ニュースな
1999年5月9日

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 ◆今週の記事



◆「誤爆」は続くよ、どこまでも…
 
 シャレにならなくなってきたな、ユーゴ情勢は。NATO軍の「誤爆」は当初大騒ぎだったが、あんまり続くもんで(笑)こっちも麻痺しかかっていた。ところがここ数日でほんとにシャレにならない「誤爆」がいくつか発生してしまった。

 まずNATO軍がどういうわけかブルガリアの首都ソフィアの民家を「誤爆」してしまった。幸い死者も出なかったしその後のことがあったものでこのニュースは霞んでしまったが、これもかなり酷い話なんだよね。もちろんブルガリアはNATOに攻撃されるいわれは全くない。それどころかブルガリア政府は将来のNATO加盟を目論んで(旧ソ連支配下にあった反動か、東欧諸国の政府はどうもNATO願望が強いらしい)、今回のユーゴ空爆に積極的に協力する姿勢を見せていたのだ。それでユーゴ空爆のためにNATO軍機がブルガリア上空を通過するのを喜んで許可していた。
 NATO軍機がブルガリア上空を飛んだこの日、ブルガリア政府は「これで我が国の安全は保障された!」と高らかに喜びの宣言を国民に放送した。そしてその日のうちに、その安全を保障してくれるハズのNATO軍機が自分の首都を「誤爆」してくれちゃったのである!ここまでくるとほとんどウケねらいとしか思えませんな(笑)。誤爆された民家に慌てた政府首脳がただちに殺到し、当の民家の住人が訳も分からず目を白黒させていたという、ほとんどコントみたいな場面が展開されたそうだ。NATOがただちに「誤爆」を認める声明を出したのに対し、ブルガリア政府がしばらくの間「調査中」と国民に放送し続けていたこともその慌てぶりを示している。
 しかしどうやったらソフィアを「誤爆」できるんだ?謎は深まる(笑)。

 で、そのことを「史点」のネタにしようと準備していたら、昨日、NATO軍がこともあろうにベオグラードの中国大使館を「誤爆」するという、とんでもないニュースが入ってきてしまった。最初聞いたとき、あまりの「話の出来過ぎ」に「わざとやったんと違うか?」と思っちゃったほどだ。おまけに今回の誤爆は中国人4人を殺害してしまった…。
 中国は今回のNATOによるユーゴ空爆に最も強く反対していた国だ。まぁ中国国内にも似たようなシチュエーションがあるということもあるし、唯一の超大国アメリカの暴走を許すまいとする政策的意図はあると思うが、確かにNATOの空爆って変なんですよ。どういう根拠があってやってるのか。国連だって批判していたはずである。だから中国の言い分は理屈は通ってると思う。その中国の人間を「誤爆」で殺しちゃったんだもん、これはもう大変である。NATOはすぐに「誤爆」を認め「遺憾の意」という政治用語を表した上、例によって「そもそも責任はミロシェビッチにある!」と責任転嫁をやってくれたが、内心NATO首脳は頭を抱えているところだと思う。それでなくても空爆によって情勢は泥沼化する一方なんだもんなぁ。とりあえず空爆続行が表明されたが、なんかメンツのためにやめるにやめらんなくなっちゃってる印象も受けますね。

 あと「誤爆」について思うことを。これまさに今回の戦争の妙なところだと思うのですよね。本来戦場では何が起こってもおかしくないのだ。なまじハイテク化してピンポイント爆撃が出来るモンだから「軍事施設だけ」を狙う空爆ができる…と湾岸戦争以来のアメリカ軍(とその子分達)が主張する訳だが、相次ぐ「誤爆」は「所詮人間のやること」を再確認させただけだった。
 見えないハズのステルス爆撃機が撃墜されたり、最強の戦闘ヘリと評判の「アパッチ」がすでに二機もただの事故で墜落して失われてしまった(この中にアメリカ初の戦死者が含まれている)。「ハイテク」もまだまだそんなところか。湾岸戦争の時も言われたことだが、なんだか兵器産業の新兵器実験場って感じもしてくるな、ホント。

◆一年後のコメント◆
「中国大使館誤爆事件」は一時米中関係を緊張させたように見えましたが(大衆レベルで表面的に盛り上がって居たような気もしたけど)、その後結局アメリカ側がわびを入れ賠償を行うという形で決着しました。その後も米中間は相変わらずギクシャクしてるようですが、アメリカ国内でも中国国内でも相手の扱いについて両極端な意見があるようですな。
 それとこの件で気になるのはやはり「陰謀説」。ちょっと前の「史点」にも書きましたが、この時の爆撃だけCIAが標的を定めたらしいんですね。責任者は罰せられてるけど…



  ◆そこに山があるから…

   一転して俗界を離れた世界のお話。今週のニュースで何やら「歴史のミステリー」を感じさせてくれたものといえば、これだろう。なぜ山に登るか、という問いに「そこに(山が)あるから」という名セリフで答えた(と言われる)伝説的登山家・マロリーの遺体がエベレスト山頂付近で発見された。彼は例の名セリフを吐いた直後にエベレストに登り、そのまま消息を絶っていたのだが、それはなんと1924年のお話。75年も前の話である!さすがは海抜8000mの世界、遺体も残ってるもんなんですねぇ、とまずは感心してしまった。同じ頃の人の遺体というとロシア革命のレーニンさんのも残ってるが…(笑)。

