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2004年5月16日

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◆殿下の宝刀!?

 日本人がみんな知っているようで全然知らないのが日本国および日本国民統合の象徴たる天皇とその一家。試しに先日、僕が「天皇の名前を知っているか」と塾の生徒(中三。ちょうど公民で天皇ネタに触れる時期なのだ)に聞いてみたところ一人も知らなかった。まぁ無理もないのだ。報道でも「天皇陛下」としか言わないもんね。大の大人でもかなり知らないのではないかと思われる。現在の天皇の名前は「明仁(あきひと)」さんといい、皇太子が「徳仁(なるひと)」さんという。皇室の男子の名前に「仁(ひと)」がつくのは平安時代から始まるが、鎌倉時代に皇統が二つに分裂した際、持明院統つまりのちの北朝系の男子は全て「仁」字つきとなった。これに対し大覚寺統つまりのちの南朝系は後醍醐天皇「尊治(たかはる)」に見られるように特にルールは存在しない。だから今の皇室は完全に北朝系の血統・伝統を引き継いでいるわけなのですよね。
 まぁこんなことは皇太子ご本人は当然よく知っていることと思う。なにせこの人、僕と同じく史学科の出身なのだ。しかも皇太子が卒業論文・修士論文のテーマに選んだのは中世瀬戸内海水運。海賊を専門にしている僕とは意外に近いところにいたりするのだ(笑)。僕は大学時代、箱根の某旅館でゼミの合宿をしたことがあるのだが、その某旅館は大学のゼミ合宿には格安にしてくれることで有名で、しかも江戸時代以来の老舗のため展示されている宿帳には西郷隆盛やら木戸孝允やらといった明治の大物が名を連ねたりしてることもあって、史学科関係者の利用が多い。で、そこには学習院大学の史学科某ゼミが合宿した際の記念写真が飾られており、その中央(教授の隣)には皇太子がバッチリ映っていたりしたのだった。

 まぁそんなこんなで個人的によく知るわけではまったくないが、僕個人では皇室の中で割と親近感がある皇太子なのだが、この皇太子が先日、会見での発言で大いに世間を騒がせた。皇室の誰かの発言でこれだけ世間が騒いだというのもかなり珍しい。それこそ「歴史的発言」であったともいえる。
 問題の発言があったのは5月10日のこと。デンマーク皇太子の結婚式への参列などのためヨーロッパへ旅立つことになった皇太子がそれに先立って記者会見を行ったのだが、その中で最近体調を崩して長野で静養したり今回の訪欧にも同行できない皇太子妃・雅子さんについて触れ、「雅子にはこの10年,自分を一生懸命,皇室の環境に適応させようと思いつつ努力してきましたが,私が見るところ,そのことで疲れ切ってしまっているように見えます。それまでの雅子のキャリアや、そのことに基づいた雅子の人格を否定するような動きがあったことも事実ですと発言したのだ(けっこう長い会見全文は宮内庁のホームページで読めますので参照のこと)
 この発言が飛び出したとき、その場にいた皇室担当記者たちが一瞬息を飲み、顔を見合わせた…と伝えられる。そもそも皇室一家というのは「…であることを希望します」という言い方に代表されるように、自身の意思を明確には示さない、あるいは全く自身の意図を表明しないのが普通(むかし見た落語の枕ネタで、人参を食べようとしない幼い浩宮つまり現皇太子に昭和天皇が「人参を食べることを希望します」と発言する、ってのがあった。食べたとたんに皇室一家で日の丸揚げて万歳三唱というオチつき) 。とくに天皇皇后と皇太子夫妻は発言は相当に慎重にされ、会見の質疑応答は事前に全部用意されまずアドリブなんかありえない。この会見でも同様で皇太子はずっとメモを読みながら発言している。それだけに上記の発言部分は皇太子本人によるかなり強い意図発露であると思われるわけ。しかもその内容は明らかに特定の人物・集団に対する、強い表現を使った批判表明だ。
 この会見の終了後、さすがに記者から「殿下、大変、ちょっと失礼な質問になってしまうかもしれませんが…」と切り出し、先ほどの「人格否定」に関して可能な範囲で説明を、と質問が飛んだ。これに対し皇太子は「そうですね、細かいことはちょっと控えたいと思うんですけれど、外国訪問もできなかったということなども含めてですね、そのことで雅子もそうですけれど、私もとても悩んだということ、そのことを一言お伝えしようと思います」と答えている。この部分はアドリブなのだが、直接的表現こそないものの結構具体的に説明してくれたと思う。

