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1999年8月1日

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 ◆今週の記事

◆中国、法輪功「教祖」に逮捕状!

 先週に続き、「法輪功」の続報。今や全世界的にも注目される話題になってきましたな。僕の周囲でも「あれ、どう思う?」という会話が多くなっている。
 7月29日、ついに中国政府が「教祖」の李洪志氏(47)に逮捕状を出した。罪状は「公共秩序かく乱」だそうで、具体的には大規模な組織を利用して迷信や邪説を流し、「修練」で会員を死亡させたり(病院に行かなくなることも含むらしい)、当局の許可なく集会やデモを組織するなど公共秩序をかく乱する活動をした(まぁこれは中国だからな)ことなどがあげられている。中国政府は銭形警部でおなじみ「ICPO(国際刑事警察機構)」を通して加盟各国に捜査協力・李洪志氏の身柄拘束を要求した。

 当の本人・李氏はニューヨークに在住しているためとくにアメリカの対応が問われるわけだが、今のところアメリカ政府が中国の要求に応じる気配はない。まぁそりゃそうだろう。「人権問題」でしょっちゅう「中国叩き」をやるアメリカが引き渡しに応じるはずがない。そのぐらい中国側も予想しているところだろう。ただ今回の動きを見ているとアメリカにいつもの強硬な姿勢が見られないのも事実。法輪功の件でも積極的な中国批判をしないだけでなく、台湾問題でもむしろ台湾に「釈明」をさせようと圧力をかけていたし、先日のユーゴ中国大使館「誤爆」事件についても謝罪し賠償金を支払うことを認めた。総じて今のアメリカ政府は中国との関係改善が最優先事項となっているわけだ。「法輪功」については「やっかいな奴がいたもんだ」ぐらいに思っているのでは無かろうか。
 政府はともかく、予想通りというか米連邦議会の議員さん達の中に「中国共産政権の人権侵害だ!」とお決まりのフレーズ叫ぶ人達が出てきて世論をあおろうとしている。その一部には「法輪功」から直接の働きかけがあったようだ。こういうあたりにも「法輪功」の組織性を感じちゃうところなんだよな。

 ところでその後、中国語・英語でも李洪志氏の著作を確認した。当然と言うべきか先週紹介したヨタ話と同じ内容である(いや、実はあまりの内容なので日本人のオカルトファンが勝手に書いたかとちょっと疑っていたのだ)。当然ながら「進化論」は全くの誤りと否定し、気功を「先史文明から受け継がれる宇宙エネルギー」と紹介するあたり、オリジナリティのほとんどない割とポピュラーなオカルト話の集合体であった。
 思わず爆笑したのが李洪志氏の略歴のところ。「1996年10月、李洪志先生は初めてアメリカテキサス州ヒューストン市を訪問し、10月12日に李洪志先生はヒューストン市の名誉市民証明書を受け、ヒューストン市市長が当日を"李洪志の日"とすることを公表しました」とあった。「トンデモ本の世界」を読んだ方は思い当たるフシがあるはず。そう、あの「ドクター中松」のやってることとソックリなのだ(詳しくはそっちの本を参照)!少なくとも僕には「ウサンくさい奴」ってイメージしかないですな。



◆EU次期委員長はお勉強中
 
 「EU(欧州連合)」として今のところ順調に統合が進む西ヨーロッパ。このままうまくいけば「ヨーロッパ合衆国」にでもなるんじゃないかという壮大な実験をやってるわけだが、そんな事態を実感するちょっと面白いネタをみつけた。

 次期のEUの代表者となるプロディ欧州委員会次期委員長なるお方がいる。この人イタリアの出身なのだが、このたび「ヨーロッパの代表者」となるためにペルージャ(近頃急に日本人に知名度が上がった町だな)の外国語学校でフランス語の特訓を受けていたことが明かとなった。この特訓というのが凄いのだ。イタリアの新聞によると一週間の「集中講義」で、朝の8時から夕方5時までのハードスケジュール。この間基本的にフランス語での会話しか許されない(笑)。一日に電話で一回だけイタリア語で話すことが認められるが(たぶん家族への電話を考慮したんだろう)、校外へ出られるのは一日一時間のみ。まるで昔のスポ根漫画の世界。まさに「特訓」と呼ぶにふさわしい。
 そのかいあって無事一週間でフランス語をほぼマスター。校長先生も「試験したところ自己申告以上にフランス語を話せる」と合格点をつけた。ただ実のはプロディさん、元大学教授なんだよね(経済学が専門)。もともと素養もあったろうし勉強熱心な性格だったのだろう。当然ながらEUはフランス語ばかりではない。英語もドイツ語もちゃんとできるそうですぜ、この人。

 やっぱ隣国の言葉は話せた方が良いですね。僕も韓国語と中国語はちょこっとずつやってはみてるんだけど…会話レベルで話すのはとてもとても(^^; )



◆ダンテの遺灰発見!

