ニュースな
1999年3月26日

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 ◆今週の記事

◆生命保険は「神武紀元」で?
 
 まずは当コーナーとしては意外にもコンピュータの話題から。
 近頃やたらに騒がれている「2000年問題」というやつがある。このページを見ている程度でもパソコンをいじる人であれば、だいたいどういうことかお分かりだろうから、その問題そのものについての説明は省略する。要するにコンピュータが下二ケタで年号表記していることによって発生する各種トラブルなわけだけど(しっかり説明してしまった)…

 運命の今年の大晦日を前にこれに対処するべく、世界中のコンピュータがてんやわんやの状態であるらしいのだが、面白いことに早くからデータの電算化を進めていた日本の各業界ではなかなかユニークな対処策をとっていたようだ。元ネタは朝日新聞20日付の「ウィークエンド経済」欄です。

 トヨタ自動車ではほぼ2000年問題への対応をすませたらしいのだが、一部に過去のデータの使い勝手を考えて「昭和」の元号を使っているという。昭和元号だと二ケタで処理できるので修正の手間が省けるのだそうだ。つまり今年は「昭和74年」で西暦2000年は「75」と処理できるわけ。今でも何となく「昭和換算」をしてしまうかなりの日本人(実は僕もそうだ)には結構有効かもしれない。ただし2025年には修正の必要あり。

 凄いのが安田生命で、1970年代にシステムを作る際に、なんと「神武紀元」(!)による数値化を行ったのだそうだ。ご存じの方も多いだろうが、初代天皇・神武天皇の即位を元年とする「皇紀」というやつで戦前の方には非常におなじみ。西暦1940年=昭和15年が「皇紀2600年」に当たる。来年は「皇紀2660年」だから「60」と表せばいいわけで意外としっくりくる。安田生命の当時のシステム構築者が2ケタのシステムを作るに当たって考えた「苦肉の策」だそうで、なんでも生命保険は長期間の契約を扱う必要があるためにこうなっちゃったのだという。別に神武天皇の存在を信じているからやったとかそういうことでは無いようだが、最先端の技術の世界に元号やら皇紀やらが出てくると言うのが面白いところ。
 …そういえばイスラム暦ってのもあるんだよな。イスラム圏はどうしているのだろう?



  ◆ゲーテの墓が暴かれていた!?

 旧東ドイツの博物館の資料を調査していたところ、こんな珍事件があったことが判明してしまった。なんとあの詩人(にして政治家だった科学者だったりする多彩な人でしたが)ゲーテの墓が東ドイツ政府の手により暴かれていたのだそうだ。
 なんでも調査のために墓石をどけて棺を調べたところ、錠が外れていることが判明。これ幸いと思った科学アカデミーの誰かさんが、棺を開いてゲーテの遺体を回収することを提案した。遺体なんぞ回収してどうするのかというと、何とソ連のレーニンよろしく歴史的偉人として保存処理をほどこし、その姿を見学できるようにしようと考えたものらしい。まぁ結局、ミイラ化した遺体の保存状態がおもわしくなかったこともあって沙汰止みとなり、無事ゲーテの墓は元に戻されたわけだが。

 しかし何というか、気色の悪い話ではある(^^; )。ソ連のレーニンから始まった「唯物主義」らしい遺体保存だが、それなりに影響もあったようで中国でも孫文、毛沢東の遺体が同様の処理をほどこされていると聞いている。しかしゲーテなんて昔の人までやってしまおうという発想には何というか…しかし考えてみると良く骨だけになっていなかったとも言えるな。「気色の悪い話」とか言いながら、ゲーテとかナポレオンとかベートーベンなんかの歴史的著名人の遺体が保存処理されて見学できると想像するのは、ちょっと楽しかったりもする(笑)。日本だと遺体が見られる著名人は奥州藤原三代のミイラぐらいだし(一般公開はしてないようだが)。忠犬ハチ公とか南極のタロー・ジローは剥製になっていたかな。関係ないか。

 近頃は社会主義も流行らないし、中国でも先頃亡くなったトウ小平さんも遺体を灰にして海にバラまかせてましたね。まぁ亡くなる当人も死後自分の遺体が保存処理されて見物されるってのは気分がよくないと思うぞ、普通。レーニンも遺言では故郷に埋めてくれと言っていたそうだが…



◆NATO、ユーゴをついに空爆!