 思い返すとこれまでもチラチラとにおわす発言がなくはなかった。雅子さんに対する様々な「プレッシャー」への苦言は以前に言及があったように思う。しかし今回は「人格を否定するような動き」ですよ。皇室の発言でなくたってギクリとする表現だ。
 雅子さんのキャリアとはもちろん外務官僚出身であることを指す。雅子さんの実家・小和田家は外交一家で父親は国連大使まで務めている(実際外務官僚って世襲状態が多いらしいね) 。雅子さんは少女時代から外国で生活することが多く国際感覚にも富んでおり、皇室に「お嫁入り」するにあたっても「皇室外交」に大いに乗り気であったという話もある。しかし皇太子夫妻の外国訪問は最初のうちこそあったものの、次第に控えられていくようになる。現天皇夫妻の皇太子時代の同時期と比べても明らかに少ないのだ。外交官の家に生まれ欧米の風土に慣れて育った雅子さんには日本における、まさに因習のかたまりの象徴ともいえる皇室環境に閉じ込められるのには、まさに「疲れ切ってしまった」ことだろう。
 そしてその「キャリアに基づく人格の否定」であるが、おおむね察しはつく。早い話が「お世継ぎをつくれ」と言われたわけだ。「人格否定」という強烈な表現には雅子さんを「世継ぎを産むための道具」ぐらいにしか思っていない連中が周囲にいた、というニュアンスを感じざるを得ない。なかなかお子さんが生まれず、そのうち一度流産、そしてようやく2001年12月に愛子ちゃんの誕生があったが、宮内庁はじめ天皇家を奉じる人々の本音は「男子誕生」なのだ。昨年だったと思うが、湯浅利夫宮内庁長官が「秋篠宮家に第三子を強く希望」と本音をチラリと漏らしてしまったこともある。そりゃあ雅子さんもますます鬱になるわけだ。
 あと、これはあくまで僕流の深読みなんだけど、どうも最近「雅子さんバッシング」が始まる予兆のようなものを感じたんですよね。今となっては側室とはいかないから焦り狂った宮内庁の誰だかが雅子さんを離婚させるとかもっとひどいことを工作する可能性すら感じてまして。隠密行動の長野静養じたい異例のことだし、皇太子なりにそうした状況に危機感を覚えての今度の発言になった…と思ったりもしているのだが。その後の報道によると、皇太子は訪欧出発前に「人格を否定するような動き」については一応「現宮内庁長官の時のことではない」と伝言していったというが…。

 雅子さんのことだけではない。以前にも恐らく宮内庁内部からのリークと思われる皇后・美智子さんバッシングが週刊誌をにぎわし美智子さんが「失語症」状態になったこともある。また秋篠宮について、やはり宮内庁内部からのリークによるスキャンダルをにおわす報道(それもほとんどデッチ上げだった可能性が高い)がなされたこともあり、宮内庁内部には相当に澱んだ空気があることがうかがえる。はっきり言ってこの人たち人権認められてないですしねぇ…



◆半世紀前の殺人捜査

 「我らは以下の諸事実を自明なものと見なす。すべての人間は平等につくられている。創造主によって、生存、自由そして幸福の追求を含むある侵すべからざる権利を与えられている。」

 上記は1776年7月4日に採択されたアメリカ「独立宣言」の有名な部分の抜粋。これがアメリカ合衆国という国の建国以来掲げる国是といっていいものなのだが、ここにいう「すべての人間」 が白人オンリーであったことはその後の歴史を見ても明白だ。独立達成後に出来た合衆国憲法でもインディアンと黒人奴隷は別扱いだったし、南北戦争後に黒人奴隷が解放されても人種差別と隔離はずっと続いていた。1960年代に公民権運動が盛り上がり一応法的な平等は実現していったが、各種の人種差別は今なお現実問題としてアメリカには残っている。

