ニュースな
1999年2月25日

<<<前回の記事
次回の記事>>>

  「ニュースな史点」リストへ

 ◆今週の記事


◆クルド労働者党、オジャラン議長逮捕!

 先日、唐突にトルコがクルド労働者党の指導者・オジャラン議長を逮捕したと発表した。
クルド人って民族はいまいち我々日本人にはなじみがないが、時として名前だけは良く聞く民族である。確かあのサリンの最初の被害者もクルド人ではなかっただろうか。あの時は確かイラクの攻撃によるものだった。それで「あの辺にいる民族か」という認識だけはある。ちょこっと調べてみると、現在のトルコ・イラン・イラク・シリアなどにまたがって存在する民族で、自らの国家は持っていないとのこと。それで自治を求めてそれぞれの地域で運動しており各国家と対立・トラブルが後を絶たないらしい。

 しかし今回の一件についての一連の報道で改めて思い知らされたのは「クルド人」という民族の数の多さと、その世界中への拡散ぶりある。なんでも全人口をあわせて2000万人。国家を持たない民族と考えるとこれはかなりの人口と言わざるを得ない。そのうち1000万人がトルコ領内に居住しているという。そりゃトルコも大変である。あの領土内に東京都の人口ぐらいの異民族を抱えているとなると…。
さらに、そうした民族事情を反映してか、かなりのクルド人がヨーロッパを中心に世界各地に移住もしくは出稼ぎに出かけている。このたびオジャラン氏が逮捕されたことに抗議して各地でデモやら大使館占拠やらが行われたが、その抗議行動の過激さもさることながら「クルド人ってあんなにあっちゃこっちゃにいるのかぁ」という印象の方がむしろ強かった。こうなるとヨーロッパ各国も潜在的に「クルド人問題」を抱えていると言えそうだ。あんなに各地に散らばっていながら結束力は強いようで、何やらかつての(今も?)ユダヤ人を連想させるものがある。

 で、今回捕まったオジャラン氏が率いるクルド労働者党(PKK)だが、これは最大の住民を抱えるトルコにおけるクルド人の独立運動組織である。トルコ政府に対しクルド人の独立あるいは自治を求めているわけだが、トルコ政府は「我が国にいるのは「トルコ人」だけ。民族問題は存在しない」という建前で、彼らを「テロ組織」として弾圧している。その指導者のオジャラン議長はそんなわけで国外へ亡命しているケースが多く、ヨーロッパ各国、とくにトルコと歴史的に仲の悪いギリシャなどにかくまってもらっていた。しかし今回の逮捕劇はなぜかケニアで行われたらしい。これも情報が公開されないため諸説あって事実が判然としないが、どうもこの逮捕劇の背景はいろいろと複雑怪奇なもののようだ。アメリカFBIが関わっているとかギリシャ政府が彼をトルコに引き渡したとか(それでギリシャ大使館へもクルド人による抗議行動があった)とにかくいろんな噂が飛び交っている。この辺も「クルド人問題」の根深さと広がりを感じさせるものだった。

 それと今回のことでようやく知ったのだが同じクルド人の独立運動組織でも、イラク北部にいるクルド愛国同盟(PUK)とかクルド民主党(KDP)といった他の組織も存在している。で、これらは必ずしも協力関係には無い、というか近親憎悪と言う奴かどちらかというと仲が悪い。KDPはトルコ政府と協力関係にあり共同でPKKを攻撃しているし、PUKは昨年対立していたKDPと和解してPKKと縁を切っている。ややこしい事であるが、まぁ要するにPKKだけ見てクルド人問題を捉えてはいけないようだ。
 それにしても逮捕されたオジャラン議長の情けない姿は印象的だった。精気のない顔でトルコ政府支持を叫んだり、反省の弁を述べたり。もちろん脅されてやっている可能性が大だが…なんかヤケクソになっているのかも知れないな。トルコ政府としては宣伝効果大なのだろう。

 ところで長々と「現代」の話を書いてしまったので「歴史」ネタもちょこっと。
 歴史上最も有名なクルド人と言えば何と言っても「サラディン」である。あの十字軍と戦って西欧人にすら「騎士道を知る者」として賞賛された、あの英雄が何とクルド人なのだそうだ。あのムハンマド(マホメット)を『神曲』で地獄に落としたダンテですらサラディンを讃えているほどの有名人だ。「アラブの英雄」としても持ち上げられ、イラクのサダム・フセイン大統領も自らをそれになぞらえたりするそうだが…しかしクルド人は弾圧してるんだよね。



  ◆都知事選が面白い!

