ニュースな
1999年5月23日

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 ◆今週の記事



◆またユーゴ情勢あれこれ。
 
 なんかもう毎週このネタが書けるぐらい情報がいろいろと出てくる。今週はいろんな話題をいっぺんに載っけてみよう。

 まずはインターネットの話題だ。アメリカ国務省のルービン報道官(どうでもいいけど名前だけはすっかり覚えちゃったな、この人)は記者会見で「ユーゴスラビアへのインターネットのアクセスを制限しない」と明言した。はて、そもそもアメリカがユーゴのインターネットアクセスをあれこれ操作できるのであろうか?実はユーゴスラビアのインターネットは地上の電話網ともども、アメリカの通信衛星オリオンを利用していたのである!なるほど、アメリカがその気になればユーゴのインターネットを全て使用不可能にすることもできるわけだ。

 最近いろんな所で見聞きする話だが、今度の戦争ではインターネットが大活躍している。空爆しているNATOはもちろん、ユーゴ政府、ユーゴ国内の反政府組織、現地に入っている報道関係者、そして空爆にさらされているユーゴ市民までがインターネットで世界から情報を入手し、あるいは自ら情報を世界へと発信している。先日テレビで見ていて面白かったのがユーゴ市民のネット利用の状況だ。そこに出てきた大学生は自宅のパソコンからネットでNATO本部のサイトに入って情報を入手、さらに毎日のようにNATO関係諸国の機関のサイトへ空爆への抗議メールを送り続けているという。
 ユーゴ側にとってもNATOサイドに立つ国にとってもお互いに草の根レベルの情報が世界を駆けめぐり、多角的な視点から情勢を知ることが可能となった。これがネット時代か、と思わせるところなのだが…アメリカ政府もちょっと考えているところらしいのだ。ユーゴ側からの主張・情報が世界に流れるのはまずい、と思う向きが出てくるのも無理はないだろう。そこでユーゴのネット利用を元から断ってしまおうという意見がでてくるわけだ。
 で、このたびは一応「元から断つ」は見送られたわけだけど、その理由は「知る権利を守ろう」なんてキレイ事ではないようだ。アメリカ側もインターネットを利用してユーゴ国内への広報活動やら反政府運動扇動やらをやろうという魂胆があるようなのだ。

 ユーゴ関連では今週いくつか有名人のコメントがあった。
 一つは前ルーマニア大統領のコメントだ。彼は「NATOの空爆はソ連のチェコ介入と同じだ」と断言した。「人道と言うが、自分の価値観を押し付けるという点ではソ連の武力介入と全く同じだ」という。僕も至言だと思う。ルーマニアは長らくソ連の影響下にあって苦労した過去があり、現在NATO、EUへの加盟を模索している。こういう国の元首脳が言った台詞だ。重く受け止めたい。
 もう一つはロシアの映画監督・ニキータ=ミハルコフのコメント。この人については以前本欄でも取り上げたことがあるが、実はロシア次期大統領の有力候補だったりする。彼が自作を引っさげてカンヌ映画祭に乗り込んでくると、さっそく政治向きの質問が飛んだ。ミハルコフ監督は政治的発言はなるべく避けていたが、ぽろっと「戦争してる一方はゲーム感覚で戦っている。アメリカ人は自国の大地に穴を掘って戦ったことはないからな」とだけ漏らした。言われてみればその通り。第一次大戦からこっち、自国を戦場にしてない主要国はアメリカぐらいのものだ。ロシアは第二次大戦時は大変な犠牲(二千万人とも言われる)を払ったからなぁ…

 他の話題といえば、イタリア議会の下院がなんとNATOによるユーゴ空爆停止の決議を可決してしまった。イタリアは今回の空爆の前線として基地をNATO軍に提供している立場だ。一応「平和憲法」を持つ身なので(軍隊は持ってるけど日本の9条と似た侵略戦争否定の内容がある)自ら軍隊は出していないのだが、今回の空爆に「貢献」している国であるには違いない。しかもユーゴはまさに隣国、戦場は目と鼻の先だ。イタリアが直接戦っているわけではないのだが「片棒かついで」いるには違いない。そんなわけでこんな決議がなされたのだろう。もちろんNATOに対して拘束力があるわけではないが…