 さて先日新聞で報じられていた話だが、1955年、つまり今からほぼ半世紀前にミシシッピ州で起こった殺人事件についてアメリカ司法省が「再捜査に着手する」ことを発表していた。
 この事件は1955年8月に起こったもので、殺害されたのはエメット=ティル という当時14歳の黒人少年。彼は親戚を訪ねてシカゴからミシシッピの小さな町に来ていたのだが、ここで立ち寄った雑貨店の白人経営者の妻に向かって口笛を吹いた。間もなく少年は就寝中に何者かに連れ去られ、三日後になって、リンチされ有刺鉄線を巻かれ頭を銃で撃ち抜かれるという凄惨な遺体となって川から発見された。間もなく容疑者として逮捕されたのは口笛を吹かれた女性の夫ロイ=ブライアントとその異父兄弟の2人だったが、彼らはわずか67分間の陪審員(当然全員白人)の審議のすえ「無罪」と評決され釈放された。
 翌1956年に、この二人は雑誌のインタビューに答えて黒人少年を殺害したことを認めている。だが一度「無罪」と法廷で決定したものはくつがえらず、少年の母親や関係者の訴えにも司法省は動こうとしなかった。その後ブライアントとその異父兄弟の二人も亡くなり、追及の及ばないところへ逃れてしまった。しかしこの事件は公民権運動の発火点の一つとして強く記憶されることとなったそうで。
 かねてこの事件については殺害された少年の母親や「全米有色人地位向上協会(NAACP)」が再捜査の要求運動をしていたが、この母親も昨年81歳でこの世を去っている。

 ここに来て突然の再捜査着手決定だが、これは最近この事件のドキュメンタリーを制作していたスタッフが、この事件にブライアント兄弟以外の共犯者が10人ほどいることを突き止め、そのうち何人かがまだ存命であるとの情報を司法省に通報したため。どうも時効という制度が日本とは異なるらしく、半世紀近くも前の事件ながら容疑者さえ生きていればミシシッピ州法により訴追が可能ということで司法省が動き出したということのようだ。

 この話もひどいものだが、とくに南部白人の間では黒人男性に白人女性を襲われるといった脅迫観念が猛烈にあるらしい。古典映画「國民の創生」や「風と共に去りぬ」(映画では配慮して襲う男を白人に変更している) にも出てくるが、それに対抗(?)して自衛行動と称して黒人をリンチする秘密結社がかの「KKK(クー・クラックス・クラン)」だ。こんな集団によるリンチ以外でも、南部の州ではその昔、黒人の死刑がある日は学校も休みにしてみんなで見物しにいった、なんて話もある。話題になったマイケル=ムーア監督のドキュメント映画「ボウリング・フォー・コロンバイン」でも全米ライフル協会に代表される白人社会の銃信仰の背景にこうしたアメリカ白人自身の中にある暴力性があることを皮肉たっぷりにえぐりだして見せていた。
 昨今のイラク刑務所内の話としっかりつながってくる話ですよね、これって。



◆世界最大の総選挙

 今年はとにかく世界的な選挙の当たり年である。アメリカ大統領選挙も一年かけてのお祭り状態で行われるが、先ごろロシアでも大統領選が行われ(まるっきり波風が立たなかった気がする…)、台湾では総統選(えらいことになっちゃったが)、韓国では総選挙で大幅な政界地図塗りかえが起こり、フィリピン大統領選挙ではまだ開票の最中で、という状態。他にも各地でいろいろと注目の選挙が相次いで行われるが、日本ではとりあえず参院選。あんまし盛り上がる気配がないんだが、小泉首相が再度の訪朝をする動機のひとつにこれがあるのは確か。

 さてタイトルの「世界最大」のことだが、とりあえず参加人数ということではインドの下院総選挙が明らかに「最大」だ。人口は中国の方が多いけど、中国はとりあえず現時点で全員参加の選挙はないですからね。インドの総人口は10億人を超えるが、そのうち有権者は6億7500万人とのこと。単純計算で言うと世界の10人に1人が有権者ってこってすね(笑)。
 以前インドの選挙模様をTVで見たことがあるのだが、インドでは貧困層を中心に識字率が低いため、投票用紙には各政党のシンボルマークが書かれていて、それを選ぶという形になっていた記憶がある。これをウン億人分もやらなきゃならんのか、大変だなぁ…と思っていたのだが、今回の下院選挙では「IT大国インド」のPRという面もあるんだろうか、コンピューターによる電子投票が大々的に導入されて話題を呼んでいる。ボタン一発で投票が済む「電子投票機」がなんと107万台も全国に設置され、手軽な投票もさることながら開票の迅速化に大いに貢献している。実際、以前は三日以上かかった開票作業が今回は5月13日の一日で終了しちゃった。これほど大規模な電子選挙は前例がなく(2002年ブラジル大統領選で40万台導入の例はある)、日本も含む世界各国の視察団が見物に来ていたそうである。

