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電光石火のヴィヴァルディ

 

 

 今日、三鷹市芸術文化センターの小ホールで催されたジュリアーノ・カルミニョーラとヴェニス・バロック・オーケストラのイタリア・バロックを集めた演奏会に出かけました。曲目は、前半は、まず、ヴィヴァルディ二曲とアルビノー二一曲の弦楽合奏のための協奏曲が演奏された後、カルミニョーラが登場し、彼のヴァイオリン独奏をフィーチャーしたヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲ト長調(RV三〇三)が演奏されました。後半はすべてカルミニョーラのヴァイオリン独奏で、タルティーニのニ短調協奏曲(D四五)とヴィヴァルディの二曲の協奏曲(ニ長調RV二一七、ト短調RV三二五)という内容でした。

 

カルミニョーラのヴァイオリンは、火花散り、稲妻光る演奏でした。テンションの高さは尋常ではありません。「円満で穏やかな表現」の正反対の、尖って突っ張って切れ味抜群の激しい表現。音楽が伸縮自在で、緩やかなテンポから急に猛烈なスピードに変じたり、高音の歌声のような旋律の直後に一瞬の静寂が横たわったり、静かなさざ波があっという間に荒れ狂う波に変貌したり…といった具合です。でも大きく揺れ動いても音楽が破綻をきたすことはありません。電光石火のように颯爽と駆け抜けて曲を閉じるのです。

 

 こういう演奏でこそ、ヴィヴァルディは現代に蘇生します。イ・ムジチ合奏団のような温厚で円満な演奏では、彼の音楽が本来持ち合わせている先鋭さはこれほど鮮やかには浮かび上がってきません。何となくイタリア・バロックはどの作曲家も似たような音楽だという印象を持っていた僕の偏見は、カルミニョーラとヴェニス・バロック・オーケストラの演奏を聴いて、打ち砕かれました。今日演奏された三人の作曲家の内、アルビノー二の気品と穏やかさ、タルティーニのヴァイオリン教師風の堅実さに対して、ヴィヴァルディの先鋭さは際だっています。多彩な調性の変化、活き活きとした付点リズムの多用、音の強弱の対照などは他の二人には無い際だった特徴です。さらに、ヴァイオリン独奏のハイトーンのオペラのアリアのような旋律や高度な技巧的パッセージ、それを支えるオーケストラ伴奏の多彩さも独創性を感じさせます。

 

こうしたヴィヴァルディの個性を浮き彫りにしてくれたのがカルミニョーラとヴェニス・バロック・オーケストラの面々でした。彼らは、旋律線を弾く奏者たちはもちろんのこと、普通は縁の下の力持ちである通奏低音のチェロやチェンバロやテオルボの連中までもが、ヴェネチアの青い空のように鮮やかで乗りがいいのです。まるでロックバンドのアーチストか、派手に着飾った歌舞伎のかっこいい伊達男たち…そんな印象のイタリア人音楽家たちは、客席からのブラーボ!の大歓声に応えて三曲もアンコールを演奏してくれました。

 

平成二〇(二〇〇八)年一一月三日