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近況メモ(二〇〇〇年〜二〇〇一年)

 

平成一二(二〇〇〇)年〜梅雨から炎暑へ

六月一八日

 じめじめした気候が続きますが、皆様お元気でしょうか。最近、仕事で「本物の資本家」と今後の会社のありかたを議論させていただく機会を与えられ、とてもエキサイティングな経験をさせてもらっています。今、小生は、アダム・スミスの「国富論」を読んでいますが、いつかスミスを踏まえつつ、この偉大な資本家のことを記してみたいと思っています。

 

七月二二日

 猛暑が続きますが、皆様お元気でしょうか。最近小生は、勤務先銀行の新生にむけて、「戦略的人事」をやろうと、もがいています。今週はほとんど、晩ご飯を食べるのが深夜一二時過ぎというような生活です。そんな中で、時々このHPに対していただくご意見、ご感想が、小生の大切な生活のアクセントになっています。

 残念なのは、今のところ本業が多忙で新しいネタを料理する暇が無いことです。五月にサリエリのことを書き上げて以来(そのうちに掲載します)、なかなか次のテーマのまとめに入れません。頭の中には、「古典的資本主義の今日における有効性」とか「童謡としての伊勢物語」とかいったテーマがあるのですが、なかなかまとめる時間がありません。といっても、本業の方も、これはこれで後にエッセイの主題になりそうなことがいろいろ起こり、エキサイティングではありますが…。

 

平成一三(二〇〇一)年〜「冬深し」から「梅の花」へ

一月一四日 

 新しい年を迎えて、何年かぶりに部内旅行を敢行しました。これまでリストラばかりでそれどころではなかったのですが、会社の生まれ変わりを祝して皆でパッとやろうということになったのです。こういう企画が自然に若い人から出て来たのも意外でしたが、何年かぶりにやってみると、今まで「社内旅行」に行ったことがない若い人たちこそけっこう楽しんでいるのも意外でした。

 会社人間はダメだとか、個人主義に徹しろだとか、世の経済評論家たちは言いますが、会社が人間の共同体である以上、お互いの信頼や親密度を高めたいと思うのは自然な人情なのです。毎年のルーティンでやるのではなく、こうした節々をとらえて、たまに皆で一泊旅行をするのは決して悪くないな、と感じた次第です。

 

一月二一日 

 東京はこの冬二回目の積雪です。きょうは雪晴れの真っ青な空が広がっています。町は静まりかえり、いつもと違う場所に居るようです。雪はこの非日常性がいいですね。もっとも豪雪地帯の方々にとってはそれどころではないのでしょうが・・・。

 

一月二七日 

 東京は先週に続いて雪です。それも吹雪きです。気温もこの冬一番低く、昼間も氷点下だったそうです。それにもめげず、ダウンジャケットに厚手の手袋にスキー帽という完全重装備で、途中何度も滑りそうになりながら、秋葉原にCDを買いに行きました。

 

二月三日 

 今日近所の図書館へ行った時、道端の梅の木がもう白い花を咲かせているのを見つけました。図書館近くの病院の庭には真紅の梅の花が青い空に照り映えていました。懐かしい梅の香りを充分楽しませてもらいました。また、中学二年生の我が娘は、今日、学校の入学試験の手伝いに行っています。入試の季節なのですね。

 人工物に取り囲まれた私たちの生活の中でも、少し注意すれば、季節を感じることはいくらでもできるものです。この季節、万葉歌人、山上憶良はこんな歌を詠んでいます。

   春されば まづ咲く宿の梅の花 ひとり見つつや 春日暮らさむ

  (春になると真っ先に咲くこの家の梅の花を、ただひとり見ながら長い春の日を過すとしようか)

こんなゆったりした心境で日々暮らせたらいいな、と思います。

 

平成一三(二〇〇一)年〜「若葉」から「蝉(セミ)」へ

四月二九日 

 桜から新緑へと季節は巡ってゆきます。木々に萌えはじめた淡い緑色が目に心地よくしみてきます。ところで、小生、四月から産業カウンセラーの養成講座に通っています。人を扱う仕事をしていると、どうしてもカウンセリング技術が必要だと思ったからです。十八万円も払ったので、何としても資格を取って厚生労働省の資格奨励金をもらわなければなりません。講座は講義と実技とで成り立っていて、月に三回、日曜日丸一日です。休日がつぶれるので体はきついですが、いろいろな人が来ていてけっこう面白いです。

