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2002年2月5日

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 ◆今週の記事

◆ガイショウではすまなかった?

 「ガイショウが ジュウショウになる 治療ミス」

 前回アフガニスタン復興支援会議へのNGOの参加拒否問題にからむ田中真紀子外相(当時)と外務省、鈴木宗男議員の噴飯モノの騒動を書いておいた。それが思わぬ(実のところここまで行くとは思ってなかった)急展開・大発展を見せ、「田中外相更迭」という事態にまでなってしまったわけだ。この件については先週一週間、怒涛のように各マスコミをにぎわせているので、ひねくれ者の「史点」筆者としては今さらこの一件の経過を通りいっぺんに書いてもつまらんなと思うところなのだけど、まぁ簡単に。

 まずこの一件だが先週も書いたように、外交には公的には部外者のはずの族議員の横やり(それもかなり低品位の)に外務省官僚が言いなりになって、監督者である外務大臣に一言の相談もなく重要なNGOの会議参加を邪魔し、それが公けになって騒ぎが大きくなると慌てて参加を認め、それでいて一切の謝罪も弁解もなかったという、かなりみっともないお話が発端になっている。わかりにくい政治の話には無頓着な大半の国民にもかなりわかりやすい構図であったことがその後の世論調査の結果にも表れているように思う。それと時代劇の悪役みたいなキャラクターがハッキリいたことも大きいでしょうな(笑)。こんなこと書くと「お前、何書いてるんだ!」と某鈴木議員から直メールが来たりするのかもしれないが。これがあまり冗談になってないところが恐ろしいんだけどね。

 この問題は国会で取り上げられ、田中外務大臣と野上義二事務次官の発言がまったく食い違うという摩訶不思議なことになり、国会の審議がストップするほどの事態になった。ハタからみているとあれほど分かりやすい話が、永田町業界では「誰が本当のことを言ってるのか」と揉めるという、これはこれで摩訶不思議な騒動になってしまう。田中外相が仇敵である野上次官をクビにするためにある種の「誇張」をしたフシがあることは否定できないが、政府与党がまとめた「特定の議員による圧力はなかった」という公式見解に納得する人は普通いないだろう。いや、今でも某鈴木議員は「わたしは一切何もやっていない、証拠があるなら見せろ」と脅迫じみた反論をしてるんだけどね。
 1月29日に急転直下、「三者更迭」という決断にいたった経緯について、読売新聞が『「外相メモはうそ」で首相急転… 電撃更迭の背景』という見出しの記事で記している。官房副長官らによる外務省幹部への聞き取り調査の結果、「野上次官が鈴木宗男議員がNGO拒否に関与していたと勉強会で明言した」という田中外相の証言について出席していた外務省幹部の全員が「なかった」と答え、「田中外相の説明は、時間が逆さまだったり、走り書きのメモはうそだらけだった」と回答したため、「これでは国会を乗り切れない」と判断した小泉首相が「三者更迭」を決断した、という内容。見出しだけみるとなんとなく田中外相がウソついたことが更迭の原因みたいにとれるんだけど、よく読むと「外相がウソをついている」という外務官僚側の主張をまるで無批判にそのまんま受け入れちゃっただけのようにみえるんだが。これまでの経緯でも田中外相の「騒動」とされるものの大半が外務官僚側からマスコミに意図的にリークされたとしか思えないものが多かったことを思い返せば、これがかなり意図的な回答であることに思い至るべきだろう。田中前外相が「国会議員の言う事を信じないで役人の言う事は信じるのか」と涙していたが、なるほど、これがそういうことかと良く分かる。
 もちろん、小泉首相自身はどこの誰がウソをついていて、誰が悪役回りに配置されているか(「視聴者」である国民の目からね)は重々承知だったと思う。これまででも何度か「更迭論」が持ち上がったもののあくまでかばいだてしてきたのも、単純な外相への同情論ではなく、外務官僚や一部議員の「陰謀」とも思えるリークが見えていたからだと思える。だが、今回ので決定的になった外務省側の姿勢、および自民党内の橋本派に代表される反田中勢力の勢いに、「これでは国会が乗り切れない」と判断したものと思われる(「読売」の記事もそこまで読めば正確なのだ)。「野上のみ斬る」という意見もあるにはあったようだが、それでは自民党内がおさまらなかっただろう。それで急遽「真紀子斬り」を実行することにしたのだ。

