ニュースな
1999年6月27日

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 ◆今週の記事

おわび:先週はいろいろと多忙で、しかもネタが4つ集まらなかったこともあり休載させていただきました。今回はこの2週間に集まった話題から選んで書いてまして、若干古い話も含まれていることをお断りしておきます。 

◆相変わらずよく分かんない北朝鮮。
 
 いろんな意味で困っちゃうんだよな、この国について書くときは。
 だいいち入ってくる情報がどれもいまいち不正確で曖昧だ。そしてその中からようやくうかがえる状況も理解に苦しむことばかり。「独自の社会主義体制」を布いて異様な個人崇拝を推進する不気味な側面を見せつつ、妙に巧みな外交戦術や軽いところを見せたりする。「北朝鮮ウォッチャー」も数多いが正直なところその全員の発言をうのみに出来ないところがある。

 さて、先週の日本近辺情勢でのハイライトはやはり北朝鮮・韓国双方の海軍艦艇が銃撃戦を演じた事件になるだろう。例によって情報は錯綜気味だが北朝鮮側に30人ほどの死者が出たのは確からしい。潜水艦侵入事件以来の大規模な「軍事的衝突」と言える。このところ北朝鮮がアメリカの核査察を受け入れたり韓国との民間レベルでの交流が広がるなど「和平ムード」があったのだが、この事件はその流れにいささか(不思議に思うところだが実際いささか、なのだ)水を差した形になった。

 両国艦艇の衝突が起きたのは両国の国境付近の黄海で朝鮮戦争後「緩衝地帯」とされた海域だ。「緩衝地帯」なんだけど「北方限界線」とかいう軍事境界線が事実上あって、そこまでが双方の勢力圏ということになっているらしい。ところが今回、北朝鮮側から漁船と、それを護衛する海軍艦艇が限界線を越えて韓国側に侵入してきたため、韓国側がこれを体当たりや銃撃で追い返したという次第だ。
 さて、この時期になんで北朝鮮の船が侵入してきたのだろう?僕も初め不思議に思っていたのだが、どうもキーワードは「カニ」だったようなのである。北朝鮮海軍は限界線を越えてなんと韓国側のカニの漁場に入り込んでカニの密漁をやろうとしていたのだそうだ。今度のことで初めて知ったが、北朝鮮海軍って以前からカニを捕っては国外に販売し(なんと韓国にも売っていたという!)外貨稼ぎをやっていたそうなのだ。文字通り命がけの密漁である。
 なんかこう急に話がみみっちくなってしまうあたりが北朝鮮だなぁ(汗)。この騒ぎを韓国国防省の車栄九スポークスマンは記者会見で「夫婦喧嘩」(笑)に例えてしまい、野党ハンナラ党の総攻撃を受けて解任されてしまっている。しかしある意味では的を得た例えなのかも…。
 その後北朝鮮の観光地「金剛山」に行っていた韓国人観光客が「工作員」だとして北朝鮮側に拘束される事件もあった。どうやら解決したようだが、この騒動も何となく「夫婦喧嘩における嫌がらせ」のように見えなくもなかった。そんなに「工作員」が怖いなら観光客なんて初めから入れなきゃいいだろうに。

 ところで。以下のことはまだまだ不明なことが多いのだが…
 日本の誇る(?)世界的魔術師・引田天功が4月ごろからストーカー被害に遭っているとの報道が先週から出てきた(被害届を出したわけだが)。ある時は「警察」を名乗る不審人物に拉致されかかったことがあり、またある時は自宅に何者かが侵入した上、所有していないはずのミッキーマウス(天功さんのお気に入りらしい)のぬいぐるみが部屋に置かれていたという。
 なんでいきなりこんな話を出すのかって?実はあの金正日氏が引田さんの大ファンなのである。まぁアメリカはじめ世界では大成功している引田さんだから無理もない…っていうにはいささか常軌を逸してるようなのだ。以前北朝鮮に招待され大歓迎されてる引田さんだが、ことし再び彼女はピョンヤンに招待されていたのだ。しかし、このところの北朝鮮がらみの事件も考慮して引田さんは再度の招待を断っているのである。
 そして一連のストーカー事件はその拒絶のあとから始まっている。なんでも「北朝鮮へ行ってください」という趣旨の電話も相当数かかってきているというのだ。…不気味な話ではある。今のところ本当に背後に北朝鮮がいるのかどうかは断言できないんだけど…「あり得る」と思えるところが凄い(^^; )。
 

