ニュースな
1999年11月28日

<<<前回の記事
次回の記事>>>

  「ニュースな史点」リストへ


 ◆今週の記事

◆明暗?日中宇宙開発

 先頃、日本が誇る国産大型ロケット・H2ロケットが打ち上げに失敗し、空中で爆破処理された。これまで地道に進んできて、それほど大きな失敗の無かった日本の宇宙開発なので、今回の失敗はあれでも(素人目にはそう見えるものだ)史上最悪の事故ということになるようだ。日本はいずれ自前のスペースシャトルなんかも打ち上げてみせるという自信もあったようだが、これでちょっと進行は遅れるのかも知れない。個人的にも日本の技術は面白いところが多いので宇宙開発進行には期待してるんだけどねぇ…今回は残念でした。
 その日本をあざ笑うかのように(?)、お隣中華人民共和国が11月20日朝、無人宇宙船「神舟号」の打ち上げに成功していた。打ち上げ地点は西北部の甘粛省だそうで、「神舟号」というお名前も敦煌の壁画にある空飛ぶ舟の名前(何やらUFOマニアが喜びそうな話だ)からとって江沢民主席が命名したんだそうだ。「神の舟」なんて唯物論では許されるのだろうか?(笑)

 新華社電はこれに絡めて「中華民族数千年の夢」とこの打ち上げ成功を報じたそうな。数千年前はともかく確か人類で初めて宇宙旅行(?)を試みたのは中国人だったような気もする。ずいぶん昔の子供時代に何かの本で読んだので詳細は分からないが、小形ロケット状のもの(武器に使われたやつ)をイスに多数くくりつけ、本人がその椅子に座り、一気に点火して空高く飛ぶというものだったと記憶している。点火の瞬間、大爆発が起こって煙が立ちこめ、煙が晴れたときそこには誰もいなかった…とかいう話だった(笑)。この話の元ネタ分かる方はご連絡を。

 それはともかく、打ち上げられた神舟号は地球を周回する軌道に乗り、地球を14周したのち、指令で帰還姿勢をとって大気圏に突入、21日午前三時に内モンゴル自治区内に無事着陸した。世界各地に配置された観測船もこの宇宙船の運行を確認し、ほぼ完璧な成功だったといえるようだ。今回はあくまで無人宇宙船だったわけだが、これだけやれば有人宇宙飛行も十分実現可能なレベルだと言える。実際、ロシアの宇宙開発の拠点「星の街」で中国人宇宙飛行士が訓練していると報じられており、おそらく来年か再来年には中国が有人宇宙飛行を実現させるだろうというのが大方の予想だ。そうなるとソ連(現ロシア)・アメリカに継ぐ第三の有人宇宙飛行実現国となる(意外というかなんというか)。また人を飛ばすだけでなく、こうした自前の宇宙技術の進展は外国の衛星などの打ち上げを引き受ける「宇宙ビジネス」の発展にもつながると言われている。実際中国は最安値で引き受けてくれるからねぇ。下手するとロシアよりは信用度が高いかも知れない。NASAだって結構打ち上げ失敗するぐらいだから、中国の入り込む余地はいくらでもあるだろう。

 ところで、かつてソ連は人間を打ち上げる前に動物を宇宙船に乗せて実験を行っていた。地球上の生物で最初に宇宙に行ったのはライカ犬だった。その次はサルが乗せられて宇宙に出ている。その後ガガーリンが飛んだわけだが、日本人としては何かもの足りないものを覚えるに違いない。
 そう!日本が有人宇宙船を打ち上げる際は、ぜひその前にキジを乗せてもらいたい。イヌ・サル・キジ…ときて最後に日本男児の桃太郎が宇宙に飛び出すと。
 …おそまつさまでございました(^^; )



◆中国WTO加盟で…
 
 次も中国ネタなのだが(どうも今週は中国にネタ候補が集中しがちでした)ちょいと難しいお話。経済ネタって大切なんだけど「面白い話」にはしにくいんだよなー。
 ここ数年の懸案となっていた、中国のWTO(世界貿易機関)への加盟が現実のものとなることが確定的になった。WTOへの加盟はすでに加盟している国の多数が賛成すればいい訳なんだけど、中国の加盟に反対する可能性のある最大の国はアメリカだったのだ。その大親分アメリカと中国との間で合意が成立したことで、事実上中国のWTO加盟を阻止する勢力は無くなった。まぁ中国がWTOに加盟したがっている上に他の各国も中国市場への進出がさらにできるとこれを歓迎しているので(アメリカですらそうなのだ)もはや時間の問題だったとも言える。

