ニュースな
1999年7月25日

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 ◆今週の記事


◆世界の人口60億を突破。

   どうも世界の人口が60億を突破したらしい。アメリカ商務省統計局がインターネットで掲示している世界人口カウンターが1999年7月18日夜(日本時間19日午前)に60億人を越えたとのこと。どうやって全世界の出生を調査しているのか知らないが、まぁとにかく今年のうちに60億人を突破したということじたいは事実と見て良いだろう。僕なんかは「なんだ、まだだったのかい」という印象だったが…中国みたいに戸籍に載っていない人口が1億人いるってな国もあるからね。正確なところは分からないかも。

 世界の人口推移グラフというやつを見たことのある人は多いと思う。あれを見ていてよく分かるのが、人間の人口は徐々に緩やかに、はた目にはほぼ横ばいに増えていたのが、19世紀以降に急激に(というか爆発的に)増えていくという傾向だ。例の統計局が発表したところによると19世紀初頭の1804年に世界人口は10億の大台に乗り、以後急激に増加、1960年に30億人に到達した。そしてそれからたった40年たらずでさらに倍の60億人に到達したという。19世紀以後、とくに20世紀後半の人口急増の凄まじさがよく分かると思う。

 原因はいろいろと考えられるが、ハッキリ言っちゃえば「人がなかなか死ななくなった」のだ。出生率なんてのはそんなに変化してないはずで(むしろ近代化した国では出生率は下がる傾向がある)、産まれた子供がその成長過程で死んでしまう確率が大幅に減ったのだと考えられる。さらにその原因は食料がかなりコンスタントに(昔に比べれば)入手できるようになったことに求められると思う。もちろん医学の進歩による部分も大きいとも思うけど、産業革命や医療技術進歩とはあまり無縁だった清代中国で人口が急増(200年間で4倍になる)したのを見ていると、技術的な要因だけではないような気がするんだよね。まぁ「農業技術」のことは考えられるけど。



◆法輪功、ついに非合法化!
 

 以前この「史点」コーナーでも取り上げ、その後僕も注目していた気功集団「法輪功」。なんとなく予兆は見えていたのだが、ついに中国政府は徹底した弾圧を開始した。7月22日、中国政府は中央電視台の特別番組で「法輪功は団体登記をせず、迷信を宣伝して大衆をだまし、社会の安定を破壊するなどの違法活動を繰り返し、社会団体登記管理条例に違反した」と放送して、22日付けで「非合法化」の措置をとった。ほぼ同時に法輪功の信者も数十名逮捕したという。今のところ中国本土でこれに対する大規模な抗議行動は起きていないらしく、中国政府の「先制奇襲攻撃」が功を奏している形だ。4月には北京で大規模なデモを起こした「法輪功」だが、予想外に静かなようである。もちろん法輪功側はインターネットなどで海外から抗議活動を行っているが…。

 まぁそこで僕も「法輪功」のサイトを覗いてきた(一時なぜか繋がらなかったんだが…殺到してたのか?)。予想通りデカデカと「中国政府による人権侵害」を非難する抗議文が掲げられていた。
 ところで僕の興味はこの団体の「教義」にあった。「気功の愛好団体であって宗教団体ではない!」と彼らは主張しているのだが、どうも中国社会伝統の「宗教臭さ」が見え隠れしていたからだ。4月のあの騒動を見て以来、彼らの行動を報道を通して見てきたが、どこか「白蓮教」「義和団」「上帝会」いっきに遡って「太平道」といった「宗教的秘密結社」と共通の臭いを感じざるを得なかった。一部には「数千万人」というケタ違いの信者数も報じられており(もっとも誇大宣伝との説もある)、その辺もどこか往年の各団体に似ている。実態はどうであるかは外からは計り知れないが、外見的には確かに似ている。
 中国政府はマジで恐怖したのだと思う。暴論に聞こえるかもしれないが、僕が中国政府の指導者だったら、やっぱり弾圧に走るかもしれない。中国の歴史を知る者ほどこうした団体には警戒すると思わざるを得ない。この手の集団の反乱が発端となって全国的動乱になったケースも多いし、その中から新王朝を建てたケースだってある(ついでにいえば中国共産党だって「共産主義」を掲げる宗教的秘密結社だったともいえる)。また最近の「改革・開放」の中で流れに取り残された階層が「信者」となっているらしいという点も気になるところだろう。

 もちろんこれまでのところ「法輪功」は明確な政治的意図や反政府活動を行ったことはなく、いきなり「非合法化」ってのはやはり批判されざるをえないところだろう。また別に何を信じても構わないと言うのが建前のはずなので(文革期ならともかく現在の中国では信教の自由は認められている)、特定の団体活動を禁止するというのは問題が残る。実際アメリカ政府も今回の処置に対し懸念を表明している。この「宗教」が仏教的要素を持っていることから、恐らくチベット問題と絡めた「中国批判運動」が欧米で起こることだろう(えらい勘違いもあるんだが)
 ただ僕個人の印象としては「警戒」するのは無理からぬところだと思う。オウムだって初めは「ヨガを愛好する仏教団体」だったような気がするしね。それと、例のサイトを見ていて「教義」についてもいろいろと思うところがあった。長くなったのでもう一つの項目に分けて書いてみよう。



◆「てこ歴」が「史点」に出張だ!