 選挙の焦点はひとえに8年続いたパジパイ首相の政権への審判だ。パジパイ政権はヒンドゥー至上主義色が強いとされるインド人民党を中核としており、1998年には核実験を強行して隣国パキスタンと緊張を強める一幕もあった。その後は世界情勢の流れの中で対話・協調姿勢をとるようにはなってきたが…その一方でインド国内経済の自由化・規制緩和をおこない経済の高度成長、IT大国化を進めて来た実績はあった。実際今回の選挙で与党側は「2020年までに先進国の仲間入りを!」をスローガンにしていたぐらい。だがその影で貧富の差の拡大が進み、もともとのカーストによる格差の存在もあって、ともすれば「金持ち優遇・弱者切り捨て」と批判されるところも無くは無かったようだ。
 
 で、結局フタを開けてみれば事前の予想を上回る与党の退潮、野党の躍進。全543議席のうちインド人民党を中心とする与党勢力が188(前回304)、最大野党「国民会議派」を中心とする勢力が219(前回136)、インド共産党などを含んだ左翼勢力が62(前回43)、その他70議席という結果になった(4議席ほど不正の疑いでやり直し)。この結果を受けてパジパイ首相はアブドゥル=カラーム大統領(インドも形式的大統領を元首とする国である)に辞表を提出、8年ぶりの政権交代が決まった。この結果の原因についてはやはり貧困層のとりこみにパジパイ政権が失敗したためとみられている。

 …で、次の首相は誰なのかというと…普通に考えれば最大議席を持つことになった政党・国民会議派の党首が首相になるのだが、政権奪回が決まったあともすぐには明確な決定は出されなかった。それは国民会議派の総裁がほかならぬソニア=ガンジー女史であったからだ。
 これまでにも何度か書いていることだが、このソニアさんはイタリア生まれの人で、ラジブ=ガンジー元首相の未亡人である。ラジブの母親はインディラ=ガンジー元首相。そのインディラの父親は現在のインド建国の父ともいえるネルー 元首相である。いわゆる「ネルー=ガンジー王朝」というやつで、インディラ、ラジブと二人も暗殺されているというケネディ家も顔負けの家系である。ラジブ氏暗殺後、国民会議派はその未亡人であるソニアさんを党首にかついで今日に至ったわけだが、さすがに彼女自身はイタリア生まれであることが一定の批判の種にはなっていた。
 そんなわけで一瞬のためらいは見せたものの、結局は「ソニア=ガンジー首相誕生」ということで確定したようだ。義理とはいえ「親子二代」の女性首相の誕生である。出身国や民族うんぬんよりも「家系」が重視されたってことなんだろうか。南アジアから東南アジアにかけてはこの手の「二世・三世国家指導者」が目立つのだが、外国から嫁入りした人が継いだというケースは初めてなんじゃないだろうか。
 なお、今回の選挙でソニアさんの長男ラフル氏も初出馬・初当選を決めており、いずれは彼が国民会議派指導者の地位を継ぐのだろうと予想されている。



◆あれこれ小ネタ集


◆先祖の名前を使うな!!

 「ストラディバリウス」といえば世界的に有名なバイオリンの名器。17〜18世紀に生きたアントニオ=ストラディバリ(1644〜1737) というイタリアの楽器職人が製作したもので、92歳という当時としてはとんでもない長命のうちに約600個のバイオリンその他を作ったといわれる。音楽に疎い僕にはよく分からんが、とにかく世界中の名バイオリニストがとてつもない高額を出してでも手に入れようとする「至宝」なのだそうである。どのくらい高額なのかというと、たとえばつい最近(今年4月)ロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団が所有するストラディバリウスのチェロ(1684年製作)が盗まれ、楽団側は犯人がそのチェロの価値を理解していない可能性が高いとして「無傷で返してくれれば、罪は一切不問にする」と発表している。そのチェロの時価は350万ドル相当なんだそうで…日本円にはご自分で換算してみてくださいな。
 で、本題だが、共同通信記事によるとこのアントニオ=ストラディバリの子孫にあたるアントニア=ストラディバリさん(そのまんまだな)なる女優が、「先祖の“ストラディバリ”の名を勝手に使用して営利行為をしている」 として、この名前を使っている会社や店などに名前を変更するようにもとめる訴訟の準備をしているんだそうな。すでに昨年「ストラディバリ」の社名を持ちバイオリンをロゴにしていた不動産会社を訴えて勝訴しているとか。うーん…しかしこの調子で歴史上の有名人の名前を「無断使用」とか子孫から言われる事態が続出すると世界的にとんでもないことになりそうな気がするが。


◆大仏の名前を使うな!!