 だが、その判断においてかなりの誤算があったように思える。これまで特に男性マスコミを中心ににぎわっていた「真紀子たたき」ムード、複数の大新聞がそろって(外務省側のリークに従って)流した「資質」をめぐる懸念表明、ワイドショーレベルでの「真紀子人気」の低下傾向などをみて(まぁ単純にリークばかりでなく田中外相のやり方にいささか短絡かつ不注意な言動があったことは否定できない)、「真紀子斬り」は一部の反発は買うものの一部の歓迎も買うからさして影響はないと判断していたフシがある。これが結果からみれば大誤算だった。というか、よく判断すれば先述のように「視聴者」である国民が誰を悪玉、誰を善玉と判断してこの騒動をみているか分かったはずなのだが… 。
 国民の多くは将軍が下々の世界に下りてきて自ら刀を振るって悪人を斬る「暴れん坊将軍」みたいな、一種の勧善懲悪時代劇として「小泉改革」を眺めていたのだ。「真紀子たたき」なんてのは「必ず入浴シーンを見せる水戸黄門の由美かおる」にツッコミを入れてるようなもんだったのだと僕なんかは思っている。ツッコミいれつつ楽しんでるんだよな(笑。なお僕は石坂浩二の黄門は未見である)
 「三方一両損」という全員更迭は一見ケンカ両成敗に見えるが、野上前次官をはじめとする外務省幹部は今後も外務省にいるわけだし、鈴木宗男議員だって議院運営委員長というポストを失うだけで(もちろんご本人には無念きわまりない美味しいポストだったのだが)今後もあの調子で外務省に影響を残し続けるのは確実だ(だって鈴木議員の一言で予算が取れるんだぜ)。要するに「田中真紀子」が外交の現場から追放されたということに過ぎない。これが「小泉時代劇」の視聴者である国民には「不公平なお裁き」と映っちゃったわけである。いや真面目な話、「まるで忠臣蔵だ」という声がTVでも紹介されていた。そのうち討ち入りでもあるんでしょうか。

 なんだか変な文章になって来たが、視聴者の期待に違うようなことをすれば視聴率は下がる。悲しいかな、小泉改革の支持なんてそんなもんだったんだと言う事も出来る。ともあれ、小泉プロデューサーは視聴者の嗜好を見誤った。
 慌てて後任人事に最近トップスターとして注目が集まってきた女優・緒方貞子さんに由美かおるの、もとい田中真紀子の後釜を打診する。それで視聴者ばなれを食い止めようとしたが、そもそも以前緒方さんにオファーして断られ田中外相でいくと決まったという経緯もあり、かなり馬鹿にした話だと僕などは思った。そしたら緒方さんはアッサリと拒否(そう報じられてはいないが、僕にはどうもそうだったとしか思えない)。「私は日本の三文TVドラマじゃなくて世界のブロードウェーで踊るのよ」と言われたようなもんですな。一時「脈あり」と見て名前を出してしまったプロデューサーたちは青い顔。やむなくドラマで脇役をつとめていた他の女優さんを後釜に配置という応急措置をとったわけだ。あのポストはたぶん「女優」じゃなきゃいけなかったんでしょう。毎回入浴シーンがありますから、って私もしつこいですねぇ(笑)。でもこうやって例えると良く分かるでしょ。

 「小泉時代劇」としては視聴率挽回のため「さらに派手な殺陣アクション」(「抵抗勢力」とのチャンバラ)だの「新女優の華麗なる入浴シーン」(しつこい)を見せまくろうと必死になることでございましょう。「大臣交代」の前例を作っちゃったことで内閣改造論者が勢いを増すでしょうし、高支持率のうちに絶対やろうとしていたとしか思えない消費税アップの目論見も危なくなるなどいろいろ前途多難ですが、時代劇ファンの一人として健闘を祈ります(笑)。

