やっぱ2ストでしょ!
TZR250SP(3MA)



初稿:2004.9.5

 3型カタナでレースに参加するという無謀なことをしてしまったわけですが、やっぱりレースをするためには、それなりの車体を準備した方が手っ取り早いということに今さらながら気が付いたわけで。
 かといって最近流行のSS(スーパースポーツ)を買うほど資金があるはずもなく、中古車の雑誌などに目を通しつつ思いを巡らせているときに「!」思い出しました。一台心当たりが。
 まだ持っていてくれたら・・・という淡い期待を抱きながら鈴木君(またかよ)に電話。

 根っからの2ストフリークな鈴木君の親戚の方がTZRをお持ちで、全然乗らないから、ということでしばらく鈴木君がそれを借りて乗っていた時に、ついでに私も一週間ばかし借りて乗っていたことがあったんです。そのTZR。
 ヤマハ車の情報に疎い私は、当時「変なところからサイレンサーが出ているバイクやなぁ」程度の認識しかなく、さらに私のライディングするスピード域では、只々重いバイクでしかなかった(対NSR比で)という印象しか残っていません。
 さて、後日。

 ラッキーです。モノがあったばかりか、譲っていただけることになりました。
 改めて引き取りに行ってみると、そこにあるのは「TZR250SP」でした。えっえすぴいぃ〜!?
 私の記憶なんて全然当てにならないもので、確か白赤のストロボカラーでしたので、'89年式の正立フォークのモデルだと思い込んでいました。

 というわけで、2年間しか作られなかった(はず)の後方排気の、さらに1000台限定(公称)のSPモデルが我が家へやってきてしまいました。

'90SPの外装
タンク上面とサイドカウルに
SPORT PRODUCTION」と書いてあります。



 さて、それではここで後方排気TZRのおさらいを。
 '80年代後半から'90年代前半に空前のバイクブームが起こり、メーカー各社こぞってスポーツモデルを売り出していました。中でも免許制度の関係で4st400ccや2st250ccの、いわゆる「レーサーレプリカ」と呼ばれるカテゴリーのバイクは、SPレースのベース車両としてのポテンシャルアップのために毎年モデルチェンジが行われるという、なんともバブリーな時代だったんですね。
 そんな中でヤマハが「理想の2サイクル」を追い求めて作り上げた形態がこの「後方排気」というレイアウトだったわけです。もっとも、理想=最強という公式は成り立たなかったわけで、後方排気のTZRはたった2年でV型のTZRへと姿を変えるのでありました。
 TZR250は、パラツイン→パラツイン後方排気→Vツインと姿かたちを変えています。それぞれ型式で呼ばれることが多いのですが、代表的な型式として1KT→3MA→3XVとなっております。(厳密には色々あるようですが)
 今さらここで私が後方排気TZRの歴史やスペックについて薀蓄を述べたところで、先人たちの情報量には敵わないわけで、こちらのページこちらのページ、また、そのリンク先のページを参考にしていただいた方がよろしいかと思います。

 3MAは1989年モデルと1990年モデルがあります。カウル類は共通のようで、カラーリングの違いのみのようですが、それ以外にも外観上でこの2モデルは簡単に区別することができます。'89はフロントフォークが正立、'90は倒立となっています。(細かいことを言えば、ミラーのステーの長さが違うとか、スイングアームの形状が若干違うとか、まあ、見る人が見たら違いがわかるということですかね)
 '90年には一般的な走行用のスタンダードなモデルと、SPレース用のベース車両となるべくSPモデルの2つのモデルになりました。これについては後ほど簡単に違いを述べてみます。

モデル別のスペックは次のとおりとなっています。
項目'89'90STD'90SP
エンジン水冷2ストローク並列2気筒
バルブ機構クランクケースリードバルブ
内径×行程56.0×50.7mm
総排気量249cc
圧縮比7.4:18.0:1
最高出力45ps/9,500rpm
最大トルク3.8kg-m/9,000rpm3.8kg-m/8,000rpm
潤滑方式分離給油
始動方式キックスターター
エンジン点火方式C.D.I.
スパークプラグNGK BR9ES
キャブレターミクニTM32SSミクニTM30SSミクニTM34SS
クラッチ湿式多板乾式多板
1次変速比2.440
2次変速比3.071
変速機リターン式6速
変速比1速2.4282.071
2速1.7641.625
3速1.333
4速1.136
5速1.0001.0431.000
6速0.9090.9580.909
サスペンションテレスコピック(正立式)テレスコピック(倒立式)
イニシャルプリロード無段階可変
ボトムリンク
イニシャルプリロード無段階可変
ダンパーオイルダンパー


