スズキキャラ(SUZUKI CARA)

(初稿:1997.7.9/最終稿:2004.8.13)


 皆さんご存知のとおりマツダ(オートザム)AZ-1のOEMです。AZ-1の型式はPG6SA、CARAはPG6SSです。エンジンはスズキ製F6Aなので、スズキにとっては孫みたいなクルマです。
 その少し前から、私のアシグルマとして軽自動車を買おうか、と女房と話をしていまして、どうせ買うなら悔いのないモノにしたかったので、出た時試乗して結構衝撃を受けた(ロードスターの次に)AZ-1にしようと思ってました。で、マツダのディーラーで探してもらったのですが、その貧弱な情報収集力のおかげで結局探せず終い。それでもせっかくその気になった私はあきらめきれずに'95年春、通りすがりのクルマやさんの店先に中古車として展示してある(けど、そのCARAにだけ値札が付いていなかった)のを見て、その場で商談に入りました。(登録後1年経っていましたが、走行距離は35kmのほぼ新車です。)僕の女房の嫁入り道具だったシビック(走行6000kmの程度極上もの)を売って、買ってしまいました。それでも追金が随分要りました。
 国産メーカーで一番バブルに踊ったのは、マツダだと思われますが、その絶頂期の勢いだけで作ってしまったような車です。RX-7やロードスターを作ったマツダらしからぬスポーツカーに対する思い入れが中途半端なクルマのような気がします。(単なる受け狙いの部分が多すぎる。)そもそも、他のメーカーの部品をふんだんに使って作ったクルマですから、その成り立ちからしてすでに不純ですね。確かに軽の枠はいろんな面で大きな足かせになるでしょうが、軽だからこそできることをとことん突き詰めて欲しかった。とは言うものの、ライバルと目される2車よりは、私にとってより魅力的に感じますが。屋根、開かなくてもいいです。



AZ-1(CARA)がピュアでない(と私が思う)部分
(1)エンジンが、どう見ても後輪の上に乗っているところ。
 FFアルトワークス用のエンジンをそのまんまリアに積んだだけで何の工夫も見られない。どうせ車の存在そのものがバブルなんだから、思い切ってエンジンを前に出して欲しかった。それやるとドライブシャフトの位置が変るからできなかったんだろうな、とは思いますが。だから後輪荷重が大きすぎて相対的にフロントが軽くなり、結構アンダーなクルマになっていますし、μの低い路面ではフロントブレーキがすぐにロックしてしまいます(雪の上り坂が一番曲がらない)。かと思うと、リアがブレイクすると一気に流れ出します。ミッドシップというより、リアエンジンといったほうがいいのではないでしょうか。しょうがないので、後輪荷重をどれだけでも減らすためにスペアタイヤを外してしまいました。エンジンルームの一番後ろにあるバッテリーも軽量化したいです。でも、冬のこと考えるとなかなかそこまでふんぎりがつきません。
(2)運転中は右側が極端に重くなること。
 なんで運転席の後ろにスペアタイヤがあるんでしょう?エンジンルーム覗いても右側が軽いということもなさそうだし。このクルマの性格からすると一人乗りのときに最高の重量バランスになるようにしてくれた方がいいと思うんですが。助手席の後ろだったらよかったのに、と思っていて、よく考えたら助手席のシートはスライドしないので、そこに積もうとしても脱着できないんですね。もともとスペアタイヤはフロントボンネット内に収まるような設計だと聞きました。ラジエターのカバーにその名残が見受けられます。衝突時にスペアタイヤがステアリングを押して、ドライバーが危険だから現在の位置になったとも聞いてます。まがりなりにもスポーツカーの端くれだとメーカーで考えているのなら、そんな後ろ向きの対策ではなく、当初の位置で安全性を追求してほしかったです。
(3)エンジンのマウント位置が高いこと。
 排気管がエンジン下をうねるように通っている関係もあるんでしょうが、ワゴンRと比べてもエンジン搭載位置が低いとは思えません。これは別のコーナーに比較画像があります。せっかく全高を低くしても相対的なエンジン位置が高いため、ロールセンターが高くなっているような気がします。PG6Sで良く聞く左コーナーでの転倒は、(2)で述べたこととあいまってのことのように思います。
(4)屋根がガラスでできていること。
 これって、重くなりません?確かに屋根は低く、閉塞感は強いクルマですが、そんなところで無理に開放感を出してもらわなくてもよかったかな。夏は暑いし。サンシェードつければ暑くないし、冬も暖房の効率が上がるけど、それじゃガラスルーフである意味がないし、たとえ数kgでも軽い方がいいに決まってますから。わざわざ重心位置上げてるんだもんなー。これも転倒につながる一因ですかね。
(5)足回りがグニャグニャなところ。
 決してスプリングやショックアブソーバが軟らかいといっているのではありません。位置決めの難しいところはストラットの宿命なんでしょうが(ましてIアームだし)、少し荒れた路面でタイヤが勝手な方向を向くというのはちょっと…。なぜかマツダのクルマはそういうところがあるようで。世の中、サーキットやテストコースみたいに鏡のような路面ばかりではないんです。特に私の住んでるような田舎では。それに、ちょっと強くブレーキングすると、やっぱりキャリパーが踊る感じがします。剛性感は所詮軽です。
(6)シートがいまいちなところ。
 見かけは深いバケットで、ホールド性も良さそうなんですが、実際にはさっぱりです。サイドの張り出した部分もフニャフニャだし。ホールドのカナメは、腰もさることながら肩が非常に大事です。ところがこのシート、肝心の肩の部分がない。肩が動くと腕が動いて、クイックなステアリングがすぐに反応してしまいます。まさかこのクルマのオーナーは外乱に耐えうるレーサー並みの体力が必要とされます、ってことじゃないですよね。元々昇降性の悪いクルマなんだから、こんなところで昇降性を良くしました、なんていわないで欲しい。

