過去の雑記 00年 2月

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2月11日
いろいろと事情があって、人が来てうちで鍋をやった。参加者は鈴木力、田中香織、林、細木賢一、森太郎(あいうえお順、敬称略)。僕の部屋を知る人は信じないかもしれないが、入れたのだから仕方が無い。

鈴木さんが登場するまでの間に、人々は野田「50冊」先日の「50冊」の東洋大アンケート基準でのチェックをやっていた。結果読破率は、細木さんが僕よりやや上、森さんがとんとん、田中さんがやや下というところだったようだ。他二人の結果は分かるが、森さんが僕と同程度とはどういう事だ。「プチ山形」で「名士」であまつさえ「ヒューマノイド」なのだから、そんな低次元で安住していてもらっては困る。仮にも京大SF研で3番目に偉いかもしれないと自称する(1位は確定で志村弘之さん、2位は確定で安富花景さんなのだそうだ)のだから、たかがあの程度のリスト、8割A程度は楽々と達成して欲しいものだ。

その後、モンティ・パイソンを見たことが無いという人のため、"Flying Circus"の第2シーズン第5回(Blackmail〜大脱走〜肉屋にて、など)と、"Very Best of"の前半を見せる。どうもえらく評判が悪かった。特に"Flying Circus"を見終わった森さんからは「まったく面白くなかった」の声も。まあ、この回は素人さんには難しかったかもしれんな。けっ、だから素人は……。< 嫌なマニアの典型
素人さんにもわかりやすい、Silly Walkやスパム、スペインの宗教裁判などに到達しなかったのは、未見の人々と、Monthy Pythonの名誉のために、残念だったかも。

鈴木さんには、鈴木力版国内SF50冊リストを見せて頂いた。押川春浪、山中峯太郎がフォローされているあたりは見事。眉村、筒井がジュヴナイルで入っていたり、中堅どころも、清水義範や田中光二がフォローされていたり、かなり雰囲気が違う。自身のリストが劣っているとも思わなかったが、これはこれで十二分に納得のいくリストであった。さすが、伊達に人生の半分をファンダムで送ってきたわけではないらしい。

ナウシカが終わろうかというあたりで終電の問題があったので人々は帰宅。お約束の人がお約束の芸を見せてくれた後、すでに終電は諦めていた細木さんとともに、近所のカラオケ屋に行き、3時間ほど歌う。選曲がアニソン・特ソンオンリーだったのもかなり久々だが、採点機能をオンにして歌ったのは久々どころか初めてだ。いつもの調子で気合だけで歌っていると70点台にしかならないことに気づいてから歌い方と選曲を工夫し、80点台半ば(瞬間最大で90点台)は出せるようになった。その歌い方は、あまり楽しくないという欠点もあるのだが。ああ、しかし水木のアニキの曲で80点台が限界だったのは悔しいぞ。

2月12日
午後6時も廻ろうという時刻になってから、ふと思い立ち書店を廻る。コースは神保町→渋谷→新宿→高田馬場→早稲田、寄った本屋が都合8軒。我ながら無茶である。
主目的だった本探しと、飯屋探訪はどちらも失敗したが、まあ、否定的情報だけでも、情報を得たには変りが無いから良しとしよう。とりあえず、弱く探していた本と、まったく探していなかった本を1冊ずつ購入。

吉野朔実『吉野朔実劇場 お母さんは「赤毛のアン」が大好き』(本の雑誌社)読了。相変らずの切れ味の鋭さで、実に安心して楽しめる。中では、表題作「お母さんは「赤毛のアン」が大好き」が秀逸。『ぼくだけが知っている』の主人公の母親のモデルになったと思しき人物が登場するのだが、これがまた実在の人物とは信じられないくらいに台詞の端々がカッコイイのだ。
(娘)「お母さんて猫好きなのに飼おうとは思わないの?」
(母)「ううん、キライよ。でも他人の家の猫を都合のいい時だけかわいがるのは好き」
良い。うん。