 「田中ふる 緒方も聞かず 大臣の ラベルはりかえ たかくくるとは」
(元歌は「千早ぶる神代もきかず竜田川からくれないに水くるるとは」。なんか山藤章二さんの「パロディ百人一首」みたいになってきました(笑))

 


◆二つの「百周年」

 ちょうど100年前の1902年1月23日、八甲田山での雪中行軍演習に出発した青森歩兵第五連隊は、山中で猛吹雪に襲われて道に迷い、199名の凍死者を出すという大惨事を招いてしまった。この事件は新田次郎の小説「八甲田山・死の彷徨」、そして高倉健北大路欣也主演、橋本忍脚本・森谷司郎監督の大ヒット映画「八甲田山」などで余りにも有名だ。この映画のほうを僕は見ているが、あれほど本当の意味で「怖いほど寒くなる」映画にはお目にかかったことがない。この映画では北大路欣也率いる青森連隊は大人数で強行突破をしたため壊滅し(映画では三國連太郎の上官が功名心から作戦を誤らせたことになっている)、高倉健率いる弘前連隊は少人数の完全装備、しかも現地のガイド付きで無理せず行軍したため全員無事で帰還する。しかしラストに字幕でこの高倉健の演じる大尉ものちに日露戦争で満州の地で戦死したことが語られ、なんともやりきれない思いも残る映画だ。
 この映画の冒頭に「日露の戦争はもはや時間の問題」と連隊長たちが話し合うシーンがある。この八甲田の雪中行軍演習は間近に迫った日露戦争で予想される極寒の満州での行軍を想定した訓練だったのだ。この人為ミスの要素も大きい大惨事が多少なりとも日露戦争で生かされているかどうかは僕はよく知らない。
 去る2002年1月23日、八甲田山の惨事百周年の節目の追悼行事が、関係者や自衛隊(青森駐屯地第五普通科連隊)などにより青森市内の旧陸軍墓地「幸畑墓苑」で営まれた。新聞記事によると「行軍の計画者で遭難した神成文吉大尉の遺族」なる方が「計画立案者の遺族ということで、亡くなった方に申し訳ないとの思いが今もある。今もこのような慰霊祭を催してもらい感謝している」とコメントされていたが、恐らく映画で出てきた神田大尉(北大路欣也演じる)のモデルとなった人のご子孫なのだろう。

 さて、実は上記のネタは日付からも分かるようにホントは前回のネタ候補で、結局ボツにしたものだ。それがなんでまた今回復活しているのかと言うともう一つ密接に絡んだ「百周年」があったからである。

 日露戦争勃発の2年前、1902年の1月30日に日本は対ロシアの利害が一致していたイギリスと軍事同盟を結んだ。いわゆる「日英同盟」である。読売新聞のロンドン発の記事でこの「日英同盟百周年」の話題がとりあげられていたが、「歴史好き」といわれるイギリス人もあまりこの同盟には関心が無いようで、ロンドンの英日友好団体が30日に夕食会を開催し2月にフォーラムを企画している程度だ、という内容だった。イギリス日曜紙の記者のコメントとして「百年前の同盟には読者の関心がわかない」という言葉が引用されていたが、「極東アジアの果ての島国との同盟なんて知らねーな。そんなのあったの?」ってあたりがイギリス人の本音じゃなかろうかなどと思うところも。
 それまでのイギリスは世界最大・最強の大国として帝国主義時代のトップランナーだった。トップランナーたるもの、他人の手助けはいらねえ、ってことで「栄光ある孤立」などと言われる外交政策を進めていた。しかしロシアの南下がイギリスの極東における地位をおびやかしかねないとなると、極東で軍事力をつけつつあった日本と同盟を結び、ロシアを牽制させようと考えた。ロシアと戦うために強力な後ろだてを欲していた日本とこれで利害が一致し、「同盟」という形で協力関係を結ぶことになったわけである。日本人はあんまりそういう感覚を持っていないようだが、当時の政治風刺漫画なんかみるとイギリスが日本をけしかけてロシアに対する「鉄砲玉」の役割をさせたように描かれていて、欧米諸国では日露戦争がそんな風に見られていたことをうかがわせている。