AZ-1(CARA)がすごい(と私が思う)部分
(1)トラクションがすごい。
 エンジンが後輪の上へ大きく載っているため、トラクションは大きいです。ターボのどっかんパワーも楽々吸収です。4WDを除けば軽最強でしょう。おかげで雪の急な上りもへっちゃらです。(なんかさっきと言ってることが矛盾してるようですが、これはあくまでストレートでの話です。)
(2)ステアリングレスポンスがすごい。
 ロックtoロック2.2回転は伊達ではありません。フロントが軽いため、パワステがなくても問題なし。ヘアピンもステアリングの持ち替えなしでOKです。パワステといえば、私の近所の峠に超タイトなS字コーナーがあるんですが、下手なクルマでは切り返しのときパワステのポンプがついてきません。(急に重くなってとっても焦ります。)その点パワステなしはお構いなしにいけますから。これって結構大事なことかも。反面、カウンターには気を遣います。フォーミュラのレーサーってすごいな、と思う瞬間です。
(3)ヘッドランプのレンズがガラスであること。
 最近のクルマはデザインの面から(軽量化もあるかな)加工が容易なプラスチックのレンズのものが増えていますが、このクルマはしっかりガラス製です。ハイワッテージバルブにも耐えられるというのはありがたいことです(私は入れてませんが)。

 すごいと思うところは、弱点に比べて少ないです。このクルマ、未完成のまま世に出てしまったような気がします。確かにお金をかけて手を加えてやれば、弱点が減り、理想に近づくことは確かです。だったら、最初からメーカーがそのように作るべきです。
 このクルマ、とっくに生産中止になっていて、登録された台数が530台(当社調べ)程度と、とにかく世の中にあまり存在しません。クルマに詳しくない人は、これが国産で、しかも軽自動車であることに驚きを隠しません。AZ-1と合わせても約4,400台(当社調べ)しか登録されていませんから(ワゴンRの10日分!程度)、現存する台数は、いったいどのくらいなんでしょう。
 このクルマ、一生持ち続けたいと思っています。だからエンジン周りには一切手を施していません。ただでさえ耐久性のない軽自動車の、しかもターボエンジンですから。(ノーマルでもブースト0.9掛かってます)






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