2月13日
『エンディミオンの覚醒』が読み終わらないという目処が立ったので、森下ベストに投票する。配点は以下の通り。
今回のコンセプトは、「「太陽の簒奪者」に負けない」である。「太陽の簒奪者」という作品自体は高く買っているが、それでも『宇宙消失』に匹敵する作品とは思えない。しかし現在の点差では、とある人と、とある人が5点ずつ投じるだけで、逆転が難しい点差まで開いてしまいそうである。それは、さすがに許せないので『宇宙消失』に大量投入というわけだ。できれば『順列都市』にも上回ってもらいたいが、不用意に票を分散させるよりは、と思い敢えて切り捨てることにした。どうせ、僕が対策を講じなくても、誰かがなんとかするだろう。
『宇宙消失』5点ではなく、『DISCO 2000』にも点を入れたのは、これが昨年評価できると思ったSFの中で、最も埋もれそうだったから。確かに、収録作品中のSF率は決して高いとは言えないが、少ないSFのレベルはかなり高い。こういった作品も存在したということを記録するために、敢えて投票してみた。

毎年思うのだが、このベスト、自由度が高いようで実はそんなに高くはない。もちろん、順位操作をしようなどという色気を出さなければ色々と考える余地も出てくるが、中間報告が時々刻々となされると操作を目指さないではいられないのだな。配点の上限があればもう少し色々と考えられるんだけど。

さて、次はSF-Onlineベストだ。月末までに急いで『エンディミオンの覚醒』を読まないと。

2月14日
先日思わず買ってしまった、『あずまんが大王』(電撃コミックス)の作者あずまきよひこが、実はアニメ絵系エロマンガを描いていた(いる?)序ノ口譲二だということを知り、驚く。どこかで見た絵柄だと思ってはいたが、そうだったのか。

『あずまんが大王』自体は、ごく標準的な学園4コマ。気に入ってはいるが、頑張って褒めようという気にはならない。並。

2月15日
森下ベストの結果が出た。最大の票を入れた『宇宙消失』は無事1位になったが、2位に6点以上の差をつけてしまったので、これはやりすぎ。僕の票が無くても1位は確保できたわけで、どうせなら『順列都市』に入れればよかったと反省しているところだ。

「太陽の簒奪者」に5点を入れると踏んだとある人が一人しかいなかったのが読み違いの原因か。まあ、よく考えてみればもう一人のとある人は、仮に投票してもホーガンに入れたはずなので、怖れる必要はなかったのだな。もったいないことをした。

しかし、今回の投票者数はあまりにも少ない。前々回が47人、前回が41人で、今回が27人というのはちょっとね。みなが飽きてきたという可能性は否めないものの、例年に無く傑作・話題作が多かった年のベストがこんなに盛り上がらないとは。もっと、各所で宣伝すべきだったんだろうか。っつーか、なぜ名大は僕しか投票してないか。どうした山川(15)、どうした野呂(17)!せっかくただで参加出来るお祭りなんだから、参加しなけりゃ損だろう。現役諸君には猛省を促したい。
# 名大じゃないけど君もだ、鈴木力。

SF-Onlineベストは、もう少し盛り上がってくれるんでしょうかね。


2月16日
急に襲ってきた味噌煮込み熱を何とかするため、昼飯は近所のうどん屋で煮込みうどん定食。
麺の堅さといい、汁の色といい、具の取り合わせといい、かなりのところまで名古屋風なのだが、いかんせん、汁が甘すぎる。八丁味噌ベースなのは良いのだが、ざらめでも入ってんじゃないかと疑わせるまで甘くしてしまっては駄目だろう。30点。

半月以上の時を経てシモンズ『エンディミオンの覚醒』読了。うーむ。
粗は多い。エンディミオンが急に有能な戦士になってしまう瞬間がある点、見え透いた謎をいつまでも引っ張り続ける点などの些細なものから、「だってあれは嘘だもん」で謎を解決する部分がある点、アイネイアーが強力すぎて苦境に陥る際にリアリティがわかない点などのかなり根幹に近い問題まで、気になる部分は数多ある。「世界は愛で繋がれる」という大ネタも、作品世界のリアリティレベルとは余りにも解離しており、なんぼなんでも納得できるとは言い難い。作品単独としては、手放しで褒めるのは難しい。
しかし、それらを上回る美点もある。中国の山水画そのままの世界<天山>、陰謀渦巻くカトリック世界<パケム>、メデューサ漂うガス・ジャイアントの世界、描かれる異世界はいずれも魅力的なものだ。そこに住む人々も、短いが鮮烈な描写により、殺されたときに痛みを覚えることが出来るだけの十分な深みを持っている。また、<天山>の山々の間に張り巡らされた何Kmにも及ぼうかというケーブル、植物だけで作られたダイソンスフィアなど、突拍子もない楽しさに溢れたガジェット群もある。そして、それら描写力に支えられた(時に)緊迫感に満ちたストーリーも。
十分に美しく終わったとは言い難い。しかし、少なくとも楽しくはあったし、何より終わらせただけで十分だとの思いは、ある。

