのなら賛同する」という趣旨の回答文書が扇さんから送られてきたという。しかも「結果責任とおっしゃるなら甘んじて受けるが選対本部長(=野田氏)とともに辞めるべきだ」との文章もついていたという。しかし野田さんは辞めるどころか党首に昇格、扇さんは同党の参議院議員会長(ったって一人しか議員がおらんだろ)にとどまることになった。
 野田さんはあれこれ言っているが、入院という人の不幸を利用した「クーデター」のそしりは免れないだろう。まぁ思い起こせば小沢自由党が政権から切り捨てられそうになったときに「クーデター」を起こして政権に居残った過去があるから今さら驚くことは無いのかもしれない。いや、何も野田さん一人を責めているわけではない。なんせ「全会一致」で決めたことなんだから。

 数日後、病院から出勤してきた扇大臣は記者団に対し、「(総会に)出席してなくてよかった。よろしいんじゃないですか。皆さんでお決めになったんだから」と憮然とした表情で語ったそうな。
 で、はやくも保守党の自民合流ばなしが再浮上してきており、野田さんはこれを特に否定もしていない。
 


◆「引き渡せ」「いや渡せない」

 つい先日、ある国の政府がある人物について「多数の人の殺害に関する首謀者の一人であり人道に対する罪がある」として殺人罪で起訴していた。この国の最高裁は現在国外にいるこの人物に対し「特別殺人罪」の容疑で逮捕命令を出し、銭形警部でおなじみの「ICPO(国際刑事警察機構)」を通して国際手配することになった。この国の政府はこの人物が身を寄せているある国に対し身柄の引渡しを要求しているが、その国の政府は明白な証拠が無いとしてこれを明確に拒否し続けている。

 … こうやって書いてみると、どっかのテロリストの話みたいに見えてくるから面白い。気づかれた方もいると思うが、これ、ペルーのフジモリ元大統領のお話なのである。「同時多発テロ事件」の大騒動の中でひっそりと報じられていたニュースである。
 固有名詞をあてはめて再構成してみると、9月5日、ペルーの検察当局は1991年と1992年に起きたペルーの特殊部隊による学生ら25人の殺害事件および1997年の元情報部員惨殺事件について、フジモリ大統領が「首謀者の一人として作戦を熟知していた」とし、政治的動機から殺人・行方不明事件を引き起こしたことは「人道に対する罪」であると主張して「特別殺人罪」の容疑で起訴した。フジモリ大統領については辞任直後から職務放棄や不正蓄財疑惑などでは騒がれていたが、今度は「殺人」「人権侵害」の容疑まで加わることになる。この起訴を受けてペルー最高裁は13日に「逮捕命令」を下し、国際的に手配することになったのだ。

 ペルーの大統領であったフジモリ氏がマニラで開かれたAPEC会合に出席した後日本に立ち寄り、そのままそこから辞表をFAXで母国に送りつけ、「亡命」をしてしまったのは昨年11月のこと(この一連のペルー騒動についてはちょうど一年前の「史点」が書き始めているのでご参照されたい)。その後政権の変わったペルー政府は再三にわたり日本政府にフジモリ氏の身柄の引渡しを要求してきたが、日本政府は彼が「日本国籍を有する日本市民」であることをタテに身柄の引渡しを一貫して拒否している。もちろん日本国民だろうと犯罪を犯せば身柄を引き渡すこともあるのだが、日本政府の立場としては「犯罪を明確に立証できているのか現段階では怪しい」という判断があるのだろう。
 現在のペルー政権はフジモリ政権を批判する立場にあった人たちだから、少々ベクトルがかかっている印象もぬぐえないのは確かだが、ことが「殺人罪」「人道に対する罪」となると日本も引渡しを拒否しづらくなってくる。だって客観的に見ればオサマ=ビン=ラディン氏をかくまっているとされるタリバーン政権と変わらないことになってしまうからだ。

