外務省の外郭団体「国際教育情報センター」が外国向けに製作した英文リーフレット「日本の国旗と国家」(ちなみに無料配布)の中で、「君が代」という言葉についてについて「我々の天皇の治世を意味する(meansthe Reign of Our Emreror) 」と説明していることが明かとなり、西日本新聞によってこれが報じられた。これを受けて外務省はイタリアの日本大使館ホームページの中に転載されていた該当部分の削除を行った。もととなったリーフレットについても配布の中止されたという。
さて、なんでこんなことで外務省が慌てて(ホントに慌てたようだ)早急の措置をとったのだろう。「君が代」が「天皇の治世」ってことは世間の常識の範囲と思うところだ(さもなきゃ全く知らないってところだろう)。ところが実は自民党政府は表向きは違う見解を採っている。過去の政府の国会答弁によると「象徴天皇制の下では、君が代の『君』は国民全体を意味する」のだそうだ(!)。歴史的に見たってこれは詭弁である。本歌(読み人知らず)からして明らかに「天皇の治世」を意味しており、「国歌」になる以前に海軍の儀式用に採用された際にもこの歌は「天皇への賛歌」としてとらえられていたはずだ。
「君が代の『君』は天皇じゃないんだよ〜」という詭弁は戦後の国民主権の時代になっても「君が代」を生き残らせるべく自民党政府が言いだしたものだ。しかし当の政治家、そして官僚もそんなことを信じているわけがない(国民の大半もそうだろう)。こんどの事で対外的には「『君』は天皇だ」と本音を言っていることが明らかになったわけ。国内と国外で表現の使い分けをするのは今に始まったことではないが、「二枚舌」と言われても仕方あるまい(話が少しズレるけど、例の「盗聴法」についても政府は「通信傍受と呼べ」と騒々しい)。
僕はハッキリ言うが「君が代」を国歌にしたくない(というか本音は国歌が必要ないと思ってるんだが)。どう考えたって「君が代」は「天皇の治世」なのであり、国民主権にしたはずの今の日本にそぐわない歌だと思うからだ(だいたい「細石が巌となる」なんて非科学的な事まで歌ってるし)。
最近産経新聞の「正論」欄で面白い意見を読んだ。「君が代」は天皇への賛歌として残しておき、「国歌」は別に作ろうじゃないかというのだ。「あの産経」でこうした話が出ているのも面白い。それだけ「君が代」が「日の丸」に比べるとデリケートな問題を含んでいるとも言えるわけだ。今国旗・国歌の法制化が着実に進みつつあるが、この辺、もう少し議論が欲しいところ。ここんとこ議論もすっ飛ばして数で押し切る法案が多いから気になるところだ。
なんてな事を書こうと思っていたら、昨日(土曜日)大阪豊中市で右翼団体に入ったばかりの青年が「日の丸を掲げろ」と因縁を付けて自分の母校の中学校長の胸を刺した。どうも最初から「殺意」を持った犯行と思われる。右翼団体に入ったばかりで何か目立った「手柄」を立てたかったのかもしれない。そういうことする人が出るから「日の丸・君が代」って嫌われるんだよ…。
◆一年後のコメント
昨年の「史点」では何度か「日の丸・君が代」に触れている。これもその一つなんだけど、この回は思い出が一つある。この内容に対するイチャモンメールをいただいたんですよね。いわく「『君』を天皇にしたのは明治以降だ」とか「地質学的には細石は巌となる。堆積岩とか知らないのか、もっと勉強しろ」とう大変面白いものでした。前者はまだ議論の余地がありましたけど後者はねぇ。しかもこの人、あるサービスを利用して自分の身元を隠し返信ができない形でメールをよこしてきたんですね。反論を聞く気がハナから無かったってわけで。
「日の丸」の件では最近国立市の一件で産経新聞がほとんど一人で大騒ぎしてますねぇ(産経しかとりあげないもんだから事実関係の検証ができない…)。国立には右翼がたくさん街宣車で乗り込んできたりして大変らしいです。