 しばらく奈良には足を運んでいなかったので知らなかったが、「大仏の鼻くそ」っちゅうお土産菓子があったんだそうですな(^^;)。直径は7センチで1個350円(おお、なんか上のネタと数字が呼応するぞ)。米菓子を固めて黒砂糖でくるんでいるそうで…しかしまぁ「鼻くそ」っちゅうのはなぁ(笑)。せめて「目くそ」あたりにしておけば…ってお約束のボケでした(^^; )>。
 大和郡山市の業者が3年前から売り出し、2002年9月に商標登録も済ませていたが、東大寺側が「耐え難い!」と激怒し異議申し立ての訴えを起こしたのだった。結局それを受けて商標登録は取り消されたのだが、業者によれば県内の寺社付近(東大寺は入ってないんだろうな)の土産物店でよく売れる人気商品で、「そんなに怒らないでほしい。ありがたいと床の間に飾るお客様もいるくらいですからと業者は言ってるそうで(朝日新聞記事より)


◆「原爆の火」を持ち帰って…

 5月12日、福岡県星野村在住の山村達雄さん(88)という方の死亡記事が全国紙のおくやみ欄に載った。この山村さんは1945年8月6日、原爆投下直後の広島に入って、爆心地近くにあった叔父さんが経営する書店の焼け跡でくすぶっていた火を懐炉に移して持ち帰ったという人だったのだ。このまさしく原爆で点火された「原爆の火」 は山村さんの家の仏壇やかまどで守られ続け、1968年になってこのことを知った村が「平和の塔」のモニュメントを建ててそこにこの「原爆の火」をともした。その後この「原爆の火」は全国各地に分けられて反核・平和運動のシンボルとして灯され続け、絵本にもなったことがある。
 ところで僕も含めてこのニュースを最初に接したとき「ああ、あの広島の平和記念公園で燃えてるやつか」と思った人が多いんじゃないだろうか。元ネタの記事を見ていてそのことに全く触れていないので「はて?」と思い調べてみたら、こっちは「平和の火」という全く別の火だったのでありますね。こちらは平和記念公園が整備された1964年の8月1日に「核兵器が地球上から姿を消す日まで燃やし続けよう」という思いをこめて点火されたものだったのだ(広島平和記念資料館HPより)。どうやらこちらは厳島にある「霊火堂」なる、あの空海が修行したというお堂の、1200年も燃えているという護摩の火からとったとかで、これはこれで大変な由緒があったりするのだった。なお、この霊火堂の火は1901年創業の八幡製鉄所の種火にもなったそうで、思わぬつながりにビックリしたりもしたのだった。


◆白河から先は鬼が出る!?

 その昔タイトルのような言い回しがあり、古代以来の東北蔑視の象徴みたいな言説とされるのだが…。
 珍しく、東北最大の新聞である「河北新報」の記事からいただいたネタなのだが、福島県警が白河署館内の「白河検問所」を5月27日から「21世紀の白河の関」として復活させるとのこと。この検問所、1975年に国道4号沿いに設置されたが、東北自動車道の開通で国道の重要度が低下したこと、人員不足などの理由から1984年以降建物だけ残して空き家の休眠状態に陥っていたそうだ。
 ところが近年、白河署管内でハイテク窃盗(超小型カメラをロッカーに仕掛けて暗証番号を読み取った) 、エステ店強盗、ゴルフ場への不法投棄など、いずれも関東以南の人間がやって来て犯罪を行うケースが続出、昨年などは人口あたりの犯罪発生率が福島県内ワーストという記録も作ってしまった。こうした犯罪の犯人は逃亡する際逃げ場がなくなりやすい高速道路は避けて国道を行くのだそうで、これが検問所復活につながることになった。「首都圏と比べ、犯罪に対する警戒心が薄い東北地方が狙われているのでは」と白河署では見ているという。
 僕は自分の専門柄おぼえがあるのだが、この手の細かい犯罪って古今東西、こういった行政の境界線付近で起こりやすいんだよね。犯罪者が管轄の違うところにすぐ逃げてしまうと、縦割り行政ではなかなか追いきれないケースが多いのだ。「白河の関」も面白いが、「八州廻り」(江戸時代、関東八州を管轄を越えて捜査・逮捕活動ができた特別警察。映画「用心棒」なんかでも説明無しに出てくる)を復活させるという手もありますぞ(笑)。


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