 そこでむげに拒否するだけではマズイ、ということなのだろう。9月18日までに東京地裁の裁判官がフジモリ氏に対し「嘱託尋問」を行っていたことが明らかになった。ペルー側からの「司法共助」「捜査共助」の要請に対し、日本の最高裁が司法共助要請を受け入れてこの尋問を行わせたのだという。尋問の内容は「側近の不正蓄財疑惑など」とされているので、あくまであのモンテシノス元国家情報相がらみの金銭問題に絞った事情聴取を行ったようだ。尋問の調書はすでに外務省を通じてペルー側に送られている。
 ただ、「捜査共助」の要請については現時点では応じず、「身柄引渡し」も拒否する方針のようだ。まあペルーがいきなり戦争をしかけてくることはないだろうからね(太平洋戦争では「敵国」だった過去もあるんだが)
 しかしペルーがアメリカに泣きついた場合、一気に話が展開する可能性もある(ちょっと皮肉)



◆「同時多発テロ」の余波・日本編

 ホントこのところ「アメリカで起きた同時多発テロ」以外に「史点」ネタを探すのが困難である。「史点」ネタの発掘現場である各種ニュースサイトの国際情報関連は、ほとんどこの関係の記事で占められてしまっている。
  この手の大事件が起こると怒涛のように情報が放出されるが、そのほとんどがどこまでホントだか流言だか分からない。日本人の大半にとって、こうした現象は1995年の「地下鉄サリン事件」直後の数か月間に見た覚えがあると思う。例えばここ数日、アメリカからの情報で「9月22日に第二のテロがある」といった話が流れている。今のところなにも起きてないが、地下鉄サリン事件の直後にも「○月○日に新宿でテロがある」という噂が広がり、デパートが休店したという事態を思い起こさせた。「教祖」の行方についてあれやこれや噂が飛び交っているあたりも似ているかもしれない。そういえば直接的な事件への関与を示す証拠がなかなか見つけにくいところも似ているような。

 アメリカがこの事件で大騒ぎなのは当たり前だが、日本でもやはり大騒ぎだった。ただ、その騒ぎっぷりを見ていると、やっぱりどこか「他人事」であり「野次馬根性」なんだよね。もちろん僕も含めてそうなので自戒と共に書いているのだが、かなり目に付くのがスポーツ新聞、週刊誌を中心とする売らんかなジャーナリズム。この手のメディアはもともとそうだから今さら目くじらたてることもないと思うところもあるが、ここ二週間ほどの見出しなど見ていると「客引き」のために過激さを競って、さすがに眉をひそめたくなるものも少なくない。
 スポーツ新聞、夕刊タブロイドの類は連日のようにこの事件を報じているが(少なくとも事件後一週間はスポーツ新聞の一面にスポーツ記事が載っていなかった)、「明日にも開戦」「報復攻撃」「日本国内でもテロ」などなど、派手な見出しを打ち続けている。中には完璧に誤報だった見出しも多々ある(まぁこれもいつもそうだが)。この手の突発大事件ではどうしても遅れをとる週刊誌は「TV・新聞か書かないスクープ」などとそろって銘打ち、怪しげかつ過激な話を書きたてている。「第三次世界大戦」「核兵器使用」など見出しでひきつけようという意図が見え見えなのも多い。で、その多くがテロの悲惨さを書き立てつつ「さあ戦争やれやれ」って姿勢が多く目に付くのだ(全てとは言わないが多数派にはみえる)。なんか戦争が始まる事にわくわくしているんと違うか、って思える記事が多い。実際開戦ともなれば売れるしな、こういう商品は。このあたりも所詮他人事だということか。
 ある女性週刊誌の広告でひどかったのが「破廉恥!○○党○○議員『ざまーみろ』」
って大見出し。この一件、僕も事前にネット上で話に聞いていたのだが、正確にはこの女性国会議員が自分のHPで「ざまーみろって思っている国もあるはずと思いませんか?」と書き、アメリカによる報復とそれに日本が単純についていってしまうことに懸念を示した文章だったのだ。この文に対し抗議が殺到したらしくHP上にお詫びを掲載したそうだが、これに抗議した人って単に文章読解力がないだけではなかろうか。だって事実関係は少なくとも間違ってはいない(あえて言えば表現を工夫して、「国」ではなく「人々」とすべきだが)。この騒ぎはあの「産経抄」でも書いていたが、少なくとも引用を「ざまーみろ」では切っていなかった(もっともこの産経抄、「真珠湾」の例えが気に障るらしく、「それじゃあこの事件はアメリカの陰謀ってことになっちゃうじゃないか」とばかりに吠えていた)。この女性週刊誌の見出しにはそれこそ「破廉恥!」と呼んでいいと思う。こういう情報操作がドサクサに紛れて行われているのが怖い。なんだかアメリカの行為を批判するとそのまま「テロ支持者」にされかねない空気が、なぜか日本で流れているのだ。
 「核兵器使用!」とある日のスポーツ新聞やタブロイド紙がなぜかそろいもそろって一斉に見出しを打った日がある。恐らく過激見出しの行き着く先として偶然そろってしまったんじゃないかと思うが(共通の元ネタがあった可能性も無くは無いけど)、これについてアメリカの政府高官に質問が飛んでしまったんだから恐ろしい。9月21日にBBCがパウエル国務長官に、フォックスTVがラムズフェルド国防長官にインタビューし、それぞれその中で「核兵器は使用しない」ことを明言した。中でもラムズフェルド国防長官へのインタビューでは「核兵器使用」の質問の元ネタが「日本の一部報道」であったことが明かされていた。TVや大手新聞でその手の報道は見たことがなかったから、どうもこれはスポーツ紙か週刊誌系の報道が元ネタであったようだ。被爆国として恥ずかしい限り。