 とうとうやってしまった。前から「やるぞ、やるぞ」と脅してはいたけど…実際にやってしまった。やはり今日でもバルカンは「ヨーロッパの火薬庫」である。
 もうユーゴあたりは似たような話の繰り返しなのでウンザリなのだが、今回の構造は「ユーゴスラビア連邦のセルビア共和国内でアルバニア系住民が多数を占めるコソボ自治州が、セルビアに対し独立を要求した」ことから始まった紛争だ。これまでにもクロアチアやボスニアで同様の構造のドロドロした民族紛争が続いてきたが、またもや、というわけだ。NATO側はセルビアを「抑圧者」として非難し、コソボからの撤退・停戦を要求したがユーゴ(の中のセルビア)のミロシェビッチ大統領は拒絶、結局NATO軍によるセルビア空爆の実行という事態となった。ユーゴスラビアはただちにNATO諸国との国交を断絶し、事実上の「戦争状態」を宣言した。

 セルビアが良いことをしているとは思わないが、民族紛争ってやつの実態は複雑なものだ。NATOがセルビアを一方的に「悪」と決めつけて空爆していいはずはないのだが…このへん、先日書いたイラクのケースとも重なってくる。歴史的にセルビアと仲がいいロシア(第一次大戦前以来?)は国連でNATOの親玉であるアメリカを非難、中国も同調した。国連は久々に冷戦時代の活気(?)を取り戻したような熱気だったという(笑)。もっともソ連ならぬ今のロシアはアメリカの行動を阻止できるほどの力はなく、それがアメリカの「暴走」を許す形になっているわけだが。
 とりあえず先日始まったばかりのこの戦争、どうなるかはいまだ不透明だ。「泥沼化」を懸念する声も多い。そう言えば今度の空爆によってドイツ軍は第二次大戦後初の「実戦」ということになったようだ。次項の日本海上自衛隊のことと並んで歴史的事件と言えるかも。

 それにしても良くまぁこの地域は「ユーゴスラビア連邦」などを形成していられたものだ。第一次大戦、第二次大戦と泥沼の民族紛争をやってきたバルカン半島だが、第二次大戦のパルチザンの英雄・チトーが「ユーゴスラビア連邦」を作ってからはまぁまぁ団結していて、ソ連とも異なる独自の社会主義国路線を進むというなかなか力強いところを見せていたりもしたんだけどね。やはりチトーが亡くなってからはいろいろとセルビア中心のひずみが出ていたようだ。そう考えるとやっぱチトーって偉大だったのかな…?

★一年後のコメント★
これについては最新の「史点」で一周年記念で触れてます。これから6月末の空爆停止まで約3ヶ月間にわたり、この問題は「史点」コーナーを賑わすことになるんですね。その後のネタも含むとミロシェビッチ大統領ってひょっとして「史点」登場回数最多だったりしないだろうか。



◆何やらキナ臭い…?
 
 さる3月23日夜から、日本国内は日本海沿岸に出現した「二隻の不審船」をめぐる騒動で妙に賑やかになった。「第一大和丸」などと日本の漁船を装い、漁具も積まず、ただやたらにアンテナを立てた妙な見るからに船が二隻も発見されたのだ。海上保安庁の船がこれに停船を命じたが無視して逃走したため、保安庁の船がこれを追跡、威嚇射撃まで行った。これがやがて燃料切れ等でそれ以上の追跡が困難となると、今度は政府が海上自衛隊に「海上警備活動」を隊発足以来初めて命じ、海上自衛隊の艦船・航空機が二隻を日本海上で追跡した。この時もさらなる威嚇射撃に加え、爆弾まで投下したという。二隻の不審船は結局停止せず、そのまま北朝鮮の方面へ去っていった。その後の情報では二隻は確かに北朝鮮の港に入港しているという。もちろん北朝鮮は一切の関与を否定したけどね。