2月17日
<異形コレクション>『GOD』(廣済堂文庫)読了。とても悪くはないのだが、前巻『トロピカル』に比べると一段落ちるか。理を語るものは比較的悪くないのだが、イメージで勝負するものに卓越した作品が少なかったのは残念というか、テーマから当然というか。
収録作中では、竹本健治「白の果ての扉」と、田中哲弥「初恋」が飛びぬけて良かった。特に、田中哲弥の文章は絶品。『やみなべの陰謀』を読んでいた時は、「わるくないけど普通」程度の印象だったのに、傑作「猿駅」を読んで以来、どんどん私的評価が高まっている。句読点の少ない饒舌な文体で描かれる異形は、淡く、切ない。ツツイ節と言ってしまえばそれまでだが、筒井の狂気とは異なる哀調が感じられるのが魅力だ。
月並みな表現ではあるが、次作が待ち遠しい作家である。

2月18日
PKD『マイノリティ・リポート』読了。なんか順調だな。
しょせん落ち穂拾いだろうと思って読み始めたのだが、どうしてどうして、立派に落ち穂拾いだった。それでも、「マイノリティ・リポート」(どう考えても「少数報告」の方が良いタイトルだろう)と「追憶売ります」(どうせならこっちも「トータル・リコール」にすれば良いのに)はまあまあ楽しめたから良しとしよう。どっちも再読だけど。
未来社会の窮状を、20世紀の予言者の一人ポール・アンダースンが救うというディックとは思えない(しかも、落ちはちゃんとディック)楽屋落ち小説「水蜘蛛計画」は楽しくはあったが、面白くはなかった。っつーか、そんな志の低いディックは見たくなかったぞ。

山本正之ライヴ「恋しい人よ」を観る/聴く。昨夏のライヴは、区切りという雰囲気が強く漂っていたが、今回はソロライヴということもあり、まだ新しいものは見えて来ていない。それでも、開演の合図のインストゥルメンタルが流れない、オープニングがメドレーでない、などの違いはあった。これが、カルトショーであるがゆえのことなのか、これからもつづくのか次回が楽しみではある。
内容の方は、普段より2、3割曲数が多かったこともあり、ほぼ手放しで満足。久々のクレージー物「大不況行進曲」などの新作や、初めて聞く曲に傑作が多かったように思う。演奏の方も、この週3回目で疲労しているはずなのに、それを感じさせない出来で本当に堪能できた。いいライヴだった。

2月19日
SFマガジン00年2月号の後半、「年代別SF特集(2)変革の1960年代SF」を読了。
収録短篇中では、エリスン「プリティ・マギー・マネー・アイズ」が一番カッコよかった。すべてに絶望した男が、一瞬の救いの後、痛烈に裏切られる様は、実に辛く、切ない。文体それ自体が価値であることを、SFがアイデアだけのジャンルではないことを再確認させてくれる佳作。
収録短篇中で一番面白かったのは、ディッシュ「憂鬱の女神のもとに来たれ」。植民地のコンパートメントの管理用コンピュータにされた女を主人公にするというあたりからかなりキテいるのだが、その管理用コンピュータと、無学な開拓者の男との決して交錯することのない恋を描くってんだから、それはもう実に憂鬱である。そんな暗い話をサラっと読ませ、読後に純粋な苦みだけを残す技は、さすがディッシュ。変な胸焼けをしたりはしないので、安心して読んでいい。
ラファティ「ゴールデン・トラバント」は再読してみたら、わりと楽しめた。話の起伏が弱く、面白がるべきところが掴み難いという難点はあるが、ラファティ慣れした人間が、ラファティの文体を楽しむためにはこれでも充分。でもどうせなら……と書こうと思い、Drummリストを見て愕然。60年代のラファティってかなり訳されてるんだ。
1970年までのラファティの短篇で未訳なのは以下の作品(Drummリストに基づく)。
# *は"Does Anyone Else Have Something Further to Add?"(1974)収録
翻訳率は55/68だから、かなりのものだ。これじゃあ、選択の余地は少ないか。
小説以外では、プリーストの評論が興味深かった。僕はどうも、アメリカンNWの登場と、ゼラズニイやディレイニーの登場をごっちゃにしていたようなので、この評論を読んで、それらとイギリスNW成立との時代順が整理されたのは大収穫。この辺の話は『十億年の宴』で読んでいたはずなんだけどなあ。
雑誌全体としての出来は非常に良かった。駄作の数が少なく、佳作以上の作品が非常に多い。ハードカバー1冊分という価格とサイズに見合う内容を持つ号である。

