ニュースな
1999年5月2日

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 ◆今週の記事



◆「昭和の日」をつくろう計画!?
 
 
 4月29日は「みどりの日」。だが現在の日本国民の大多数にとってこの日は「旧天皇誕生日」だろう。昭和天皇の誕生日であるこの日は彼が在位した62年間にわたって祝日とされ、戦後には5月3日の「憲法記念日」、5月5日の「こどもの日」とつながるいわゆる「ゴールデンウィーク(命名したのは映画業界とか)」の先頭を切る日として完全に定着した休日となっていた。1989年1月に昭和天皇が亡くなったとき、この日がどうなるのか気をもんだ国民も多かったことと思う。
 「天皇誕生日」自体は当然の如く現天皇の誕生日、12月23日に移動したが、結局4月29日も「みどりの日」という名に改められ、そのまま祝日として残されることとなった。いちおう「自然と緑を愛する日」ということになっているが、その由来も昭和天皇が自然を愛していたことにあり(この天皇の専攻は植物学であった)、実質的には「昭和天皇誕生日」の存続だったと言っていい。このことがこれといって物議を醸さず大きな反対も見られなかったのは、明らかにゴールデンウィークの一角が崩れることを恐れた国民の総意という奴があったのだろう(笑)。たぶん同様の理由で憲法記念日も動かさないでしょうな。

 先日新聞を見ていたら、この「みどりの日」を「昭和の日」として制定しようと言う運動があることを初めて知った。その趣旨は「昭和」という時代を日本人の誇りとして記憶していこうということのようである。大体見当はついたがほとんど右翼運動のノリで、昭和という時代を日本の国威高揚の時代として捉えているようだ。しかも20年代以前の「昭和」に大きくウェイトを置いている。
 「みどりの日」が明らかに「昭和天皇誕生日」であることは上記の通りなので、「みどりの日」なんていう胡散臭い名前よりは「昭和の日」のほうが意図が明白でスッキリするとは思う。しかし「昭和」という時代をどう見るかってのは人それぞれだろう。だいたい60年以上に及ぶ「昭和」には余りにもいろいろな顔がある。昭和20年の敗戦で大きく一つの時代の区切れがあることは動かせないところであるし。そもそも「昭和」って時代の定義付けは単に「昭和天皇」という一人の人間が即位していた期間、ってだけなんだしね。国民全員の祝日として「昭和の日」を置くのにはやはり異論が起こるところだろう。
 
 「建国記念の日」が戦前の「紀元節(神武天皇の即位日)」の復活であることは前にもここで取り上げたが、他にもこっそりと正体をぼかして生き残っている祝日がある。11月3日「文化の日」がこれだ。表向きの由来は「日本国憲法の公布日」ということになっているが(憲法記念日は施行日)、これ実は明治天皇の誕生日「明治節」なのである。当然戦前はこれが国民の祝日だったわけだが、これを残すために憲法公布日をわざとこの日にしたという話も聞いている(本来は「紀元節」に合わせる予定だったようだ)。
 「昭和の日」制定という運動が実を結ぶかどうかは不透明だが、やってる当人達は「第二の明治節」を狙ってるんだろうな。別にその時代に思いを馳せることは否定しないし、むしろ重要な事だとは思うのだが、何も天皇の誕生日に国民全員がそろって思いを馳せなくてもいいんじゃなかろうか。だいたい明治天皇も昭和天皇も個人としては大したことをやっていたわけじゃないんだしね。

★一年後のコメント★
これ、今国会でも法案が出されていて現実に「昭和の日」が誕生する可能性が高まっている。当初「昭和という時代をしのび」という趣旨が法案に盛り込まれていたが、「『しのび』では特定の個人を連想させる」という公明党側の意見で「昭和という時代を顧み」という形に変更になったらしい。まぁ特定の個人を連想するも何も昭和天皇の誕生日なんだから、多少文面を変えたところで。激動の昭和は確かにこれからも回顧され続ける時代になるだろうが、それならいっそ「元禄の日」とか「建武の日」とか「文禄の日」とか年号シリーズでどんどん祝日を増やすなんてのはどうですかね。



  ◆パレスティナ独立宣言、先送りか

   このゴールデンウィーク中の5月4は何の日でしょう。まぁ世界史の話題だとだいたい中国の「五.四運動」が出てきますね。で、今現在の世界の歴史的話題となると、この日はPLOとイスラエルで取り決めた「パレスチナ暫定自治」の期限切れの日なのである。

