ニュースな
1999年5月16日

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 ◆今週の記事



◆ユーゴ空爆あれこれ
 
 先週は中国大使館誤爆というとんでもない事態があり、この欄でもそれをとりあげた。この事件はその後もいろいろな波紋を世界中に広げたが、結局のところNATOの空爆は続行している。そう、そして「誤爆」も続行しているのだ。昨日なんかNATO軍がコソボの村を空爆して百数十人ものアルバニア系住民を殺害してしまった。おいおい、NATOはいったい誰のために空爆をしているんだ?
 今回はもうNATOも「誤爆」という表現を使わなかった。「狙ったのはあくまで軍事施設であり、それに巻き込まれて住民が死んだとすればそれは遺憾だ」などと表現しているようだ。もう開き直ってきたな。「空爆で人が死ぬのは当たり前だ」というわけだ。僕も前から書いているが、確かに「誤爆」という言葉自体が戦争においては本来ナンセンスである。しかしそもそもNATOはミロシェビッチの「民族浄化」に対し「人道上の観点」から空爆を開始したんじゃなかったのか?それでいて目的達成のために罪もない人を殺すのは「不可抗力」だとでも言うんかいな(そういや今朝のニュースじゃ「ユーゴ軍は”人間の盾”を使った!」などと言っていたな)
 「人道」って何なんだ、そもそも。きれい事を言うのもたいがいにして欲しい。

 先週クリントン大統領が面白いことを言っていた。「我が国も民族浄化をやった歴史がある。だからその反省からユーゴを空爆するのだ」とかいう趣旨だった。クリントンの言う「民族浄化の歴史」とはアメリカの西部発展時におけるインディアン(ネイティブ・アメリカン)への迫害を指す。これ自体はごもっとも。自国の歴史の暗部をちゃんと反省している点は評価して良いだろう。
 しかし現在のユーゴ情勢は歴史的にもそう簡単な話じゃないような気がするのだが。どうも僕はNATO諸国の言う「セルビア人による民族浄化」「ミロシェビッチは悪者の独裁者」といった主張を額面通り受け取ることが出来ない。だいたいアメリカはついこの間までアルバニア人の「コソボ解放軍」を「麻薬売買のテログループ」扱いしていたんだぜ!実際、コソボのアルバニア系住民の間でも和平を望む住民代表グループがちゃんとあり、武力闘争路線の「解放軍」と対立すらしている。「解放軍」がアルバニア系住民の唯一の代表と思ってはいけないのだ。ミロシェビッチ大統領についてもヒトラーだのフセインだのといった悪者呼ばわりが行われているが、空爆が始まる以前にそう言う声はあまり無かったような気がするぞ(あの悲惨なユーゴ分裂・内戦時にNATOが空爆したか?)。どうもNATO諸国側の報道には自分に都合の良い観点からの偏りが感じられてならない。そういや大使館爆撃に中国が強く抗議すると、アメリカの各マスコミは人権問題などで中国叩きの論陣を張ったとか聞く(おい、あっちは被害者だぞ!)

 とまぁ疑問に任せてあれこれ書いたが、どうも分からない点がある。なんでNATO、ひいてはアメリカがここまでユーゴ空爆・ミロシェビッチ打倒にこだわるのか。「きれい事」の言い分はもちろん信じられない。何か大きな利益があるんだろうか。アメリカの世界戦略ってのはもちろんだが、ユーゴなんてそう世界的に影響力があるとも思えない。これをキッカケに「世界の警察」の行動範囲を広げようということなのかな。
…「人道のため」を理由に攻撃が出来るんなら、どこだって攻撃可能だよなぁ…。今ちょうど日本の国会で米軍への支援増強の法案が成立しつつあるが、これって偶然とは思えなくなってくる。いきなり「北朝鮮空爆!」って事態もありうるんだよな、テポドンとやらが飛んでくる前に(汗)。



  ◆借金返済は潜水艦で?

   産経新聞で読んだ記事だったと思うが、お隣韓国に関するちょっと面白い話。なんでもあの韓国がかつて旧ソ連に対して総額17億ドルの借款をしていたのだそうだ。経済危機にある今から考えると大したもんである。で、その借金はソ連崩壊後ロシアが引き継いでいる訳なのだが、そのロシアもご存じの通りの経済状態だから借金を返すどころではない。そこでこのたびロシアからとんでもない提案があった。「借金返済の代わりに海軍の潜水艦を一隻あげるけど、どう?」というものだ(!)。

 ロシアがくれるというのは中型のキロ級潜水艦というやつで製造費は4億ドルぐらいのしろものらしい。17億に対して4億とはかなりの値引きであるが、一応この品物はレッキとした高性能の重要兵器。自国の軍事力を割いて友好国とは必ずしも言い難い国にそのまんま提供しようと言うわけで、それなりに「太っ腹」と言えなくもない。実は借金苦状態のロシア、これまでにも艦船や戦車といった軍の兵器を借金のかたに切り売りしていたのだそうだ(泣けてくるなぁ)。ついに潜水艦にまでそれが及んだわけだ。しかもついこの前まで「敵陣営」にいた国にそれを提供しようという次第。

 で、提供される韓国側の対応だが、これが「困惑」の体のようだ。「くれるというものはもらっとけば。借金踏み倒されるよりはいいし」とかいう意見もある一方で「いや、そんなもんもらっても」という反対もあるようだ。特にもらったら使用する当事者となる海軍に反対意見が多いらしい。「そもそも「仮想敵国」の兵器を喜んでもらっていいんかいな」「親分のアメリカが何を言ってくるか」といった政治的な意見もあるが、「だいたいロシア製の兵器じゃ性能に不安がある(!)」「故障したとき修理の部品がない」「海軍の中の異物となって統一がとれなくなる」といった兵器としての使用面での疑問点も上がっているそうな。

 まぁ「どうでもお好きなように」としか言いようがないが(笑)、こちらは何とも平和な話ともいえる。東西冷戦は遠くなったなぁ…しかし戦争という現象だけはなかなか無くならないようだ。



◆スパイ業界も不況かな?

