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1999年8月23日

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 ◆今週の記事


◆20世紀・アジアの20人とは…?

 前にも取り上げた話題だが、アメリカの雑誌「タイム」が「20世紀を代表する人物」の特集を行った。その際小渕首相が「昭和天皇」を推薦して、彼の軍服姿の写真が掲載されちょっとした騒ぎになったと一ヶ月ぐらい前の本欄で書いている。そしてこのたび、その特集のアジア・バージョン(?)が「タイム」誌アジア版に掲載され、「20世紀で最も影響力のあったアジアの20人」と題された。新聞などでは20人全員の名前が掲載されていなかったが、「タイム」のホームページにデータ・論評と共にちゃんと載っていた。そこに載っていた順番通りに20人を書き連ねてみよう(順番の根拠は不明である)。

昭和天皇(あくまで原文では「ヒロヒト」でしたが)
ホー=チ=ミン(ご存じベトナム建国の父)
ポル=ポト(カンボジアの独裁者・大虐殺で有名)
三宅一生(日本のデザイナー)
井上大佑(音響機器会社「クレセント」元会長)
タゴール(今世紀初頭のインドの詩人。ノーベル文学賞受賞者)
孫逸仙(ご存じ孫文。なぜかこちらの名前で掲載されてた)
マハトマ=ガンジー(インド独立の父。非暴力主義の元祖ですね)
スカルノ(インドネシア建国の父)
毛沢東(中華人民共和国の建国者)
リー=クワン=ユー(シンガポール元首相)
トウ小平(毛沢東後の中国指導者)
コラソン=アキノ(フィリピン革命の指導者・元大統領)
朴正煕(韓国大統領。開発独裁の典型とされるが暗殺された)
豊田英二(豊田自動車元社長・最高顧問)
ラーマ5世(近代化に務めた今世紀初頭のタイ国王。別名チュラロンコーン大王)
スワミナサン(東南アジアの農業改革「緑の革命」を始めた研究者)
黒澤明(日本の映画監督)
ダライ=ラマ14世(チベットの宗教指導者。亡命チベット政府の代表)
盛田昭夫(ソニー創業者・現名誉会長)

…ってな具合である。さてこれを見て何をお感じになるだろうか?

 「やはり」と思うのは歴史的政治家・指導者たちだろう。孫文・毛沢東・トウ小平・ホー=チ=ミン ・ガンジー・スカルノなんかは誰しも文句のないところだ。悪名高いポル=ポトにしたって「歴史的大物」には違いない。昭和天皇個人が何かしたかについてはかなり疑問も感じるが、まぁ激動の時代ずっと皇位にあったということでは歴史的人物ではあるか(影響もないとは言えんしな)。朴正煕やアキノなんかは「各国代表」って印象も無くはないが…そうそう、あくまでここでいう「アジア」は東アジア・南アジア・東南アジアだけのようだ。

 しかし何と言っても我々日本人としては同国人に目が行っちゃう。興味深いというか面白いというか首を傾げるというか…という人選である。他に政治家が多いだけに日本人達が妙に浮いている。実のところ黒澤監督は僕の予想の範囲内。トヨタとソニーの会長が入っているのもまぁまぁ理解できるところだ。外国から日本を見たとき、こういう部分が大きくみえるのだとよく分かる。それにしても三宅一生さんとは…(失礼?)。そして井上大佑さんって?
 この人についてはさすがにマスコミ等も解説をつけねばならなかった。この井上さんって何者なのか?じつはなんとあの「カラオケ」の発明者だったのだ!特許はとっていないそうだが、この人が最初に「カラオケ」の原型となる機械を考案したのだった。
 アジアに出てみると分かることだが、今や「カラオケ」は世界に誇る日本発の文化だったりする。特に中国文化圏にはバカ受けのようで…そのうち欧米にも広がるんじゃないかと僕は密かににらんでいる。確かに一つの発明としてこれほど多大な影響を与えたものはあまりないかもしれない。そう考えてみると、この人選は「影響力」という視点で見ると確かに妥当なものだと言えそうだ。

 日本人に関しては政治家より文化面を重視した人選なのかな(昭和天皇を選ぶ辺りは何か誤解があるようにも感じるが)。だったら手塚治虫を選ぶべきだった、ってのが僕の正直な感想。



◆ハリウッドの技術を軍事訓練に!?
 
 邦題で「プライベート・ライアン」というタイトルの映画がある(原題「SavingPrivate Ryan」)。昨年日本でも公開され、監督のスティーブン=スピルバーグがアカデミー監督賞の栄誉に輝いたことも記憶に新しい。僕はこの作品がスピルバーグのベストとは思わないが、彼流のやり方で成功した反戦映画の傑作として認めたいと思っている。観た方には説明の必要もないだろうが、第二次大戦の欧州戦線を舞台に、目を背けたくなるほどの凄まじい戦闘場面が描かれている。戦場の悲惨さ・残酷さを兵士達の視点から生々しく描き、あまりの描写にアメリカ軍関係者から「志願兵が減ってしまう!」という心配の声が上がってしまったという。
 そのスピルバーグ監督に先日、どういうわけかアメリカ国防相から表彰があった。なんでもこの映画で「第二次大戦への国民の関心を喚起した功績」を称えたのだという。僕が観た限りの映画の趣旨からいうと、ちょっと違うんじゃないかい、って気もするが、スピルバーグは受け取ったんだろうな。
 
