ニュースな
1999年9月26日

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 ◆今週の記事

◆地震と政治の奇妙な関係

   まぁ、それにしても続くものである。トルコで大地震が起こり、ついでギリシャでも地震が起こった。そして今度は台湾で大地震が発生、現在まで確認されたところ約2000人ほどの犠牲者が出ている。台湾へ駆けつけた救援隊の多くがついこの前までトルコで救援活動していた人達だそうで、今度の地震がホントに相次いで起こっていることを実感させてくれる。そうそう、トルコからも民間団体の救援派遣があったそうだ。

 さてトルコとギリシャの地震で、「宿敵」どうしだった両国が互いに救援を送り、なにやらエールの交換みたいになってしまったことを先日このコーナーのネタにした。今回、台湾で大地震が起こったと聞いた時点で確実に予想されたのが、台湾にとっての「宿敵」、大陸側の中華人民共和国による台湾への支援活動の申し出だった。案の定、間髪を入れずに江沢民主席が「被災した同胞に心からの慰みを示し、亡くなった同胞に沈痛なる哀悼の意を表する。台湾同胞の災難と苦痛は中国人全体の心に及んでいる」と表明し可能な限りの支援を行うと発表した。中国紅十字(赤十字のことです)も10万ドルの救援資金と50万人民元(約700万円)相当の救援物資を台湾に送ったという。他にも何かあったかもしれないが、とにかく「宿敵」としてはかなり素早く動いたことは間違いない。

 地震の被災者の方々にはいささか申し訳ない言い方だが、今度の地震は中国政府にとって対話促進のためには「絶妙なタイミングの天災」だったところがある。ご存じの通り台湾の李登輝総統による台湾の独立国家論、いわゆる「二国論」ぶちあげ以来、中台関係はギクシャクしていた。共産党vs国民党の戦いから考えればその前からそうだろうという意見もあるかも知れないが、もはや台湾が「大陸反攻」を実現できるとも思えず、大陸中国もまた事実上「資本主義化」して、香港同様の「一国二制度方式」で台湾を吸収しようと考えるようになってきた(もちろん武力征服も完全に放棄したわけではないと言っているが)。李登輝総統の「二国論」はそうした情勢の変化を前提にしてあらわれてきた議論だったし、中国側が強く反発したのもまたしかりだったと言える。まぁ双方の政府レベルの思惑とは別に民間レベルでの経済交流は進んでしまっているわけだが。

 今度の江沢民主席のコメントでやたらと「同胞」が出てくるのは明らかにこうした政治的思惑が背景にある。そして台湾への各国の援助に対し大陸の中国政府が(何度も書くのはうっとうしいのだが、いちおう確実に書くためだ)感謝の意を表しているという話も聞いた。いや、もちろんそれはそれで良いことなんだけど、何やら妙な気もするのは事実。国連の台湾への援助派遣も「当事国」である中国の「承認」を得て行われている。なんといっても国連に「中国」として代表を送っているのは大陸側であるし、しかも安保理常任理事国だ(そうなる前は台湾が常任理事国だったんだよな〜)。アナン国連事務総長もコメント中では「中国台湾省」という表現を使っていた。台湾の国連加盟運動ってのもあるそうだけど、この情勢ではまだまだ現実的とは言えないようだ。

◆一年後のコメント◆
この記事についてはその後の展開からすると補足が多少必要。結局のところ中国側が送った救援物資等は台湾側にどの程度送られ、また受け入れられたのか不明だったし、台湾側も(報道などによる限り)それほどこの援助を有り難いと思っていた様子はない。むしろヘンに政治利用されたことでカチンと来た向きもあったみたい。どっちにしてもこれが両政府の対話を促進することはなく、その後の総統選挙で独立派の陳水扁氏が当選する結果となってしまった。
台湾の国連加盟の件だが、先日行われたミレニアムサミットでもこの件について国連本部、そして五大国のいずれもこの件には全く触れることなく、「無視」される結果になってしまっている。台湾側もアフリカなどの国交のある諸国にはたらきかけてはいたが…



◆東ティモールへ多国籍軍その後
 
 前回当コーナーで書いたように独立を決めた住民投票後、騒乱状態に陥った東ティモールへ、オーストラリア軍を主力とする多国籍軍が派遣された。多国籍軍の目的そのものについては大した反発は出ていないものの、ただオーストラリア軍が主力となったことが周辺の東南アジア各国の不安感をいささかあおっていた。それがここへきてまた頭をもたげてくるような展開があった。

 オーストラリアのハワード首相が雑誌のインタビューで「我が国はアメリカの代理人としてアジアの安全保障に新しい役割を果たしたい」という趣旨の発言をしたのだ。東ティモールへの多国籍軍の派遣もその一環であり、このために軍事力をより強化したいという意志まで示したという。当然ながらこの発言を受けた東南アジア諸国連合(ASEAN)各国はこれを「内政干渉」とみなしていっせいに反発している。「やっぱり白人の国は…」と植民地時代を想起する声も聞かれるそうだ。
 そういえば確かに今回の軍派遣にあたってオーストラリア政府の意気込みはかなりのものが感じられた。「第二次大戦以来の軍事活動」とか宣伝したり(実際には米英両国にくっつく形でベトナムや湾岸戦争にも参戦しているんだが)、派遣にあたってハワード首相がわざわざテレビで演説し、この派兵の正当性を訴え、「犠牲者が出ることを国民は覚悟しなければならない」とまで国民に呼びかけたていた。そのころから周辺各国からはこの派兵がオーストラリアの政治的思惑から来てるんじゃないかという疑いを起こさせていたわけだ。ここにきてハワード首相は「本音」を暴露した形となっている。報道によるとこの発言にはオーストラリアの野党からも批判が出ているそうだ。