 NATO側の話ばかりが出てくるが、一方の当事者・ユーゴ(セルビア)側からも今週は新展開が飛び出してきた。さすがにここへきてユーゴ国内にも厭戦気分が高まってきたようなのだ。
 空爆開始以降、ユーゴ国内ではかえってセルビア民族意識が盛り上がりミロシェビッチ大統領への支持も高まって国内の結束力が強まっていると伝えられてきた。しかし今週の報道によれば予備役兵動員に反対する兵士の親たちによる抗議集会が開かれたり、コソボに展開するユーゴ軍から大量の兵士脱走があったという。前者の集会について地元の守備隊も無視でき「集会の扇動者は国家の防衛能力を阻害する反逆者だ」との声明を出したそうな。「敵対諸国の謀略」との報道も一部でなされているようである。

 しかしまぁ毎週これのネタを書いているわけだが、そろそろヤになってきたぞ。いい加減止めたらどうなんだ。どうもお互いメンツだけで続けているような気もする。誰か止めに入れないもんかな…って、これを考えると東西冷戦時って案外平和だったって気もしてきたな(暴論だとは思うが)。



  ◆ソニア・ガンジー女史、辞意表明!

 先月このコーナーで「ネルー・ガンジー王朝は不滅か?」という小文を書き、そこでインド国民会議派の総裁が故・ラジブ=ガンジー首相の未亡人ソニアさんであることに触れた。ひょっとすると彼女がインド首相になる可能性もあり、今後に注目、とか書いたはずだ。で、注目してたらソニアさん、とうとう総裁を辞任する意向を表明してしまった。

 右派・インド人民党のパジパイ首相が信任を否決され、今インドの政局は流動化している。そんな状況のなか多数野党の国民会議派の総裁であり、かの「ネルー=ガンジー王朝」に連なるソニア女史に多数の国民の期待が集まった。ソニアさんは確かにラジブ首相の妻だが、イタリア人のキリスト教徒。「インドの人達って家系が第一で人種や宗教は気にしないのかな?」などと興味深く見ていたのだが、やはりここへ来て彼女への攻撃が始まったわけだ。

 インド人民党は総選挙に向けて露骨にソニア女史攻撃をやってるらしい。「外国人のインド占領を許すな!」というわけだ。まぁこれはもともと民族主義政党が言うところであるから無理もないが、国民会議派の長老シャラド・パワール氏らまでがソニアさんがインド人ではないことを理由に批判を始めてしまった。その声明によると「歴史あるインドを率いるのはインド生まれでないと不可能。我々はあなたに感謝しているが、『首相は生まれながらのインド人に限る』と憲法を改正するべきだ」とのこと。だったら最初から総裁にかつぐなよ、という気がするのだが(ラジブ首相暗殺直後、ソニア女史は要請を拒否していたぐらいだ)。なんか外国人横綱否定論者と同じものを感じてしまう発言だ。
 実際、これでソニアさんはキレちゃって辞意表明となったわけ。ニューデリーのソニアさんの自宅には支持者がつめかけ、「復帰」を呼びかけているという。ソニアさんの「ガンジー王朝」の名を利用したい会議派の政治家達も復帰を望んでいると言うが…どうなることやら。



◆怒る中国!?欧米語は使うな!?

 このところ中国国内には怒ってる人が多いようだ。もちろんキッカケは先日のNATO軍による中国大使館「誤爆」の一件である。中国国内では「あれは誤爆じゃない、故意だ!」との声が強いようで(僕は何とも言えんなぁ、これは。そのような気もしなくはないが、いくらなんでも…と思うところ)、先日の大規模デモや各国大使館への投石・乱入騒ぎとなった。とりあえずそういった動きは沈静化したみたいなんだけど、この「怒り」の矛先は色んな所に現れてきた。

 まず香港へのアメリカ艦船の入港を禁止した。僕なぞはこれを聞いたとき「へぇ、アメリカ艦船が中国領の香港に入港できてたんだ」などと思ってしまったものだが。なんでも香港返還の際の協定でアメリカ艦船の香港寄港は従来通りということになっていたらしい。今回の入港禁止措置は明らかに「誤爆」に対する「報復」だろうけど、ちょっと的を外している気もしなくはないな。まぁ「とりあえず思いついた報復行動」という印象を受ける。前にも書いたけど今度の一件での中国政府の反応は僕に言わせれば驚くほど冷静で、かつ戦略的だ。どうアメリカに対してアクションを起こしていくか考えてるところなんじゃないかな?