 ご存じの通りイスラエルはユダヤ人が第二次大戦後パレスチナに作った国家である。2000年前に彼らの先祖がここにいたわけで、ヨーロッパのユダヤ人問題究極の解決策として彼ら自身の国家をここに作ろうという「シオニズム運動」が実を結んだ結果であった。もちろんその実現にあたっては欧米、とくにアメリカの意向が働いたわけであるが。
 ただしそこにはパレスチナ人が長らく住み着いていた。「2000年前には住んでいた」といきなりやってく来たらそりゃ誰でも怒るってもんだ。これにイスラムの「聖戦」の発想が絡んできたりしてややこしくなったのが現在も不安定な中東事情につながっているわけ。アラファト議長率いるPLO(パレスチナ解放機構)はその名の通りイスラエルからパレスチナを解放するべくテロ・ゲリラ戦を展開し戦ってきた。
 この泥沼状態にようやく終息の方向が見えてきたのが1990年代に入ってからで、とりあえずアメリカなどの仲介で両者はお互いの存在を認め、和解にこぎつけた。長年の戦争にとりあえずの終止符を打ったアラファト議長とイスラエルのラビン首相はめでたくノーベル平和賞なんかも受けたりしたが、その後ラビン首相はユダヤ人の過激派に暗殺され、ネタニヤフという強硬派が首相になるなどどうも先行きの見通しが暗い情勢が現れてきている。

 1993年の「オスロ合意」によると1994年5月から5年間の「暫定期間」を設け、この間にイスラエルはガザ・ヨルダン川西岸などの占領地から随時撤兵し、お互いの領域の決定、ユダヤ人入植者の取り扱いなどを行うことになっていた。これらが全て済んだ後、アラファト議長のパレスチナ自治政府は晴れて「パレスチナ独立宣言」をこの5月4日に発表する予定だったのだ。
 しかし現実はうまくいかないもので、上記のような事情もあって交渉も進まず、おまけにイスラエルが選挙期間となり交渉自体が現在中断。どう考えても期限切れの5月4日に独立宣言が出来る見込みが立たなくなってしまったのである。ここでアメリカのクリントン大統領が登場(しかしまぁ世界あちこちに国を突っ込む国である)、アラファト議長に宣言延期を要請する書簡を送った。結局宣言はそのとおりに延期されるようだが、いちおう条件として諸般の問題を一年以内に解決させるとの約束がなされたらしい。

 つくづく前途多難だな。「独立宣言」なんてものを久々に聞けるかと思っていたのだが。いや、89年からこっち、やたら聞いているような気もするな。
 



◆気功集団、中南海に襲来!!

 さる4月25日、中国の首都北京の中枢・中南海に、なんと一万人もの集団が座り込みを始めた。あの89年の「天安門事件」以来の規模の団体行動である。今年がその「天安門事件」十周年にあたることから、当初中国政府ばかりでなく諸外国のマスコミも色めき立った。一時アメリカのマスコミなんかが「すわ、中国で政府の人権批判・民主化要求の大規模デモだ!」と例によって騒いでいたようである。しかし数日でこの話の妙な真相が明らかになってきた。

 この抗議の座り込みをした集団は「法輪功」という団体に所属していた。これの説明については各マスコミでまちまちだったが、どうもまとめると「気功愛好家集団」ということであるらしい。気功はまぁ耳にしている方も多いだろうが、中国流健康体術というか武術というか…一言では説明しにくい。単なる体操やマッサージみたいな奴から「超能力」みたいなことを唱えるものまで、様々なものが「気功」を名乗っているからなぁ。そんなこともあってそもそもがオカルトがかっているところもある。当初この「法輪功」は「新興宗教団体」と報じられていたが、実際やや仏教系的要素を含むようだ(だいたい名称がそうだよな)。もっともそれは中国政府の言い分で、この集団の指導者(教祖?)でアメリカにいる李洪志氏はアメリカのマスコミのインタビューに対し、「宗教団体」であることは否定しているそうな。李氏は東北部出身で92年から普及(布教?)活動を開始、支持者(信者?)を増やしてきたという。一説には一億人もの支持者がいるという(さすが中国!)。

 で、今度の抗議行動だけど、なんでもキッカケは天津のある雑誌の論文が「法輪功」を名指しで宗教団体として批判したことに反応したものらしい。それにしても大規模な反応なので、急速な拡大に対し何か政府による圧力がかかったのかもしれない。「法輪功」側は団体の公認・活動の自由などを求め、それに対し中国政府は「気功活動の自由は認めているが、こういう団体行動は困る」として応じたと伝えられる。しかし正直なところ政治の中枢・中南海まで一万人が押し掛けて抗議するという組織力・行動力には、政府も驚き脅威を感じたことだろう。

