近年、アジアの近隣諸国などに再生資源が輸出され、海外でリサイクルが行われるケースが多くなっています。しかし、日本からの使用済み製品・材料の輸出が輸入国側でどのように取り扱われているか、国境を超えた資源の循環が適切に成立しているのか、について判断できる情報が不足しているのが現状です。そこで、当研究室では、持続可能な資源循環のあり方を議論する基礎情報を提供することを目的として、このような国際的な資源循環の構造を解明し、日本発の中古製品や廃棄物の輸出とこれに起因している可能性のある各地の環境汚染との関係を明らかにするための研究を行っています。
なお、今後の再生資源の輸出動向の把握やアジア諸国との資源循環・廃棄物管理制度の連携を考えると、アジア各国の廃棄物管理状況に関する知見が重要です。そこで、中国、香港、台湾、韓国、フィリピン、タイ、マレーシア、インドネシア、インド等の専門家を招聘して、これまでに3回のシンポジウムを開催し(2002年11月、2003年12月、2004年12月)、各国の廃棄物管理の状況に関する情報収集や今後の研究協力の可能性についても検討を行ってきました。
上記シンポジウムなどを通じて、例えば以下のような情報が得られています。すなわち、廃棄物の発生抑制やリサイクルに向けた各国のアプローチは多様であること、廃棄物統計が十分に整備されている国は少ないこと、電気・電子廃棄物(E-waste)や使用済み自動車(ELV)については現時点では問題の顕在化が特定の国に限られていること、などです。また、多くの国では都市ごみから資源回収を行う際のインフォーマルセクターへの依存度が高く、回収量の把握が困難であるとともに、経済発展後の資源回収体制の整備が課題となると考えられます。
このようにして、まずアジア地域の廃棄物管理に関する基礎情報を収集し、経済成長と排出量との関係、法規制・処理施設の発展傾向などを整理しています。また、アジア地域の処分場データベースの基礎を開発しました。
国際的なリサイクルの量的側面としては、日本からの再生資源輸出が1990年代後半から著しく伸びていることが挙げられます。鉄・非鉄の金属くず、古紙、プラスチックくずの輸出総量は2002年において900万トン、2004年には自動車・家電などの中古品を加え合計1,200万トン程度に至っており、使用済み系の循環資源が副産物系を大きく上回っていることがわかっています。これは、重量でみた輸出総量の1割近くを占めるものです。この輸出先の大半が中国であることから、中国における現地調査を実施し、主に容器包装材由来のプラスチックリサイクルの現状把握を試みました。その結果、中国国内の盛んな需要を背景として、図1に示すように日本や欧州から容器包装プラスチックが多量に輸入され、零細業者によって繊維材料化(一部は再生繊維製品が日本へ再輸出)されている現状を確認しました。また、香港経由を含む中国への輸出構造を把握するとともに、中国内部での法規制の影響、リサイクル状況などを明らかにしました。
質的側面としては、E-wasteに関する問題が重要です。中国の零細業者においては、被覆電線(写真1)などの野焼き、ブラウン管の粉砕と放置、チップの酸処理と廃液の垂れ流し、などが行われており問題と考えられます。E-wasteについては、アジア各地の専門家を招いたワークショップにおいて、各国のE-waste問題や国際資源循環にかかる課題を議論するとともに、日本からの発生・輸出量の推定や、環境負荷などの影響を検討しています。
図1 廃プラスチック貿易のフロー
写真1
日本のリサイクル法制は国内での循環を前提として検討されてきた経緯もあり、このような国際的なリサイクルの動きに対する対応が求められています。その際の課題を整理すると、動脈側プロセスと静脈側プロセスとの情報交流の確保、再生資源輸出フローの把握の向上、輸出先での需要変化の予測に加えて、リサイクル海外依存の道義面などが挙げられます。
(この研究は、2002-2004年度廃棄物処理等科学研究費補助金によるものです)
・ A.Terazono, A.Yoshida, J.Yang, Y.Moriguchi, S.Sakai: Material Cycles in Asia - especially recycling loop between Japan and China, Journal of Material Cycles and Waste Management, 6(2), 82-96, 2004
・ A.Terazono, Y.Moriguchi: International secondary material flows within Asia, Journal of Industrial Ecology, 8(4), (印刷中), 2004
・ A.Terazono, Y.Moriguchi, Y.S.Yamamoto, S.Sakai, B.Inanc, J.Yang, S.Siu, A.V.Shekdar, D-H.Lee, A.B.Idris, A.A.Magalang, G.L.Peralta, C-C.Lin, P.Vanapruk, and T.Mungcharoen: Waste Management and Recycling in Asia, International Review for Environmental Strategies, 5(2), (印刷中), 2005
・ 寺園淳:アジアにおける資源循環?循環資・ B.Inanc, A.Idris, A.Terazono, S.Sakai: Development of a database of landfills and dump sites in Asian Countries, Journal of Material Cycles and Waste Management, 6(2), 97-103, 2004源の輸出由来、廃プラスチック、E-waste、季刊環境研究、136、85-92、2005
・ A.Yoshida, A.Terazono, T.Aramaki, K.Hanaki: Secondary materials transfer from Japan to China: destination analysis in China, Journal of Material Cycles and Waste Management, 7(1), 8-15, 2005