 そんなわけでイギリスはあまり直接的な軍事協力を日本にしたわけではない、というのが今までの通説だったらしい。しかしこの記事によると最近研究者の間では日英同盟に関する再検証がいくつか見られるらしく、昨年にはイギリス軍が日本軍に最新鋭の無線電信の技術供与が行われ、これが日本軍を勝利に導いたのだとする研究発表があったりしたそうだ。そんなこと言われると日露戦争の勝利を日本人の優秀性の根拠にしている人たちは困っちゃったりしないだろうか(笑)。
 日露戦争が終わり、英露の関係が対ドイツの同盟関係に転化すると日英同盟の意味は一気に低下した。その後第一次世界大戦が勃発すると日本はこの同盟を根拠として参戦、山東半島のドイツ勢力圏を攻撃してこれを分捕ってしまう。「鉄砲玉」が勝手に極東で縄張りを広げ始めたことをイギリスは懸念し、大戦終結後、日英同盟を解消することになる。その後は「太平洋戦争」で全面対決へと向かうわけですな。イギリスにしてみりゃ「飼い犬に手を噛まれた」って程度の感覚だったかもしれない。



◆「悪の枢軸」

 選挙中から「アスホール発言」で物議をかもし、本番の選挙では前代未聞の大接戦+大混乱を演じ、大統領になってからは一国独走主義を展開、なぜか史上最悪の多発テロに見舞われ、アメフトTV観戦中にプレッツェルを喉につまらせて気絶するなど、すでに歴史に残る大統領としての地位を着々と固めつつある(爆)ブッシュ大統領だが、先日の一般教書演説も凄かった。よその国つかまえて「悪の枢軸」ですぜ。そりゃまあ以前から「ならず者国家」呼ばわりを勝手にしていたし、それぞれの国が政治的にいささか問題がある国なのも否定しないが、「大量破壊兵器を持っている」「テロを支援している」といったことはご自分の国にもけっこうあてはまっていたりするのだが。
 今回「悪の枢軸」よばわりされたのは、イラン・イラク・北朝鮮の三国。よく「ならず者国家」として名指しされることもあるリビアやスーダンなんかは入ってなかったな。「三国」って枠にこだわった可能性もある。「枢軸」という表現があの第二次世界大戦におけるアメリカを中心とする連合国側の敵、ドイツとイタリア、そして日本の「枢軸国」三国を念頭においているのは明らかだからだ(国連憲章だって「旧敵国」って言ってるしな)。あのテロ事件で「パールハーバー」の例えがさかんにとなえられ、今度は「枢軸」と来たもんで、少しは日本の自称民族派あたりが反発してもよさそうなものだが、なぜかこういう人に限ってアメリカ盲従姿勢なんだから不思議なもんである。ブッシュ大統領は後日「各国も我々の側につく必要がある」と勝手に協力強制ともとれる発言をしているが、実際日本って「EUよりはおりこうさん」と思われてるらしいぞ、ブッシュ政権周辺じゃ。