 

六月三日 

 先日、最寄り駅まで行く途中で、青い紫陽花(あじさい)の花を見つけました。雨天の中、うす緑の枝葉に青色の花の新鮮な色合いに、ふと立ち止まって眺め入ってしまいました。

 

六月一〇日(小雨) 

 先週は偶然「旧友たちと会う週」になりました。日曜日には高校時代の親友一人と、水曜日には大学時代のテニスクラブの仲間二人と、そして金曜日には中学・高校を共に過ごした友一人と、それぞれ旧交を温めました。日曜日に会った医者の友は、名古屋から学会の用事で上京したついでに声をかけてくれたもので、懐かしい八丁味噌(岡崎名産)を土産に買ってきてくれました。久しぶりの八丁味噌の味噌汁が美味しかったこと!

 

六月一六日(曇り) 

 一橋大学の伊丹敬之先生と伊藤忠の丹羽宇一郎社長の対談集「まずは社長がやめなさい」(四谷ラウンド)という本を楽しく読みました。対談のテーマは、今の日本企業にとって必要な「改革」とは何かということです。両氏は、日本企業自らの特性をよく見極めたうえで、いたずらに自己卑下することなく、具体的な処方を提示しています。企業人として大変励まされる内容でした。

 

六月二四日(曇りのち晴れ) 

 夏に備えて半そでワイシャツに切り替えた途端、天候不順で涼しい日が続いています。風邪を引いている人も多いようですので気をつけて下さい。尤もきょうは午後から真夏を思わせるような日差しでしたね。

 

七月一日(晴れ) 

 中途採用者二名と昼食会をしました。いわゆる第二新卒と呼ばれる社会人二、三年目の人たちを採用したのですが、なかなか元気でよろしい。やはり企業は若い人を採らないと活気が出ません。これからは、こういう第二新卒層を通年採用することになりそうです。

 

七月七日(晴れ) 

 桃の美味しい季節になりました。東京は毎日熱帯夜が続きますが、皆様お元気でしょうか。小生は通勤の地下鉄での爆睡によって睡眠不足を補っています。地下鉄で小生の隣席に座っている方々、ご迷惑をおかけしております(深謝&汗)。

 

七月一四日(晴れ) 

 尋常ならざる暑さが続いていますね。先日、ある転職専門誌に小生の会社の求人記事を掲載するための取材を受けました。中途採用積極化の一環として、また、会社のPRも兼ねて、初めてこういう雑誌を使ってみました。「二一世紀のリーディング・インダストリーを育成する金融機関」という、やや大上段のトーンで宣伝してみましたが、果たして効果は如何?

 

七月二二日(晴れ) 

 Jリーグ名古屋グランパスのストイコビッチ選手の引退試合に感激しました。あの華麗な玉さばきや柔らかなスルーパスを見られなくなるのはとても残念ですが、彼が大の日本びいき、名古屋びいきになってくれたのは本当に良かったと思います。またいつか指導者として日本に来てくれるのではないでしょうか。

 

七月二八日(曇り) 

 小生の勤務先銀行の取引先である、急成長中の人材派遣会社の営業現場を見学する機会がありました。そのIT(情報技術)装備の見事さにいたく感心しました。派遣社員を求める企業のニーズと派遣候補の登録者の希望を情報システムで瞬時に結び付けることが可能になっており、したがって企業や登録者を「待たせない」ことがこの派遣会社の強みとなっています。こうしたマーケティングのためのIT活用では、我が銀行業界はかなり遅れをとっていると痛感した次第です。

 

八月五日(曇り) 

 ようやくセミの鳴き声が聞こえるようになりましたね。ミンミンゼミやアブラゼミ、そして夏の終わりのツクツクボウシの声は、夏の風物詩として欠かせません。さて、先月受診した人間ドックの結果が出ました。前回再検査となった胃は何ともなかったのですが、初めてコレステロールや中性脂肪が健全値を上回ってしまいました。小生もいよいよ成人病に注意しなければならないようです。

 

八月一二日(小雨) 

 先日、ある人が「クーラーの故障した時のセミの鳴き声ほどうっとうしいものはない」と言っていましたが、小生はセミの鳴き声をうるさいと感じたことはありません。小生にとってセミの声は、夏への心身の切り替えをさせるシグナルであり、夏に右脳を覚醒させ感性を研ぎ澄ませる声明であり音楽なのです。子どもの頃、自転車に乗って矢作川に遊びに行った時の、水辺の何千匹ものセミの大合唱は忘れられません。彼等は人が近づくと鳴くのをピタッと止めるのです。まるで一匹の巨大な生き物が棲息しているような不思議な感じがしたものです。あなたにもそんな経験ありませんか?