 またさらに驚いたのは(その筋の人には結構知られてたんだろうけど)、これを発見した登山隊は最初からマロリーの遺体を発見するべくエベレストに向かったものだったということ。どうやら前から「遺体がある」という噂があったそうなのだ。いつだったかの中国の探険隊員が「英国人の遺体があった」と報告していたが、この当人がその直後に行方不明になってしまったため確認がとれなかったものらしい。その後もいくつか情報があり、このたび最初から「捜索」を目的に探険隊が組まれた次第だそうだ。そして見事に発見。服や所持品からマロリー本人と確認された。さすがに回収はせずその場に埋葬したそうだが。

 で、この「発見」で前々から噂されていた議論が再燃した。「マロリーはエベレスト登頂に成功したのだろうか?」という登山史上のミステリーだ。公式にはエベレスト初登頂は1953年のヒラリーとテンジンによるものとされる。しかし一方でマロリーがその20年近く前に登頂に成功していた可能性も指摘されている。僕は登山関係は詳しくもないのでこの辺はもう聞いた話をそのまま並べるだけだが、何でも難所である「第二ポイント」をマロリーが通過しているところを、この探険隊のメンバーが下のキャンプから目撃していたのだそうだ。実際に登った人達の多くは「当時の技術では無理」と推測しているが、こればっかりはどちらにせよ確証がない。今回の調査で期待されたのが「写真はないか?」ということだった。カメラを持参していたはずなので登頂していたなら写真を撮っているはずなのだ。しかし依然カメラは未発見。マロリーに同行していたもう一人が持っている可能性があるが、こちらの遺体がまだ見つかってないのだ。結局真相は分からずじまい。

 ヒラリー本人は「どんな事実が出てこようと受け入れる」とコメントしていたが、マロリーの遺族は「生還しなければ登頂成功とは言えない」という趣旨のコメントをしていた。確かにそれもそうだな。



◆モンゴル買収の決め手とは…!

 前記の二つの話題は結構長く書けたんだけど、今週はあとはネタ枯れですね。もう一つ歴史と絡められる話題が見つからなかった。そこで小ネタを。

 最近は騒がれなくなってしまったが、「オリンピック招致買収疑惑」の話題である。といっても騒動の発端となったソルトレークシティではない。その次の夏期オリンピックが開かれるシドニーにまつわる話である。もうだいたい判明しているが、シドニーも招致に当たって相当な運動を行ってIOC委員の票をかき集めていた(最大のライバルは北京だった)。その記事を読んでいるうちに僕の目が点となったのは以下のような話である。

 中国に駐在する某オーストラリア外交官が、シドニー招致委員に「モンゴルの委員は羊の肉をプレゼントすればシドニー支持に回る」と助言していた。

 一読、思わず爆笑。結果がどうだったかは知らないが、ホントにモンゴル人に羊の肉の贈賄は効くのであろうか。確かにモンゴルでは賓客をもてなす最高級の食事で羊を使うような気はしたが…それをプレゼントするぐらいで買収されるもんだろうか。それを大まじめに助言している外交官も凄い。東洋の歴史・習慣に詳しい人ではあったのかもしれない。
 ところでやっぱり贈賄に使用したのはオーストラリアの羊肉なんだろうか?そんなことしたらかえって逆効果のような気もするな(笑)。



◆パナマに女性大統領出現
 
 よく考えると大きな話題のはずなのだが、どうにも材料が少ないので小ネタ扱いとなってしまった。5月2日に運河で知られる(逆に言えばそれ以外に目立つところがない)中米の国パナマで大統領選が行われ、野党「アルヌルフィスタ党」を率いる女性候補・ミレニヤ=モスコソさん(52)が当選を果たした。ライバルのトリホス候補を小差でかわしての逆転勝利とのこと。もちろん同国初の女性大統領となる。実は今年末にパナマ運河もアメリカから全面返還されることになっており(つまりそれまであの運河はアメリカが握っていたのだ)、「変革の年」を印象づける形となった。

 ところでこの選挙戦、調べてみたらなかなか因縁の対決なのだ。当選したミレニヤさんは過去に大統領を三度も務めたアルヌルフォ=アリアス元大統領の未亡人である。「へー、その大統領ってすいぶん早死にしたんだね」と思うなかれ。結婚時ミレニヤさんは27歳、夫のアリアス氏は73歳だったのだ(!!!!)。どういう縁かは知らないが、凄いカップルである。
 アリアス大統領は1968年に軍の実力者トリホス将軍にクーデターを起こされ政権を追われた。「ということは今回はそのトリホスを破って仇討ちをしたわけか」と思いたいところなのだが、今回の選挙で敗れたトリホス氏はそのクーデターを起こした将軍トリホスの息子さんである。夫と父の戦いを未亡人と息子が第二ラウンドで戦っている構図ですな。
 なんでも息子のトリホス氏も軍の実力者だそうで、下手すると「第三ラウンド」がありうる構図だな。パナマ運河のこともあるし、アメリカがそう簡単に引っ込むかな〜とかいろいろとあらぬ予想をしてしまうのだが、杞憂であることを祈ろう。
 


99/5/9記

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