彼は民国期の軍閥・張作霖を父親に持ち、その父親が日本軍によって謀殺されるとその後を継ぎ、日本に対する抵抗を行う若きプリンスとして歴史に登場した(ちなみに彼に満州皇帝位をって話もあったらしい)。そして中華民国総統・蒋介石と兄弟同様の間柄となるのだが、毛沢東率いる共産党との戦いにばかり熱中する蒋介石をみて憂国の念を抱き、1936年に西安において蒋介石を監禁、共産党との和解を求めて「第二次国共合作」を実現させた。この「西安事件」によって国民党・共産党が手を結び共同で日本の侵略に当たることが出来たわけで、まさに中国現代史におけるターニング・ポイントと言える大事件だったと言える。今日の大陸の共産党政権にとっても彼は「命の恩人」なわけだ。
しかしこの「西安事件」の後、張学良は歴史の表舞台から消え去った。蒋介石のもとで監禁生活を送っており、生死すら不明という状態が続いたのだ。蒋介石もその子・蒋経国総統が死去した頃からぼちぼちその生存が知られるようになったほどである。その後NHKの単独インタビューに応じて様々な貴重な証言を行い(この内容は本になり出版されている)、ついに台湾を離れて現在はハワイに在住している。今度の記事は彼が98歳、数え年で100歳になることを記念するパーティーが行われる、というものだった。
いやぁ、それにしても元気なようだ。「健康の秘訣は」との質問に「麻雀をすることだ。頭と手の運動になる」と答えたそうな(笑)。
◆一年後のコメント
そして今年も張学良氏は無事に一つ歳をとり、99歳を迎えました。相変わらず中国大陸側の招待攻勢はあるようだけど、もう帰らない気のかなぁ。
なんかもう書くのもやんなって来てるところなんだが、この「ニュースな史点」の主な素材提供元となっている新聞の国際面にいつまでたってもこの話題が出てるんだからしょうがない。
今週の動きと言えばハーグで行われているユーゴ内戦戦犯法廷が、ミロシェビッチ・ユーゴ大統領をコソボにおける大量虐殺の罪で「起訴」した、というのが目を引いた。もちろんミロシェビッチは決して良くない。直接命令したかどうかは別として大量虐殺については地位から言っても責任は免れないだろう。だがこの場面で「戦犯として起訴」しちゃうというのは正直、なんなんだ?と首を傾げてしまった。
この「戦犯」についての論議はかの「東京裁判」でも行われており、今でもくすぶり続けている問題だ。あれは勝者が敗者を一方的に「人道に対する罪」とやらで裁いてしまい今日まで問題視されているが、今度の一件にも僕はそれを感じた。ミロシェビッチを戦犯とするなら、一方で空爆して多数の人を殺しているNATO軍は犯罪者を懲らしめる正義の軍隊ということなのか?今回の起訴はNATO軍の行動に「正義のお墨付き」を与える行為のようにみえてくる。案の定、アメリカはただちにこの起訴を歓迎する意向を示した。その一方でユーゴ側は激しく反発し、外交的解決の機会はまたも遠のいてしまった。ミロシェビッチも結構折れてきてるんだけどねぇ…NATOはなんとしても完全屈服させなければメンツが立たないと考えてるんだろうか。
次にNATO内部でもいろいろと議論が出てきていることに触れたい。NATO軍の出撃基地となっているイタリアでは先日「空爆停止」の決議が行われたばかりだが、今度はディーニ外相が雑誌のインタビューでNATOの地上軍派遣に反対を表明し、ユーゴ側の立場にも理解を示す発言をしている。
ディーニ外相はこのインタビューの中でユーゴに地上軍を派遣する場合、イタリア軍が派遣されることについて「部隊派遣は侵略行為にあたる」と明言した。前にも触れたがイタリアは侵略戦争を憲法で禁止している。NATOが地上軍派遣となればイタリアがこれに協力するかは微妙な情勢のようだ。「アメリカはドイツはじめ多くの国の賛成を得られないだろう。イギリスは例外だが」とも言ったらしい。そういえば最近イギリスってアメリカべったりだな。
またセルビア軍によるコソボ掃討についても「その前にコソボ解放軍による殺害事件が起きていた」とし、セルビア側だけを一方的に責めることに疑問を示した。これも前に書いたことだが、そもそも「コソボ解放軍」ってついこの前までアメリカは「麻薬を扱うテロ組織」と言っていたのだ。アメリカの側からだけの情報は注意して聞く必要があることを改めて示しているわけだ。そう考えると今回の「戦犯起訴」がいかに問題あるものか分かってくるはずだ。
それにしてもこの前の中国大使館誤爆といい、今回の起訴といい、なんか話が外交的にまとまる気配をみせると、すぐぶち壊しになる事件が起こるような
…偶然なんだろうねぇ…。