 とまぁ枕が長くなってしまったが、ここからが本題。
 去る18日、アメリカ陸軍と南カリフォルニア大学が共同で研究センターを設立し、訓練技術の開発に取り組むことに同意した。ここでハリウッド映画でおなじみのCG技術などを使ったバーチャルリアリティーによる軍事訓練システムの開発を行う予定とのこと。軍事訓練もバーチャルリアリティーの時代に突入しちゃったようである。
 戦闘機なんかはシミュレーターがあると思うんだけど、そこは陸軍、戦場で兵士達が遭遇するシチュエーションをいろいろと想定したプログラムを作成する気のようである。このプログラムの作成には映画関係者だけでなくゲーム製作者の参加も予定されているらしい。主人公視点の3Dアクションゲーム(古いがDOOMとかかな)の巨大バージョンとでも思えば良いんだろうか。まぁよく考えつくもんである。

 以前テレビで見たことがあるのだが、こんなハイテクは使わないものの、さまざまな場面を想定したシミュレーション訓練は実際の軍事訓練でも行われている。そりゃ当たり前、と思うかも知れないが、面白いことにちゃんと「演技」をする人を抜き打ち(兵士に事前に知らせない)で訓練中に登場させるんだよね。僕が観たものは戦場を取材している報道陣に出会ったらどうするか、という場面だった。この報道陣役の人達(兵士なのか?)が熱演なのだ!兵士達に因縁つけたり訴えてやると騒いだり(笑)。そのうち兵士達がブチ切れたりして…なかなか面白かった。現実に役に立つかどうかはしらんが(^^; )。
 



◆ゲバラは死しても救国の英雄!?

 チェ=ゲバラって名前は世界中のある世代(日本における全共闘世代?)にとって今なお強烈な光を放つ存在のようだ。彼の日記、いわゆる「ゲバラ日記」は一時期学生運動のバイブル的存在となり、「天才バカボン」にも登場しているほど(笑)。実は我が家にもヒョッコリ転がっていた。また最近では彼の顔をデザインしたTシャツが売れるという珍現象もあったそうだから、若い世代でも顔だけは知っている可能性が高い。
 で、この人何者かというと、今なお健在なカストロ首相とともにキューバ革命を実現させた革命家である。実は彼自身はアルゼンチンの出身なのだが、中南米の貧困を嘆いて革命運動に生涯を捧げ、あちこちで活動したのちキューバ革命を実現させた。革命後のキューバ政府で閣僚にもなるが、さらなる革命を起こすべく辞職しアフリカへ。ここでは失敗しその後南米のボリビアへ向かい、ここでゲリラ活動をしているうちに逮捕され処刑された。ゲバラだと分かったのは殺されてからだったという。まぁとにかく根っからの「革命家(屋?)」でありますね。戦うことしか興味がなかったのかもな。

 先頃30年ぶりにこのゲバラの遺骨がボリビアで確認され、キューバに返還されて話題を呼んでいた。盟友であり革命の戦友であったカストロは革命とゆかりのあるサンタクララ市に霊廟を建設し、彼の遺骨をそこに納めた。そして定番通り銅像や博物館を併設し、この「革命の英雄」の生涯をたどれるようにしたのだそうだ。
 もちろん観光客を当て込んだものである(笑)。実際世界のゲバラファンも次々とこの市を訪れており、訪問者42万人のうち12万人が外国人だそうである。なにせ今のキューバは援助国ソ連の崩壊で青息吐息の状態。願ってもない外貨獲得の材料なのである。ゲバラ、骨となってもキューバに貢献してくれてるわけだ。カストロさん、足を向けて寝られませんね(笑)。



◆二つの国の狭間で

 世界史、とくにヨーロッパ近代史において「アルザス・ロレーヌ地方」という名前はたびたび出てくるのでご存じの方も多いだろう。ドイツとフランスの間にある地方で、鉱産資源が豊かなためにフランス・ドイツ両国の激しい争奪の場となった。普仏戦争の際はドイツがこれを領有し、第一次世界大戦後はフランスが占領。その後ナチス・ドイツがフランスを屈服させるとまたまたドイツ領に。当然ながら現在はフランスの領域である。
 こんな土地には付き物の話だが、ここの住民はドイツ語・フランス語両方が話せたりするらしく、「どちらの国民」と決めるのは難しいもののようだ。これまたご存じの方も多いだろうが、この辺の事情を知ることができるものとして、むかし国語や道徳の教科書によく載っていた「最後の授業」という小説がある。明日からドイツ語のみを使用しなけらばならない日に学校のフランス語教師が最後の授業を行い、おしまいに黒板に「フランスばんざい!」とフランス語で書くあの話だ。僕は高校ぐらいからこの話にちょっと胡散臭いものを感じていたのだが、やはりフランス側から見た一方的な物語であるのは否めないらしい。どこがどこの領土で誰がどの国の国民かなんて近代以降に急に決められていった話なのだ。

 で、最近見た報道によると、フランス政府はこのアルザス・ロレーヌの住民でドイツ兵として第二次大戦を戦い、ソ連方面で行方不明になった人々を「フランスのために死んだ者」としてその名誉を回復する意図を示したという。フランスではこれらドイツに徴兵された人々を「マルグレ・ヌ」と呼ぶそうだが(我々の意に反して、の意とか)、その戦死者は2万人、行方不明も2万人にのぼるという。死亡が確認された人についてはこれまでも「フランスのために死んだ者」として扱っていたそうだが、このたび行方不明者についても同様の扱いとすると決めたというわけ。逃亡だろうと収容所で死のうと、歴史的な英雄としてそれを讃えようということなんだろう。例えドイツのために戦っていたとしても。
 なんでも最近のフランスでは第一次大戦時に攻撃命令を拒否して処刑された兵士の名誉回復なんてのも話題となっているそうな。戦後半世紀がたち、世界中あちらこちらで先の大戦の評価をめぐる動きが盛んだ。僕の恩師の一人は「50年はたたないと「歴史」にならないよ」と言っていたが、昨今の動きを見ていると、なるほどそうかも、と思えてくる。
 


99/8/23記

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