減衰調整 伸、圧ともに無段
ガスオイルダンパー
伸側減衰力15段階可変伸側減衰力24段階可変減衰調整 伸側24段、圧側20段
フレームセミダブルクレードル
キャスター25°00’
トレール94mm
ブレーキ油圧式Φ298ダブルディスク油圧式Φ282ダブルディスク
油圧式Φ210ディスク
タイヤ110/70R17 54H
140/60R18 64H150/60R18 67H
全長
2,040mm
全幅
695mm
全高
1,100mm
軸間距離
1,380mm
最低地上高
130mm
シート高
760mm
乾燥重量136kg138kg
燃料タンク容量16リットル
オイル容量1.4リットル
バッテリー
12V3Ah
ヘッドライト
12V60/55W
テール/ストップ
12V5/21W
ウィンカー
12V10W
標準現金価格\596,000\619,000\719,000
出典:「BeSPACE 1989-9.30 No.2」「RIDERS CLUB 1990-3.23 No.157」


 こうやってデータを並べると、興味深い事実が浮かび上がってきます。
 '89年モデルでは1台で街乗りからレース車両まで対応しなければならなかったものが、'90年モデルではそれぞれに役割を持たせた2モデルとすることで明確に性格分けがなされています。
 すなわち、基本的な部分は正常進化させつつも、
項目'90STD'90SP
キャブレター小径化大径化
ギア比高速側をローギアード化低速側をハイギアード化

表からだけでもこれだけのことがわかります。しかし、基本的な骨格(フレーム)を変えずに年改でここまでやってしまうというのもすごい話ではありますが。

さらに、表には表れない細かい部分の違いを述べてみましょう。(これが全てではないとは思いますが。)
'89年モデルからの変更点
ポートタイミングの変更(約1mm下げ)
掃気ポート形状、吸気通路のケース側形状の変更
YPVSの制御項目にスロットル開度を追加
エアクリーナー吸入ダクト径を20mmから23mmに拡大
CDIの変更
吸気マニホールド内部肉盛り、左右を連結
リードバルブを8葉から6葉とし、1枚あたりの面積を拡大
リードストッパー付け根付近の形状変更
通気経路の下側面に約10mm幅のサブリードバルブを持つバイパスを設置
CDI点火方式の見直しにより発電コイルの縮小とローター径の変更(Φ130→Φ110)
エキパイのテーパー形状や内部構造の変更
サイレンサーの内部構造の変更
フロントスプリングのバネレートを落とした
リアスイングアームのスタビライザー支持部の形状変更
ハンドル角度の変更(手前へ4°絞り、垂れ角が5.5°減少)
バックミラーステーの形状変更(上方に10mm左右に25mm移動)
ヘッドパイプ後方下側のフレームにテンションバー追加
フロントブレーキインナーブラケットをアルミに変更
フロントブレーキマスターシリンダー径をΦ15.87からΦ14に変更


今度は'90年SPモデルが、ほかとどこが違うのか具体的に見てみましょう。果たして10万円分の差があるのでしょうか。
ケース形状、クランクウェブ形状の変更。1次圧縮比が1.19から1.20へ
燃焼室、ピストンヘッド形状変更により2次圧縮比が7.4から8.0へ
シリンダーヘッド左右別体化(整備性向上のため)
大型ラジエター(約59%放熱効率アップ)
リアホイールのリム幅を4.0から4.5へ(タイヤサイズアップに合わせて)
スイングアームサイズ変更
キャブレター大径化
クロスミッション
乾式クラッチ

ひょっとするとチャンバーの形状も違うかもしれません。(っていうか、キャブやエンジンが違っていてチャンバーだけ違わないという方がおかしい)
レースベースとしては妥当な金額だったのかもしれませんね。

フォーク径以外変わらないフロント回り
'90モデルではスピードメーターの下側にCDIユニットが追加されています
フォークトップ部分の減衰力調整ネジがSPであることを主張
フルアジャスタブル化されたリアサスペンション
ヘッドパイプ下のテンションバー
STDモデルと形状が違うスイングアーム
STDのサイズは60mm×30mm、厚3mm
SPでは70mm×35mm、上面厚4mm、側面厚2.5mmの押出材に
さらにチェーンアジャスター部分の形状が違ったり、
アームにリブが入っていたりと、全くの別物。

というわけで、相当なポテンシャルアップが図られた'90SPモデルですが、他社の'90年モデルはリアホイールサイズが17インチになっているんですよね。最新のハイグリップタイヤ選び放題ですから。なんかくやしい。





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