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1999年4月18日

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 ◆今週の記事



◆都知事選、石原氏が圧勝!
 
 更新の日程がスルズルと遅れているせいもあって、なんだか時期はずれの話題になってしまったようだが、話題の都知事選がとりあえず終わった。「ダンゴ状態」だの「再選挙必至」だのと騒いでいたのは何だったのだろう、と拍子抜けしてしまうほどの「石原慎太郎圧勝」という結果であった。出ればかなりの確率で勝つだろうとは思っていたが、それにしてもこれほどとは…

 「勝因」についてはいろんな人やマスコミがあーだこーだ言っているので僕が改めて言うことは余りない。ただ、僕はこの選挙、結局「人気投票」だったな、と感じている。実際政策で投じた人はあまりいないと思うのだが。「人気投票」だからこそ慎太郎圧勝という結果になったんじゃなかろうか。
 そりゃま、「強いリーダーシップを求めた」という分析もある程度納得するところもあるけど、前回の青島さん当選だって事情は一緒だもんね。たぶん前回青島さんに投じた人がかなり今回石原さんに流れていると思う。直木賞受賞者から芥川賞受賞者へ。タレント議員からタレント議員へ。なんだ、変わってないじゃんか、と思うところもあるのだが。四年後にどうなっているか楽しみ(笑)。

 石原慎太郎さんは確かに強気な「政策」を吠える人だけど、どうも選挙運動では「裕次郎の兄」と言ってみたり渡哲也以下「石原軍団」を率いたりと、やり方はかなりミーハー層に媚びた印象を受けるんだよな。ちょうど昨日テレビを見ていたら「彼は反米だけどやり方はアメリカンだね」とアメリカ人が言っていた。そういえばそうかも知れない。
 ま、とりあえず四年は知事をやるわけだから、お手並み拝見と言うほかないですな。僕は都民ではないが、東京にいる時間は多いので、せいぜい迷惑をかけないでもらいたいものだ。

◆一年後のコメント◆
で、くしくもこの一年後、「不法入国した三国人・外国人が震災時に騒擾するから自衛隊に治安出動してもらう」という発言が飛び出し、物議を醸します。ま、詳しくは2000年の4/16付け記事で。



  ◆朱鎔基ネタ・パート2

  前回でも取り上げた人物だが、またも中国・朱鎔基首相の話題。訪米を終えて帰国してからも何かと話題が続いている。

 まずアメリカの「タイム」が伝えたネタ。なんと朱鎔基首相のご先祖は、あの明朝初代皇帝・朱元璋だというのである!もちろん真実かどうかは不明なのだが、確かに姓は同じ(まぁ朱サンなんていくらでもいると思うが)。しかも幼くして両親を失い、その後苦学して一代で国のトップにのし上がった点も似ているといえば言える。また朱鎔基自身も演説などで意図的に朱元璋の故事を引き合いに出すことがあるという。
 それにしても僕がむしろ印象的だったのは、「タイム」が朱鎔基を語るときに朱元璋の話を持ち出したことだ。アメリカのマスコミがいかに朱鎔基に関心を抱いているかの証明でもあるが、そこで明朝皇帝という歴史上の人物を引き合いに出してくるあたり、どことなく「中国的」だなぁ、などと思ってしまったものである。記事書いた人も中国史通だったのかもしれない。現代中国を扱っていてもやはり「歴史の国・中国」を相手にする時は相当な歴史知識を必要とすると思われる。

 ついでながら香港で中国系政治家の人気投票を行ったところ、やはり朱鎔基がトップだったらしい(次点が天安門事件でホされた趙紫陽というのが面白い)。どういう政治的展望を持っているか不明な政治家だが、今や下手すると江沢民主席より世界の注目を浴びている気配すらある(下手すると危険かな、こういうの)。今回の訪米では実質的には得るところ無く帰ったわけだが、「人民日報」は「成功」として伝えているそうだ。まぁうなづけなくもない。



◆ステルス機を勘で撃墜!?

 毎週取り上げているような気がする「ユーゴ空爆」ネタ。いつ終わるんだか全くわからん状態になってしまい、残念ながらアレコレと悲惨なネタを提供してくれている。
 今週目立ったのはやはり「誤爆」問題。NATOの戦闘機が旅客列車やら難民を乗せたトラックやら難民収容所やらを次々と誤爆。多くの犠牲者を出してしまい、平謝り(って低姿勢でもないが)の状態を見せている。しかしもちろん「元はといえばミロシェビッチが悪いのだ!」というお決まりの文句は忘れていないが。そりゃ確かにセルビア・ユーゴ軍がコソボで相当酷いことをしているのは事実だが、空爆して事態が好転してるのかというと全然そんな様子はない。NATOの空爆によりセルビア市民はますますナショナリズムを高揚させミロシェビッチ支持率はいよいよ高まっているという。ユーゴのテレビでもNATOをナチスになぞらえて非難するキャンペーンも行われているそうだ。そういえば今回の攻撃にはドイツ軍も初参加しているし、セルビアは第二次大戦時、ナチスと壮絶なパルチザン闘争を行った歴史がある。

