ニュースな
1999年3月11日

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 ◆今週の記事


◆中村法相辞任!
 
  先週あたりからこの話題が出ていたが、先週の当コーナーでは取り上げなかった。なぜなら次週に辞任するという展開が目に見えていたからだ。予想通り辞任したところでこの話題を取り上げることにした次第。
 
 そもそも中村法務大臣のことが話題になったのは、彼が正月に行われた法務省賀詞交換会での発言からだった。「日本は軍隊ももてないような憲法を押し付けられて、それを改正できずにもがいている」とかいう趣旨の発言をして物議を醸したのだ。まぁこの手の発言は自民党政治家が口を開けば毎度のように出てくることだし驚くほどのことではないのだが(だいたい自民党は元来憲法改正を党是にしている政党なのだ。「護憲派」の自民党政治家の方がよっぽど矛盾している)、閣僚の、しかもよりによって法務大臣が所もあろうに法務省の役人の前でこれを言っちゃったからまずかった。騒ぎになっったので例によってあわてて撤回したが、撤回するぐらいなら言うなっての。まぁこれもよくある展開ですが。

 これだけならまだ良かった。というかこの発言で辞任に追い込まれる方がよっぽどカッコが良かっただろう。この後はもう笑っちゃうようなみっともない不祥事が続いて明るみになった。
 検事総長を呼びだして「私は首相によって法務大臣に指名された人間なのだから君は私の指揮下にある」と訓示したり(完全な職権乱用の恫喝である。当時騒がれていた防衛庁汚職に絡んだか)、自身のライバル業者のホテル建設を「違法の疑い有り」とわざわざ役人に調査を指示し、挙げ句の果てにシュワルツェネッガーがパスポート無しで入国した際、その自筆の顛末書を私物化した(しかも一部の噂ではわざわざ自筆で書かせたとの疑いも出ている)。どうもこの人は「法務大臣」という地位と職務を何か勘違いしていたようである。

 中村氏はホテル経営に関わっていることから分かるように大変な地方資産家で、しかも二世議員。日本の保守政治家を絵に描いたような人物と言える。こういう家だと「生まれながらにして政治家」って雰囲気に育ち、いささか世間一般の常識からずれてくるのかも知れない(どうも最近の国会は貴族院化しつつある気がするなぁ)。自民党政治の伝統である順番待ちで(要するに能力は関係ないのだ)、ついに念願の大臣になっちゃって舞い上がってしまったのか。公私混同に至るのも無理からぬところなのかもなぁ。
…「ホーム大臣」てぇぐらいだから。



  ◆都知事選またまた波乱!

 先々週に当コーナーで取り上げた都知事選だが、その後またも波乱が起こってしまった。
 まず候補者の一人、野末陳平氏が立候補を取り下げ、舛添要一氏の応援に回ってしまった。もともと有力候補とは言い難い人だっただけに「死票を増やしたくない」という理由も分からないではない。舛添氏が当選したら「顧問」という形で政策に意見を反映させていきたいとのことである。
 しかし、おさまらないのが自民党員にも関わらず舛添氏の選挙参謀を務めて「副知事」の座を占めるはずだった栗本慎一郎氏である。確かに野末・舛添連合の件は事前には全く栗本氏に知らされてなかったってんだから酷い。怒った栗本氏は当然のように舛添応援を辞め、自らの立候補の可能性も示唆している。

 ところでこのドタバタ劇の背後にチラついたのが、まだ名乗りを上げていない「有力候補者」の動向だった。そう、石原慎太郎氏である。かなり前から出るか出るかと言われていて、どうも野末氏の出馬取りやめもこれが影響していた節がある。芥川賞作家で往年の大スター石原裕次郎の兄、国会議員も永年勤め多くの政治的著作で知名度・人気もかなりある。ただいささか「タカ派」なのは間違いないが…中国をしつこく「支那」と呼び続けるオジサンでもある。この人、確か「政治不信は私の責任」とかカッコ良く見得を切って政界引退を表明したような記憶があるのだが(^^; )。息子さんがしっかり「二世議員」化してるあたりは案外普通の保守政治家だったりする。

 で、結局10日になって正式に立候補を表明。会見の冒頭「裕次郎の兄です」という自己紹介にはのけぞってしまった。なんだあんた、弟の威光を商売のタネにするなんて渡哲也の石原プロとおんなじでっせ(笑)。そういや息子さんの選挙には「石原軍団」が総出で応援に出てましたなぁ…またやるのか、あれを。裕次郎が草葉の陰で泣くぞ。泣かないかな。



◆バチカンが中国承認?