夕方からユタ。参加者はみなとみらい子、田中香織、大森望、林、藤元直樹、柳下毅一郎、宮崎恵彦、添野知生、小浜徹也、高橋良平、三村美衣、福井健太、高橋征義(多分登場順、敬称略、一部誇張あり)。主な話題は……、なんだっけ?えーと、昔のSFセミナーの写真を見せて頂いたり、就職相談を漏れ聞いたり、昨年の作品のチェック漏れを確認したりしたのか。SFセミナーとZERO-CONの企画の話も出ていたかもしれないが、一般参加者に過ぎない僕がそんな内部情報を知りうるはずはないので、もちろん聞いていない。
そういえば、三村さんからガシャポンの「ライダーマン」と「仮面ライダーX」を戴いた。ありがたいことである。フィギュアの造形はやや気に入らないけど、ライドルを持ったXはやっぱりカッコいいなあ。
特撮といえば、田中さんの「ウルトラマンは、ウルトラの母しかわからない」という発言には驚いた。まあ大学時代から、新入生の教養の無さを嘆き続けてきたわけだが(彼らはカゲスターも、バロム1も、いやさトリプルファイターすら知らなかったりしたのだ)、まさかゾフィーも知らない世代が現れるとは。たとえ、リアルタイムには知らなくとも、『全怪獣怪人大百科』で「怪奇大作戦」の怪人を覚えるという文化はどこへ行った。
# ひょっとして『ひみつ道具全百科』で、ドラえもんのひみつ道具を分類整理するという文化も廃れていたりするんだろうか。
あとは、宮崎さんから伺った「東京ロボット新聞」の第1号の特集が「三種の神器(剣、盾、銃)」だったという情報と、藤元さんから伺った、さいたま文学館で、「ボッコちゃん」「おーい でてこーい」「暑さ」「愛用の時計」を原作とする演劇が上演されたという情報は特筆すべきか。演劇はぜひ観たかったな。
もちろん、福井さんとキャンプ情報の交換もした。お互い、この時期は幻想の中に生きることが出来て幸せである。もちろん、「シーレックスで登板し順当に打たれた小桧山、一軍入り」など、辛い現実も時折顔を覗かせるのだが。

2月20日
久しぶりの、YA起源調査、というか間違いの訂正。山岸真先生("Distress"楽しみにしています)のご指摘を受けて、1月9日の記述を「尾之上浩司のYAバトルロイヤル」→「尾之上俊彦のYAバトルロイヤル」と修正。こんなありがちなことをまちがいていたとわ。尾之上俊彦さん、尾之上浩司さん、本当に申し訳ありませんでした。
また、山岸さんからは、尾之上浩司発行の<SFヒストリー>というファンジンがYA使用例調査の上で重要ではないかという示唆も戴いた。こちらもできるだけ早くチェックしてみようと思う。

昼遅くから、中野へ。中野武蔵野ホールでレイトショーの入場整理券を貰い、ついでにブロードウェイを廻る。タコシェの展示を見るのが目的だったのだが、これが。あんな狭いところでどうやって展示をするんだろうとは思っていたが、案の定、展示というよりは関連グッズの販売だった。まあしかし良さそうなものも幾つかあったので、そのうち購入することを決意し、今日は許してやることにする。ハヤカワの目録を求めて明屋に寄った後(無かった)、中野を後にして大久保に向かった。