 今さらだが、都知事選がめっぽう面白くなってきた。民主党の(いちおう離党するらしいが)プリンス兄弟の弟・鳩山邦夫にタレント候補にしてはもう年季も入った野末陳平、テレビでは知名度抜群で今頃になってとうとう政界に立候補してしまった国際政治評論家の舛添要一、「金八先生」のモデル(どうやら作者公認らしい)だと言うぐらいしか話題のない三上満…。

 で、肝心の自民党は迷走状態。鳩山候補相乗り策は失敗に終わり、一度は断念したはずの柿沢元外相(ふえー、この人外相だったんだなぁ。当時は自民党じゃなかったけど)が唐突に復活立候補、てんやわんやの中、どうにか国連で活躍し知名度抜群(?)の明石康を立てると言うことでまとまった。しかし当の明石さん、柿沢さんが出ると聞いたときは降りるつもりだったそうで、なんだかあんまりやる気がない。

 しかしまあ現時点で完全な泡沫候補がいないと言えそう(あ、ドクター中松も出るんだった!本気かよ)で「激戦」が予想されそうだ。都知事選ってのはいつも様々なドラマを生む。前回がまさかの青島幸男当選(大阪では横山ノック)。前々回は前屈の老人(笑)鈴木俊一に当時自民党の幹事長・小沢一郎(うーむ、こう見るとこの人も遍歴が激しいな)が立てた元NHKの磯村さんが挑み、銭湯でヌードを見せたのが災いして大敗している(笑)。今回はのっけから波乱含みでなかなか楽しんで眺められそうだ。
 …なんといっても私は投票できない「第三者」だからなぁ。



◆「第二次朝鮮戦争特需」はあるか? 

 これは「週刊文春」の記事の見出しをそのまま持ってきたものだ。なんでも「99年最大のタブー」だとか書かれている。実はこのネタ、どっかがやるんじゃないかと思っていたが、やってしまったか、週刊文春。
 
 第二次大戦後、ドン底に落ちた日本経済の復活の景気となったのが1950年に隣国で勃発した朝鮮戦争による「特需景気」であったことはよく指摘される。敗戦に懲りて戦争放棄憲法を持ち、「平和国家」を名乗った日本であるが、残念ながら経済成長のキッカケは戦争によるものだった、これは否定できない。

 だいたい歴史上何度か例があるが、戦争は経済に活気を与えるケースが多い。無論やりすぎると国そのものが破綻しちまうのだが。第一次世界大戦の際、直接的に戦火を受けなかった工業国・アメリカと日本に各国の注文が殺到し、大変な好景気になっている(その代わり日本では戦後一気に不景気になったが)。また世界恐慌の際のアメリカでF=ルーズベルト政権による「ニューディール政策」なる景気回復策が行われたことは有名だが、実際の景気回復はこの政策によるものではなく第二次大戦の勃発に拠るところが大きかったとする意見もあるそうだ。

 で、当の週刊文春の記事だが、まぁ何のことはない。見出しは過激ながら結論は「特需はない」というところで落ち着いている。一部に「朝鮮戦争の時は来日した米兵がカメラを買ったから、今ならビデオが…」とか「都市がミサイル攻撃を受けたらその復興特需が…」などとのたまう妙な方も出てくるが、結局のところもし現実に「第二次朝鮮戦争」が起こるとしたら日本は負担をかけられるばかりで「特需」などというおいしい話はとても考えられないらしい。それに、長期戦ではなくアッという間に終わるとの観測も多いようだ。
 ま、いずれにせよ戦争が起きていい目を見る人は少ないですね。



◆密入国は韓国経由?
 
 先日、東京湾も近い江ノ島沖で不審な韓国籍の漁船が発見され、中から中国からの密入国者がゾロゾロ出てきた。もう中国・福建からの密入国者なんぞ珍しくもなくなってしまったが(よく考えると凄いことだな)、このところ妙に韓国系の船が絡んでいるケースが多い。この前も島根で同様のケースがあった。

 思い起こせば、中国から日本への密入国は初め「偽装ベトナム難民」を装っていた。実際一部にベトナム人が混じっていたような記憶がある。その後堂々と「中国系偽装難民」となったわけだが(笑)、政治的亡命であることを主張するために「一人っ子政策に反対だった」とばかり言っていたものだ。裏返せばそのぐらいしか政治的な不平は思いつかなかったんだろうな。「経済難民」なのが見え見えだから日本政府も保護次第送還する処置を執ったが、この時アメリカ人らしい婦人が一人、送還される船を見送って日本政府への抗議のデモをしていたのが妙に印象に残っている。今やこんなことするアメリカ人も見かけなくなってしまった。

 初めは長崎辺りに適当に狙いを定めて渡海していたようだが、その後は「蛇頭」なる特撮番組の悪役みたいな名前の組織の存在が登場し、これが日本のヤクザと連絡を取って海上で密入国者の引き渡しを行うなど巧妙化してきた。最近の韓国ルートは取り締まりに対する新手の作戦なのだろう。どうも始まりは中国内にいる朝鮮人(東北方面に多い)が韓国のブローカーと結びついたあたりからのようだが、このごろはそればかりでもないらしい。こういう「裏社会」ほどアッサリと民族・国家を越えて「連帯」してしまうところが面白い。

 ニュースなどでも分かるように密入国してくる中国人の大半は福建系だ。そして「蛇頭」など斡旋・実行組織には浙江・上海系が多いらしい。同じ中国人といいながらも地域の役割分担みたいなところがあるのだ。僕の専門である16世紀の「倭寇」もソックリなところがあり、背景には地理的条件とその地域に根強く残る「土地柄」があるようだ。福建人って昔からすぐ海外へ手軽に飛び出して行くんだよね。もっとも福建人といっても中には昔北方から移住してきた人々の子孫である「客家」が多く含まれているようだが…。
 世界中の華僑世界もこうした「海へ飛び出した人々」が築いているわけだ。そのうち日本にも今より本格的な「華僑世界」が出現していくのかもしれない。
 


99/2/25記

<<<前回の記事
次回の記事>>>

  「ニュースな史点」リストへ