 こちらも思わず笑っちゃった話題。イギリス情報部MI6といえばかの「007」も所属していることで有名だが、このたびここの元情報部員がインターネットでMI6の極秘情報を暴露してしまい、騒ぎになったのだ。

 東西冷戦も終結し、スパイも仕事の種が減ったようで(「007」シリーズも毎回「敵づくり」に苦労してるもんな)MI6もリストラを迫られていたようだ。そこでクビにされた情報部員が逆恨みし、まずは暴露本の執筆し・出版を計画した。しかしこれは「公務員の守秘義務違反」に問われ(当然だよな)挫折。そこでこの元情報部員は国外へ逃亡、インターネットによる情報暴露に挑戦する。この辺は報道でもあまり詳しく出ていないので詳細な経緯は不明だが、それこそスパイ小説さながらの追いかけっこが展開されたらしい(追ったのもやはり情報部員なのかな?)。結局この元情報部員はアメリカへ逃亡、そこから各国に潜伏するMI6の情報部員の情報など、それこそMI6には命取りになりかねない極秘情報をインターネットを通じて発信してしまった。話によると慌てたMI6は各国の潜伏情報部員を生命保護のため帰国させたとか何とか。

 その後のことは知らないが、よく言われるようにインターネットは世界を股にかけてしまうため一国家の法律の枠では収まりきらない性格を持つ。だからアメリカから情報を暴露したこの元情報部員は少なくともその行為自体でイギリスの法律で裁かれることはないんじゃないかと思う(素人考えだが)。
 それにしてもここ数年のインターネットの発達はいろんなところに急速に影響を及ぼしてきた。既製のマスコミを越える情報が溢れ、個人が勝手に情報を発信してしまう。それこそスパイもやりにくい時代だろう。

 ついでだが国外の情報を収集するのがMI6なら、イギリス国内の情報を扱うのはMI5。こちらは先日新聞に募集広告出して話題になりましたね(笑)。



◆中国デモは迫力あるなぁ
 
 なんか呑気なタイトルをつけて申し訳ない。しかしこれがあのデモを見た素直な感想だ。ちったぁ中国史に絡んでる者としていろいろと思いを馳せる光景だった。もう沈静化しちゃったようなので勝手なことを書かせてもらおう。

 ご存じの通り、キッカケはNATO空軍によるベオグラードの中国大使館「誤爆」だった。まぁ普通そんなことをされれば誰でも怒る。仮に日本大使館が誤爆されて死者が出たりしたら日本でも批判やデモが起こっただろう。しかし中国は何と言っても今回の空爆に最も批判的だった国だ。その国の大使館が爆撃され死者が出たのだ、ちょっとやそっとの怒りでは済まないはず。前にも書いたが「故意にやったに違いない!」と中国国民が信じるのも無理からぬところだ(…実は一週間たって僕も何となく「あるいは」と思い始めているのだが)

 で、学生を中心とするデモはとにかく盛大かつ迫力あるものとなった。アメリカ国旗や1ドル札(わははは…!)を焼いたり、「打倒美国帝国主義!」なんて文革以前かと思うようなプラカードまで登場した(笑)。デモ隊はアメリカ大使館を取り囲んで卵や石を投げ込み、一部には乱入して取り押さえられる人までいた。あれを見て「中国人の怒りは凄いなぁ、やはり反米感情が強いのだな」と思った人は多いだろうが、僕は本音を言えば「ずいぶん大人しいもんだ」と思ったものだ。歴史的に見ると中国の大衆運動って下手すると人が大勢死にますからね、ずいぶん抑制されたデモだったというのが僕の印象だ。それに一見過激になるのは中国人の特長なんじゃないかな。日本人は何かあると「横並び」になりがちだが中国人は「横並びより自分は一歩前へ」と突き進む傾向があるように僕は受け止めている。一部が大使館内に乱入したり、ケンタッキーを破壊したり、エスカレートしてドイツ領事館や日本人留学生にまで攻撃を行ったのもそれがあったんじゃないかと思っている(しかしやっぱり中国人も日本はアメリカの子分と思ってるんだな。まぁ正解だが)

 今「大衆運動」と書いたが、ここんとこの報道では「このデモは中国政府がやらせている」という表現が目に付いた(特にアメリカ系報道)。僕はあまりそうは思っていない。あれは「天安門」のときと同様、学生などの自然発生的なものだったと思う。もちろんデモ活動を政府が「大目に見た」事実はあると思うが…。中国の大衆運動って「暴走」する可能性もあるので(中国の歴史を見て欲しい)、むしろ中国指導部はこれを押さえてコントロールするのに知恵を絞ったんじゃないかな。「天安門」以来学生達にたまっている政治欲求を程良く「ガス抜き」しようとした、ってなところだと受け止めている。一歩間違えると中国指導部に攻撃の刃が向かってこないとも限らないしね。
 


99/5/16記

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