◆一年後のコメント
今でもこの国について書くときは困っちゃうんだよな(^^; )。つい一年前にこんな事書いてますからねぇ。ただ「北朝鮮ウォッチャー全員の発言をうのみに出来ない」ってところは今回の会談であらためて確認させてもらったような。
引田天功さんは先日の「週刊文春」に出てましたね。この春に北朝鮮入りしていたそうで。「この2年で北朝鮮の人達の雰囲気がずいぶん変わっていた」とコメントしてました。



◆南シナ海に風雲急?
 
   フィリピン政府が発表したところによると、あの領土問題でもめている「スプラトリー諸島」とか「南沙諸島」とか言われている海域に、マレーシアが新たな建造物を建設しているという。フィリピン軍の偵察機が同諸島南部の「インデスティゲーター礁」でこれを発見したそうで、縦横20mと50m、ヘリポート付きのプラットホーム、二階建ての建物、レーダー付きの監視塔などがあったという。クレーンや資材、おまけに国旗をつけていない軍艦も目撃されているらしい。

 このスプラトリー諸島だか南沙諸島だかをめぐる領土問題についてはずいぶん報じられているのでご存じの方も多いと思うが、まぁ簡単に。地図を見ると分かるがいわゆる「南シナ海」のど真ん中に位置する諸島で、どうも海底資源があるらしいというお決まりのパターンで、これを取り囲む各国(フィリピン、ブルネイ、ベトナム、マレーシア、中国、台湾)がそれぞれ領有権を主張し、誰も住んでいない(というか常識的には住めるはずもない)島々に建物を建てて軍隊を駐留させ、にらみ合いを続けている。この問題については日本ではとくに反中国感情の筋の方から中国の軍事的圧力が大きく叫ばれているが、実のところ中国だけでなくASEAN(東南アジア諸国連合)内の国同士でもかなり激しいにらみ合いがある。
 今度の「発見」についてマレーシア側は「海洋資源調査のため科学者や研究者を派遣した」としている(しかしどうやら今回建物が見つかった地点とは百数十キロ離れた所としているらしい)。しかしフィリピンの外相は「本当は何をしているのか調査させる」とし国防相も「強い圧迫を感じる。みんなが建造物を造るなら我々も考え直さなければならない」と強い「疑念」を示している。
 前にこのコーナーでもこの問題を取り上げたことがある。その時はフィリピンとベトナムの諸島部守備隊どうしが「親善サッカー試合」をするという緊張感の中にも和やかな話題だったんだけどなぁ…。ホント、あの時の「提案」を繰り返したい。毎年サッカーの試合して勝った国が4年間ぐらいあの海域を「領有」するってのはどうなんだろうね。もし実現したらアジアのサッカーのレベルが急激にアップする(軍事費並みに予算をかける?)と思うのだが(笑)



◆少年パンチェン・ラマ、ラサに入る。

   「パンチェン・ラマ」という人をご存じだろうか?チベット仏教の指導者でノーベル平和賞まで受賞しちゃった「ダライ・ラマ」についてはご存じの方も多いと思う。「パンチェン・ラマ」はそのダライ・ラマに次ぐチベット仏教界第二位の地位を占める人物だ。ダライ・ラマ同様に「活仏」とされ、「転生」をしているものとされる。知ってる人も多いと思うけど、要するにそのご本人が亡くなっても、その直後に生まれた子供を捜し出してきて、その子を「転生」した本人として同じ地位に就けるわけだ(連想話だけど、名作ファンタジー「ゲド戦記」にこれとソックリな設定が出てくる)。こうしてダライ・ラマもパンチェン・ラマも「同じ人間」として「転生」を繰り返し、数百年にわたってチベットの人々の崇敬を集めてきた。

