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「古典派からのメッセージ・2005年〜2006年」目次へ戻る
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二十歳の娘への手紙

 


誕生日そして成人おめでとう。いよいよ君も大人の仲間入りですね。昔から日本では、大人になるための儀式をきちんとしていました。武士の子は烏帽子をつけて「元服」を祝いました。その日から「牛若丸」ではなく「義経」に代わったのです。今日では成人式くらいであまり大げさな儀式はしませんが、お父さんとしては、君が無事に大人になってくれたことに感謝する気持ちを込めてこの日を特別な日として迎えたいと思います。

 

お母さんや豊田や浜松のおじいちゃん、おばあちゃんたちもお祝いしてくれています。こういう血のつながった人たちがいつも君を応援してくれていることを忘れないでください。君は遠い遠い昔からの先祖たちの営みの末に、歴史を背負って生まれてきたのです。そのかけがえの無さをもう一度かみしめてください。

 

さて、大人になるということは、親から独立してゆくことです。やがては経済的な自活もしなければなりませんし、精神的な自立も求められます。まずは生活を律することから始めてください。Nちゃんをはじめ、あなたの友達で親元を離れて生活している人も多いはずです。君はたまたま親と同居していますが、そういう友達と同じ気持ちで自分のことは自分でやるように。

 

 お父さんは、大学二年生の夏休みに、友人ふたりと岐阜の山奥の禅寺に二泊三日のミニ修行に行きました。そこで禅師に教えてもらったふたつの心構えは、忘れがたくお父さんの心に残っています。そして今でも夜寝る前に必ず唱えています。ひとつは「日日是好日」という禅宗の標語で、自分に対する心構えです。どんないやなことがあっても、どんな困難が押し寄せてきても、生きていることは日々素晴らしいことだ、日々が好日だという禅の心構えです。つまりは自己肯定であり、環境に感謝することです。もうひとつは、イエスの言葉「心に光を」。これは他人に対する心構えです。どんな人に対しても、心に光を灯したように、微笑と明るさで接することです。正直言って、このミニ修行がこれほど後までお父さんの心に影響を与え続けるとは思いませんでした。若い日の出会いというのは大事ですね。君にもよき出会いが数多くあることを祈っています。

 

父より

平成一八(二〇〇六)年七月二日