3.デグナーについての考察



 鈴鹿サーキットは、過去に何度かコースの形を変えながら現在に至っていますが、一番大きな変更点は、シケインが新設されたことと一つのカーブだったデグナーが二つのコーナーと短いストレートでショートカットされたことでしょう。
 この二つの箇所の変更理由は詳しくは知りませんが、おそらく、いずれのコーナーもハイスピードコーナーの先のストレートのまたその先にあるため、マシンの性能が上がるにつれて進入速度が高くなり、危険度が増したためと思われます。
 シケインについては、最終コーナーの途中に角をつけて、元のコーナーにすりつけただけなので、見るべきものはあまりありません。
 一方のデグナーは、しっかりRをつけてカーブを二つ作ってありますから、いったい何がどうなったのか少し解説してみたいと思います。
 その前に一つお断りをしておきます。私の手元には新旧の小さなコース図しかありません。文章や図の中に出てくる数字はコース図から読み取っただけのものですから、正確なものではありません。あくまでおおよその目安として認識いただきたいと思います。(これを見ていらっしゃる鈴鹿サーキット関係者の方のデータの提供をお待ち申し上げております。)


1.旧コースについて
 旧コースはR=80mの単曲線です。 IA=130°ですから、CLは181.51mにもなります。ちなみに130Rで140m位ですから、それよりきついコーナーでCLが長いとくれば、走っている人にかかる横Gの大きさと時間的な長さは大変なものになります。また、コーナー内側は山になっていて、見通しもかなり悪いところでした。
 改修のポイントとしては、先に述べた進入速度を抑えることと、コーナーの先の見通しをよくすることもあると思います。

2.新コースについて
 新コースは旧コースの法線の途中に一本線を入れてその交わった二箇所にRをつけたものです。この新しい法線の向きは、もともとの山の等高線の向きに等しいものと思われます。(かなり山を切り取らなければならないので、最も経済的にするためでしょう。)
 さて、デグナー入り口のIP(IP2とします。デグナー出口のIPはIP3とします。)はもともとのIP(IP1とします。)からダンロップコーナー寄りに約200mの場所に設置してあります。
 IP2のIA=46°なので、IP3では必然的にIA=84°となります。また、IP2からIP3までの距離は154.05mです。
 BCの位置で比較してみますと、BC1よりBC2は34.81mダンロップコーナー寄りとなり、それだけストレートが短くなったことになります。
 逆にEC3はEC1より4.39m後退しましたから、次の110Rまでの距離がそれだけ延びたことになります。
 旧コースと新コースのトータルの長さを比較してみましょう。(BC2からEC1まで)
 旧コースではBC2からBC1までの直線34.81mとCL181.51mの計216.32mです。
 新コースではIP2のCL12.04mとEC2からBC3までの直線125.17mとIP3のCL36.65mとEC3からEC1までの直線4.39m、合計178.25mです。
 この結果、新コースは旧コースに比べ、38.07m短くなっています。

新旧のコースを重ねてみました。(画像が小さいので字は読みづらいと思いますが。)



3.デグナー入り口のR=15mについて(アウト・イン・アウトとは)
 デグナー入り口におけるR=15mは、シケインを除いて鈴鹿サーキット中で最も小さいRとなっています。(ヘアピンはR=20m)
 ところが、実際のレースではすごいスピードでこのコーナーを駆け抜けていきます。なぜそのようなことが可能なのでしょうか。
 道路は幅を持っています。この幅を最大限に生かすと、設計上のRより大きなRを描いてコーナーを曲がることができます。これを俗に「アウト・イン・アウト」と呼ぶことは、皆さんご承知のとおりです。
 ここでデグナー入り口のコース幅を仮に10mとすると、R=15mで取り得る最大の見かけ上のRは約136mにもなります。ちなみに130Rについて、同じ条件で最大Rを算出しても194m程度にしかなりません。(これはコース幅で随分数字が変わってきますので、参考程度にしておいてください。)
 ただし、このR=136mを最大限に生かせるのは、幅を持たないオートバイに限りますが。(またまたちなみに、クルマの幅を1.7mとした場合、縁石に乗り上げずに走行した時に最大約115mのRを確保できます。) だからオートバイはデグナー入り口の遥か手前(計算上はBCの手前約50m)でバンクを始めるのです。
 「アウト・イン・アウト」で速く走ることができるということは、こういうことだったんですね。


おまけ:「逆バンク」がなぜ逆バンクなのか

 鈴鹿サーキットの中で一番コースサイドまで寄ることのできる場所の一つです。2輪はこのコーナーで結構飛び出しています。8耐での青木兄弟にとっては鬼門のような場所です。
 なぜこのコーナーが「逆バンク」と呼ばれているのでしょうか。「逆バンク」を名前のとおり解釈すると、バンク(片勾配)が外に向かってついていることになります。しかし、公道ですら危なくてやらないことを、絶対的なスピードの高いサーキットでやるわけがありません。
 「逆バンク」の名前の由来は、ほかのコーナーに比べてバンク角が少ないため、コーナーリング中の車から見ると(クルマはロールしますから)あたかも反対側へバンクがついているように見えることからきています(作った人と走った人にしかわからないことですが)。したがって、同じようなRのほかのコーナーと同じスピードで入ってしまうとベクトルが外向きに大きく出てしまいますから、コースアウトしやすくなるんですね。ましてアプローチで縦断勾配が大きく変わります(それまでの上り勾配が急にフラットになる)し。
 谷田部の高速周回路(あるいは競輪場)はコーナーの外へ行くに従ってバンク角が大きくなっています。普通のカーブではありえない構造ですが。この周回路の外側部分(バンク角の大きい部分)ほど高いスピードで走ることができます。このことからもバンク角が大きいほどスピードが上げられることがわかります。
 バンク角が大きいか小さいかを簡単に見分ける方法があります。バンク角が大きいほどと路面の排水性は高くなります。ですから、雨上がりにコーナー外側から早く乾きかけるコーナーほどバンク角が大きいと考えて差し支えないでしょう。晴れた日には確認しようがありませんが。(競輪場のバンク部分の乾くスピードはすごく早いです。)






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