 それにしても「アメリカの代理人」って露骨な表現にはちょっと驚いた。「卑屈」だとか思わないのかなぁ。まぁ日本でも「アメリカの執事・家老・番頭になれ」と発言する国際政治学者がいましたけどね(以前この欄で紹介済み)。
 



◆ゴルバチョフ夫人ライサさん死去

 あのかつての「ペレストロイカ」のヒーロー、ゴルバチョフ元ソ連大統領の夫人ライサさんが20日、急性白血病のため入院先のドイツ・のミュンスター市内の病院で死去した。享年67歳。7月ごろから危篤という話が流れていてゴルバチョフ氏がつきっきりで看病しているというニュースも聞いていたが、ついに帰らぬ人となってしまった。

 「ペレストロイカ」の進行をちょうど目の当たりに見ていた僕としては非常に感慨深いものがあった。ソ連の大改革ペレストロイカ、もはやこれは「ソ連」ともども歴史用語になりつつあるが、これの進行はハタ目には非常に明るい未来を人類にもたらしてくれそうな期待に満ちたものだった(なんてったって、その前はいつ核戦争がおこって人類滅亡かって言ってたんですぜ)。そんな大改革の象徴はもちろん中心にいたゴルバチョフその人だったわけだけど、外遊する際、その傍らにいつもいるライサ夫人の存在も強烈、というか従来のソ連の首脳夫人としては異例の魅力に満ちた人だった。
 「ファーストレディ」という言葉は西側各国、とくにアメリカ大統領夫人に奉られる事が多かった。実際、ファーストレディというとレーガン夫人のナンシーさんや(占星術に凝っていたそうですが)現在のクリントン夫人ヒラリーさん(選挙に出ちゃうそうですが)といった個性的な米大統領夫人達をすぐ思い出す。ゴルバチョフ夫人ライサさんはこれに対抗(?)できるほどの強烈な存在だった。こう言っちゃなんだが「ソ連にもこんな人がいるんだな〜」と全世界が感心していた記憶がある。

 その後ペレストロイカは東欧の社会主義からの離脱、ソ連国内の民族紛争を引き起こす結果となり、ゴルバチョフは次第においつめられていった。まぁペレストロイカをやらねばならないほどソ連自体がすでに追いつめられていたってことなんだろうけど。そしてついに保守派によるクーデター、ゴルバチョフの失脚とエリツィン現大統領の台頭、そしてソ連の消滅、と歴史の歯車は急速回転していった。ゴルバチョフ夫妻にしてもあれよあれよという展開だったろう。そしてゴルバチョフはソ連を崩壊させた元凶として国民に嫌われ、完全に「過去の人」とされてしまった。

 こんどのライサさんの死去で、フッとこの二人の存在が再び浮かび上がった。あるとき歴史を動かし、そしてその歴史に翻弄された人生だった。晩年は海辺の家で夫と共に余生を過ごすことを楽しみにしていたというライサさん。月並みだがホントに渦中に生きた人間として死に際して何を思っただろうか?



◆とりあえずミサイルは撃ちません

 なんのことかはお分かりですね。北朝鮮・朝鮮民主主義人民共和国(あーいつもながら長い…)が正式に「アメリカとの交渉が続く限り、テポドン2号は撃たない」と明言しました。だけど「ミサイル」とは公式には言ってなくて、あくまで「人工衛星」ということになっているので注意。国連総会でも北朝鮮代表は「国連に認められた宇宙空間使用の平等な権利を行使したもの」と表明し、日本の騒ぎを「ヒステリックなキャンペーン」と表現している。あんたに言われたくないわい、って気も多少あるけど(笑)、「ヒステリックなキャンペーン」ってのは結構当たってるとは思う。昨年の1号打ち上げ以来、「今度は○月危機!!」って雑誌の見出しを何回見たことか。もちろん実際に「危機」があることは認めるけど、大半は単なる部数稼ぎのためのお騒がせ記事。書店に行けばビジネスマン向け国際政治本や仮想戦記小説なんかもこの9月に打ち上げられると見込んで(というか山をかけて?)テポドン、テポドンの大合唱だ(「北朝鮮が世界征服!」ってムチャクチャな内容の本もあった)。もっと近くの韓国なんてほとんど騒いでないそうですが。結局あんなのは「平和ボケ」の象徴だという気もしますな。

 もっとも北朝鮮が公式に「撃たない」と表明したのは、あくまでアメリカとの交渉が進展したからだ。そこらへんが日本人としてはちょっとやるせないところではあるのだが…まぁアメリカも極東の安全、なんてことより本国の安全を考えたみたいなんだけどね。テポドン2号はアメリカ本土まで届くとか言う話が出てから急に本腰を入れたように見えなくもなかった(笑)。まぁ国際政治なんてそんなもんなのかもしれない。そう考えると北朝鮮ってなかなかしたたかだ。日本よりは外交交渉術に長けているかも知れない。別に誉めもしないが。
 アメリカはこの交渉でテポドン発射取りやめの条件として経済封鎖を部分的に解くことを約束した。これ、なんと朝鮮戦争以来の大事件なのである。アメリカがここまで譲歩するってのは大したものだと言わざるを得ない(お互いにね)。その朝鮮戦争で戦った韓国もこれを歓迎しており、まぁまぁひとまず丸く収まった形である。まぁこうなっちゃうと「やっぱり強い武器を持ってたほうが得だ」というやっかいな論理にはまってしまうのだが。

 さて、日本はどうするのか?とりあえず外務省の意向としては、アメリカと北朝鮮の対話がドンドン進んできたら日本も追随して北朝鮮と話し合おうという程度のハラらしい。「宗主国」の意向をうかがって、ってことなんでしょうね。やっぱり「番頭」だなぁ…(^^; )
 


99/9/27記

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