ニュースな
1999年8月15日

<<<前回の記事
次回の記事>>>

  「ニュースな史点」リストへ


 ◆今週の記事

◆「生物」で進化論は教えるな!?

 またやってるのか、このパターン…というのがこのニュースを聞いたときの感想。アメリカの中西部のカンザス州の教育委員会が8月11日に新年度(あちらは9月から新学期)の幼稚園から高校までの学習カリキュラムを発表したのだが、このうち「生物」の授業で「新たな生物が生まれたことについて進化論の観点から説明すること」が禁じられた。早い話が進化論を授業で教えることを完全に禁じたわけだ。サルからヒトになったのではなく(というか厳密にはサルと祖先が同じというべきだが)、ヒトは初めからヒトだったと教えなければならない。だって全ての種は「神様」がおつくりになったのだから!!…ってわけだ。

 こうした主張がアメリカ社会に根強くあることは以前から聞こえていた。進化論を信じず、聖書の通りの人類史を信じている人がアメリカ国内で数千万人(!)いるという報告もある。アメリカにはヨーロッパ以上に聖書至上主義的な部分があるようだ。過去にも進化論を授業で教えた教師が有罪になったりした有名な例がある。聞いたところではアラバマ州でも生物の教科書に「進化論には懐疑的な意見もある」と明記することが義務づけられたりしているそうだ。もっとも全国レベルの連邦裁判所では進化論否定の意見は全て退けられている。

 まぁ誰が何を信じようと自由だという意見もあるだろうが、この提案には当然ながら州内の大学学長らが連名で反発、「大学入試に影響が出る」「理科教師は州外で職を探さねばならない」と訴えたが、結局教育委員会の採決は6対4で(まぁ僅差ではあったんだな)進化論教育禁止が決定されてしまった。

 実は「対岸の火事」と笑っていられないところがある。日本でも「神話教育」推進の動きがあるからだ(しかも「あの」大手新聞がキャンペーンをやっている…実はこの記事の元ネタもその新聞で最初に読んだんだが)。その運動に関わる人物の著書を読んだが、やっぱり進化論否定の傾向がみられるのだ。言っている論法にも似たところが見られるのも興味深い(先日書いた「法輪功」もそうだったなぁ)

◆一年後のコメント◆
掲示板の方でも触れたんですが、上記の記事から一年たったつい先日、同州の教育委員会はまたしても6対4の僅差で進化論教育を限定的に認めることに決してます。限定的というのは、「生物の環境による淘汰」は教えて良いが、「生物が同じ祖先から系統的に発生した」ことは教えてはならんというものだそうで。ついでにビッグバン理論も教えてはいけないそうです。



◆キャプテン・クックの船を探し出せ!
 
 キャプテン・クックと言えば18世紀の偉大なる探検家(1728〜1779)。太平洋を東西南北に何度も探検し、単に航海するだけでなく詳細な学術的調査を行った人物だ。それまで航海者の悩みの種であった壊血病(ビタミン不足で起こる)の対策として野菜を常食するなんてことも始めた人でもあったような記憶がある。おまけにハワイの島民との行き違いから殺されてしまい、その肉が塩漬けにされちゃうという悲惨な最期を遂げた人でもある(島民に神様と勘違いされたという説もある)

 さてこの人がオーストラリア探検の際に使用した帆船・エンデバー号が、現在アメリカの東部、ロードアイランドのニューポート港沖の浅瀬に沈んでいる(らしい)。その経緯はこうだ。クックは1771年にイギリスに帰国したが、この船は輸送船として使い回され、アメリカ大陸に出かけてしまった。そこへ1775年にアメリカ独立戦争が勃発。そして戦争の最中の1778年にイギリス側はこの船が独立軍側に奪われることを恐れて自沈させてしまったのだそうだ。