 WTO加盟というのは要するに中国が世界の自由貿易市場という荒海に飛び込むことを意味する。今でもいちおう社会主義の看板を表向き掲げている中国だが、「改革・開放」とやらで事実上の資本主義国となってきており、WTO加盟もその延長上で一つの目標とされてきていた。これが実現したことで中国指導部はいちおう喜んでいるのだろうが、実のところこれ、「両刃の剣」というところがある。中国側が世界市場に乗り出すと同時に外国に向けて自らの国内市場をよりさらけ出さねばならなくなるからだ。一歩間違えると外国資本の怒濤の進撃を受けて国内産業が撃破されてしまうかも知れない。そこまで行かなくても今でさえ苦しんでいる国営企業が軒並み破滅する可能性は充分にある。中国というあのデカい国の舵取りはホント大変だと思うよ。「法輪功」の件だってこれと関係があるわけだし。
 一方で外国企業はよく言われる「12億の市場」に向けてあれやこれや進出を図るんだろうな(すでに始まっていたわけだけど、より進むかも)。もっともこれについても「中国はそう一筋縄ではいかないよぉ」という声が多いことも確かだ。気が付いたら12億の方に逆襲される可能性だってある。ま、いずれにせよやってみないと分かんないよな。

 ところでこのWTO加盟が中国と台湾の関係に微妙な変化をもたらしつつある。
 11月25日、中国外務省の孫玉璽副報道局長(いやー名前が面白かったもんでフルネームで出しました)は、記者会見で台湾と中国双方がWTOに加盟した場合について「貿易の自由化がWTOの基本原則だ。両岸(中国と台湾)のWTO加盟後、両岸間の交流はさらに強化し、特に台湾は『三通』を実現すべきだ」とコメントした。ここでいう「三通」って何かと言うと、中国と台湾間の「通商・通航・通郵」の三つの「通」を指す(なんだか孫文の「三民主義」みたいだ)。中国では台湾が個別にWTOに加盟することについては別に反対していないことが分かる(ただし同時加盟や先を越される事についてはメンツをかけて反対している)。ただお互いにWTO加盟したら双方の経済交流をもっと緊密にしようぜ、と提案しているわけである。どうも「武力侵攻」どころの話ではないらしい。
 これと呼応するかのように同日、台湾の李登輝総統は「現行の両岸貿易政策を再検討し、世界貿易機関(WTO)の精神に合致させたい」とコメントした。例の李総統の「台湾と中国は国と国の関係」発言から両岸関係がギクシャクしていたことはこのコーナーでもさんざん書いたが、このギクシャクの間に台湾企業の向こう岸(福建省)進出はいちおう歯止めがかけられていた。今度の発言はそれを考え直す、というもので完全に中国(北京政府)側の動きと呼応している。もっとも「二国論」は堅持していることを強調し、中国側が台湾に誠意を示すことを要求するのも忘れなかったが…。
 どうも気が付いたら台湾と福建省はかなり経済的に強く結びついちゃっていたみたいなんだよね。もともとそういう土地だったということもあうけど(鄭成功時代以来!?)。WTO加盟で外国企業が中国に進出すると、下手すれば台湾企業もこれに敗れてしまう可能性があるんだそうだ。ここで中国との関係を深めておかないと…という綱渡りみたいである。
 …つくづく一国を引っ張っていくってのは大変ですねえ。



◆教条主義はどこでも厄介
 
 なんか今週はネタに苦しんでいる。ネタがないわけじゃないんだけど中国ネタばかり集まってしまったんだよね。中国ネタ4連発なんて僕でもやりたくはないので、以下はちょいと小ネタだ。

 先日来取り上げている、インドネシアの新大統領アブドゥルラフマン=ワヒド氏のことだ。この人、インドネシア最大のイスラム団体「ナフダトゥル・ウラマ」の指導者なのだが、そのイスラム教指導者として常に寛容な姿勢をみせるところには僕は結構感心している。この「ナフダトゥル・ウラマ」の全国総会がさる11月21日に東ジャワ州で開かれた。この開会挨拶でワヒド大統領は「イスラム教徒の多くはいま、聖典のコーランに記されていることを理解することなく、文字通り解釈しようとしている。それは間違いだ」と訴えたという。これは当然ながらイスラム教徒の中にある教条的な勢力、過激なイスラム原理主義運動への強い批判といえる。
 日本人の多くにあるイスラムのイメージって「どこか怖い」というあたりにあるだろう。日本人は歴史的にイスラム教徒との接触はほとんどなかった。あのフランシスコ=ザビエルも「日本にはイスラム教徒がいない」とわざわざありがたがって書いているぐらいで、実のところイスラム教徒の分布はかなり前から世界中に及んでいるにもかかわらず日本にはほとんど及んでいなかった。日本人のイスラムイメージはほとんど欧米経由で入ってきたものと言っていいだろう。近年日本への出稼ぎ労働者という形で直接の接触がようやく始まっているわけだが、埼玉で起きたデマ騒動のようにまだまだ無理解から来る拒絶反応も多い。また実際に世界の各地でイスラム原理主義運動の起こすテロ事件が数多くあり、「テロリズム=イスラム」的な発想を導きやすくなっているところもあると思う。

