風追想

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日本海を間近に惣郷川を渡る (宇田郷-須佐)
[Nikon D100, AF Nikkor 35mm F2D, ISO200]

偉大なるローカル線――山陰本線。

京都〜幡生(はたぶ)間 営業キロ673.8km。現在、一本の路線としてはJR最長である。

本線なのになぜローカル線といわれるか? それは山陽本線の陰に隠れた存在であることが大きい。ながらく全線非電化、ほとんど単線であったし、全線を通して走る列車もなく、それでいて「ドン行」――普通客車列車はかなりの長距離を走っていたり、それがJR化以降も残っていた(京都口が電化されたのはJRになってからのことである)ところなどが、そういわれる所以だろうか。

最近ではまた別の意味でローカル線的だ。特急も普通も短区間・短編成で、区間によって輸送量や質の段差が大きい。点在する都市へは鉄道にバス、クルマそして空路も、山陽側から直接乗りつける形態が主流になっているからで、たとえばJTB時刻表を開くと掲載区間が京都〜福知山、福知山〜鳥取、鳥取〜米子、米子〜門司とぶつ切り状態。最初に見たときはため息が出たものである。同じような距離の山陽本線とまったく異なる扱いは、普通列車を乗り継いで旅をする人も大していないという状況の反映であるのか。

その山陰本線、たまには全線を通して乗ってみようかと、「経由: 東海・山陰」の周遊きっぷ(下関・北九州)をオーダーし、寝台急行〔銀河〕から京都駅ホームに降り立った。2004年12月29日早朝、小雨。


保津峡 (京都市左京区)


京都 7:30-(1225M)-7:53 保津峡 8:10-(229M〜1125M)-9:52 福知山 9:57-(427M)-11:25 城崎

鉛色の空の下、京都を発車した「嵯峨野線」電車は京の街をまわりこむように高架を西進・北進してから嵯峨野へ向かう。行く手はさらに厚い雲が垂れ込めている。市内でも単線区間が存在し、対向列車待ちもあって嵯峨嵐山(さがあらしやま)まで20分を要した。電化に一部高架化、複線化を果たし「嵯峨野線」という愛称ももらってアーバンネットワークとなったが、地上に降りれば旧態・山陰本線の雰囲気が残っている。

嵯峨嵐山を出ると一転スピードが上がり、トロッコ列車を左に分岐すると山腹の長いトンネルに突っ込んだ。馬堀(うまほり)の手前まで続く保津峡は新緑と紅葉の名所だが、渓谷を縫うように走る単線は当然輸送上の障害でもあったため、1990年の電化を前提に1989年3月より複線の新線に切り替えられた。旧線は後にトロッコ列車(嵯峨野観光鉄道)として復活している。

轟音が途切れたところで、保津川をまたぐ橋の真ん中にホームだけがある保津峡(ほづきょう)(京都からの営業キロ14.3km 以下同じ)に停車した。オンシーズンであればトロッコともども賑わうのだろうが、トロッコは冬季運休中、あたりに民家はほとんどなく、わざわざ訪れる観光客もいないし、冷たい雨が降るだけで、わびしい。前にも一度ここで降りたことがあるが、やっぱり春というにはまだ早い季節だった。

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保津峡を見る保津峡駅を通過する快速

つぎの列車で福知山へ。6両だが4両は園部で折り返し、福知山へは前2両だけが行く。

トンネルの合間に保津川、その脇にちらりと旧線が見える、それを繰り返して渓谷がスパッと終わると馬堀。複線区間も終わり、しばらくの間はのどかな田園風景が続くが、高速化の次のステップとして、京都〜園部間の全線複線化が動き出している。その園部(34.2km)で、雨は雪に変わった。ほぼ満員の客を乗せて、2両編成が時折激しく降る雪の中を走る。

八木、吉富、園部、船岡、日吉……シンプルな駅名が続く。山陰本線には二文字の駅名が数多い。改称した城崎(きのさき)、支線の仙崎(せんざき)をあわせて109駅もあった。旧国名や地域名を冠した駅が少なく、地名自体が特徴的であるということがいえる(同時に、読み難い)。それに、読みがなも二文字となるとぐっと少なくなる中、山陰本線には……

八木、胡麻、和知、石原、養父、佐津、由良、名和、揖屋、乃木、小田、田儀、波根、久手、仁万、馬路、波子、周布、須佐、木与、奈古、飯井。

とどめ(?)の飯井はローマ字表記でも二文字。この「簡素な複雑」さもまた山陰本線らしいと思うが、どうだろうか。……って、これ全部読めますか?


※ (順に)やぎ、ごま、わち、いさ、やぶ、さつ、ゆら、なわ、いや、のぎ、おだ、たぎ、はね、くて、にま、まじ、はし、すふ、すさ、きよ、なご、いい


閑話休題。綾部(あやべ)から舞鶴線への電車も2両、福知山(88.5km)で篠山口(ささやまぐち)からの電車も2両、乗り換える城崎ゆきも2両で、このあたりのローカル輸送の実態を示している。ただこの時期は「青春18きっぷ」の利用者が多いようだ。

円山川が寄り添い、豊岡市に近づく。この年夏の集中豪雨で大浸水した町のひとつで、一見そうとは分からないが、河川敷などで結構大きな木の枝に引っかかったゴミが、災害の爪痕を残している。


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城崎温泉

豊岡(148.4km)を出ると川幅が一気に広がり、内海のような風景を見せている。川幅が広く川岸が狭いというのは、ありそうで国内ではなかなか見られない光景ではないか。海に近い終点の城崎(158.0km)で電化区間が終わり、輸送上も大きな区切りである。京都・大阪から電車特急が乗り入れる温泉街には、冬場はカニも加わりいっそう賑わっているようだ。2005年3月、城崎温泉と改称した。