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1999年4月25日

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◆サルからヒトへ、ビックリ発見!
 
 
今週は「歴史」と呼ぶにはとてつもなく古い時代の話から。
 エチオピアの首都アディスアベバから北東へ250q離れた乾燥地帯から、約250万年前のものと思われる新種の人類化石が発見された。発見したのはアメリカ・日本・エチオピアの研究チームで、見つかった化石は6人分の頭部・脚・腕の骨だという。頭骨と歯の形状から未発見の新種人類と判断され、現地語で「驚き」を意味する「ガルヒ」をとって「アウストラロピテクス・ガルヒ」と命名された。「ビックリ南方猿人」とでも訳しましょうか(笑)。

 このビックリ猿人、腕はこれまで見つかった猿人と大差ないが、生意気にも脚は現代人並みに長いそうで、スタイルはなかなか良いらしい(?)。同じ地層から石器や馬の骨が見つかったため、道具を使用して肉食をしたと推測されている。もしそうなら道具使用の肉食の例としては最古のものになるという。それまでその最古は200万年前のホモ=ハビリスとされており、50万年ばかり遡ることになるようだ。

 これまでの化石人類の研究によると、最古の「猿人」として300〜400万年前の「アファール猿人」というのが確認されている。ここから200万年前のホモ=ハビリスに至るまでの間に現在の人類に至るホモ属(どうしても気になるよね、この名称)への分岐が起こったと考えられているわけだが、その間の「ミッシング・リンク(失われた輪)」を埋める化石が見つからなかった。今回の「ビックリ猿人」はアファール猿人の特徴を持ちつつホモ属への進化の特徴も見せており、うまい具合にその途中経過を見せた形となっているらしい。この研究チームにいる諏訪東大助教授によると「肉食になって栄養状態もよくなり、その後の脳の発達につながった可能性もある」とのこと。

 250万年…気が遠くなる話だが、確かにこれが人類史の最初の段階なのでありますね。その後いくら脳が発達したと言っても現世人類(ホモ・サピエンス・サピエンス)が出現したのがせいぜい5万年前。文明の発生がせいぜい1万年前。そこに至るまでに240万年以上の時間があるわけだ。僕らが日夜やってる「歴史」なんてものは人類史全体の1ページにもならない量なのである。いやはや、改めて現在の人類が異常な存在だというのがよく分かる。
 こう見てくると、世界中の人間のご先祖はみんなアフリカの猿人になるわけで、ついこの間まで一緒に住んでいた家族のようなもんなのである。文明を持ってからこっち、人種やら民族やら宗教やら国家やらで争ってばかりいるわけで、その壮大なアホらしさも浮かび上がってくる。
 …まぁ、だから歴史は面白い、とも言えるのだが。



  ◆「ネール=ガンジー王朝」は不滅か?

 さて、この「ネール=ガンジー王朝」って何のことかご存じだろうか。今どき「王朝」なんて言葉は本物の王室以外ではお隣北朝鮮ぐらいじゃないか、と思うところだけど、これ、現代インドの「王朝」なのである。独立後インドの首相は一つの家系から三人も出ているのだ。

 まず言わずと知れたインド独立の立て役者である初代・ネール(ネルー)。彼が獄中から娘にあてて書いた「父が子に語る世界史」は有名だが、この読者だった娘がインディラ=ガンジー首相。彼女はイギリスのサッチャーともども史上数少ない女性首相となったが、1984年に暗殺された。その後を引き継いだのがその息子のラジブ=ガンジー首相。彼もまた1991年に暗殺されている。
 親子三代で一国の首相を引き継ぐというのも世界的には異例だが(これだけ二世議員の多い日本ですら「親子」はまだ無い。唯一細川護煕首相は近衛文麿首相の孫だった例があるが)、そのうち二人が暗殺されているという、考えてみるととんでもない家系である。いずれもインドの大政党「国民会議派」の党首としてかつがれ、首相の座に着いている。

 ラジブ首相が暗殺されたとき、国民会議派は未亡人のソニア=ガンジー女史を後継者に立てようとした。ソニアさんはイタリア人でキリスト教徒。およそインドの首相になる人という印象はなかったのだが、国民会議派がただちにこの結論に達したというのがインドの凄いところだ。当初、ソニアさんは断固として拒否していたが、いつの間にやら国民会議派の党首におさまって現在に至っている。

 つい先日、インドのパジパイ政権は議会で信任決議を一票差(!)で否決されて退陣が決まり、今やインド政局は次期政権をめぐり混沌とした状態にある。核実験を強行するなどヒンドゥー主義的な姿勢が目立ったインド人民党中心のパジパイ連立政権の後、誰が政権を握るのか。ここにきて当然のように(?)国民会議派のリーダー、ソニア=ガンジーの名が最有力候補として挙がってきたのである。本人も意欲を見せており、連立政権を作るために左派共産党など他の政党に協力を呼びかけている。現時点ではまだまだ流動的な状態だが(パジパイ再登板という話もある)、「ソニア=ガンジー首相」誕生の可能性はかなり高くなっているようだ。実現すれば「王朝」の力がまた改めて証明されることになる。