 

平成一三(二〇〇一)年〜「蟋蟀(コオロギ)・松虫」から「柿の実り」へ

八月一八日(曇り) 

 先日、会社からの帰り道で秋の虫の声を初めて聞きました。あの「リーリー」という鳴き声を聞くと、季節が変わりつつあるな、と感じます。昼間はまだまだ暑いですが、夕方はだいぶしのぎやすくなってきましたね。

 

八月二六日(薄曇り) 

 三十年来使ってきた電気スタンドが不調のため近所の電気屋さんで診てもらいましたが、ソケットの不良が原因でした。昔の家電製品は構造が簡素なため、こうしたちょっとした故障程度は直りやすく、むしろ長持ちするそうです。今の家電製品はハイテク部品を装備しすぎていて、一度やられると修理が効かないことが多いそうです。我々の文明の脆弱さを考えさせられました。

 

九月一五日(曇り) 

 台風やらアメリカへのテロやらで落ち着かない一週間でした。アメリカへのテロは報復戦へとつながって行きそうですが、小生の頭に浮かぶのは仏典のなかの次の言葉です。「恨みに報いるに恨みを以ってしたならば恨みの消えることはない。恨みを捨ててこそ止む。これは永遠の真理である」人間の課題はブッダの生存中と変わっていないようです(本文の「仏典へのアプローチ」をご参照下さい)。

 

九月二四日(秋晴れ) 

 季節がある日を境に急に変化する――先週の土曜日はそんな日でした。「暑さ寒さも彼岸まで」と言った先人の感受性の確かさに改めて敬服する次第です。でも街行く人たちの服装は、もう冬並みにセーターを着ている人からまだ半袖の人まで、まちまちなのが面白いですね。

 

九月二九日(晴れ) 

 通りに金木犀が香るようになりました。さて、先日初めて荻窪のブックオフで本の買取りをしてもらいました。CDの買取りでは小生は常連ですが、ついに本にも流通市場ができたのか、と感心しました。ブックオフの価格形成は神保町の古書店とは全く異なる原理で行われます。つまり、その本の中身や内容の価値、希少性ではなく、いかに外見が新品同様か、で価格が決まるのです。小生が人事マンとして啓発された、日下公人氏の「人事破壊」(PHP)という本はもう絶版だそうですが、ブックオフでは何と五〇円!で売っていました。こうした本の流通市場は大変便利なものではありますが、読書という行為がますます「知恵の涵養」ではなく、単なる「情報の収集」になってしまうのを助長するような気もします。皆さんはどう考えますか?

 

一〇月六日(薄曇り) 

 今年度上期は公私共にどうにか無事に乗り切りました。しかし、アメリカへのテロ以来、自由主義経済の前提条件そのものが変わってしまったように思います。しばらくは世界が臨戦状態で推移せざるを得ないでしょう。十九世紀以来、英米対その対抗勢力の抗争という図式が世界史に現れては消えて行きました。英米の対抗勢力は、ナポレオンのフランスであり、カイザーとヒトラーのドイツであり、戦前の日本であり、戦後のソ連であったわけですが、今度はイスラム社会(の一部?)がその役回りを演じることになるのでしょうか。

 

一〇月一四日(快晴) 

 先週は、下期初の部店長会議やら新人事制度関連の研修やらで忙しくも中身の濃い一週間を過ごしました。フランチャイズチェーン方式で展開するヴェンチャー企業への新手法の投融資など、新銀行の特色がよく出た業務も芽が出つつあります。まずは順調な下期の発進です。

 

一〇月二〇日(秋晴れ) 