 以前、レーガン大統領がソ連を「悪の帝国」よばわりしてSDI計画など軍拡を推し進めた故事もある。まぁそのレーガンの時代にソ連にゴルバチョフが登場して冷戦構造が終わっていくことになっちゃうわけだけど。今回のブッシュ演説はそれをふまえたものなのだろう。過去二十年間で最大の軍事費増大予算を組んでいるあたり、それを正当化する「仮想敵」としてソ連亡き今「悪の枢軸三国」というフレーズを考え付いた、まあそういうところでしょうな。ラムズフェルド国防長官も前後して「数年内に同時多発テロを越える米本土への大規模な奇襲攻撃が確実にある」と発言し、その可能性のあるところには先制攻撃も辞さないという物騒なことを言っている(その前にアメリカ本土がなぜ攻撃されるのか説明しなさい)。「枢軸」の三国に数えられた北朝鮮をそばにかかえている韓国や日本にしてみれば「あんた、自分は離れているからって軽々しいことを… 」などと愚痴りたくもなるところ。実際、韓国政府はアメリカのパウエル国務長官に接触して「真意」を確認している。しかしアメリカ政府の公式回答は「アメリカは金大中政権の『太陽政策』を支持する事に変わりはない」というどうしてあの演説と両立可能なのか首をかしげる内容だった。
 半分くらい希望的観測を言えば、ブッシュさんもラムズフェルドさんもそれほど本気で言っているつもりはないのだろう。多分にデモンストレーション性が濃い「アジ演説」であって、特にアメリカ国民に「今は戦時だぞ〜俺についてこい。非常時に文句を言うんじゃねえ」というアピールなのだと思われる。例のエンロン疑惑が次第に拡大の様相を呈してきて(「私は無関係」と証言を拒否する政治家たち、謎の自殺を遂げる企業幹部、とまぁ日本でもよく見かける疑獄事件パターンである)、国民意識調査でも「共和党がかなり絡んでいる」と国民が見ているという結果が出たため、「戦時」をやたら強調する作戦に出たものと思われる。クリントン前政権だって例の不倫スキャンダルもみ消しのためにミサイル攻撃ぐらいはやっちゃったしな。アメリカの政治って時々信じられないほど短絡的かつ近視眼的かつ三文芝居的な動きをみせてくれるものだ。

 そんなアメリカの国内事情で「悪の枢軸」よばわりされた方はたまったものではない。以前から「アフガンの次」と言われ続けているイラクはまぁ予想の範囲、北朝鮮もそう扱われるだろうなと思うところではあるが、両国とも「宣戦布告だ!」と猛反発。とりあえず両国ともそうは言いつつ全面対決なんてしたらたまったもんじゃないから国連にアピールする作戦をさぐっているみたい。
 特に気の毒だったのはイランだ。1979年の「イラン・イスラム革命」以来、アメリカとは険悪な関係が続いているこの国だが、強烈な宗教指導者だったホメイニ師が1989年に死去して以後、次第次第に改革の動きが進んできていた。現在のハタミ大統領は保守派の物凄い抵抗を受けつつ国民の多くの支持を受けて改革を推し進めている。アメリカとの関係改善の動きもここ数年みられ、特に昨年のテロ事件、アフガニスタンでの戦争においては、むしろこれを関係改善の絶好の機会ととらえてアメリカに必死にアピールを送っていた。しかし先月、イランの外相が「アメリカに必死にサインを送っているのに無視された」と怒っているのを目にして、どうもアメリカがつれない態度を見せていることがうかがえた。そこへ今度の「悪の枢軸」発言である。NY入り予定だったイラン外相は急遽キャンセル。「演説はごう慢であり、中東の問題から目をそらし、パレスチナ人を抑圧するイスラエルを支え続けるための世論形成を狙っている」とコメントしている。反米主義を唱えるイラン国内の保守派の攻勢が高まるのは必至で、かえってホントに敵に追いやりかねないところだ。ひょっとしてそれも狙っているところなのか、ブッシュさん。
 なお、日本の外相騒動に巻き込まれる形になってしまっていた緒方貞子さんは毎日新聞の取材に対して、「米国があんないらんことを言うから(イランも)いろいろ言う」と暗にブッシュ演説を批判したと伝えられる。こっそりシャレになっているところがオシャレです、緒方さん(笑)。

 事実上「世界の支配者」であるくせにアメリカ大統領を選べるのはアメリカ国民のみ。従ってアメリカ大統領はアメリカの国民、支持母体の目のみを配慮して世界政策をおし進め、他国に迷惑をかけまくる。つくづく思うのだが、アメリカ大統領選に世界各国の国民も投票権を持たせてもらえませんかね。いいですよ、もう日本なんてアメリカの51番目の州だなんて言われてるぐらいなんだから(泣笑)。



◆入り口も見えないパレスチナ

 前回に引き続きパレスチナネタ。というか毎週やってもいいぐらい話題はあるんですがね。書いている方もホントに頭が痛くなる話なんで、本音はもう書きたくないんですが。頼むから書かないで済むような状態をつくってください。