 そんな中、ユーゴ側の意気をますます高めのが、NATOのステルス爆撃機を撃墜したという「大戦果」だ。僕は軍事マニアでも無いので詳しくは知らないのだが、「ステルス爆撃機」ってのはアメリカが開発した、レーダーに引っかからないように設計された「見えない戦闘機」ともいうべきハイテクの極地の兵器だそうだ。何やらコウモリを連想させるデザインが不気味さをいっそう増している。こいつが当然ながらユーゴに出撃していたわけだが、どういうわけかこれが対空砲で撃墜されてしまったのである!
 その撃墜の仕方が意外にもほとんど手作業。イタリアの基地を出発した時間などから到着時刻を割り出して、手薄となるUターンするところを狙い撃ちにしたらしい(もっともこういう軍事話の常で正確なところはよく分からない)。ユーゴが「ステルス撃墜!」と高らかに報道したところ、NATOは当初これを否定。結局認めることとなったが、その辺にNATO側、アメリカ側のショックのほどがうかがえる。ユーゴのセルビア人は鼻高々なようで、記念のバッジやステッカーまで売り出されたらしい(笑)。そこには英語で「ごめんね、見えないとは知らなかったよ」というギャグまで印刷されている(爆笑)。

 土曜日だったか、アメリカのオルブライト国務長官がユーゴ国民に「反ミロシェビッチ」を訴えるラジオ演説を行った。それもセルビア語で。何でも彼女、子供の時セルビアに住んでいたことがあるのだそうだ(確かチェコからの亡命者とも聞いているが、どっちが先の話なのかよく分からない)。それにしてもアメリカ側の「あせり」にしか見えないな、これは。イラクでもおんなじような事をやっていたような気もするが、あちらのサダム君も健在ですしねぇ(笑)。



◆「ゴッドファーザー」は遠くなりにけり
 
 アメリカのイタリア系犯罪組織といえば元祖「マフィア」。シチリア系の移民の中から発生し(本国にも同様のものがあるわけだが)、アメリカの裏社会に強大な勢力として根を張ってきた。詳しく説明するよりは「ゴッドファーザー」三部作を初めとする一連のマフィア映画を見ていただいた方が良く理解できると思う(もちろんフィクションで誇張も多いが)。しかしその「ゴッドファーザー」の映画製作時点(72年)で、すでにシチリア系マフィア最盛期は過去のものとなっていたと言われ、黒人や中国系といった他のギャング集団に押されつつあるという。先日の新聞にその本当の終焉を示す記事が載っていた。

 ニューヨークに勢力を張っていた「ガンビーノ・ファミリー」は何と19世紀末にはすでに存在していたというマフィアの老舗にして悪名も高いファミリーだった。ところが現在の当主ジョン=ゴッティ=ジュニアは、今月の初めに行われた裁判で詐欺・贈賄の容疑を認めたばかりでなく「自分が犯罪組織の首領である」と明言してしまったのだった。なんでも「無罪は無理だから起訴事実を認めて刑期を短くしてもらおう」と弁護士と相談した上での弱気な戦略だったようだ。公判中もオドオドしっぱなしで傍聴席の母親から「背筋をしゃんと伸ばせ!」とお叱りの声が飛んだという(笑)。

 これまでマフィアのボスといえば、逮捕されて裁判にかけられても絶対に犯罪への関与を認めなかったものだ。悪名高き禁酒法時代のシカゴのアル=カポネだって犯罪の指揮者であることが丸分かりでも、証拠が無く警察は手が出せなかった(だから例の「アンタッチャブル」のように脱税容疑で逮捕したわけ)。また映画の話だが「ゴッドファーザーPART2」でも主人公のドン・コルレオーネが裁判にかけられるが、脅しによって証人が証言を翻し不起訴となるくだりがある。
 このガンビーノ・ファミリーの先代ジョン=ゴッティも同様で、過去三度起訴されたが脅迫や買収によって無罪を勝ち取ってきた強者だった。もっとも7年前ついに有罪となって終身刑となり現在服役している。それを継いだ息子(名前もそのまんまのジュニア(二世)である)はと言うと、父親とは対照的な凡庸な人物で、むしろ家族思いの良きパパという印象の人物らしい。彼が跡目を継いだ途端に配下にあった21の組織が半減したというから、マフィア界ではよくよく人望がなかったのだろう。
 だったら跡目を継がなきゃいいじゃないかとも思うのだが、不思議とイタリア系マフィアって実力よりも「血筋重視」の傾向があって、ボスは世襲というケースが多いようだ(日本のヤクザ界では世襲は少数派らしい)。ともかくこのマフィアとしては不肖の倅のためにガンビーノ・ファミリーも終焉の時を迎えているようだ。個人としてはいい人だと思うんだけどね。

 アメリカにおけるマフィアは、後発の移民であるイタリア人(シチリア人)が社会の最底辺で生きていくために自衛的組織として発生させてきたと言われている。今やイタリア系移民も地位が向上して社会の最底辺とは言い難いようで、さらに社会の底辺にいる黒人や中国系の「マフィア」に裏社会の地盤を奪われているのは必然の流れと言えるのだろう。本国イタリアでもマフィアは衰退傾向だという。まさに「ゴッドファーザー」は遠くなりにけり、だ。
 


99/4/18記

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