 まぁ北朝鮮による「領海侵犯事件」であることは間違いないだろう。何しに来たかは不明だが(少なくとも戦闘できる様子はないしなぁ)、言われているように工作員の上陸か回収か、あるいはブツ(?)の積み込み・積み卸しだった可能性もある。どっちにしても日本の主権を侵害したものには違いない。
 ところで今度の一件で注目されるのは、やはり海上自衛隊の出動だ。戦闘こそ無かったものの、射撃・爆撃を行っており、事実上発足以来初の「実戦」となったことには間違いない(もっとも航空自衛隊で仲間の機を訓練中に「撃墜」してしまう珍事が最近あったが)。それもこんなに急に、すばやいスピードで現実のものとなってしまったことには正直驚いた。無論やってしまったあとで、その是非をめぐる論議が起こっているわけだが。

 海上保安庁ってのは僕の知る限りではいわゆる「沿岸警備隊」だ。日本みたいに周囲全て海って国では大変な役割を担っている。今回のような領海侵犯の監視から、密入国・密輸の防止、密漁の防止、遭難船の救助などなど、海に絡むことならなんでも守備範囲という観がある。聞いてはいたが今度実際に使用されたように武器もちゃんと装備している(使用することはほとんどなかったが)。以前テレビで海上保安庁の船が外国の密漁船を取り締まる現場を見たことがあるが、相手の船を止めて職員が飛び移るというなかなか勇ましい場面が映っていた。先年の尖閣諸島に台湾・香港の運動家が「襲来」した際も、これを阻止するべく立ち回っている(これを香港の一部マスコミが「日本海軍出動」「大海戦」と騒いでいたのには笑った)
 そう考えてくると、海上保安庁と海上自衛隊の守備範囲の違いってなんなんだろうと思っちゃうところだ。一応「他国の侵略=戦争」なんて自体になったら自衛隊、ってところに決めてあるんだろうけど、日常的にはその線引きは曖昧なようだ。実際よくある「ナワバリ意識」の衝突で、海上保安庁と海上自衛隊って物凄く仲が悪いらしい(戦前からの伝統で警察と陸上自衛隊も仲が悪いらしい)。某テレビ番組でやっていたが、実際に双方に同じ名前の艦船がいくつもあるそうで(笑)お互い相手は存在しないものと扱う空気まであるとか。

 で、今回の騒動では意外にスムーズに海上保安庁と海上自衛隊の連携プレーが成立してしまった。しかしそれにしてもタイミングが良すぎることで逆に疑念まで呼んでしまっている。つまりちょうど今、国会で米軍との「防衛協力ガイドライン」法案の審議が行われている最中なのだ。政府与党はこの法案の今国会での成立を至上命題にしているし、米軍ももうそれを前提に訓練等を行っている始末だ。
 もちろん多くの人が指摘するように今回の事件は日本だけの問題であって直接的には米軍との関係はない。しかしどうもアッサリと自衛隊が出動し「実戦」しちゃったところ、そしてそれをうまく「安全保障上の大問題」として情報操作していった節が感じられる(そもそも前日に既に発見していたようだ)。だいたい爆撃までしてる必要があったんだろうか。どうせ捕まえられなかったわけだし…もっとも捕まえていたら余計話がややこしくなった気もするけど。「わざと逃がした説」もないわけじゃない。ただ危機感をあおったという所があるような気がする。
 聞いた話だと領海侵犯ぐらいはしょっちゅうあることだそうで、いつもは海上保安庁がそれに対処している。今回の件ではこれといった特別な点はみられないような気がするのだが…少なくともあの船の映像を見る限りは「軍隊」が出動しなければならない「重大な危機」だった気配はない。どうも国会審議もあるし統一地方選もあるしで、事を「大きくして見せた」という疑念を感じざるを得ないところだ。

 まぁ事が事だけに事件の正確な全貌はつかみづらい。明白に分かったのは「北朝鮮も案外早い船持ってるなー」という事だけですな(笑)。例の「潜水艇」に比べるとえらく高性能な気がするのだが。

★一年後のコメント★
この直後、結局「ガイドライン法」が成立。その後も北朝鮮はあれこれとネタを提供してくれることになりますが、ユーゴ空爆に比べるとこの一件の一周年記念の話って全然出てきませんね。大変重大な事だと思うんだけど。
 


99/3/26記

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