 ただこの国の常なのか、エスカレートする連中も出てくる。中国南部の広州では「欧米語の建物名禁止令」という妙ちきりんなものが出てしまった。「マンハッタン広場」だの「モンテカルロ山荘」(笑)だの欧米の地名をとった建物が多いそうで(日本はもっと凄いが)中にはただの商店のクセに「世界貿易ビル」などと名乗る建物もあるという(朝日新聞による)。こうした建物名は「植民地主義的で欧米崇拝である」との理由で中国風のものに統一せいというお達しが出たのである。何やら日本の戦時中の「敵性語禁止」を連想させる話だ。もっとも市の当局者は「前々から検討していたこと」として今回のNATO空爆との関係は否定してるけどね。

 怒る、といえば最近李鵬・全人代議長の発言が最近注目を集めている。WTO加盟に関して朱首相らがアメリカに譲歩しすぎるとして批判的な発言を始めたのだ。中国国内にも当然様々な意見があり政治闘争の構図があるわけで、今回の空爆騒ぎは中国国内の権力闘争にも飛び火しかねない部分が出てきたようだ。まさかそれを狙って「誤爆」したんじゃあるまいな…(^^; )

◆一年後のコメント◆
つい先日、中国はEU諸国との交渉で同意に達し、いよいよWTO年内加盟を実現させつつある。今こうやって読んでいてもたった1年前にはこんな話を書いていたんだなぁと思うことしきり。



◆国会って何をやるところだっけ?
 
 今度の国会、いろんな意味で日本の議会政治の風土をよく示しているような気がする。前にも書いたことだが、日米の防衛協力の指針、俗に言う「ガイドライン法案」「アメリカへの手みやげ」にするために(やってる本人達がそう言うんだもんな)重大な問題の定義をほったらかしにしたまま衆議院を通過、近日中に参議院も通過して見事に成立してしまう。それでいて国民の大半はこの法律の重大性に全く関心を持っていないらしいところが恐ろしい。というか関心を持たれないうちに大急ぎで国会を通してしまおうという政府の意図があったとも言えるが…わざと話を分かりにくくしていたような気がするんだよな。
 この法案は自民・自由・公明の三党の賛成によって可決するわけだが、その当事者の一人・自由党の小沢一郎党首は雑誌で「これは日本が戦争に参加する法案なんだ」とずばり言っているのだ(それで「ごまかすんじゃない」と政府を批判する小沢さんも理解しにくい人物だが)。だったらそういう話を早く堂々と国民に向けて話さんかい!と言いたい。それを言わないって事はハッキリ言ったら国民の反対を受けると思っているってことだ。
 どうも日本の政治って「国民には知らしめず、寄らしめよ」というのを地でいくものらしい。だいたい重大なことを決める時は総選挙がない。そういうときのドサクサに紛れてアレコレ重要事項を決めてしまおうとする。だいたいマスコミの反応も遅い。報道が取り上げて「問題があるのでは?」などと言い出すのは、その法律の成立がほぼ確実になってからだ。マスコミに「分かりにくい話は客を呼ばない」という意識が働いているとしか思えない。先週あたりからテレビなどで「盗聴法案」が今国会で審議されているとか急に騒ぎ出したが、もうこの法案も自民・自由・公明の連携で成立が確実視されているのだ。そんなに問題ならもっと早く騒がんかい!と言いたいところ。もっとも政府側も事前に根回しをして(日本人の得意技だな)成立確実になってから動きだすところもあるわけだが。

 「日の丸・君が代」問題も同様。どうやら今国会での成立は見送られるようだが、ここでも国民全体に問おうという姿勢が感じられない。国会議員ってのは「国民から選ばれた代表」じゃなかったっけ?ところがどうも国会議員の大半、そしてそれを送り出したはずの国民の大半にもその意識は薄いようだ。テレビの街角インタビューなどでしたり顔で「政治家が悪い」「政治家は信用できない」とか言う奴が良くいるが、見るたびに「それを選んでるのは誰じゃい!?」と僕はツッコミを入れてしまう。だから「政治不信」だの「無党派」だの気取る人を僕は素直に信用出来ないんだよな。
 最近では「民主主義の限界」だの「民主主義を見直そう」だの言う人も出てきた。「日本にいつホントの民主主義があった?」と僕は言いたい。政治家は国民不在の政治をし、国民もまた政治に無関心か文句だけ言う。どーもやなコースへ歴史は進んでいるような気がする。繰り返しだけは勘弁してほしいんだが。

◆一年後のコメント◆
ここに上がっている「ガイドライン法」ほか「盗聴法」「日の丸・君が代」も全部その後にあっさり成立しちまったんだよな。そしてその後首相が倒れて国民の全く知らないうちに新しい首相が密談で決められ、全て決定してからそれを報告するという茶番劇を政界は演じてくれた。「知らしめず、寄らしめよ」の精神は強固だよなー。
 


99/5/23記

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