 で、なんでこの話が出てきたのかというと、オーストラリア政府がこの沈んだ帆船の調査に乗り出すと発表したのだ。アメリカの地元の考古学者に協力し、国立海洋博物館の研究員も派遣するとのこと。そしてこの船についての不明部分も含め全容を解明したい意向だそうだ。
 オーストラリアを「発見」した西洋人は17世紀のオランダ人探検家タスマン(タスマニアに名を残す)だが、オーストラリアに移民がやって来るキッカケとなったのはクックの探検だった。この探検の後、この地はイギリスの流刑地となりそこから現在のオーストラリアの歴史が始まると言っていい。流刑人の子孫である(失礼!?)オーストラリア人にとってこの船はまさに「我が国の歴史の方向を示した貴重な船」なのだ。
 …船一隻にも、ときに大変な歴史ドラマが隠されているものである。



◆中台ハッカー合戦?

 先日来、台湾の李登輝総統が「中国と台湾は国と国との関係」と発言したのをキッカケに中台間で火種が絶えない。これがネット上にも飛び火して何やら面白いことになっている。この程度の「紛争」なら楽しいだけなんだけどな(笑)。

 8月8日、台湾の監察院(公務員を弾劾する機関だそうだ)のホームページに「中国黒客(中国語でハッカーのこと。発音と言い字面と言い名作である)を名乗るハッカーによって「台湾独立分子が国土の分裂をたくらんでいる」「世界にはただ1つの中国しかない」といった趣旨の中国文・英文が書き込まれた。またこの同日にアメリカに置かれた中国語サイト「世界論壇網」に簡体字(中国が使ってる略漢字ね)「台湾軍と中国軍が空中戦!」というデマ情報が書き込まれたという報道もある。

 さて当然ながら台湾政府は敏感に反応した。唐飛国防相は「中国側のインターネットを利用した心理的嫌がらせだ!」と激しく抗議。また一部台湾ハッカー達も「報復戦」に乗りだし、中国の公的機関のサイトに不正アクセス作戦を開始した。陜西省の「陜西科学技術網」には「ハローキティ」を名乗るハッカー(爆笑!)により「反共」の文字が書き込まれ、ハッカー同士連絡を取り合って全省のサイトに侵入しようという計画まであるそうである。

 ところが。その後の報道によるとちょっと妙なことになってきたようだ発端となったその監察院サイトの書き込みだが、その後の台北地検や交通部(交通省)インターネット危機管理センターの調査で、なんと真犯人は台湾の大学生の仕業である可能性が強まってきちゃったそうな(どうやって調べてるかは分からないが)。もちろんこれ以外にも不正侵入事件はあって実際に中国側のハッキング攻撃があった可能性も捨てきれないそうだが…

 そんなこんなの珍騒動(?)の一方でこんな報道もある。朝日新聞のサイトに出ていた話題。
 台湾のアイドル・張恵妹が中国公演中なのだが、これがまた大変なフィーバーなのだそうだ。僕はこの人については全然知らんのだが(日本のアイドル事情だって疎い奴だからな)、なんでも大陸側の清涼飲料水のCMで大陸中にその顔と名が知れ渡ったらしい。春先に中国行っていた僕もひょっとしたら彼女をテレビで見かけたかもしれない。飲料関係のCMはやたらやってたからなー。
 それはともかく、中国史上最高額の2000元(×15で日本円になるけど物価事情が全然違うのでとにかくベラボーな値段である)というチケットにも関わらず北京を始め各都市で数万人の観客を集めているそうである。上海での会見で「北京ではハンサムな武装警察がずらりと並んで緊張した」などとブッ飛んだ発言をアッケラカンとして周囲を慌てさせたそうだが(笑)、そんなところもかえって人気を呼んでしまっているらしい。
 まぁこんな話題が出ているうちは世の中平和です(笑)。