 朝夕少し冷え込みを感じるようになりましたが、小生は一年で今が一番好きな季節です。空は澄み、近所の坂の上からは国立(くにたち)の街並みのはるか遠くに富士山も見えます。JR中央線の車中に「萌黄色」や「唐紅」の色とりどりに染まった山々に人々を誘う旅行広告がありましたが、仕事が少し落ち着いたら紅葉狩りにでも行きたいものです。

 

一〇月二八日(雨) 

 あちこちで柿がたわわに実っています。四月から受講していた初級産業カウンセラーの講座が終了し、修了証をいただきました。これから一一月の筆記試験、一二月の面接試験に合格すれば、ようやく初級産業カウンセラーの資格を取得できます。講座で学んだカウンセリングマインドや技法は、現在の小生の人事実務にたいへん有益ですが、これからの世の中を考えても、転職の常態化や雇用・処遇形態の多様化や女性・高齢者の社会進出がますます進む世の中では、産業カウンセラーの機能が重要になってくるのではないかと考えています。

 

平成一三(二〇〇一)年〜「初冬」から「雪の富士」へ

一一月一七日(晴れ) 

 深まり行く秋、そして冬の訪れとともにフォレの室内楽が恋しくなります。久しぶりに彼の代表作の一つ「ピアノ四重奏曲第一番ハ短調」を聞いてみましたが、この曲の第三楽章アダージョは、まさに薄日差す初冬の落ち葉舞う通り道の景色です。この季節にフォレは欠かせません。

 

一一月二四日(快晴) 

 昨日、初級産業カウンセラーの筆記試験を受験しました。茗荷谷の拓殖大学の教室が会場だったのですが、久しぶりに階段式の大教室で試験を受け、しばし学生時代に戻ったような気分でした。一二月の面接試験とあわせて来年二月に結果は判明します。

 

一二月二日(快晴) 

 内親王ご誕生を心からお祝いします。今回は、前回流産された時と違い、ご懐妊からご出産まで、マスコミも静かに見守る姿勢だったのがよかったと思います。内親王は、きっと健やかで聡明な女性に育ち、二一世紀の日本女性の希望の星になられることでしょう。

 

一二月八日(快晴) 

 風邪のような鼻炎のような症状が三週間ほど続いています。熱は出ないしお腹の調子も悪くならないのですが、鼻水と喉の痛みがなかなかよくなりません。小生の周囲でも同じような状態の人がけっこう居ます。今冬の風邪は性質(たち)が悪いようですので、気をつけてお過ごし下さい。

 

一二月一六日(冬晴れ) 

 暮れも押しせまって来ました。部屋を掃除したり年賀状を作ったり、新年を迎える準備をしていると、庭で枯れ葉がカサカサいうので、ふと見ると、尾長鳥の群れがやって来ていました。我が家にはよく来る連中ですが、こんな近くで見るのは何年ぶりでしょうか。鳴き声は汚いのですが、黒の頭に水色の体がとてもきれいな鳥たちです。

 

一二月二三日(冬晴れ) 

 きょう初級産業カウンセラーの実技試験を受験してきました。受験生がふたり一組になってカウンセラー役とクライアント役を交代で行い、後で試験官から口頭試問を受けるという形式です。さほど緊張はしませんでしたが、会場が千葉の海浜幕張でしたので、朝六時半に家を出なければならず、寒さがきつかったです。でも、京葉線の車中から、丹沢山系を従えた真っ白な富士山がくっきり見えたのでとても幸せな気分で試験を受けられました。東京湾から富士山があんなに大きく見えるとは驚きです。東京ディズニーランドに向かう大勢の家族連れやカップルたちも歓声を上げていました。

 

一二月三〇日(冬晴れ) 

 今回で「古典派からのメッセージ」(一九九九年一月までの文章)をすべて掲載し終えました。今回掲載したのは、「夢をあきらめないで―M君への手紙」という文章ですが、これは今から約三年前、小生の勤務先銀行が破綻し国有化された時の思いを友人に宛てた手紙です。それ以後の三年間は小生にとって不安は多かったものの、自分の足でしっかりと歩むことを学んだ「人生の真夏」であったと思います。さて、ことし一年、このサイトを訪ねていただきありがとうございました。次回からは「続・古典派からのメッセージ」(一九九九年二月以降二〇〇〇年までの文章)を掲載してゆきます。では、良き新年をお迎え下さい。

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