さあて、いよいよインドネシアで総選挙が行われる。なんと44年ぶりの民主的選挙だそうだ。要するにスハルト大統領が独裁政権を続けている間、まったくこうした選挙が無かったと言うことだ。昨年スハルトが政権の座を追われ、ついに民主的な選挙が実現したわけで、テレビで見てるとなんだか「お祭り騒ぎ」のムードも感じられる(ま、選挙なんてどこもそんなもんだが)。
現時点で聞きかじってる限りの情報によると、メガワティ党首の野党「闘争民主党(凄いお名前…)」が優勢、その一方でハビビ大統領率いる与党ゴルカルは苦戦とのこと。面白いのはこのメガワティ女史というのはインドネシアにとっての「建国の父」であるスカルノの娘さんだということだ。前にもこの乱で書いたが、インドから東南アジアではこういう「有名政治家の家族」がいきなり党首に担がれるという現象が目に付く。インドの「ネルー・ガンジー王朝」がまさにそうだし(そういえばソニアさん、復帰したらしいな)、ノーベル平和賞を受賞したアウンサン・スーチー女史(父親がビルマ独立の志士)もこうした例に挙げられる。メガワティ人気にはスハルトへの幻滅とそれに比例するスカルノへの敬慕の感情が背景にあるんだろうな。
とにかくスハルトが引退したものの与党ゴルカルへの国民の不信感は相当のもののようだ。この選挙戦の間にスカルノ関係者が海外に隠し資産を持っていた事が暴露され、不信感に拍車をかけている。「ゴルカル以外ならどこでもいい」なんてテレビのインタビューに答える市民もいたな。
それで、というわけなのかどうか。インドネシアの最高紙幣5万ルピア札が改められ、印刷される肖像がスハルト前大統領から国歌の作曲者スプラットマンに変更されることになった。発行元の中央銀行は「流通期間が長かったため。スハルト退陣とは無関係」などと表向きは言っているが、現在の5万ルピア札が発行されたのはほんの5年前の話だそうな(笑)。もともと「生きてるうちに紙幣に肖像を入れるなんて」という悪評も高かったそうだ。
◆一年後のコメント
これ、結局イスラム指導者のワヒドさんが大統領に当選するわけですね。その後インドネシアはいろんな面で改革が進む一方、それまでの圧政のたががはずれたせいか宗教対立・民族対立が激化してもいます。ソ連邦崩壊時と似てますねぇ。いま、正念場と言うところでしょう。
「KKK」は悪名高いのでご存じの人も多いと思うが、アメリカの南北戦争後の南部を中心に結成された「白人至上主義団体」のことである。キッカケはいろいろと言われているが、南北戦争後北から乗り込んできた黒人や奴隷から解放された黒人に対し「白人の生存権を守る」とかいう「自衛的」主張から発生した結社のようだ(この辺の事情は映画「國民の創生」や「風と共に去りぬ」なんかが参考になる)。「自衛的」とか書いたが、もちろんそれは白人側の勝手な言い分であって、これを根拠に黒人を迫害したり私刑(リンチ)による殺害を行ったりしていたわけ。おまけにみんな白覆面をつけて(この覆面の由来も「國民の創生」に出てくる)十字架に火をともしたりするなど、どこか宗教的秘密結社っぽい不気味なスタイルを有している(そうそう、シャーロック=ホームズの一編にもKKKが登場する。確か「5粒のオレンジの種」)。アメリカでは南北戦争後も何度と無くこれが登場し、今なお一定の支持者を持っているという。
で、これがとうとうオーストラリアに上陸したわけだ。この「豪州版KKK」も当然白人至上主義なわけで、代表のコールマン氏は「英国移民子孫の優越性を主張する白豪主義の復活を目指す」と表明している。「白豪主義」かぁ…昔そんなのがあった(どうでもいいことだが、この言葉、いま一発で変換できた)。オーストラリアに白人以外の移民を許さないというアレだ。特にアジア系移民を意識した法令だったように思う。恐らくこの豪州版KKKも昨今急増しているアジア系移民(中国系が多い)に対する白人層の「恐怖感」が背景にあるんだろうな。