 1月27日。エルサレムの中心部で自爆テロとみられる爆発があり、犯人を含む二人が死亡、五十人が重軽傷を負った。「またか」と思われる話だが(自爆テロが日常茶飯化しているってのも恐ろしい限りであるが)、今回の事件が特に大きな注目を集めたのは、自爆した犯人がパレスチナの女子大生であったという点である。イスラムでは女性のジハード(聖戦)は特に禁じてもいないが、女性の自爆テロというのはさすがに初めてのことだったらしく、世界に衝撃を与えた。もっとも爆弾の輸送担当で、爆弾を運んでいるうちに尋問されたので爆発させた、ってことであるとも伝えられているのだが… 誰が死んでも嫌ですけど、そこまで大変な状況になってるのかと改めて思わされる事件だった。

 1月31日、イスラエルのシャロン首相が新聞のインタビューに答えて「1982年のレバノン侵攻時にアラファトを抹殺しなかったことを後悔している」と発言して物議をかもした。当時、国防相だったシャロン首相は隣国レバノンに侵攻してベイルート市を包囲、PLO(パレスチナ解放機構)を率いていたアラファト議長を市から退去させている。このインタビューによれば当時アメリカとの間で「アラファトを殺さない」という合意があったことが明かされているが、「あのとき殺しておけば」と言っちゃうあたり、さすがノーベル迷惑賞(「史点」勝手授与)受賞者だけのことはある。前回書いたネタだけどそのレバノン侵攻時に難民虐殺に関与した疑いでベルギーの裁判所に訴え起こされてましたよね、あなた。もう何度も書いてるけどさ、そもそも今の事態だってあんたが火をつけたようなもんでしょうが。
 そのシャロン首相だが、「アラファト議長を相手にせず」と宣言したときに「日中戦争時の日本と同じことをするんじゃないか」と予想したとおりの動きを見せている。そう、パレスチナに自分たちの言うことを聞く政権の樹立を目論みだしたのだ。上のインタビューの前日にパレスチナ指導部のトップ3人と極秘に会談していたことがイスラエル放送にすっぱ抜かれ、パレスチナ側もその事実を認めている。興味深いことに現時点ではこの件に関するシャロン首相のコメントはない。

 一方のアラファト議長は現在ヨルダン川西岸ラマラでイスラエル軍に包囲され事実上の軟禁状態。そんな中からニューヨークタイムズに寄稿して「テロ活動の停止」と「共存に向けた和平交渉の再開」の意思を表明している。この中でイスラエルとパレスチナがエルサレムを「共有」するという案が提示されている。前にも持ち上がった意見だが、実のところそうとでもするしかないだろうと思う案ではある。もちろん双方で猛反発する人が多く出るのも必至な案でもあるのだが。
 そうかと思うとこの人らしい現実主義も顔をのぞかせている。パレスチナ難民のイスラエル国内への帰還問題に関して、「ユダヤ人国家であるイスラエルがパレスチナ難民の帰還で人口特性が変化するのを懸念していることは理解している」という趣旨の発言をし、難民をあくまで原則に従ってイスラエル国内の故郷に帰さなくてもいいよ、と匂わせる発言をしているのだ。まぁ、シャロン首相はこの寄稿の提案を完全に一蹴しておりますがね。

 2月5日、ガザ地区南部でPLO反主流派のパレスチナ解放民主戦線(DFLP)の活動家が乗った車が仕掛けられた爆弾で爆発、活動家五人が死亡した。イスラエルの報道でやはりイスラエル軍が関与していたことが明らかとなり、数日中にまた報復テロがあるのは確実の情勢と見られている。アラファト議長は「イスラエルが平穏を望んでいないことを示すものだ。イスラエルはわが強力な人民への攻撃継続を欲している」と非難声明を出したが、確かにこのところ話が落ち着きそうになると「テロ」でブチ壊しているのはいつもイスラエル軍の側に見えるのだが。

 そういう軍に嫌気がさたか、イスラエル軍の予備役の士官クラスに軍務の集団拒否の動きがあることを前回書いたが、前回の50人ちょっとから一週間のうちに147人(4日の時点で)に拒否組が増大したと報じられている。これがさらに拡大の動きを見せているとの報道もあり、今後の展開が注目される。


2002/2/5の記事

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