現在実施中の研究の第1の柱は、私たちをとりまく資源や製品、廃棄物などのモノの流れの現状と問題点を正しく理解するための研究です。これまでに国立環境研究所が行ってきた国際共同研究の蓄積を活かし、産業間の取引を表す産業連関表とマテリアルフロー分析と呼ばれる手法とを組み合わせ、経済活動を巡るモノの流れの全体像とその構造を把握します。とくに、家庭、オフィス、工場、建設現場などから発生する廃棄物がどのように処理・処分されているか、リサイクル可能な資源がどれだけ発生し、どのように形をかえて利用されるかなど、これまで情報が不十分だった経済活動の「静脈」部分に焦点をあてた情報整備を進めています。こうした情報は、「リサイクル率」など循環の度合いを表現する指標の算定や、技術革新や生産・消費構造の変化がモノの流れやこれに伴う環境への負荷にどのように影響するかといった応用分析に利用します。一方、廃棄物の発生やリサイクルに伴うカネとモノのフローを経済分析で扱う際の手法面の研究にも取り組んでいます。
研究の第2の柱は、政府、企業、市民など各々の立場からどのような行動に取り組めば、環境への負荷の低減にどれだけ貢献できるのかを明らかにするための研究です。リサイクルは本当に環境によいのかといった疑問がある中、資源の採取から製品の生産、流通、使用、その廃棄に至るまでの一生をとらえて環境への影響を評価するライフサイクルアセスメントの手法を用いることにより、真に効果的な「循環」の技術や仕組みを明らかにすることを目指します。リサイクルによる廃棄物処分量の低減が、リサイクル工程における他の環境負荷や、リサイクル材自身に含まれる物質によるリスクの増大を招かないかどうかの評価が焦点となります。このため、当センターの発足前から前身となる研究部門で実施されてきた関連研究の成果を継承し、リサイクル技術を始めとする「静脈」部分の情報整備を進めています。また、行動に関わる主体の意識を的確に把握することも、政策の立案・実施の支援に欠かせない研究です。
これらのほか、地域ごとの特徴を生かした効果的な循環の仕組みづくりについての研究や、リモートセンシング、地理情報システムなどの情報技術の活用に関する研究についても、他の研究室と協力しながら取り組んでいます。「情報」は現代社会における欠かせない基盤であり、的確な情報の収集と分析能力の向上を通じて、循環型社会の形成に取り組んでいくことも研究室の重要なテーマと考えています。
マテリアルフロー分析:国、都市、工場などを対象として、原材料・燃料などの「入り」の量と、製品、排ガス、廃棄物などの「出」の量、つまりモノの出入りを漏れなく把握・記述する手法です。廃棄物の増大と大量生産・大量消費型の経済・社会との関係や、リサイクル量がモノの総量に占める割合などをわかりやすく示すことができます。
ライフサイクルアセスメント(LCA):製品やサービスなどの資源採取から製造、利用、最終処分までの全ライフサイクルにおける環境負荷を計算し、その影響をできるだけ定量的に表現する手法です。どのような製品やリサイクル方法が環境にやさしいかを比較したり、全ライフサイクルのどこを改善すれば全体の環境負荷を効果的に削減できるかを見つけたりすることに役立ちます。