ニュースな
1999年11月21日

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 ◆今週の記事

◆20世紀最大の事件は?

 今年1999年も間もなく終わる。20世紀自体はまだあと一年あるわけだけど、なんといっても1000年代は今年で終わりという大変な節目、今年中に20世紀を振り返る企画がどうしても多くなる。日本でも似たような20世紀総括企画が次々と行われてますね。

 アメリカのギャラップ社が先月発表した世論調査もこうした20世紀総括企画の一つで、「20世紀に起きた最も重要な出来事は?」というよくあるアンケート調査だった。今月の初めから成人約1000人を対象に調査を行ったのだが、その結果、最も多い71%の回答を得たのが「第二次世界大戦」だったそうだ。ちょっと、そりゃ確かにそうだけどくくりすぎだよ、と言いたいところ(笑)。「第二次世界大戦」を一つの事件と見なせば確かに人類史上最大の事件でもあるだろうし、初めからこれがトップになるのは見えていたようなものだ。
 しかしこの調査で二位の66%の回答を得たのが「広島への原爆投下」だったというから面白い。これって「第二次世界大戦」の中に組み込まれちゃうんと違うか、と思うところなのだが、わざわざこれを回答した人が「第二次世界大戦」なみにいたというのは凄い。もちろん調査対象はアメリカ人なので、これをどういう意味で挙げたかは人それぞれだろう。ある人は原爆投下によって現出されたあまりにも残酷な悲劇を重視したかも知れないし、人類が自らを滅亡させる力を持った兵器の発明と言う点をを重視したかもしれない。ある人は一位の大事件「第二次世界大戦」を終了させたことを評価してこれをあげたとも思われる。はたまた原子力エネルギーそのものの使用と人類の未来との関わりを想起したかも知れない。まぁとにかくいろんなことを考えさせる事件であるのは確かだ。僕などは、予想以上にアメリカ人は「ヒロシマ」を意識しているんだなぁ、などと感じたものだが。

 ちなみに同点の66%で二位になったのは1920年の「アメリカの女性参政権の実現」だった。おそらく女性にこの回答が多かったのだろう。女性参政権は原爆並みの事件だったというわけか…。以下、「ナチスによるユダヤ人虐殺」65%、「公民権法の成立」58%、「第1次世界大戦」53%と続いていた。戦争がらみの大事件と国内の政治運動の話とが交互に来る辺りがアメリカ的なんだろうか…。ところで気になったのが「ケネディ暗殺」は何位だったのか?ということだ。僕が見た記事ではこれがでていなかったんだよなぁ。



◆アメリカが国連総会投票権を失う?
 
 などと過激なタイトルをつけてみたが、もちろん、失うことはない。ただし、下手するとその可能性があったのは事実だ。
 国連だって運営には費用がかかっている。国連は国家ではないので税金を取る相手はいない。そこで国連は加盟各国の経済力に従ってそれぞれの国に国連分担金なるものを科し、それによって運営を行っている。ところが奇怪なことに国連の五大国の一つであり、国連本部を領土内に抱えている大国が、この分担金を一向に支払わず、滞納を続けている。そう、アメリカ合衆国である!この滞納はすでに長年に渡っており、なんと16億ドルもの滞納金がたまっているのだ。

 なんでまた大親分であるアメリカが国連分担金を払わないのであろうか。このあたり、CTBT否決問題で前にも書いたがアメリカがしばしばみせる保守主義・孤立主義の顔がからんでいるようだ。アメリカの保守派は下手すると連邦政府すら認めないぐらいで、より小さい、より身近な範囲内での自治を求め、他者の干渉を許すまいとする傾向がある。こういう人達にしてみればアメリカ以外の多くの国が参加する国際連合などに自分の金など払いたくない、ってな発想があるようだ。
 もちろんそんなワガママをハッキリ言うわけもなく、一応アメリカ議会の保守派は「国連は妊娠中絶をすすめる活動をしているから」という難癖をつけて分担金支払いを拒絶し続けていた。これも十分わがままなような気がするが、アメリカの保守派って宗教的な観念から中絶にやたら反発をもつらしく、こんな理由でも議会では通っていたようだ。まぁ実のところ言ってる当人達も「単なる言い訳」と自覚しているんだろうけど。

 この超大国アメリカの分担金未払い問題はだいぶ前から国連や加盟国の非難を浴びていた。アナン国連事務総長をトップとする国連側もついにブチ切れたようで、「年内に3億5000万ドル払わんと国連総会の投票権を取り上げるぞ!」と「最後通牒」を下していた。確かに当然の措置であると言えるし、遅すぎたぐらいだ。さすがにクリントン政権は慌てた。国連大使を務めたこともあるオルブライト国務長官に議会の共和党保守派と折衝させ、どうにか今月15日に暫定合意が成立、アメリカは滞納分16億ドルの内、9億2600万ドルの支払いをすることが決定した。それでも議会保守派は妊娠中絶に関わる団体への援助にはかなり厳しい条件を付けて合意したんだけどね。しつこいものである。

 アメリカがため込んでいた分担金を一部とはいえようやく納めることとなり、アナン国連事務総長は当然ながら歓迎を表明、「今回の米国の支払いは国連における米国の指導力回復にむけた重要な節目となる」と一応クリントン政権を評価した。しかし「国連加盟国は無条件できちんと分担金を払う義務がある」と、条件付き・部分払いのアメリカにクギを刺すことを忘れなかったそうな(笑)。
 



◆最古のアルファベット?