 しかし転機が訪れたのは毛沢東の中国共産党による「中華人民共和国」の成立の時だった。1950年10月に中国人民解放軍がチベットへ侵攻、事実上占領しこれを「中国領内の自治区」としたのだ。その後59年にチベットで反中国反乱が勃発、反乱は中国により鎮圧され、ダライ・ラマはインドへと亡命した。これ以後国外からチベット独立を求めるダライ・ラマとこれを絶対に認めない中国との確執が続いているわけだが、この間に立ってどちらかというと中国よりの立場に立っていたのがパンチェン・ラマ(10世)だったのだ。ダライ・ラマに対抗できる指導者として中国側でも重宝がられていたところがある。そのパンチェン・ラマ10世は1989年1月に亡くなっている。

 10世が亡くなったわけだから「転生」した「11世」を探し出してその地位につけなければならない。条件は10世が亡くなった後に生まれたチベット人の子供だ(そうなると候補者はいっぱい出そうだが、なんでも先代が使用していた品なんかを見せて反応を試したりするらしい)。ダライ・ラマ率いる「チベット亡命政府」は伝統に従って選考を行い95年5月にゲドゥン・チェエキ・ニマ少年(89年4月生まれ)を「パンチェン・ラマ11世」に指名した。ところが、この直後にこのニマ少年は行方不明になってしまうのだ。そして95年11月、今度は中国側がジャインカイン・ノルブ少年(90年2月生まれ)を「パンチェン・ラマ11世」と公認してしまう。当然ながらダライ・ラマ側は反発しこれを正統の「パンチェン・ラマ」とは認めていない。ニマ少年の行方不明からしてどうも一連の動きは中国側の「謀略」と受け止められても仕方ないところがある。ちなみに中国側はニマ少年について「家族と共に平和に暮らしている」としながらその所在地についてはいっさい明かしていないそうな(チベットにいないことは確からしい)。

 さてこの6月17日、この「中国公認パンチェン・ラマ11世」であるノルブ少年がついにチベットの都ラサに入ったことが報じられた。彼はこれまで北京郊外で宗教教育を受けていたというが、これでようやくチベット民衆の前に「お披露目」となったわけだ。彼は中国全国人民代表大会常務委員会副委員長となっているパグバルハ・ゲレグ・ナムギャイ氏(しかしまぁチベット人のお名前ってみんな長いなぁ)らの歓迎を受け、その後シガツェ市に移り、歴代パンチェン・ラマが居住したタシルンボ寺に入るらしいとのこと。完全に中国の肝いりで「パンチェン・ラマの既成事実化」が進められているという恰好だ。
 当然というべきかインドの亡命政府は「彼がチベット民衆の尊敬を集めることはないだろう」とコメント。あくまでニマ少年が「パンチェン・ラマ」だとの見解を貫いている。
 まぁどうせ宗教上のことだから、どっちが「本物」かってのは結局水かけ論になっちゃうと思うけどね。しかしそれが露骨に政治利用されるところが恐ろしいというか面白いところ(なお、僕に言わせればダライ・ラマだって多分に政治利用されてるところあると思っている)。