大久保に向かった目的は、当然高原書店。ジョン・アーヴィング『ウォーター・メソッドマン』を探していたのだが、残念ながら見つからなかった。それでも、SFAをチェックして「YAバトルロイヤル」の担当者を確認したり、80年代中盤の「Men's Club」をチェックしたりは出来たので、それなりに収穫はあったことにしよう。「SF宝石」6冊9000円(うち必要なのは1冊)に若干の未練を残しつつ、渋谷に向かう。

渋谷では、まずBook 1stへ。昨日、クロウリーが掲載されているという事実を聞かされて、慌てて探すことにした柴田元幸編集のアンソロジー『むずかしい愛』(朝日新聞社)を購入。ついでに、ハヤカワの目録を探したが勝手に持っていけそうなものが無かったので諦める。
次に渋谷まんだらけに寄って、いくつかマンガを探してみる。すべてが1フロアに集まっているので眩惑されるが、全体としての規模は中野と同程度か。変に、渋谷という街に合わせようとしているこの店舗よりは、おたく性を剥き出しにして恥じることのない中野店の方が僕の趣味には合うようだ。まあ、どっちにしろ探している本は見当たらないことがわかったので、早々に撤退する。
続いてPARCO ブックセンターに寄り、ここでもハヤカワの目録を探してみる。残念ながら、Book 1st同様、勝手に持っていけ状態のものはない。聞いてみれば済むことのような気もしたが、本を買うわけでもないのに目録をくれというのも気が引けたので、諦めて飯を食いに行く。
飯は当然、味噌煮込み。渋谷に来たのもこれが目的なのだ。食べたのは東急ハンズ斜め向かいの「ちた屋」の「田舎かたうどん(玉子入り)」(だったかな)。麺の堅さはそれなり、汁の味は合格点なのだが、具に若干の問題があった。わかめが入っているというのもあまり頂けないのだが、かしわが入ってないのは大きな減点材料。多少値段は上がっても、ぜひ入れて欲しかったところである。まあ、しかし全体としての味は悪くない。渋谷で、食事をする破目に陥ったら思い出してもいいという感想は持った。
夕食後、高田馬場に出て芳林堂に寄る。昨日の今日なのである訳はないと思ったが、案の定、ハヤカワの目録は置いていなかった。ここは、目録取り放題なので、ここに並んでくれるのが一番面倒が無いのだが、残念ながらそうもいかないらしい。再度諦めて、中野に戻る。

レイトショーの開場までの間に、『むずかしい愛』を読む。
クロウリー「雪」は、失った妻の映像を眺め続ける男を描く。どうも今一つ文章がピンと来ないというのは贅沢か。ランダムにしか再生できず、次第に劣化していってしまう過去の記録=記憶というガジェットは悪くない。
スウィフト「ホテル」は、セラピーの場としての「ホテル」が、一組のカップルによって崩壊していく姿を、あんまり描かない。だからどうということはないのだが、文章のリズムが気持ち良く楽しめた。
ブラウン「私たちがやったこと」は、互いの必要性を形にしてしまったカップルの悲劇。もう、どうしようもなく悲劇になるに決まっている設定で、事実悲劇になるのにまったく泣けずに苦さだけが残る感覚は、先日読み終えたばかりの「憂鬱の女神のもとに来たれ」と同種の味だ。わりとお気に入り。

とかなんとかしているうちに時間が来たので、武蔵野ホールに移動してレイトショー。「シュヴァンクマイエルの世界」を観る。感想は……、僕は好きだが、手放しで人に勧める勇気はないというところか。やはり、冒頭のブラザーズ・クエイの作品(『ヤン・シュヴァンクマイヤーの部屋』)が辛いのが難点。シュヴァンクマイエルに対する敬意は感じられるし、個々には美しいシーンもあるが、演出がたるいのが致命的。何度か危うく眠り込みそうになってしまった。
その後のシュヴァンクマイエル作品はほぼ問題なし。説明不用のスラップスティック『部屋』、映像美とくだらないギャグが交錯する『自然の歴史』、1人称視点で迫り来る恐怖を描く『陥し穴と振り子』、クレイアニメの楽しさが全編に溢れる『闇・光・闇』、いたいけな少女を襲う不条理の数々『地下室の怪』、いずれも満足できる出来栄えだった。ただ、全体にやや説明不足な所があるのと、トルンカの精緻なパペットアニメと比べると粗が目立つということはあるので、その辺は注意すべきかも。まあ、なんにせよもう一度見に行く気になったことだけは確かだ。

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