  「ダンテ」ってやたら知名度が高い割にその著作を読んだ人はほとんどいないんじゃないかと思われる人である。あくまで日本のケースだが、知名度だけやたら高いのは歴史教育のおかげかと思われる。世界史の教科書の「ルネサンス」の項目で真っ先にこの人の名前が出てくるからだ。暗記の苦手な人でもトップバッターに出てこられると一応名前だけは覚えてしまうもの(笑)。まさに「ルネサンスの先駆者」の役得である(13世紀後半〜14世紀前半に活躍)。それでいて代表作「神曲」となると読んだ人は相当少ないのではないかな。僕も読んだことはない(水木しげるの『あの世の事典』でダイジェストながら詳しく紹介されていたので知識としてはあるんだが)

 ところでそんな有名人ダンテの遺灰を「発見した」という記事があったのでちょっと驚いた。なんでもかれの活躍した町、あのフィレンツェの国立中央図書館の蔵書を整理中に偶然見つかったんだそうだ(^^; )。この図書館の2階の写本・稀観本の棚の、本と本の間に袋に入れられてひっそりと挟まっていたそうである。おいおい、なんでそんなもんがそんなところに。ちゃんとダンテの頭蓋骨の判型とダンテの遺灰を示す記述が書かれていたと言うんだけど。

 どうやら事情はこういうことなのだそうだ。1865年、ダンテの生誕600年を記念して当時の科学者達がダンテの棺桶を開けて遺灰を採取し、フィレンツェの図書館に寄贈した。その遺灰は6つの袋に分けて保存され、1929年にフィレンツェで国際会議が行われた際、この遺灰も公開展示された。ところがその後この遺灰の所在は全く分からなくなってしまう。どうも1935年に図書館が現在地に移転する際に引っ越しのドサクサで行方不明になっちゃったんだそうな。それが今回ひょっこり本と本の間から出てきたわけで…職員の管理がかなりいい加減だとみた(笑)。ひょっとするとそのドサクサの際に持ってっちゃおうとした人間がいたのかもしれないが…やっぱり忘れちゃったのかな(笑)。



◆外国映画の吹き替え義務化!?

 言うまでもないことだが日本の話ではない。日本は「外国語映画信仰」みたいなものがあるらしく、一般に吹き替え映画は字幕映画より劣るとされる。映画マニアの大半が「字幕第一主義」といっても過言ではない。もちろん字幕映画は俳優本人の声が聞けるわけでそれを「オリジナル」とみなすのは当然なのだが、言葉の情報量から言うと吹き替えのほうが何かとメリットが多いにも事実なのだ。実際僕も「スターウォーズ・エピソード1」は日本語吹き替え版を先に見に行った(もっとも字幕版も見に行く予定だけど)
 ところでヨーロッパでは吹き替え公開が割と多いらしいのだ。聞いた話だがフランスなんぞ外国映画は基本的に吹き替えで公開されるそうである。だから日本のテレビ映画みたいに「この俳優にはこの声優」といった「定番役者」が決まっているらしい。イタリアやドイツなどでも同様らしく、こうした現象の背景にはヨーロッパ人の「母国語」に対する強烈な意識があるようにも思われる。

 さて、タイトルに書いたネタはスペインはカタロニア(カタルーニャ)地方のお話である。このカタロニアというのはスペインの中のだいたいバルセロナ(オリンピックがあったよね)あたりの地域だと思ってもらいたい。この地方、スペイン語ではなく「カタロニア語」と呼ばれる独自の言語を持っており(といってもどの程度違うのか僕は知らない。ラテン系は「訛り」ぐらいの違いしかないんと違うか、とも思うのだが)、歴史的にも現在のスペインの中心となっているカスティリヤなどとは独自の発展を続けてきたところがある。そのため文化的にも独立傾向が強く、頑固に「カタロニア語」を守ろうとしている。かつてスペインを長期に渡って独裁したフランコの時代などは、この「カタロニア語」は使用を禁止されたりしていたそうで、その反動もあってか自分達の「母国語」を守ろうとする意識はさらに強烈なものがあるようだ(もっともスペインにはもっと過激なバスク人の存在があるな)
 そしてその流れの中で、この地域での外国映画(当然ハリウッド映画がその大半を占める)の公開は字幕ではなくカタロニア語吹き替えにすることを「義務」とする法律ができたのだ。何でも今年中の予定が少し遅れて来年3月から実行することになったらしいのだが、これにアメリカ映画業界がイチャモンをつけており、交渉が行われているとのこと。勝手にせい、って気もするが改めてヨーロッパ人の言語意識の強烈さを思い知らされたような。それとハリウッド映画を「文化侵略」と見なすヨーロッパ人の恐怖感も入ってる感じもあるな。この点については日本人はかなり鈍感なのがよく分かる。
 DVDみたいに「音声切り替え」ができるメディアだとこういう問題は一気に解決なんだけどね(笑)。
 


99/8/1記

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