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「古典派からのメッセージ・2005年〜2006年」目次へ戻る
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現代中国との向き合い方

 

 今回の中国での反日運動については、「諸君!」六月号の中西輝政京都大学教授の論文が最も的を得た観察だと思う。すなわち、今回の中国の動きは、大衆動員と国際世論喚起による対日揺さぶり戦略という中国が近代史の中で何度も繰り返し使ってきた手段であり、また、日本が「自由経済体制ゆえに、経済界が悲鳴を挙げた途端に政府が参ってしまう」ことを熟知した攪乱戦術である。そしてこれらの目的は、日本の国連常任理事国入りの阻止である。このことをよく承知した上で、日本は、先方以上に「ふっかけ(ブラフ)を駆使した」したたかな交渉と国際世論を味方につける巧みな工作をしなければならない。

 また一方で、今回の暴挙により、貧富の差や共産党の腐敗を原因とする民衆の不満のマグマが相当溜まっており、その捌け口がいつ共産党政府に向けられるかも知れないこともよくわかった。

 政治と経済においては、中国と情緒的に付き合うのは有害である。アメリカ流に徹底して「利」をつきつめて付き合うべきである。なぜなら、現代中国に道徳や文化は無く、唯物史観に基づく物質主義で動いているからである。人に道義的な責任を問うたり、文化的な配慮を要求するのは不可能な国なのである。共産中国の唯物主義は、かの国の経済成長の源泉であるとともに、日本における中国人犯罪の多発の源泉でもあるのだ。儒教道徳を否定し去った後に残ったのが、道徳と文化無き経済成長至上主義なのである。

 日本政策研究センター所長の伊藤哲夫氏の講演で聞いた興味深い話をご紹介しよう。二〇〇二年に米国のブッシュ大統領が中国を訪問したとき、中国のエリート校である清華大学での講演で、ブッシュ大統領は、「アメリカは、家族のつながりを大切にし、隣人を愛することを教える信仰の国である。唯物主義ではない。このことをよく理解してほしい。」と述べたとのことである。この演説を中国のエリートの卵たちはどのように聞いただろうか。きっと心に突き刺さるものを感じた若者もいたのではないかと思う。まっとうな感受性を持った知的エリートなら、現代中国の唯物主義(単に唯物論を奉ずる共産党が独裁しているというばかりではなく、歴史や精神文化を軽んじて、儲けることつまり経済成長だけにひた走っているという意味での唯物主義)に違和感を感じているに違いない。日本の小泉首相も、中国の知的エリートに向かって同じことを言えばいいのである。「日本は物質主義ではなく、美と精神文化を大切にする国である。このことをよく理解してほしい」と。

平成一七(二〇〇五)年五月一四日