築基参証 第二篇 健身静坐法の実践
第11章 静坐時、小薬を採取すること

許進忠     撰述
虞陽子     査定
神坂雲太郎    訳

 

第11章 静坐時、小薬を採取すること

 

  1. 陽気を十二時位に巡らせた後は、陽気が自然と身体の各部分に浸透し、身体の生理機能を促進し、病気に罹らず、健康で、寿命を延ばすと いう効果を達成できる。
  2. 何度も陽気を十二時位に回すと、それ以降通常の生理現象は調整されて、「修練による生理」がたくさん発生することがある。
  3. 陽気を何度も十二時位に回した後、陽気が午時位に辿り着くごとに、ひとしきり温養していると、自動的に気の質が変わり、生理的に分泌 が促され、口に甘い唾液が出てくることがある。この甘い唾液が生じた時は、飲み込まねばならない。その他の余った陽気は、印堂・重楼に 沿って、胸と腹を降りていく。
  4. また陽気を何度も十二時位に回し、その後午時位に至るごとに、甘い唾液の分泌が促進され、よい香りがすることがある。この香りは最初 鼻で感じられ、その後芳香が口一杯に広がり、だんだんと全身も香しくなる。同時に身体の臭いも、気の質が変化する頃次第に消えていくこと がある。
  5. よい香りの出現は、始まる際キンモクセイの香りがすることが多く、その後濃厚な香りから次第にほのかに変わる。この時、いい表わすこ とができないほど、全身清々しい香りがして、愉快な気持ちになる。
  6. こうした甘い唾液やよい香りが出現してしばらくすると、静坐する時に臍下丹田の辺りで霧のように濛々とした様子が出現するのを感じる ことがある。それでもしばらく座っていると、このぼんやりした様子はやがてはっきりしてきて、身体の内部が透視されるかのように眼下に現 れる。注意これらの現象はすべて感覚に過ぎず、決して執着してはならない。また、現象の発生には人によってやや差がある。
  7. またしばらくすると、だんだん臍下丹田に一点の光が現れて、以降その光は次第に広がり、身体全体が光を発する。この際、依然として光 は大きくなっていき、この時に突然臍下丹田に一つの気の塊が生まれる。この気の塊は最初はぼんやりした様相を呈しているが、続いて丹田を 中心にして自ずと右に旋回する。旋回しているうちにその力は強まっていき、気の塊の形も小さくなっていく。この時、下半身は痺れて快美を 覚えるばかりで、性行為に勝ること幾倍か分からない。この気の塊が現れる前は、最初呼吸は綿々と絶え間なく、あるかないか分からないよう に思われ、しばらくして突如勝手に止まる。この際、全身に少し息がつまる感覚があり、瞬く間に鼻と腹の間を白光が上下に行き来するように なる。また、しばらくするとこの行き来する白光の往来する距離が短くなっていき、ついに胸と腹の間で感じられるだけになり、やがて白光の 現象はまったく感じられなくなり、呼吸はどこにあるか分からない。しかし、全身は静まり返り、身体の外のあらゆるものと完全に隔絶して、 あたかも真空のように体の外と接触しようがないのが分かる。この時、臍下丹田の中の気の塊はガラス玉のように小さな形をしていて、すこぶ る動きが激しく、陽関や谷道を圧迫して、尾閭を突破しようとする様子を示す。これは、陽気が尾閭を開こうとする現象である。
  8. 陽気が尾閭に到達すると、心を落ち着けて、もっと深く身体に神を凝らさねばならないが、他の所を観照したり、また無理に真意で陽気を 導いたりする必要はない。神を凝らすと、陽気は尾閭を通過して、夾脊に至る。
  9. 陽気が夾脊に着いていったん停止した後、再び神を凝らすと陽気は玉枕を通過して泥丸へと進む。
  10. 陽気が泥丸宮に着いていったん停止すると、この時全身は清々しくとろけるようで、その心地好さはいい尽くせない。陽気の気の質は自然 に変化し、次々にたくさん甘い唾液が分泌を促され、口に広がる。その他の余った陽気は神を凝らすと、印堂、重楼を通過して、絳宮へ至る。
  11. 陽気が絳宮へ到達するといったん停止し、その後また神を凝らせば、陽気は臍下丹田へと下る。陽気が臍下丹田に下ると、神を凝らして軽 く体内を観照して、陽気を上げ下ろしせず、ひとしきり封固する。ここまで修練が進めば、小薬が得られたことになる。
     この章では、小薬を採取する過程を簡単に述べた。いわゆる「炁満ちて任督自ずと開く」わけだが、それに慣れきって修業するのは慎むべき で、修行がここまで到達したなら、薬が産まれることやその老若、および抵吸摂閉などいくつかの細部について熟達した人に倣って究めなくて はならない。,
  12. 小薬の開関は、最初の陽気による開関といささか方法が異なるが、原理は同じである。大切なことは、神を凝らして内面を観照し、心を外 部へと向けてはならず、さらに物事に対して驚いたりいかぶったりするような気持ちを起こして、この希な機会を失うようなことになってはな らないということである。
  13. 小薬が得られると、仙学の中では最初の段階の「煉精化炁」の過程の大半が完成したということである。この後は次第にその他の不可思議 な効験が現れるようになり、体が健康になるという範囲を越えるようなことがとても多いが、しばらくはこの段階に止まる。
     この章で述べた効用は、小薬ができる前の河車の作業が順調に滞りなく通じることを指していると考えられよう。成果はそれぞれ異なる順序 で現れるため、自然と修練方法は変更したり修正するべきで、決してかたくなに一つにこだわってはならない。
  14. 小薬を採取した修行者は、その後三百妙周の正功を修行をしたいと思うなら、後日の止火や大薬の採取という段階に備えることができる が、熟達した人を参考にして学ぶ以外、危険を冒さないように慎重にしなくてはならない。

 

 

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