 今日でも使われている表音文字・アルファベットっていうと世界史の授業では「フェニキア人が創った」と習った。だいたいどこの古代文明でも文字は絵を記号化した象形文字から始まるが、フェニキア人が使った元祖アルファベットはメソポタミアで使用されていた楔形文字を改造して発音を表現するようにしたものではなかったかと言われていた。フェニキア人は地中海をまたにかけた貿易商人だったから表意文字よりも表音文字の方が都合良かったんだろうなあ、などと授業を受けつつ思っていたものだ。
 ところでアルファベットタイプの表音文字というとフェニキア文字より古いんじゃないかと思われるものがシナイ半島などから見つかっている。こちらはシナイ文字とか言うらしいが、これが一説には紀元前1600年もの昔のものだと言われている。そしてこのシナイ文字・フェニキア文字のいずれもがセム語系(バビロニア語・ヘブライ語・フェニキア語・アッシリア語など聖書ネタやアラビア語を含む?)の言語であった。これを記憶しておいてもらいたい。

 アメリカ・エール大学のジョン=ダーネル教授らのグループは、エジプトの有名な「王家の谷」周辺の砂漠の中にある石灰岩の壁に、アルファベットの原型と思われる文字や文章を発見した、と発表した。調査の結果、「現在の「M」にあたる文字は、エジプト象形文字の「水」を意味する波形の文字から派生したのでは?」とか「「H」はつえをついた人の形か?」といった推測が得られたという。文書自体の内容はサッパリ分からなかったそうだが…。ここで問題になるのはこの文字がどうも紀元前1900年代のものではないかということ、そしてエジプト象形文字を改造した表音文字ではないかと推測される点だ。
 古代エジプト文明の担い手達は「ハム語系」だったと言われている(話が逸れるが、セムとかハムって聖書に出てくるノアの息子だよね。どっからこういう名前をつけるようになったんだろ)。もしエジプト象形文字を改良してアルファベットの原型が出来たのなら、なぜセム語系にそれが受け継がれたのか?という疑問が起こる。
 ここでダーネル教授は想像力を膨らませる。古代エジプトの雇われ兵だったセム語系の人間が書記となり、エジプト象形文字の草書体を簡略化してアルファベットの原型を創ったのではないかというのだ。それが商人や兵士に広まって…というのだ。なんだか日本の仮名文字発明の過程みたいだが、それを一個人の話にもってっちゃうあたり、ちょっと考古学ロマンチシズムが入っちゃった気もするな(笑)。
 まぁいずれにせよ、この手の話は明確なことはなかなか分からない。「歴史」の始まりを告げるとも言える文字発明一つの歴史をとっても謎はまだまだありますね。



◆CIA予測大作戦!

 この連載をマメにご覧になっている方はお気づきでしょうが、僕ってスパイ話が好きでしてねぇ(^^; )。スパイ小説はあまり読まないし「スパイ大作戦(古いか、ミッション・インポッシブル)」もロクに見ていない。映画好きのクセして「007」も全話は観ていない。でもスパイ実録ものにはやっぱりひかれますね。このところソ連崩壊のあおりで冷戦期のスパイ事情が次々と明るみになるもんだから面白くてしょうがない。今は「梟の城」を撮った篠田監督が念願の大作「ゾルゲ」を実現してくれることを心待ちにしております。そういや「梟の城」も一種のスパイものですな。

 枕はこの辺で(汗)。
 11月18日、アメリカ中央情報局(CIA)は、ソ連崩壊直前の3年間に関する機密文書の一部(400ページ超!)を公開した。この中にはCIAがスパイ活動と言うよりは「情報分析」という分野においてどれほどの実力があるかを示す文書が含まれていた。これがなかなか面白いのだ。
 ちょうど十年前の1989年。11月にベルリンの壁がいきなり崩壊したが、それを直前まで予測した人はほとんどいなかった。ペレストロイカの進行にも割と明るい展望を持っている人が多かったように記憶している。しかしこの時点(壁崩壊2ヶ月前)でCIAはペレストロイカの行方にかなり悲観的な予想を示していたのだそうだ。アメリカ政府内にもそこまで考える意見はまだなかったそうである。ま、さすがに壁の崩壊は予想外だったらしいが。
 翌1990年の末には、今後のソ連の展開を4パターンにわけて予測していた。約50%の確率で「状況はさらに悪くなるが、無政府状態にはならない」、以下、20%以上の確率で「無政府状態となりゴルバチョフかエリツィンが暗殺される」「軍事クーデターが発生」「安定したシステムに向かう」というパターンが予測されていた。翌年にはこのうちいくつかの部分が現実化したわけだ。
 今度公開された文書には翌1991年6月にブッシュ米大統領がゴルバチョフ・ソ連大統領にクーデター発生の危険性を忠告し、退けられていたという事実も載っているそうだ。7月にCIAは「ソ連崩壊」という想定もしていたらしい。しかしそれは「5年以内」のこととされていた。実際の歴史はその年の夏にソ連の保守派のクーデターが発生して三日天下に終わり、ゴルバチョフは権力を失い、12月にはソ連は本当に崩壊してしまった。歴史が動くときなんてのは、プロでも予測不可能なぐらい急激に動くものだということを示しているなぁ。

 僕などのように歴史を専攻にしてしまった人間としては、ここ数年はめっぽう面白い国際情勢だし勉強にもなった。「歴史は動き時には恐ろしい速さで動く。そしてその事に当事者も直前まで気づかない」という、結構言い古された歴史法則(?)を実地に学んだということだけなんだが。
 
 


99/11/21記

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