◎絵が動く!キャラがしゃべる!ドラマチックなアニメ演出!
ワクワクしながら「太平記」のCD-ROMを「DUO」のドライブに入れ、起動すると…
「鎌倉 北条高時亭」という字幕にかぶさって
「わはははは」という笑い声が聞こえるではありませんか!いや、この瞬間の衝撃というのは当時ファミコンぐらいしか手にしておらず初めてCD-ROMゲームに触れたゲーマーにしか理解できないでしょう。
「ゲームで肉声が出る」というのがそれだけ衝撃的だった時代です。
「そうか、これがCD-ROMというものか!」と分かったような分かってないような衝撃を受けつつ、僕はこのオープニングデモにしばし見入ってしまいました。
ちょっとゲーム史的補足をしておきますと、PCエンジンは1987年に発売開始され、翌1988年に早くもそれと接続できるCD-ROMシステムを発売しています。全部そろえると9万近くはするというとんでもないお値段だったのですが、これが家庭用ゲーム機では
世界初のCD-ROMシステムだったと考えれば相当に頑張った低価格でもあったのです。
スーパーファミコンにしてもメガドライブにしてもゲームといえば数メガバイト程度のROMカセットという時代に540メガバイトの破格の大容量を誇ったPCエンジンCD-ROMですが、当初はその大容量をどう使ったものか模索していて実験風味なソフトが多い傾向もあります
(価格が高いため高級志向ということもあったでしょう)
。この「太平記」が発売された1991年年末ぐらいにはCD-ROMシステムも普及度が上がり一般的なソフトも増えていたのですが、どこかまだ「CD-ROMならではの演出」を意欲的に取り込もうとする姿勢が製作者側にありました。で、その「CD-ROMならではの演出」の一番分かりやすいものがアニメばりばりのビジュアルシーンと声優が吹き込んだ肉声とによるドラマチック演出であり、「太平記」にもそれが過剰なまでに導入されているのです。
現在ではアニメ製作会社に外注したアニメ映像をディスク内に取り込みゲーム中に再生するソフトは珍しくありませんが、PCエンジンCD-ROMの時代には「出来合い映像の取り込み再生」というのはほとんど不可能でした
(一部あるにはあるけど激しくコマ落ち)
。そこで使われたのがCGをプログラム的に動かす、まぁ簡単に言うと紙芝居とパラパラアニメをCGでやっているというところでしょうか、そういう手法によるビジュアルシーンでした。今見るとこうしたビジュアルシーンは絵は荒いけれど、出来合い映像を取り込んだものではなく一枚一枚ちゃんとCGで書いて動かしていることにかえって感動を覚えてしまうところもあります。この「太平記」ではCD-ROMの大容量に物を言わせて、オープニングデモを中心に長時間
(全部合計で40分はあると言われる)のビジュアルシーンを展開していて、これが物凄く「濃い」んですね。
なお、一連のビジュアル面のキャラデザインは当時「太平記」のコミックスを書いていた漫画家の故・
横山まさみち氏が担当しています。横山まさみちサンというと某夕刊紙に連載していたオットセイが主役(?)のH漫画の作者として有名ですが、このコミック版「太平記」はしごく正統派の劇画調で描かれており、ゲームのほうもPCエンジンソフトにありがちな軟派アニメ調ではない、しごく硬派な絵になっているところが特徴です。そのオープニングビジュアル画面の一部をお見せしながら内容を紹介していきましょう。
起動直後に流れるオープニングデモは鎌倉幕府滅亡までの経緯を延々と語るものです。このゲームは足利尊氏が建武政権に反旗をひるがえした1335年からスタートしますので、「太平記」の前半戦はビジュアルデモで説明しちゃうんですよね。しかしこれが大変な力作でありまして…現時点でこのあたりの歴史の映像化したものとしてはNHK大河以外ではこれぐらいしか見られないんじゃないかと思うぐらいで。
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デモは北条高時亭での宴から始まります。闘犬と田楽にうつつをぬかす高時ですが、「北条家は九代で滅ぶ」との予言に内心おびえています。それを酒と遊びでまぎらわしているわけですが、隣に佐々木道誉が控えて相伴しており、「これでは北条も終わりだな」と心の奥でほくそえんでいたりします。
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一方、京都では後醍醐天皇が倒幕の計画を進めています。顔が見えませんが、手前の青い服の人物が護良親王です。
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はい、これが楠木正成。笠置山の後醍醐天皇のもとにはせ参じた場面です。