 こうした騒ぎと並行して、日本の「貢献」問題がまたぞろ浮上してきた。湾岸戦争の時にも議論された、アメリカ軍への協力のために自衛隊の派遣をすべきか否かの議論だ。結論から言えば自衛隊は初めてアメリカ軍の「後方支援」のために出動することがほぼ決定した。日本の「海軍」が艦隊組んで外洋へ出かけるなんていつ以来のことであろーか。
 
 テロ事件発生、そしてアメリカ政府が「報復」の軍事行動を明白に示唆し始めたあたりから、日本政府も何ができるのか検討に入った。今度のテロ事件には世界的にショックが広がり、NATO(北大西洋条約機構)が創設以来始めての「集団的自衛権の行使」つまり加盟国一国が攻撃されたら全加盟国で敵に反撃するというアレを適用して軍事行動を起こすこともありうる、との発言をしていて、一応アメリカの「同盟国」である日本も「どうする?」という話になったのだ(それにしてもNATOって結成当初の意図と違って冷戦終結後からやたらに戦争しているような… )。そういえば誰もがその存在を忘れかけていた「ANZUS(=オーストラリア・ニュージーランド、USA)相互安全保障条約」なんてものまで引っ張り出してオーストラリアまでが「集団的自衛権」の発動を決定したのには驚いたが。このテロとの戦いに関してはどこの国の政府も支持、連帯を表明しているわけだが、「集団的自衛権」というこれまでの国家間戦争を想定した枠組みをそこに持ち込むというのには「?」マークが浮かんでしまうところ。しかも今まで国家間戦争ではほとんど適用されたことが無いようなものがこういうことで大声で叫ばれるようになるとは… 分からんもんである。
 