「M資金」って言葉をご存じだろうか?戦後の「詐欺史(そんな言葉あるのかな)」を語る上で外せない重要用語である。「M」とは敗戦後の日本を統治したGHQにいた「マッカート少将」なる人物に由来すると言われるが、本来この人自身とは何の関係もない。その名前が利用されただけなのだ。「M資金」というのはこの少将が旧日本陸軍からGHQが接収した(とされる)莫大な「財宝(話によって貴金属の山だったりいろいろあるのでここでは仮にこう書く)」に基づく(架空の)闇資金のことを指す。
手口はだいたいこんな具合だ。会社社長などに近づき「実はGHQが接収した莫大なM資金を我が団体が運用している。そこから君の事業に○十億円もの莫大な融資してあげよう」ともっともらしく話を持ちかけ「ついては融資を受けられるぐらいの企業であることを示すために印紙代として○百万円出して欲しい」と言い出すのだ。持ちかけられた社長は億の単位の金のためなら万の単位ぐらい、と言われるままに金を出してしまう。金を受け取った詐欺師はそこでドロンするわけだ。
こうしてみると「なんでこんな話信用するのかな?」と思っちゃうのだが、戦後このウソみたいな話に引っかかった社長(中には有名企業の社長もいる!)・芸能人(田宮二郎が有名)等々が大量にいるってんだから参ってしまう。こんどまたまた明るみになった「M資金詐欺」では元フィンガーファイブのメンバーの元社長がいたりして話題になっているが、やはり一緒に何人もの社長さんがダマされて数百万円を取られていたのだ。犯人はこの手の詐欺の常習犯だったそうで田宮二郎を騙したのも彼らしい。その写真を見ると…想像はしていたがやはり見事な恰幅の男で高級品を身に付け、いかにも「上流紳士」という雰囲気が漂っていた。これにダマされちゃう部分もあるんだろうけど、額が異様にでかい(何十億だもんな)んでかえって信じちゃうのかもしれない。「ウソが大きいほど大衆は信用する」とかヒトラーも言ってたような。
笑っちゃうんだけど、ヨタ話を「もしかして」と思ってしまう歴史オカルト的心理につけこんでいるところがあるな、こういう詐欺は。他にもこの手の詐欺にはバリエーションがあって、「私は水戸徳川家の人間でして」と言いながら全国を行脚し、「後で家の者が払うから」と言いながら行く先々で金を無心している不届き者の話を聞いたことがある。ほとんど「水戸黄門」のノリなのだが、世の中にはテレビ時代劇と現実の区別が付かない人もかなりいるようで、逮捕されるまでに相当の犯行を繰り返していたという(水戸徳川家なんてものがまだあると思ってる人がいるわけだ)。
傑作だったのは数年前に発覚した「昭和天皇の御落胤」詐欺事件だろう。パターンは「M資金」とおんなじだが、「昭和天皇の隠し子」という人物を立てているところが独創的だ(笑)。昭和天皇の隠し子が皇室の莫大な隠し財産を運用しており、それを君の会社に融資したい、ついてはその証明のために数百万払って、という展開。数人がかりの詐欺で、ちゃんと「天皇の隠し子」役を仕立ててその「側近」を各自が演じ、一流ホテルのロビーや部屋を借りて社長さんを呼ぶ周到ぶりだった(だから結構元手はかかってるな)。菊の御紋のアイテムも多数用意したと言うから恐れ入る。だが、その程度で「昭和天皇の隠し子」というふざけた話を信用した何人もの社長さんたちって、いったい…。当時の記事に「最初は本気にしなかったけど、だんだん彼の顔が何となく陛下に似ているような気がしてきて…」とか言ってる社長がいたのを覚えている(^^;
)。ダマされる心理ってそんなものかもしれない。
ついでに言うと、この事件の「隠し子」役の詐欺師(やや精神異常との話もあった)も演じ続けたあまり、自分でも「本気」になっちゃっていたそうである。他人を騙すにはまず自分から(笑)。