 さて、法輪功サイトの話に戻ろう。いろんなコーナーがあったのだが、読んだ限りではやっぱり「体操愛好家団体」よりは「オカルト団体」に近いと思わざるを得なかった。だいたい「教祖」の李洪志氏の肖像の扱い方は…日本人は明らかに連想するものがありますよ(ついでにいえば「卍」マークをナチスと連想させる欧米人も多いだろうな。向きが逆だけど)
 それと面白かったのが掲載されていた李洪志氏の「気功は先史文明」という文章。「一番重要な著作・『転法輪』より」とあり、この「教祖」が何を考えているかのキモと言えるところと思われる。一読して「これって『てこ歴』じゃんか!」と膝を打ってしまった。後日そっちで取り上げるかもしれないが、こっちでそのいくつか面白い点を指摘しておこう(注:当然ながら日本語訳部分から引用。英語版はなぜか繋がらなかった)。

 タイトルから分かるように、李洪志氏は「気功は先史文明から続いているもの」と主張している。この説明がもう科学知識を吹っ飛ばしたオカルトネタのオンパレード!これを信じるのは勝手だが、やっぱ「宗教団体」と見られますよ、こんなこと言ってたら。
ダーウィンの進化論によれば、人類は水生植物から水生動物になり、そして陸地に上陸し、樹の上に登り、また地上に降りて猿人になり、最後に文化と思想を持つ現代人類に進化したと言いますが、それによって推計すれば、人類の文明が真に現われてから一万年にもなっていません」
…水生植物から水生動物になったってのが理解不能だが(起源が同じというんならわかるんだが)…「進化論」でそんな話があったかな?もっとも李氏はあとで書くように「進化論」なんか信じちゃいない。「一万年」よりもずっと前、なんと「億」単位の昔から「文明」があったと主張している!

「多くの海底で、巨大な古代建築物が発見されました。これらの建築の彫刻は非常に精巧で美しいものですが、われわれの今の人類の文化遺産ではありません。だとすると、海底に沈む前に建てられたものに違いありません。では、数千万年前に誰がこのような文明を創造したのでしょうか?
…この人、数千万年前から大地は現在の形で変動しなかったと勝手に解釈しているのだ。大陸移動だけでなく陸地の浮き沈みなんてしょっちゅう起こってることなんだが…「海底遺跡」なんて案外新しい時代のものもあるんだけどね。

「アメリカの科学者が見つけた三葉虫の化石に人の足跡があり、靴を履いた足跡がはっきりと残っています。これは歴史学者をからかっているのではありませんか? ダーウィンの進化論に従えば、二億六千万年前に人類がいるはずがないのではありませんか?」
…この手の話はオカルト業界ではおなじみ。「恐竜の足跡と人間の足跡が重なった遺物」といった怪しげなアイテムがいっぱいある。いずれもインチキがばれているはずだが。

「ペルー国立大学博物館に一つの石があり、その石に人間の姿が彫刻されています。鑑定によれば、この人間の姿は三万年前に彫刻されたものです。しかし、その人間は服を着て、帽子をかぶり、靴を履いていて、おまけに望遠鏡まで手に持って空を観測しているのです」
…「三万年前」って鑑定そのものにも怪しさを感じるが、ぜひ現物を見てみたいものだ(いや、案外見たことがあるやつかも)。この手のアイテムもよくあるんだよなぁ。日本の土偶も「宇宙服」とか言われてるもんね。なんだか「神々の指紋」の世界である(あれもかなりのインチキ本です、批判本も参照のこと)。ひょっとすると「教祖」はあれにかぶれたのかもしれないな。

「アフリカのガボン共和国ではウランという鉱石が発見されましたが、国が立ち後れていて、自国ではウランの精錬ができないため、先進国へ輸出していました。一九七二年にフランスのある会社がそれを輸入し、科学実験をしたところ、そのウラン鉱石はすでに精錬されて使用されたものだと判明しました。不思議に思った会社側は現地に技術者を派遣して調査し、その他に多くの国々の科学者も現地調査に行きましたが、最後に、そのウラン鉱石採掘場は大型の原子炉だったこと、構造が非常に合理的で、われわれ現代の人類も造れないものだということが分かりました。では、いつ建てられたのでしょうか? 二十億年前で、五十万年も運転されていたというのです
この話はいったい何なんだ(^^; )。最後の「二十億年前で、五十万年も運転されていた」という文も素晴らしい。ケタにもの凄い落差が(笑)。だいたいどうやってそんなこと調べられるんだ!?