 さて、日本政府の見せた動きをまとめていこう。
 14日の段階で小泉純一郎首相は「アメリカの姿勢を支持し、日本としての援助・助力は惜しまない」としつつも「武力行使は憲法で制約されている。NATO諸国とは国情が違う」として慎重な検討を行うと発言している。自民党の山崎拓幹事長も同日に「日本は米国と同盟関係にあるから本来、米国と一緒に攻撃することになるのだろうが、日本の憲法上、自衛隊の海外派遣はできない」と発言、派遣するにしても解釈改憲の形はとらずに堂々と憲法改正をして行うべきとの姿勢を示した。
 しかし対応は急を要する、とのことで着々と「自衛隊派遣」の方向が決まっていく。こうした動きの大きな動機に「湾岸戦争のときに金だけだして評価してもらえなかった」という政治家たちの思いが強くあると言われる。評価はされずとも渋くカッコつけていく美学も日本にはあるぜ、などとツッコミを入れてしまうのだが、日本人ってのはまた人目を極端に気にする民族性もありますからな。さらにそこへアメリカからの強力な支援要請が追い打ちをかけた。あのごつい体とスキンヘッドが印象的な、以前から日米同盟強化論者で知られるアーミテージ国務副長官が「日本の旗が見たい」との強い意思表示があったそうだ。これがまた直接的な表現は絶対にしないんだよな。「憲法の制約で難しいことは分かっている」と言いつつ具体的な要求は示さず「決めるのはあなたです」と言ってくる。いやー、こういうのが一番怖いんだよな。ベーカー駐日大使も「カネは要りません」として暗に人的支援を求めていた。
 こういう圧力を感じて日本政府は早急な対応を迫られた。憲法論議になると論議の長期化が予想され、アメリカから何を言われるか分からないし決まったころには全て片付いている可能性もある。そこでまずすでに成立している法律である「周辺事態法」の適用が出来ないもんかとまず考えた。これは小渕恵三内閣の時に成立した米軍協力法で、日本の安全をおびやかす「周辺事態」が起こったとき、戦う米軍の後方で自衛隊が支援するという内容のものだ。これを今回の事態に臨時に適用できないかということになったのだが、アフガニスタンだ、インド洋だなんてことはさすがに「周辺」には想定されていない。そもそもこの法律がアメリカの極東政策の片棒を担ぐ狙いで作ったもんだもんな。
 そこでこの事態に限った「時限立法」という手段が考え出された。この全世界が敵視するテロ事件に限り、これを撲滅せんとするアメリカ軍に対する自衛隊の支援を可能にする特別法をつくろうというアイデアだ。これならばアメリカを中心とする世界に対しても顔向けが出来るし、自衛隊の活動地域を無闇に広げることに対する批判も押さえられるという考えもあるだろう。もっとも「時限」といっても「テロを撲滅する長い戦い」ってやつがいつまで続く戦いなのか、親分さんが何も言ってくれませんが。また米軍(あるいは多国籍軍)の後方支援の内容についても武器弾薬を運ぶのはアリなのかという議論もある。このへん曖昧さを残しているが、武器にせよ食料にせよ医療にせよ、戦争に必要なものを供給するって点では同じって気もする。
 また、これと並行して自衛隊法を改正し、米軍基地など重要施設に対するテロ攻撃に警戒するため自衛隊が基地警備にあたれるようにするとの動きも出てきている。ちょっと面白かったのがこの動きに対し、警察方面からの横やりが入ったことだ。テロの対象にされるかもしれない、もともと軍事施設である米軍基地の警備はまぁ良いとして、「重要施設」をなんでもかんでも自衛隊が警備するというのはいかがなものか、という趣旨のことを田中節夫警察庁長官が定例会見で発言していた。自衛隊は侵略者に対する「防衛」のために存在している組織であるが、国内の治安を守るのは警察であるという警察組織側の自負もあるだろう。聞いた話だが、どこの国でも時代を問わず警察と軍隊ってのは仲が悪いと言われる。そんなことをちょっと連想する。
 山崎自民党幹事長が22日に講演したところによれば、その前日に行われた自民党総裁経験者たちと小泉首相の会談でこの問題が話し合われたという。その結果、「警備対象から皇居、国会、首相官邸ははずさざるを得ない」との結論に達したそうで。中曽根康弘元首相だけはこれらの施設の自衛隊警備に賛成したそうだが(まぁそうだろうな)、他の参加者からは反対意見が多く出たという。しかしいずれにしても警察と自衛隊の役割分担が曖昧であることには変わりなく、なんでもかんでも自衛隊を動員すれば安全、みたいな発想も安易だ。そういえば都知事の「震災時の三国人の騒擾」の鎮圧に自衛隊を動員するというアイデアも中曽根さんの入れ知恵だったっけな。

