近況メモ(平成21[2009]年9月〜10月)
平成21(2009)年〜「政権交代の秋」から「金木犀と銀杏」へ
9月12日(土)雨
右写真は、今週日曜日に晴天に誘われて妻と散歩した時に、空の色がすっかり深くなったのが印象的だったので撮ったものです。「さんま」や「梨」のおいしい季節になりました。きょうは、近所の秋祭りで、祭り囃子と共に子どもたちが御神輿を担いで練り歩くのも見かけました。もうすぐ民主党政権が誕生しますが、まずは衆議院の任期4年間必ず政権を担い続ける気概を持ち、大臣なども、よほど無能でない限り、その間は変えないでほしいと思います。二大政党政治を営む英国や米国でも、政権交代というのは10年単位の出来事です。予算策定を3回くらいやらないと独自色など出せるはずがありません。それから官僚を悪者に仕立てるのはやめて、有能な官僚にやる気を出させてうまく使ってほしいと思います。中国でも韓国でも官僚には優秀な人材が集まります。東大法学部の学生の第一志望就職先がゴールドマン・サックスなどという時代はもう終わりにしたいものです。
さて、昨日、オペラシティへ東京シティフィルの演奏会に出かけました。ハイドンの第44番ホ短調(小生の愛して止まない曲です)、モーツァルトの第40番ト短調(言わずと知れた超有名曲)、ベートーヴェンの第4番変ロ長調という古典派巨匠たちの三曲の交響曲が演奏されました。並べて聞くと、改めて三人の個性が浮き彫りになって楽しめました。故カルロス・クライバーが、天翔る馬のような颯爽たる指揮をしたベートーヴェンの第4交響曲と第7交響曲を並べた映像ディスクが残っていますが、この日の金聖響さんの指揮で聞いていると、第4交響曲は、確かに、第7交響曲とともに、クライバー好みの弾むようなリズムに特徴があるのがよくわかりました。
9月29日(火)曇りのち雨
左写真は、快晴の空に照り映え何となく哀感を感じる彼岸花、右写真は秋の木漏れ陽を浴びた自宅近くの鎌倉街道です。
秋の連休、いかがお過ごしでしたか? 小生は、家族で箱根へ一泊で出かけたのと、若く優秀な研究者たちや経済・行政の実務家たちが集まる勉強会に出席したほかはのんびり過ごしました。その勉強会は「政権交代」が主題で、小生が知らない様々な政治・行政の裏面を学ぶことができ、有意義なものでした。その雰囲気に触発されて民主党政権印象記を記しましたのでご覧下さい。小生は必ずしも民主党を強く支持しているわけではなく、そのマニュフェストもあまりに「生活者」に媚びた内容で好きになれませんが、とにかく政権交代で政治の雰囲気が変わったことは感じさせてくれます。願はくは、メディアが些末なことであまり早くに足を引っ張らないで欲しいですね。日経新聞が赤字になったことに象徴されるように、新聞・テレビなど既存のメディア産業自体が構造的に衰退しつつありますが、大向こうの受けばかり狙って報道の質を下げないで欲しいと願うばかりです。
10月12日(月・祝)快晴
きょうは体育の日らしい好天でした。下の写真も秋の一コマです。さて、先週は、月曜日に千駄ヶ谷の国立能楽堂での「能楽研鑽会」に、金曜日に新大久保の日本福音ルーテル協会で催された「モーツァルト・アカデミー・トウキョウ(MAT)」の演奏会に出かけました。
「能楽研鑽会」は、国立能楽堂が養成しているワキ方、囃子方、狂言方の研修生やその修了生など、若手能楽師たちの日頃の鍛錬を一般に披露する催し物です。この日は、狂言二番、舞囃子五番、能一番が披露され、流派も、観世、金春、宝生の三流儀の競演です。小生がいいなと感じたのは、「八島」の間語りを独演した和泉流狂言方の村井一之さん、舞囃子「東北」を舞った金春流シテ方の中村一路さんです。女流の小鼓方が二人登場しましたが、彼女たちの凛々しさも印象的でした。この日の最後に宝生流の能「花月」が演じられました。生き別れた父と息子の再会が主題ですが、曲のもうひとつの眼目は、花月少年が見せる芸の数々です。花月少年は、「喝食(かつじき)」という涼やかな美少年の面を着け、恋の小歌を謡い、鶯を弓矢で射るところを見せ、清水寺創建の縁起を曲舞にして舞い、父との再会を喜んで羯鼓をを打ちながら舞います。また、幼時に天狗にさらわれ諸国の山々を巡った様子を謡うなど、無邪気に軽やかに次々と芸を披露します。囃子も変化に富んで面白く聞かせてくれます。ここには、世阿弥によって洗練され江戸期に武家の芸として極限まで切りつめられ緊張感を付された「能」ではなく、室町期に流行った様々な芸能を取り入れた「猿楽」の原初の姿が彷彿としてきます。
「MAT」の演奏会では、モーツァルトの宗教曲二曲(「タントゥム・エルゴ」変ロ長調K142、ミサ曲ハ長調「オルガン・ソロ・ミサ」K259)とハイドンの「マリアツェル・ミサ」が演奏されました。MATは、古典派音楽をレパートリーの中心とするプロのヴォーカル&オーケストラ・アンサンブルで、器楽は古楽器を使用します。古楽クラリネット奏者でもある指揮者の坂本徹さんが率いて、これが七回目の演奏会です。MATは、また、毎年モーツァルトの命日(12月4日)に彼のレクイエムを演奏しています。モーツァルトの二曲もなかなか工夫を凝らした名曲で、しかも、坂本さんは、「オルガン・ソロ・ミサ」のグローリアとクレドの間に器楽合奏の教会ソナタト長調K274を挿入するサービスまでして楽しませてくれました。しかし、何と言ってもこの日の呼び物は、ハイドンの「マリアツェル・ミサ」です。この曲を生演奏で聴くのは初めてでしたが、その見事な造形美には改めて感嘆させられました。全体としてはホモフォニックな明快さが特徴ですが、要所要所で古典派的対位法が曲に力強さを与えています。古楽ティンパニとトランペット使用も奏功して、とてもきびきびとした良い演奏でした。独唱や合唱も穴が無く安心して聞けました。これを聞いていると、ハイドンがいかに素朴なカトリック信者だったか、心から神を敬愛していたか、よくわかりました。同時代の器楽曲などよりはるかに彼はミサ曲に力を入れ、音楽家としての技巧を傾注しているのです。