 こんな調子で李氏は超古代文明の存在を力説する。「勇気ある外国の多くの科学者は、すでにこれは先史文化で、われわれ人類の今回の文明より前の文明であることを公に認めています。すなわち、今回の文明の前にさらに文明時期が存在しており、しかも一回だけではありませんでした」と言い出すのだ。何でも人類の文明は何度も発展しては壊滅し、また一から作り直すということを繰り返してるんだそうだ(なんか「火の鳥」未来編みたい…)「ある日、わたしが詳しく調べてみたところ、人類は八十一回も完全に壊滅された状態に陥り、ただわずかの人だけが生き残り、わずかの先史文化が残され、次の時期に入って、原始生活を送り始めたのです」という部分にも唖然。「八十一回」ってどうやって調べたんだ!?それも「ある日」だけで…

 とにかくこんな話をズラズラと並べた上で、李氏は「気功ももわれわれ今日の人類が発明したものではなく、悠久の年月を経て伝わってきたもので、先史文化の一つである」と主張する。この辺の説明には僕が聞いたこともないお釈迦さんのコメントが出てくるのだが省略。これだけの事を言って置いて他の気功を「インチキ」だの「偽物」呼ばわりするのだが、これじゃどっちもどっちという気もしてくる。ついでながら気功だけでなく「太極、河図、洛書、周易、八卦」なんかも先史時代からあったんだそうだ…。
 とてもじゃないが信じがたいヨタ話としか思えないのだが、そういう批判についてもちゃんと防御線が張ってあった。李氏のお言葉によると「今日われわれは常人の立場に立って、それをどんなに研究し理解しようと思っても、究明できません。常人という次元、立場、思想境地からでは、本当のことを理解できるはずがありません」だそうだから、「常識」からツッコミ入れても無駄なようである。
…以上、「てこ歴」の出張版でした(笑)。他にもいろいろと爆笑ネタがあるのだが、それは後日「てこ歴」本体の方ででも。

◆一年後のコメント
で、ここで言ってる「てこ歴」の方ででも、というのは実現しませんでした。「てこ歴」じたいが更新を怠ってますからなぁ。
それにしても法輪功弾圧開始からまだ1年しかたってないのかぁ。一周年という事であっちゃこっちゃで法輪功信者の抗議活動も行われているようです。しかし教祖・李洪志氏の動向を最近聞かないが…?



◆モロッコ・ハッサン国王死去。

 「モロッコ」っていう国について詳しい日本人なんて少ないだろうなぁ。「王国」だと知っていた人も少ないのでは?僕もさしてモロッコ知識があるわけでもない。ルブランの「アルセーヌ=ルパン」シリーズのマニアなもので第一次世界大戦前夜にここをめぐる暗闘があったことを知っている程度の歴史知識だ。そんな国の国王が死去したのである。今年2月のフセイン・ヨルダン国王の死去以来のイスラム圏大物君主の死だった。

 7月23日の夜、肺炎に伴う心臓発作によってハッサン国王は70歳の生涯を閉じた。先月9日に70歳の誕生日を祝ったばかりで、つい先週フランスを公式訪問(そういえば旧宗主国だった)したばかりだったので、まさに「急逝」である。ハッサン国王が即位したのは1961年で、38年と結構長期の在位期間である。いちおう立憲君主制のこの国だが、国王の権威はかなり強いようで政治的にも実権を握っていた。同じ年に亡くなったヨルダンのフセイン国王と同様にアラブの穏健派君主として活発に活動していたそうである。ちなみに跡継ぎはシディ=ムハマド皇太子で、ただちに国王に即位している。

 フセイン国王の時もそうだったが、こういう人が亡くなるとその葬式に各国の元首・首脳が参列して、いわゆる「弔問外交」が展開される。日本からは高円宮・橋本前首相といったところだが(本筋から離れるけど外国元首の葬儀に出席する皇族って誰が決めてるんだろ?なんとなく「国のランク付け」を感じるときがあるもので)、クリントン・シラクの米仏大統領はじめ50カ国以上の元首クラスが参列する一大イベントである。注目は当然ながら中東の各国首脳が一堂に会すること。とくに強硬派のネタニヤフ政権を倒して誕生したばかりのイスラエル穏健派政権のバラク首相とアラブ諸国のやりとりが注目される。対するはパレスティナのアラファト議長、ヨルダンのアブドゥラ新国王、そしてシリアのアサド大統領である。
 中でもアサド大統領とバラク首相が会談するのかどうかが注目点らしい。ヨルダンのフセイン国王葬儀の時にアサド大統領も出席していたが、イスラエル首脳との接触を巧みに避けていたそうである。今回和平派のバラク新政権が成立してイスラエル・シリア間の関係改善がなされるのかどうか世界が注目しているというわけだ。たぶん会うんじゃないかなぁ。

追記
この文章をアップした直後、アサド・シリア大統領の葬儀欠席が発表されちゃいました(^^; )。今さら記述を変更するのもフェアじゃないので、そのままにしておきますね。代理人を派遣するそうで、まだ「直接対話」には時期尚早との判断なのか。一部にはアサドさんの健康不安な説もあるらしいけど。

◆一年後のコメント
「追記」にも出てくるアサド・シリア大統領もつい先月亡くなり、「史点」ネタにされてしまいました。中東各国では世代交代が進んでおります。
 


99/7/25記

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