 もちろん原理主義がイスラムの全てではない。イスラムというのはあれで意外に(とどうしても書いちゃいますが)いろんな要素を包含できる巨大な世界なのだ。共通の聖典である「コーラン」はある。しかしそこに書いてあることをどう解釈するかは信者側の判断にゆだねられている部分が多い(もちろん大幅で強引な解釈変更は無理なんだけど)。だいたい7世紀の言葉で書かれているコーランだ。近代になって出てきた様々な新要素に対する事は何も書かれていない。そこらへんはあくまで「解釈」の問題となる。なかなかの合理的精神もそこには発揮される。
 世界中のイスラム教徒でも戒律に対する厳格さだって千差万別だ。トルコみたいにほとんどヨーロッパ同然の社会・文化を作り上げながらイスラム信仰との矛盾を起こさない国だってある。厳しいと言われているイランでも、僕の知人で実際に行った人の話では、地方では酒も飲んでいるし衛星放送で外国の映画なんかもきっちり観ていたりするそうだ。そういえば一時上野公園にやたらいたイラン人も花見客に混じって酔っぱらっていたものだ(笑)。
 インドネシアも民族性からかかなり穏やかなイスラム世界を形成している方だと思う。今度のワヒド発言はそういう視点から見ても興味深い。「コーラン」を文字通り解釈するのではない、そこに記されている真の意図を読みとれ、ということなんだろう。

 ところで今週の「週刊新潮」が国際面で「飛行機では漫談ばかり」「思い付きの発言ばかり」「目や体が不自由」等々と妙にワヒドさんの悪口書いてるけど、どうしたのかな?日本外務省の役人が書かせてるってのは僕の単なる勘ぐりだろうか(^^;)



◆お金の話あれこれ

 前に取り上げようとしてボツにした話題を、新規ネタとセットで復活させました(笑)。
 もう古い話になっちゃうけど、来年2000年を記念して「2000円札」を発行するという話になっている。使えるかどうかはやってみなければ分からないのでコメントしないが、以前から噂されていた「五万円札」より先に新札が出ることになった方に僕は驚いていた。
 この「五万円札」のデザインをめぐって暗闘があったのだよね(笑)。誰の肖像画を使うかという問題で。佐賀県が大隈重信を、高知県が坂本龍馬を推して、水面下で暗闘を繰り広げているらしい。まぁ板垣退助なんかもお札になっていたぐらいだからこの辺でも良いかって気もするけど、そろそろ肖像画じゃないお札があっても良いだろうという気分もあった。
 そしたら今度の2000円札、「守礼門」「源氏物語+紫式部」と来たからまた驚いた。肖像という手は使わなかったわけだ。紫式部は入っているけどデザインをみた限り、あれを「肖像」とは言わんでしょう。仮に肖像扱いするとかの「神功皇后」以来の女性肖像お札となるのだけれど…。
 それと「守礼門」のほうだが、サミットの開催と合わせて沖縄に配慮するという意図は明かだ。しかしこれにも両方から異論があるのだよね。これがなかなか面白いのだ。沖縄独自の立場を主張するある人は「なぜ首里城でなく守礼門なんだ?」と言っていた。そう、どうせ沖縄に配慮するなら琉球国王の宮殿・首里城をデザインに入れるべきだったとは言える。どうせいずれも再建ものだ。首里城は沖縄戦の際に陸軍の本部が置かれたために灰燼に帰してしまっている。その辺の本土側のうしろめたさがデザインに反映しているのでは、という声があるのだ。一方で右派的な立場の方からは「なぜ中国の冊封使を迎えるための守礼門を入れるのだ!」という声もあった。これもはぁなるほど、というところか(^^;)。そうそう、「源氏物語」で使用される絵巻物も、源氏と不義の子の対面という場面なので「不倫をお札に入れるのか!」という声もあったっけ。

 もう一つの新ネタは、500円玉改鋳の話だ。
 近ごろ僕の行動範囲の自販機の多くで「500円玉使用禁止」となっているのを見かける。特に東京都下と千葉県西部でかなりの率になっているように思う。まぁ僕の行動範囲がそこになるからってだけかもしれんけど(笑)。
 ご存じの方も多いだろうが、これ、最近韓国の500ウォン硬貨を変造して500円硬貨に見せかけ、釣り銭を盗むという事件が多発しているからだ。韓国の500ウォンは現在45円前後のレートなので、これがそのまま500円になるというわけ。もちろん変造(主に穴を開けて重さを軽くする)の手間賃は考慮しなければならないが、かなりのボロ儲けなのは分かるだろう。今年だけで全国でこうした変造500ウォン硬貨が62万枚も発見されていると言うから凄い。ちなみに日本の500円硬貨と韓国の500ウォン硬貨は同じ1982年から製造されており(500ウォンの方がたった二ヶ月遅れ)、形状もまるで双子の兄弟のように似ているなどと言われている。まぁ誰でも思いつく犯罪だったかも知れない。
 そんなわけで止まらない犯罪に業を煮やした大蔵省は、ついに「500円硬貨改鋳」を検討し始めている。こういう改鋳はなんと明治時代以来の事だそうな。いきなり大きさやデザインを変えるのも大変なので、銅とニッケルの混合比率を変えて伝導率を変化させ、自販機がダマされないようにするという案が浮かんでいるそうである。
 


99/11/28記

<<<前回の記事
次回の記事>>>

  「ニュースな史点」リストへ