 私見だけど、僕はこれは「宗教団体」と言って良いと思う。どうもその普及・行動のパターンが中国史にたびたび登場する民間宗教団体のそれを思わせるからだ。太平道だとか白蓮教だとか義和団など、歴史を大きく動かした宗教は多い。とくに義和団なんか似ているような気がするなぁ。それもあって中国政府はかなり神経質になってるんじゃないかと思う。
 …それにしても教祖ご本人はアメリカ在住なんだねぇ。しっかり安全圏に逃げてるわけで、ますます厄介な存在と言うところ。

★一年後のコメント★
この法輪功の一件はその後一斉弾圧が行われ、今日も尾を引いてますね。今後の「史点」にも登場してきます。



◆どうも気になること。
 
  いま日本の問題でどうしても気になることがある。それでいて今ひとつ国民の話題に上ってない気がするのだ。それは何か、もちろん今国会で審議中の「日米防衛協力の指針=ガイドライン関連法案」というやつである。現時点では衆議院を通過し、あとは参議院の可決を待つばかりという状態。このまま大事がなければ今月中にはこの法案は成立する。

 そのわかりにくさから国民の大きな関心を読んでないわけだが、明らかにそういう情報操作をしてるんだよな、政府が。だって分かりやすくやったら国民投票にかけなきゃいけないぐらいの大事でっせ、これ。早い話が「アメリカが戦争をする際、日本の自衛隊はもちろん国民是全員がこれに全力をあげて協力します」という法律なのだ。いや、どう読んだってそういうこと。「周辺がどこまでか」とか「後方支援に限定だから」というのは実は些細な問題だ。そもそも今時の戦争に前線も後方もないのは常識だ。むしろ近代戦の発想では前線での戦闘よりも後方からの補給・支援の方が重要視される。そんなこたぁ当のアメリカが一番よく分かっているはずなのだ。つまりアメリカの世界戦略の中で東アジアににらみを利かせる(まぁ中国が最大の仮想敵だな)ため、日本をより強固な「軍事拠点」にしようということだ。分かりにくかったらアメリカの立場に自分を立ててみよう。そのメリットがよく分かるはずだ。

 で、これが一方の日本にどういうメリットがあるかというと…まぁ敢えていばよりいっそうアメリカの軍事力の庇護下におかれて一応の「安全」を保障してもらえる。だからよりいっそう在米アメリカ軍に「奉仕」しようというわけだ。自衛隊も「周辺」で軍事活動を行えるようになるから周辺国に日本の「にらみ」を強めることが出来る。「虎の威を狩る狐」という見事な例えが出来ますな。日本のトップに立つとそういう発想になりやすいところがあるようだ。

 「憲法九条」はこれで完全に無意味化するな。すでに自衛隊が出来た時点で死文化してしまったといえるけど。憲法改正は現実的にはまず出来ないから、こうやってズルズルと「既成事実」を作っていく訳だ。こういうことやるときに限って総選挙がない。もちろんそういう時を狙ってやるわけ。本音をハッキリぶちまけたら国民の反発を食う恐れがあるとやってる当事者もわかってるってことだ。戦争に協力するのは自衛隊だけではない。今度の「ガイドライン」には民間の協力も要請されている。もし「有事」となったら「敵」は相手の戦力を削ぐべく「後方」を攻撃するという手段は十分ありうる。というか今のユーゴ空爆を見ても分かるけど、橋だのテレビ局だの爆撃して経済に打撃を与える攻撃は現代戦争の常套手段だ。ミロシェビッチは死なないけどテレビ局の職員やバスの乗客が死んでるでしょ。東アジアが有事になったってアメリカ本土は危険が少ないからなぁ、アメリカもいい気なものだ。

 とまぁ、こういう法案なのだから国民投票を提案したいぐらいなのに、国会のありゃなんだい。自民・自由・公明で意見のすり合わせをして多数派工作、それはまだ良いとしてその議論を急ぐ理由が「小渕首相の訪米の手みやげにする」ためってんだもの。結局「手みやげ」にするために意見の分かれるところは棚上げしたり後回しにして衆院通過。どう見ても「手みやげ」にすることが最大目標だったとしか思えない。「贈答文化」の日本流と言えば日本流だが、いくらなんでも卑屈だよなぁ。不思議と「ナショナリスト」を称する人でこの法案に反対する意見も聞かないし(苦笑)。
 対外的に見ても東アジアからは警戒されるし、アメリカからはバカにされるだろうし。「島国根性」の「外交下手」は日本のお家芸か。

★一年後のコメント★
で、結局ガイドライン法は成立したんだよね。そして憲法改正論議は専門の憲法調査会が設置されて具体的に話が勧められようとしている。関連の出版も盛んだ(とくに改憲論に集中しているが)。最近よく耳にするようになったのは憲法の成立過程を問題にして、その正当性を疑問視し、「改正」ではなくいきなり「破棄」と主張する甲高い声。なんか焦って動いてる人がいるんとちがうか。
 


99/5/2記

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