 この22日にアメリカ海軍の空母キティホークが横須賀を出港、自衛隊の護衛艦がこれの周囲に同行して海上まで見送った。演習を別にすれば日本の自衛隊が米軍と共同行動を行った最初のケースであるという。もちろん表向きは「米軍の護衛」などとはされておらず、あくまで
所掌事務の遂行に必要な調査及び研究」(防衛庁設置法5条18項)を目的とする行動とされている。それでも中谷元防衛庁長官はTV番組で「米空母はテロから狙われていて何かある可能性がある。万が一そういう事態になったら日本の平和と安全に影響を及ぼすので、一緒に行った」と「護衛」だったことを素直に認めていた。
  
 まもなく臨時国会が召集される。当初機密費問題だとか構造改革だとかが中心議題になるはずだったが、いきなり「戦争協力」に関する議論の場となっちまいそうだ。



◆乱暴・怒りのアフガン?


 そういえば昨日やってた芸能人総出演のチャリティー番組でスタローンも画面に映ってたっけ。
 で、またさらに「アメリカで発生した同時多発テロ」関連の話題だ。うーん、とりあえずこの事件についてもう少しスッキリした名称を誰か考えないものか。

 名称、といえばアメリカのつける軍事作戦名には驚かされた。国土防衛の作戦名が「高貴なる鷲」。さらにテロ組織に対する軍事作戦名が「無限の正義」ときたもんだ。湾岸戦争の時の「砂漠の嵐」(当初は「砂漠の楯」の予定だったという)はまだ詩的なムードが漂っていたが、今回出てきたこの二つはハタから見ているとちょいと鼻白む思いがする。怒っているのはわかるのだが、どこか自己陶酔めいたものも感じてしまうのだ。志願兵もいきなり1.5倍に増えたなんて話も聞いたしなぁ。あ、なお「無限の正義」についてはイスラム教徒から「絶対的な正義を決められるのは、アラーのみだ!」との批判があり、ラムズフェルド国防長官も考慮して変更もありうるとの発言をしていた。ブッシュ政権が常にイスラム教徒に対して配慮しているのは確かなのだが、16日にも「十字軍」という表現をブッシュ大統領が口にして批判をくらい、あわてて弁解するなんて一幕もあった。まぁだいたいこの人、選挙中から失言の常習者でしたから。「ビン=ラディンのアスホール」とか密かに言っているのであろうか。
 「真珠湾」の時のルーズベルト、「ケネディ暗殺」のときのジョンソンも行ったという、ブッシュ大統領の議会演説もやや気になるところもある。「我々につくか、テロ側につくかだ」という二者択一的な選択を全世界に向けて発信しているような箇所があるのだ。「テロ側につく」と明言できる奴はそうはいないだろうけど(いるにはいるんだろうが)、そうでなけりゃアメリカに全面的に味方せい、ってのはかなり傲慢という印象を免れない。それと「テロを撲滅する長い戦い」に入るそうだが、それって「麻薬撲滅戦争」並みに難しいよな、と思うところ。いったい何をどのようにやるのか、はたまたその戦いに終着点はあるのか知りたいのに分からない点は多々ある。