◆亀井さんの戦争関連発言

   現在の日本の政治家ってのも結構観察していると面白い存在だ。「今の政治家はつまらない」とは僕は余り思っていない。昔の政治家が「大物」に見えるのはたまたまその時が激動の時代だったとか、あるいは「昔は良かった」式の過去への憧れに過ぎない部分が多いと思う。今になってみると田中角栄だって「歴史的大物」になっちゃってるのを見るとそう僕には思える。小渕さんだって分からないんですよ、ホントに。ちなみに僕が今一番注目しているのは野中広務・現内閣官房長官だったりする。政策的には正直言うと賛成しがたい人だが、良くも悪くも「政治家らしい政治家」だな、と思っている。やたら言動がハデで「信者」もいたりする小沢一郎なんかよりこういう人の方が「実力」があるもんだ。それと野中さんは彼なりの「歴史観」をもって政治に臨んでいると思われるところも注目したい。まぁどうもかなりのマキャベリストのようで手段を選ばないようなところもあるけどね(悪魔よばわりした小沢さんとコロッと手を結んだりしたモンな)

 前置きはともかく。この野中氏が「彼という政治家に巡り会えたことは大きな収穫だった」と言っていた政治家が、ここで取り上げる「亀井静香」氏だったりする(もっとも後に亀井氏が勝手に小沢氏と組んだ為に野中氏は激怒、評価を大きく下げた。しかし今その野中氏が小沢氏と手を組んでんだから訳が分からない(笑))。それにしてもこの「静香ちゃん」ほど名前と顔のギャップがある人も珍しい(爆)。顔だけでなく発言もなかなかブッ飛んでいて面白い人ではある(ホントにこの人見てると「名は体を表さない」と思う)。まぁあの手のお方は首相にはならんだろうな、日本政治の伝統から言うと。

 ホントに前置きばっかり長くなってしまった(汗)。で、この亀井静香ちゃんがこのたび「戦争責任」に関してコメントをし、それが小さな反響を呼んだ(裏返すと大した反響ではないが)。僕も読んでいて「おっ」と思うところがあった発言だ。いや、別段凄い「妄言」を言ったわけではないのだが…以下のような事を言ったらしい(全発言から抜粋した朝日新聞記事からのさらなる抜粋です、念の為。だからちょっと話に繋がりが悪いところもあります)

「日本がアジアを侵略したというが、インドネシア、マレーシアやフィリピンと戦ったんでしょうか。欧米と戦ったんでしょう。欧米が殺りくを重ね、アジアという地上の最後の楽園に矛先を向けてきた…われわれが土下座外交をやってきたから金をせびられるという問題がある」
「韓国にはおわびをしなければならない」
「盧溝橋で最初に(日本と中国の)どっちが1発を撃ったか決着はしない…中国人民に大変な迷惑をかけたのは申し訳ない」

 まぁ自民党政治家の中ではわりと「穏健」な発言である。韓国と中国については「迷惑をかけた、わびる」という姿勢を明確に示した点は評価して言いと思う。「廬溝橋事件」については確かに不明な部分もあり、それをそのまんま言ったに過ぎないと思われる。もっともその事件をキッカケにどんどん攻め込んでっちゃった日本陸軍首脳については「バカ」としか言いようがないが…

 ただ東南アジアに対して日本が「侵略」したことを否定している発言についてはちとひっかかるところがある。「欧米人が殺戮を重ねアジアに矛先を向けてきた」事自体はそのとおりと思うところだが、「日本は東南アジアの人達じゃなく欧米と戦ったんだ!」と言ってしまうといわゆる「大東亜戦争肯定論」の根底を成す発想に近づいてくる。なんのことはない、日本人も欧米人に負けまいとして同じことを東南アジアに対してやっちゃったに過ぎないのだ。しかも大急ぎでそれをやろうとしたもんだからかなり悪質になった事も否定できない。東南アジア諸国では欧米人だけでなく現地人の反日ゲリラとの戦いが行われたところだって多々ある。「同じアジアの「解放軍」だと思ったら裏切られた」ってことでかえって欧米より恨みを買っている所すらある。亀井氏の「歴史認識」はまだまだかなりの認識不足があるように僕には思えるな。
 「土下座外交をやってきたから金をせびられる」ってのは日本の政権党政治家の本音だろうなー。しかし東南アジアに「土下座外交」なんてやってたかな?ってのが僕の印象ですが。
 


99/6/27記

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