◆一年後のコメント◆
このあと、日本の官公庁のHPが中国人と思われるハッカーに書き換えられるって事件もありましたっけね。



◆通常国会終了…なんか怖いぞ

 第145回通常国会が閉幕した。さんざんマスコミ等で言われているが、今度の国会は歴史に残るかもしれない。
 まず過去最多の法律を成立させた。その数108個。偶然ながら水滸伝の豪傑の数と同じだった(笑)。あれは「伏魔殿」に閉じこめられた妖魔の数だったわけだが、後世、この国会があの物語と同様に「伏魔殿を開いた」なんてことにならないことを祈るのみだ(ついでに言えば除夜の鐘の数、この世の煩悩の数もいっしょですな)
 目に付くのが、憲法をぶち破って戦争協力体制を整えた「日米防衛ガイドライン」。犯罪捜査に通信の盗聴を認める「通信傍受法」。国民総背番号制とも言われる「住民台帳法」。そして日の丸・君が代を公式のものとした「国旗・国家法案」。いずれもこれまでだったら「内閣の一つや二つつぶれかねない」と言われるほど物議を醸す法案だった。しかし問題点も残しながら会期中に誕生した「自自公連合」の数の力によっていずれもあっけなく成立してしまった。野党が情けなかったことも認めるが、数の上で完全に成立が見込まれている以上、抵抗にも力が入らなくなるのは無理もない。
 法律として成立した後でも怖い動きがある。「国旗・国家法」の成立までの議論の際「教育現場で日の丸・君が代の強制はしない」という「口約束」があったような気がしたが、その後「儀式などで日の丸・君が代を拒否した者には退場を求めることもある」という見解が出てきた。これじゃ教育現場でどうなるかは火を見るより明らかだ。だから「強制しちゃいけない」ってことは明文化しておかないとダメなんだよな。この調子だと「盗聴」だって拡大解釈でいくらでも範囲を広げられる可能性がある。こんな法律決める以前から警察は盗聴をしていてバレても謝罪していないんだから、何をするか分かったものではない。参議院の中村敦夫議員が「こんな欠陥法を作って、あと50年は日本はそれに束縛される」とか嘆いていたのが印象的だった。
 さらに自民党内の一部に報道への圧力をかけようとする動きが見られる事にも要注意だ。「選挙報道が票に影響を与える」だとか「報道による被害(例えば所沢のダイオキシン騒動)」を理由にマスコミ報道に規制をかけようという動きが見られる。前からあった動きだが、「数」が多い今、何か形にしようとする可能性が高い。
 前々からもめてる靖国神社についても、より国家による保護・管理・顕彰の方向を打ち出してきている(具体的には「特殊法人」化する気らしい)。ネックになっているのがA級戦犯がこの神社に祭られていることだからと、A級戦犯だけ別に祭ろうと言い出したのにはちょっと笑ったが…今はいろんな価値観の人がいるんだから国家で一神社の管理をやるってのは勘弁してほしいところ。戦死者の追悼は神社でなくたってできるはずだ。
 とにかく近頃の自民党、やりたいことをドンドン進めていく。そのペースは恐ろしく速い。傾向としては選挙やるたびに勢力を減らしている政党のハズなのだが…毎度の事ながら総選挙の前後に重大事項は決めないのである。この辺が日本の政治風土のヤなところだ。

 言い古されたことだが、その国の政治風土は国民の風土を反映する。「政治家が悪いことをしている」などと他人事のように言っちゃいけないのだ。恐ろしいことにこのドタバタの最中でも小渕内閣の支持率は上がり続けているのだ!なんか良い事したのか、あの人?というか何か「目立つ、分かりやすい悪事」をしなければ支持率が上がるというのが日本国民の習性らしい。
 …その観点から、今国会で成立が見送られた「サマータイム法案」に僕は注目している(笑)。驚くべきことに自民党、これにけっこうやる気なのだ。次期国会で論争になるのだろうが、こういうのには案外国民は敏感に反応するかもしれない(笑)。

◆一年後のコメント◆
「国旗・国歌法」は結局予想通り、教育現場でさらなる強制が行われとりますな。もともとそのために作ったんだから。ま、そんなことで「愛国心」とやらが強くなるとはとても思えませんけど。
最後に書いている「サマータイム法案」は予想に反してまだ姿を現していないみたいですねぇ…油断してるとヒョイと出てくるような気がまだしてますが。
 


99/8/15記

<<<前回の記事
次回の記事>>>

  「ニュースな史点」リストへ