 とりあえずアメリカはオサマ=ビン=ラディン氏の組織が関与していると断定、これをかくまっていると「される」アフガニスタンのタリバーン政権に向けて軍事行動を起こすことに焦点を絞っている。この過程をずっと見ていたが、アメリカ政府の「情報操作」はかなり計算されて行われてるな、と感じたものだ。いやもちろんビン=ラディン氏が主犯でないと言いたいわけではない。僕も本音のところは事件直後からその線が一番怪しいとは思っている。ただアメリカ政府が実に巧妙に「ウサマ=ビン=ラディンが関与している」→ 「そしてそれをかくまっているのはタリバーン」→ 「タリバーンを倒すためにアフガニスタンに軍事行動を起こすのは当然」という「情報上の既成事実」を着実に積み上げていったことに、半ば感心しているのだ。ふりかえってみると、「ラディン氏の組織との関与を示す確実な証拠がある」と言い続けているだけで二週間近くたった今でもそれに変化が無い(それどころか多くの誤認逮捕もあったし、確実と報じられた情報でいくつか疑問視されているものも出てきている。例えば「アラビア語の操縦マニュアル」)。身柄の引渡しを要求されたタリバーン政権が「明白な証拠を示せ」と言うと、「テロ組織に有利になるから明かせない」と回答している。アメリカの報道で「軍事作戦実行直前に示されるのでは」との観測も流れていたそうだが、ここまでの経緯を見る限り状況証拠しかないようにしか見えない。その中で「合法的」に報復を行うためにずいぶん計算された「情報操作」を行ったことは確かだろう。
 最初は「… という見方もある」あたりから始まり、閣僚クラスや上院議員からチラチラとビン=ラディン氏の名前が出る。そしてやがて大統領の口からその名が出て、「犯人」といつしか断定して語られる。そしてその「犯人」をかくまったものも同罪との発言が出て、タリバーンの名が出て… 思い起こせば実に順序良くステップを踏んだ発言が行われていったことがわかる。ついには「WANTED! DEAD OR ALIVE」などと西部劇セリフを大統領が言い出し、総仕上げとして議会演説での事実上の宣戦布告宣言。どの段階で計算したのか、実に良く出来た展開だったと思う。ふと気がつくとかなり足元が怪しいところに乗っかった「計算」なんですがね。こういう政治的計算はアメリカ政界って実にうまいよな、と感心したところもある。このステップをさらに進めるとイランやイラクの攻撃も可能になるのだが(実際、一時名前が取りざたされた。北朝鮮の名前すら出てアメリカの指定する「ならず者」勢ぞろいの観があった)、これについてはさすがに世界の反発を招くと考えてブッシュ政権は踏みとどまったようだ。少なくともイランに関しては方針を転換したらしく、国交断絶国にも関わらずアフガン包囲のために妙に親しい態度をとり始めている。

 計算、といえばやりすぎてしまうこともある。一気に「気分はもう戦争」って盛り上がった週末に、急にブッシュ大統領以下の発言が「平常に戻れ」と妙にトーンダウンした時期がある。そしてその時期にヘリから降りてきたブッシュ夫妻が二匹の子犬を連れて現れる映像がTVで流された。「この非常時に!」と視聴者から批判が上がり、ブッシュ政権は慌ててこれが「演出」だったことを明かした。「テロ事件に負けることなく、日常の生活に戻ろう」という国民に向けての大統領自らの「演技」だったのだ。実際、アメリカってこの手の安っぽい演出術の話はよく聞く。
 この週末に妙に「平常に戻れ」アピールが行われたのは、週明けに再開される株式市場への影響を考えてのことだった。それでなくても景気後退が明らかになっていたアメリカ経済に、ここで事件のショックによる株暴落でも起きてはたまったものではない。全世界株安、世界恐慌って事態だって考えられる。ブッシュ政権としては「戦争」もさることながら「経済」のほうも心配しなければならなかったのだ。アメリカ国内でも株をさげまいと「愛国心」にアピールして「株を売るな」運動も行われたとか聞いている。
 にもかかわらず週明けに再開されたNYの株式市場は予想通り一気に下がった。ダウ平均株価は史上最大の下げ幅を記録した。それでも最悪の予想よりは下がらなかったということで「アメリカの愛国心が踏みとどまらせた」などという声もあったが(そうそう、「産経抄」がまさにそうだった)、その後も株価はジリジリと値を下げている。このままホントに世界恐慌なんてことになるとテロリストの思う壺なわけで、どうにかならんもんかとは僕も思うのだが。
 