 それにしても思うことだが、インドや東南アジアではこうした血縁による形での女性党首・女性首相の登板というケースが目立つような気がする。インドの隣ミャンマー(ビルマ)の民主活動家・アウンサン=スーチーさんだって父親が独立の英雄アウンサン将軍であることは無視できない影響力を持っている。日本でも亡き夫の地盤を引き継いで選挙に出馬する「未亡人候補」は結構あることだけど…さすがにいきなり党のトップになったりはしないもんね(その線で行けば田中真紀子さんはとっくに自民党党首だな)。それにしてもソニアさんはイタリア人だぜ…よくインドでこの話が通るもんだ、と思っていたらやはりヒンドゥー主義者からは反発があるらしい。下手するとそれこそ暗殺の危険もあるだろう。ほんとにソニアさん、よく引き受けたものだと感心する。
 現時点ではまだまだ流動的な情勢なので、この件については決着が付き次第続報を書いてみたい。
 



◆天然痘も不滅か?

 「天然痘」。この伝染病は歴史上何度となく流行し、人類の脅威となり続けてきた。日本史でもよく歴史上の有名人が「疱瘡」にかかったって話が出てくるよね。ご存じの通り、この病気はジェンナーによって開発された「種痘」によって、あらかじめ免疫をつけることで回避できるようになった。そして次第に世界中からこの病気の病原ウイルスは駆逐されていき、ついに1980年代になって地球上から天然痘の患者消滅がWHO(世界保健機関)によって確認された。今や種痘も行われなくなり、天然痘の脅威は完全に過去のものとなったのである。

 ところで。実は駆逐されたはずの天然痘のウィルスは、まだ研究用に保管されていたのだ。ロシアとアメリカの研究所に。何でかというと、万一天然痘が再発するという事態が起こった場合に、種痘のもととなる天然痘ウィルスが残っていなければ困ってしまうからだ。しかしWHOは天然痘の完全な消滅を宣言し、アメリカ・ロシア両国に研究用ウィルスの廃棄を命じた。これで天然痘は地上から永久に消える…ハズだったのだが、なんとアメリカ・ロシアの両国はウィルスの廃棄に消極的というか反対しているようなのだ。
 「もし天然痘が完全に滅亡していなかったら?」という表向きの理由はあるだろう。しかしどうも両国の本音は「軍事利用」というところに関心があるようなのだね。俗に言う「細菌戦」というやつだ。テロなどで使用された場合の対策という意味もあるだろうが、やはり自ら使うことがあるかもしれない、というところは絶対あると思う。細菌戦といえば日本軍の「731部隊」が有名だが、戦後アメリカはここの実験資料を回収した経緯もある。常に考えてはいると思うよ。かなり不気味な話ではある。



◆アメリカの高校は戦場より危険?
 
 この一週間、各マスコミでしつっこくやったネタなので、経過については今さら書かなくてもいいだろう。例のコロラド州の高校で起きた、生徒による銃乱射事件の話題だ。結局自殺した犯人二人も含め15人が犠牲となった。その後の捜査で大量の爆弾が学校内のあちこちで発見され、どうも学校を丸ごと縛はするぐらいのつもりでいたらしい。
 今世界の大ニュースは言うまでもなくNATOによるユーゴ空爆だが、この事件後アメリカ国民の関心は完全にこっちに行ってしまったとのこと。まぁそりゃそうだよな。自分の足下の話ですから。人が死んでいるという点では同じなんだけどね。
 ちなみにこの事件と同じ日、セルビアとアルバニアの正規軍同士の初の戦闘が行われていたが、こちらは負傷者1名のみ。学校の中の方が戦場より危険だったのである(…笑えん話だな)。

 注目されたのは犯人の少年達のネオナチ的傾向。インターネットの本人のHPに「4/20にビックリするようなことをやる」という予告めいた書き込みがああったそうで、この当日4/20というのがアドルフ=ヒトラーの110回目の誕生日なのだった(ということは来年で111年か)。その後彼らの自宅を調査したところ日記の中にその事がハッキリ記されていたと先ほどのニュースで聞いた。ただ、殺された人の構成を見ると「人種差別的動機」からこの事件を起こしたかどうかは少々疑問だ(黒人一名が犠牲となっている)。
 それにしてもアメリカでもあるんだな、ネオナチ「的」なものって、と改めて思う。右翼的にかぶれる欧米の少年はだいたいネオナチ的傾向を見せるみたいだ。日本でも無いわけではないし、どなたか評論家がおっしゃっていたように「先進国の病理」なのかも知れない。
 まぁもっともネオナチ的、右翼的であることと銃乱射事件を起こすこととは別問題って考え方もある。アメリカはここんとこやたらに似たようなニュースを聞くもんな。そもそも銃そのものをどうにか出来ないのか。例によってこの事件でアメリカ世論はまた銃論争で揺れている(ように見える)。またまたライフル協会会長のチャールトン=ヘストンが「警備員が多くいれば事件は防げた」といつものごとく吠えていたが…
 

★一年後のコメント★
最近じゃ小学生が銃撃つもんなぁ、アメリカは。いい加減「銃規制」の話が具体化しているようで、銃メーカーはとりあえず子供が使えないような銃(持ち主本人以外が触れると打てなくなるとか、子供には引き金が引けない仕掛けを作るらしい)の開発をするということで、ひとまず「第一歩」を踏み出したようだ。先は長い(^^; )
 


99/4/25記

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