  中華人民共和国の唐外相が記者会見で「台湾の記者は同じことばかり質問するなぁ」とボヤいて記者団を笑わせたそうだ。この台湾記者の質問というのが「バチカンとの国交樹立はあるのか?」というものなのだそうだ。
 バチカン市国といえばカトリックの総本山でありローマ法王を戴く人口1000人の世界最小の国家。「国」というよりも「デカいお寺の境内」というべき存在らしいが、法王の威光、いまだ衰えずと言うわけか一応「国家」としtねお格を維持している。こんなところにもちゃんと「外交関係」ってのが存在するところが面白い。

 実はバチカンは台湾の「中華民国」と国交がある数少ない国なのだ。日本は台湾政府を正式に求めていない国なのでピンとこない人も多いかも知れないが、一応「中国」と名乗っている国は「中華人民共和国=共産党=大陸政府」と「中華民国=国民党=台湾政府」の二つが存在する。いわゆる「国共内戦」はまだ決着が付いていない形で今も続いているわけだ。ドンパチこそ無くなったけどね。
 で、経済的な成功は別として台湾の「中華民国」を認めてくれる国は年々減るばかりなのだ。まぁ面積的に考えても台湾政府が「中国」を代表するってのがかなり無理がある話な訳だが、大陸中国も最近経済成長を遂げ世界的な存在感をより増しつつあることもあって、いままで台湾と国交があった国も次々と大陸側と国交を結ぶようになっている。最近も南アフリカが台湾から大陸に転換してしまって、バチカンもどうやら…という事になっているらしい。

 冒頭の質問に対しデリケートな部分もあることから唐外相は適当にごまかしたようだ。だが近々ローマ法王がアジア諸国を訪問する予定となっており、その時「ついでに」とばかり香港を訪問するのでは、という憶測が広がっている。この現代社会に至っても外交ではなかなか原始的なトリック(偶然会った、とか急遽予定を変更して、とか)がしばしば使われるので、十分考えられる話である。バチカンにしたって世界の何分の一かを占める国を無視するわけにはいかないんだろう(^^; )。



◆「日本はアメリカの家老?」パート2
 
 以前、当コーナーで取り上げた産経新聞「正論」欄・櫻田淳氏の「執事国家・日本の可能性」に、なんと待望の(?)続編が登場した。
 未読の方のためにパート1の内容を簡単に紹介すると、要するに「日本は唯一の超大国・アメリカの「執事」「家老」となって国際社会に名誉ある地位を占めよう」ってなことになる。その根拠が凄い。仙台藩の原田甲斐と赤穂藩の大石内蔵介を挙げて「日本には馬鹿殿様はいても馬鹿家老はいなかった」ことを想起して、米国にもそう振る舞おうというわけである。批判するのもアホらしい根拠なので一言だけ。馬鹿家老は歴史に残らないだけである。あの勝海舟もアメリカから帰った感想で「我が国と違って上の地位の者ほど頭が良くなっている」と言っているんだけどな。
 
 そしたら何と続編が掲載されたのだ!さすがに批判もあったようで「奇異に映るかも知れない」と断りはあるものの趣旨は一貫している。今回はついに「番頭」という表現まで登場し、ますます「卑屈度」を強めつつある(笑)。まぁ要するにアメリカの良き「同盟国」としてガイドラインの見直し、米軍協力体制を進めようと言うわけ。その中で今高知県の橋本知事が高知県に入る米軍の艦船に「非核証明書」の提出を求めている件に触れて、予想通りえらく憤慨している。で、そもそも「非核三原則」のうち「持ち込ませず」は見直すべきだという主張を改めて記している。
 …なんか番頭というより丁稚に近くなってきたな(^^; )。アメリカの言うことなら何でも聞きかねない雰囲気だ。

 どうもこういう議論を見ていて思うのが「日本ってそんなに大した国かい」というやや自嘲的なセリフだ。唯一の超大国・アメリカに対して「いい子ちゃん」に振る舞って「アジアではおれがナンバーワンだよね」という姿勢なんとちがうか。虎の威を借るなんとやら。こういうこと主張する人達って揃って中国・韓国を見下すか警戒しているのもうなづける。
 それでいてアメリカって国はさして日本を重く見ていない気がするんだけどね。日本が勝手に「アジアの同盟国」を気取っていたら、事前になんの相談もなく中華人民共和国を電撃的に承認した前例があるんだけどなぁ(佐藤栄作首相はホントに激怒したらしいぞ)。アメリカってそこはしたたかな国だから、いざとなりゃ中国と組みますよ。どう考えたってあっちの方が大国だし。どうも日本の外交下手ってのは聖徳太子以来の伝統芸のようだ。
 


99/3/11記

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