次の文章へ進む
前の文章へ戻る
「古典派からのメッセージ・2003年〜2004年」目次へ戻る
表紙へ戻る

 

仏教徒の誇り

 

 米英によるイラクのフセイン体制破壊戦争は大勢が決したようです。この戦争についてウイラ北嶋さんからの投稿に曰く、

「人類の歴史上、これまで『仏教』の名のもとで一滴の血も流されていないという事実があります。願わくは、仏陀の教えが広く世界の人々に正しく理解されることを望むしだいであります。」

まさにそのとおり、仏教ほど寛容で平和的な宗教はありません。ユダヤ教もキリスト教もイスラム教も自らの神を唯一絶対として譲らない宗教であり、それゆえ中東地域に平和が訪れるのは大変困難なことに思われます。日本人が仏教徒として果たしうる役割は意外に大きいと思います。

 さて、たまたま四月一五日放映のNHK「プロジェクトX」で、コンピュータの基本ソフト、トロンを開発した坂村健氏を中心としたチームの話が取り上げられていました。コンピュータの基本ソフトはビル・ゲイツのウィンドウズが独占していますが、これは、中身を極秘にして使用者からたんまりと使用料を取る仕組みです。坂村氏のトロンは仕様を公開し、誰でも使えるようにしています。基本ソフトのような「公共財」は無料で広めるべきとの坂村氏の志、ないしは、「求めるのはカネではなく、皆が広く使ってくれることを喜べる技術者の誇り」と語る坂村チームの面々の考え方は、まさに日本人の美学ここにあり、と、強い感銘を受けました。

 パソコンへのトロンの普及に危機感を抱いたアメリカ政府は、所謂「スーパー三〇一条」でトロンを不公正貿易の品目に挙げ強引な政治力でトロンをパソコン市場から排除しました。しかし今や、パソコン以外の電子製品、たとえば、携帯電話や自動車のエンジン制御など、トロンの応用ソフトは世界中に広まっています。この様は、まさに、無条件に衆生を救済せんとする大乗仏教が広まるようだと感じました。坂村チームの寛容さと技術者としての大きな志から比べると、ビル・ゲイツなどはただの我利我利亡者だと、改めてアメリカの「金銭一神教」に嫌悪感を抱いた次第です。

平成一五(二〇〇三)年四月二〇日