 さてアメリカからはちょっと離れて。
 世界の注目は仏像破壊の時をはるかに上回る関心度でアフガニスタンに向けられている。アフガニスタンの9割を実効支配するタリバーン政権は関係の深いパキスタン政府を通したアメリカの「ビン=ラディンを引き渡せ」要求を、いろいろ悩んだ末だとは思うが結局拒否している。別にタリバーンたちがテロを支持しているわけではないのだが(なんかアメリカ経由の報道を見ているとテロをやったのがタリバーンに見えてきてしまうのだが)、重要な「客人」として来ているビン=ラディン氏をムザムザと証拠もないのに引き渡すことは出来ない、というのは建前論としては分からないでもない。またアメリカにではなく「イスラム法廷」に引き渡す形にしたいという意見も法的には理解出来る(暗殺もアリにしようとしているアメリカ政府よりは理性的判断に思えるんだけど)。それでもアメリカを敵に回しては「政権」としてはとてもかなわないから、とりあえずビン=ラディン氏に「国外退去」を命じる判断を下している。もちろんこれにアメリカが満足するはずもなく軍事行動を起こすのは時間の問題となってきている。
 報じられているところによると、すでにアメリカの特殊部隊が「アフガン周辺国」に入り込んでおり、イギリスも反タリバーン勢力である「北部同盟」の支配地域に特殊部隊を送り込んでいるとの情報もある。そういえばここってイギリスの元保護国なんだよな。
 アメリカとしてはとにかくビン=ラディン氏本人の身柄確保、組織の壊滅を主目的にするだろうから、いきなり大規模空爆よりも特殊部隊の派遣という作戦を取る気らしい(無闇な空爆はしたらしたで批判が出る可能性も高いし)。そしてタリバーン政権自体も「ついで」に葬り去る意図も感じられるのだが、タリバーンに代わってアフガニスタンを「制圧」を正当化するために「錦の御旗」の用意も検討している様だ。「北部同盟」なんかを支援するのもその一つだが、面白いことに「元国王」を引っ張り出すことも考えているらしい。1973年のクーデターで王位を追われたザヒル=シャー元国王(86)をたてて新政権を作らせようというアイデアだ。実際、今回のテロ事件を受けてローマに亡命中のこの元国王、「アフガニスタンの元首を選出するための緊急議会の召集と暫定政権の設立」を呼びかけている。実に約30年ぶりの王制復古計画。

 そうそう、この騒動の最中一方で成り行きを注目していたパレスチナ紛争だが、ひとまず「停戦」が成立した(らしい。少なくともこの文書いている時点では)。テロ事件を受けてアメリカ政府が強力に圧力をかけたらしく(今まで放っておいたくせに)、アラファト議長が強い停戦令を出し、イスラエル軍もとりあえず完全自治区に侵入していた戦車部隊を撤退させた。これだけの事が起こるとさすがの過激派もテロを起こしにくいというところはあるらしい。あの自爆テロの「ハマス」も気にはしているらしく「自爆テロを停止する用意がある」との発表をしている(それでやめられるんなら最初からやるな!)。これでこのまま治まればいいんだけど。
 なお、世論調査会社ギャラップが21日に発表した調査結果によると、「武力行使」に賛成する意見が半数を超えた国はアメリカ本国は当然ながらもう一つイスラエルがあったという。31カ国で調査をおこなったそうだが(どこの国かは分からなかった。日本は入っていないとのこと)、この2カ国以外の国では武力行使に慎重な意見が多いということだ。


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