ユーゴ空爆ばかりに目が行っていたら、いきなりインドが「空爆」をやっていることに気が付いた。場所はインド北部のカシミール地方。隣国パキスタンと長らく領土紛争を続けている問題の地域だ。なんでもパキスタンが支援するイスラム系民兵組織(もっともパキスタン当局は支援を否定している)がインドの支配地域に対する侵入を行ったので、インド空軍がこれの掃討のため空爆を実行した、というものらしい。演じる役者の配置がやや異なるが、どことなくコソボ情勢を連想させるところが多いような気がする。
このインドの空爆に対し、その戦闘機がパキスタン支配地域に侵入した(これまたインド側は侵入を否定しているが)、としてパキスタン側がインドの戦闘機2機、戦闘ヘリ1機を撃墜した。こりゃもう戦争か!とみえる事態なのだが、とりあえず両国首相が電話会談し、話し合いで解決することで今のところ収まっている。昨年の核実験の応酬の件でもそうだったが、この両国いっつもケンカしているようなもので、今回の一件なんて別段珍しいことでもないようなのだ。
個人的な意見だが、僕はどうもこのインド・パキスタン両国の対立ってのは「近親憎悪」に近いんじゃないかって印象を持っている。まぁ古来隣国というのは仲が悪いものだが(笑)、パキスタンとインドなんて本来同じ「インド」であったものが宗教上の対立から分離したってだけだもんね。そもそもインドは長い間、圧倒的多数派のヒンドゥー教徒と少数派ながら支配階層が多かったイスラム教徒とが混在した世界を作ってきた。むろん対立もあったろうが、長い歴史を眺めるとおおむねうまく共存していた方だと思う(特にムガル帝国最盛期は大したもんだと思う)。だが植民地支配から独立する過程でヒンドゥー・ムスリム双方の宗教的な意味での「民族主義」が台頭し、第二次大戦後インドがイギリスの植民地から独立した際にはイスラム教徒が「パキスタン」を建国してヒンドゥー教徒中心のインドと分離する結果となった。
で、この「カシミール地方」の紛争なんだけど、これもこうした歴史が絡んでいる。つまりこの地域を藩王=支配者側がヒンドゥー教徒だったのだが、被支配者である住民は大半がイスラム教徒だったわけだ。このことがインド・パキスタン両国のどちらに帰属するかをめぐる紛争の直接の原因となって、いわゆる「インド・パキスタン戦争」も引き起こす結果となっている。その後全面的な戦争には至っていないが、カシミールの帰属問題は棚上げされたまま。だから今度のニュースのように相変わらず紛争の火種は絶えていない。
今のところ両国の対応は冷静で、あの強硬派で民族主義者のパジパイ首相率いるインド内閣すら戦闘機を撃墜されたことについて「損害は出るものだ。戦争が発生するとは思えない」とコメントを出している。パキスタン側から外相が特使としてインドに出向いたりもするようだ。もちろん今後もくすぶり続ける問題だろうけど、過去の歴史を振り返れば共存していくことだって不可能じゃないと思いたいところだ。
で、最後にペリー調整官、北朝鮮の最高権力者である金正日・労働党総書記に面会を求めたわけだが、これは予想通りというべきか断られた。外国からの訪問者の前に金正日氏はまたしても登場することはなかった。父親の金日成は割と気さくに表に出てきたものなのだが…ホント、現代でこれほど有名ながら謎に包まれている人物も珍しい。それがなぜなのかは正直なところ僕も説明しかねている。
その一方、今週は北朝鮮の国家元首とも言うべき最高人民会議常任委員長・金永南氏が中国を訪問していた。「へ?国家元首?」と思ってしまうところだが、もちろんあくまで形式的な地位が「元首級」ということであって最高権力者は当然金正日サンだ。こういうケースは世界中あちこちでやってることで(元首=最高権力者とは限らない。例えばドイツだって元首は大統領だが実権は首相が握っている)べつだん珍しいことではない。まぁしかし一応は「元首」なわけで、どうも金正日氏の「身代わり」として訪中したのではないかと考えられている。それで様子をみて、後日金正日氏自身が訪中する、という計画なのかも知れない。
最近の北東アジアの外交駆け引きはめまぐるしい。もちろんこの一角に日本が存在しているわけで、他人事と思わずに(しかしそう思ってる人が多いような気がするんだが)積極的に関わっていきたいところだ。もちろん平和的に、であるが。
◆一年後のコメント
上のようなことを書いてから一年たった今、北朝鮮は韓国との歴史的な首脳会談を行うことになっている。ついに金正日総書記が外交の場に姿を現そうとしているわけで、世界中がこれに注目している。ここまで話が進んでいるんだからまさか直前立ち消えなんてことはないんだろうねぇ。
上の記事を自分で読んでみて気が付いたのだが、最近「○月危機」って見出し、見かけなくなりましたね。人間忘れるのが早いようで…