風追想

餘部 (兵庫県香住町)


城崎 11:50-(171D)-12:31 餘部 15:33-(177D)-15:46 浜坂
JPEG 35KB
余部橋梁を進む〔はまかぜ4号〕(餘部-鎧 2004.12)
[Nikon D100, AF Nikkor 35mm F2D, ISO200]

城崎〜鳥取間は、東区分では最も輸送量の少ない区間である。関西から鳥取へは、いまは智頭急行経由〔スーパーはくと〕のほうが早く抜けられるので、優等列車は寝台特急〔出雲〕と〔はまかぜ〕3往復(1往復は浜坂、1往復は香住(かすみ)まで)。夜行急行〔だいせん〕もとうとう消えてしまった。ただ冬の間は「カニ」で、臨時列車〔かにカニ但馬・北近畿〕や香住〔はまかぜ〕の延長運転が行われている。

で、カニ寿司を買ってキハ47で出発すると、陽が差してきた。だんだん日本海が近づいてくる一方で、香住(180.0km)から浜坂に向けて線路は上りにかかる。連続テレビ小説や「18きっぷ」ポスターでも有名になった、(よろい)からしばらくトンネルと山間が続き、それが果てた瞬間 列車は一気に空中に躍り出た。余部鉄橋―山陰本線車窓のハイライトである。集落の真上を渡りきったところが餘部(あまるべ)(187.2km)。何回か通ってはいるものの、降りるのは初めてだった。

JPEG 12KB JPEG 13KB

余部鉄橋、正式名称は余部橋梁。トレッスル橋という鉄骨造の橋で高さ41m、長さ131m、完成は1912年。直線で組み合わされる造形が美しく、風景との取り合わせ、それにアクセスの容易さでも山陰本線随一の好撮影地だ。長めに時間を取ったが、一日いればいろんな表情が見えてくるかもしれない。老朽化等によりコンクリート橋へ架け替える計画が先ごろ明らかになり(2005年4月JR西日本が正式に発表)、その姿を残しておこうと撮影に来る人も多くなっている。

駅ホームを降りた脇に作例写真入りの「鉄橋撮影場所」の道標が立っていて、それに従い(いや、迷うほどのものでもないが……)駅裏手のがけを少し登ると、鉄橋を見下ろすお決まりのアングルとなる。この日は雨模様でぬかるんでいたものの足場が整備されているし、ご丁寧にも列車通過時刻まで掲示されていた。次の下り列車は181系気動車の〔はまかぜ1号〕。

下の余部集落に降りてみた。漁港のある入り江で、その真上を線路がまっすぐ横切っている。橋のたもとには観音菩薩像があった。供えられた花がまだ新しい。1986年も押し詰まった12月28日、最盛期で操業中のカニ加工工場が直撃され6名が亡くなった、お座敷列車「みやび」転落事故の現場だった。台風並みの強風が一日中吹き荒れる日だったという。

JPEG 12KB JPEG 17KB
あまるべ浜鉄橋の脇に静かにたたずむ菩薩像

餘部駅が開業したのは戦後の1959年で、それまで余部の人々は、鉄橋とトンネルを伝って鎧まで歩いていたのだとか。駅の脇には、その建設の様子を示す絵が描かれていた。集落・橋と駅の字が違うが、国鉄側の事情によると思われる。余部(よべ)という駅が、同じ兵庫県の姫新線にある。



浜坂 16:39-(539D)-17:22 鳥取 17:30-(2017D:スーパーまつかぜ7号)-19:25 出雲市

浜坂(197.9km)へ向かい、鳥取からの特急券を購入。行程組み立ての都合上もあって、ここまでずっと普通列車で来たが、日も暮れたところで中間部は特急で飛ばす。あと1日かければ全部普通列車でいけそうな気がしたが。

浜坂は「かにカニ」の終端であるが、城崎や香住でも降りてしまうし、夕方でもあるし、雨の降り出した駅前は静まり返っている。小食堂で暖を取っていると、ガラス戸がガタガタと鳴る。風も強まってきた。

鳥取ゆき2両編成には、客車改造の珍車キハ33がついていた。これがもと鬼太郎列車であったりする。本来の職場はずいぶん遠くの境線だが、鳥取へ転属した現在は走っていない。福部(ふくべ)から一山越えて鳥取着(230.3km)。各駅停車で3分の1まできたことになる。


JPEG 9KB
出雲市駅

山陰路にすっかり定着した振子DC特急187系、益田ゆきの愛称は〔スーパーまつかぜ〕。山陰初の特急であった〔まつかぜ〕(京都〜大阪〜博多) の名称は国鉄末期の1986年11月、福知山線・山陰本線の城崎電化とともに消滅したが、2002年〔スーパーくにびき〕の名を変更して復活を遂げた。グリーン車・食堂車もついていた特別急行の面影はもちろんなく、モノクラス・2両編成・全車禁煙・車販なし、ローカル私鉄特急といった感じである。

前回「振子車乗り継ぎの旅」で乗ったときは振子スイッチは切られていたが、〔いなば〕(岡山〜鳥取、智頭急行経由)の振子化とセットで鳥取〜米子間も高速化対応がなされたため、こんどはパワー全開で夜の帳へ切り込んでいく。アグレッシブな走りとは対照的に、質素だが木の感覚を生かした車内は、夜は電球色の蛍光灯とあいまって落ち着いた雰囲気……とそこまではいいのだが、トンネルに突入するたびに天井がへこむ(気がする)し、大きな窓ガラスがたわむ(本当)。空気抵抗の影響が大きい先頭車に乗っているからでもあるが、特急車両としてこういうのは良くない。先頭を切妻にしているのが原因なのだろうけど。

安来(やすぎ)で〔出雲〕、宍道(しんじ)で〔サンライズ出雲〕と離合し、高架化ですっきりした出雲市(384.6km)に着く。概して高架駅というのは新幹線みたいに個性がなくなってしまうものだが、そこは神有月の出雲国、正面口に据えた大社造様の構えが存在感を強烈に示している。