このあと赤坂城で笠置落城を聞き、
「後醍醐天皇はいかがなされた!」
って口走ってしまいます。まぁわかりやすいし、後醍醐さんが自分で生前からそう決めていた事実はあるわけですが…
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鎌倉への反逆の決意を固めた高氏が新田荘を訪れるという場面。高氏・義貞両雄が倒幕に向けて協力を誓い合って握手するなかなかいいシーン。ちなみに左が義貞、右が高氏です。
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鎌倉攻めのクライマックス、稲村ガ崎に刀を投げ込む名場面です。ここではかなり強引なアニメ処理で刀を飛ばし、さらに背景の海がドドドド…と右へ移動していくという、なんだか「十戒」みたいな演出になってしまいました(笑)。
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炎上する鎌倉。屋敷の炎はアニメーションで、背景の炎はこの時期のゲームで良く見られた「ゆらぎ」の処理で見せています。
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物凄くすっとばしました。だって全部紹介すると凄く長いし画面が多すぎるんだもん。
飛ばしたところでちょっと面白いのは、後醍醐天皇の隠岐脱出が、鎌倉幕府の放った刺客と入れ違いの間一髪のものだったとする展開でしょうか。高氏の六波羅攻略はかなり簡単に済まされてます。あと、セリフなしですが名和長年・千種忠顕がチラッと登場しています。
デモが終わって
(飛ばすことも出来る)ゲームを開始すると、プレイヤーは足利尊氏か新田義貞を選ぶことになります。どちらかを選ぶとまたまた長時間のビジュアルシーンに突入です(笑)。オープニングデモでは語られなかった、尊氏と義貞それぞれのそれまでの人生、戦いに至る経緯が語られるのです。
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尊氏といえばこれ。有名な祖父の願文を読むシーンです。吉川英治に従って足利の寺で読むことになっています。
ところでこの場面、高氏の目だけがアニメしてるんですが、CG担当がうっかりしていたようで、目が明らかに「左右」に動くんですね。そう、もちろんこの当時の文章は縦書きに決まってます!(笑)
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護良親王捕縛のシーン。この場面は義貞モードでも描かれています。義貞モードのほうが護良の出番は多いですね。
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中先代の乱のあと、朝廷に恭順を示そうとする尊氏を直義(左)が説得するシーン。このゲームの直義はやたら人相が悪く(笑)、護良親王殺害指令を出す場面ではほとんど悪役です。
残念ながら尊氏がもとどりを切って出家しようとする有名な場面はなく、あくまで直義の説得に従って反後醍醐の挙兵を決意するという展開になっていました。
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足利家紋「二つ引両」をバックに、闘争の炎を燃やしつつポーズをとる尊氏(笑)。
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一方の義貞モードのビジュアルシーンはあまり面白くありません。足利に対する新田のコンプレックスを強調する内容になっています。
これは煮えきらぬ義貞(左)を弟の脇屋義助(右)がけしかけているシーン。大河ドラマでもそうでしたが、このゲームでも尊氏と義貞は「ほんとは仲良しなんだけど成り行きで宿命の対決を」という設定です。
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はい、義貞も闘争の炎を燃やしてます。なぜかこっちには「大中黒」の家紋がないのが残念。
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なお、このゲームでは尊氏・義貞双方にコンパニオン(?)がついていて、肉声で
「では始めとうございます」とゲーム開始の挨拶をしたり、
「との、今日はおやすみくださりませ」と強制休養(笑)をさせたりします。尊氏を選んだ場合は
藤夜叉が、義貞を選んだ場合は
勾当内侍がその役をつとめてくれます。なかなかニクイ演出でしょ(笑)。どっちでも正妻ではないところがなんとも。