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「古典派からのメッセージ・2005年〜2006年」目次へ戻る
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パックス・アングロサクソニカ

 

近現代史は、アメリカ、イギリスなどアングロサクソン諸国が世界の支配権を確立してきた歴史である。ソ連に勝利した後、アメリカは、経済だけ肥大化して国家意思の欠如した日本を金融トリックによって叩いて国力を殺ぎ、ついで「民主主義」と「人権」というもっともらしいイデオロギーでイスラム教を無力化しようとし、次には最後の巨大な全体主義国たる共産中国に対峙することだろう。かつて西洋諸国が中南米・アジア・アフリカを植民地化したときは、キリスト教が先導役だったが、現代では「民主主義」と「人権」が同じ役割を果たしているのである。アメリカは国連を無視した一極支配を強化しようとしているが、それは国連自身の責任でもある。アナン事務総長の収賄疑惑に象徴されるように、国連官僚たちの腐敗はもはや覆い隠すべくも無い。日本も「国連中心主義」の建前と実質的な安全保障の確保は使い分けたほうがよい。

さて、アングロサクソンの世界支配を象徴する事象を二つ挙げたい。ひとつは「エシュロン」である。エシュロンとは、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの五カ国(つまり英語を母国語とするアングロサクソン諸国)による共同諜報システムである。人工衛星を介して行われる世界中の通信を傍受し、アングロサクソン以外の各国の要人の会話を盗聴したり、産業スパイまがいの盗聴をしているとも言われている。エシュロンの存在は長い間秘されてきたが、西暦二〇〇〇年になってその存在が世界に暴露された。詳しくは、田中宇氏のHPの二〇〇〇年三月二日付「世界中の通信を盗聴する巨大システム」 を参照されたい。フランス、ドイツなど西欧各国がエシュロンに異を唱えているが、大して力になっておらず、現在この問題は世界で大きく取り上げられてはいない。アングロサクソンは古来、情報の重要性を最もよく認識してきた民族であり、彼らが英語専門の秘密諜報機関を持っていても何の不思議も無い。彼らは自由だの公平だの人権だのといったきれいごとスローガンで行動しているわけではなく、現代世界はなおホッブズの描く乱世であることを忘れないリアリストなのである。自由や公平といった美辞麗句は愚か者をだます手段として使えと教えたマキアベリの金言を忘れない人々なのである。エシュロンはまさにこうしたアングロサクソン的政治観の象徴である。我々はアングロサクソン支配のこの現実をよく観察し、情報の重要性をよくよく認識して政治外交戦略を構築すべきであろう。

アングロサクソンの世界支配を象徴するもうひとつの事象は大衆音楽における英米の支配である。どの国の大衆音楽も英米的なロックやポップスに支配され、地域の独自音楽は駆逐されている。シャンソンもカンツォーネも演歌も衰退している。大衆文化での英米の侵略は、自由や民主主義と同様、相手国の民衆を洗脳して英米文化に親和させ、英米による政治支配への反発を弱める重要な役割を担っている。これに対抗するには、日本の大衆文化の魅力を増して大衆の間にしっかり根付かせる(そして英米の大衆を日本文化に親和させることも重要)しか無い。日本の政治・経済・文化のリーダーたちは大衆文化が持つ政治的な力について認識すべきである。

 

平成一七(二〇〇五)年七月二日