当研究室ではさまざまな物質循環の促進策、すなわち政府、企業、市民など各々の立場からどのような行動に取り組めば、環境への負荷の低減にどれだけ貢献できるのかを明らかにするための研究を行っています。特に、物質循環に関わる技術や制度は重要な事項であり、幅広い情報収集を行っています。
収集した情報は、それ自身として利用するだけでなく、ライフサイクルアセスメント(LCA)や政策分析の基礎情報としても利用しています。以下では、技術情報として廃プラスチックのリサイクル技術、制度情報として個別リサイクル法に関する情報収集の結果の一部を紹介します。
廃プラスチックのリサイクルについては、マテリアルリサイクル、高炉原料化、コークス炉化学原料化、ガス化溶融、加圧二段ガス化、油化、セメント原燃料化、固形燃料化、自治体での前処理などのさまざまな技術が開発されています。そこで、これらの技術について、技術の概要、廃プラスチックのリサイクル全体においてその技術が占める位置、施設の立地状況、受入可能な廃プラスチックの種類、受入実績、受入能力、前処理の必要性、前処理施設の特徴、代表的な施設における投入産出のフローなどの情報を収集・整理してきました。
これらの情報をもとにリサイクル技術を分類してみると、例えば図1のような整理ができます。各行には中核となる要素技術の種類を、各列には最終的な用途を配置しています。従来のマテリアルリサイクル、ケミカルリサイクル、サーマルリサイクルの3区分や、マテリアルリサイクル対サーマルリサイクルの2分法は、これら2つの視点が混ざった分類法といえるでしょう。マテリアルリサイクル、ケミカルリサイクル、サーマルリサイクル等の用語を正しく定義、理解しておくことは、「どのリサイクルが良いか」を検討する上でも重要です。収集した情報をもとに、廃プラスチックリサイクルのLCA的な評価を行うとともに、容器包装リサイクル法における再商品化手法のあり方等の課題の整理も行っています。
さて、図1を具体的に見てみましょう。例えばガス化については2つの方法があり、アンモニア製造の原料として利用されている場合(ここではガス化Aとする)と主に燃料ガスとしてエネルギー利用されている場合(ガス化Bとする)とがあります。厳密には、ガス化Aでも一部は反応のためのエネルギーとして利用されていますが、主に得られる産物からこのような区分としています。ガス化Bは廃プラスチックを直接ガス化炉に投入しますが、ガス化Aでは、炉に投入する前に、破砕、造粒のプロセスがあり、ここにはメカニカルな方法が適用されています。高炉原料化およびコークス炉化学原料化でもこの点は同じであり、高炉やコークス炉に投入する前に、メカニカルな破砕、造粒が行われます。その後、高炉還元の場合には、鉄鉱石の還元剤として機能するとともに、燃料ガスとしての役割も果たします。コークス炉化学原料化は最も複雑で、廃プラスチックから、コークス、油、ガスの3種類の成分が得られ、それぞれ還元剤、化学原料、燃料ガスとなります。
ここで注意すべきなのは、容器包装リサイクル法との対応でみると、こうした一連のプロセスは、法律上は「再商品化」と「再商品化製品の利用」とにまたがっていることです。高炉原料化やコークス炉化学原料化の場合、再商品化とは、造粒までと解釈され、ここまではメカニカルな手法が適用されています。この点に関して、当時の通商産業省から提示された考え方では「高炉還元剤であるアグロマレートの原材料としてプラスチックを利用するものであるが、ここでは高炉において還元反応することから、ケミカルリサイクルに分類する」としています。すなわち、再商品化プロセス自身ではなく、その後の高炉やコークス炉での「再商品化製品の利用」の形態から「ケミカル」に分類されたのです。一方、油化やガス化Bは、容器包装リサイクル法の第2条第8項第1号における「燃料として利用されるものにあっては政令で定めるもの」に該当し、これらは「ケミカル」プロセスを経たものですが、用途としては主に「エネルギー」です。容器包装リサイクル法では、その他プラスチック製容器包装の再商品化手法として、ケミカルリサイクルを含むマテリアルリサイクルを認めていますが、図1のマッピングと対比すると、再商品化製品の利用段階で、エネルギー以外の用途が存在すればそのリサイクルを認めている、というのが実情と考えられます。
図1 適用する要素技術と用途からみたプラスチックのリサイクル手法
リサイクルの制度については、個別リサイクル法に関する情報を収集・整理しています。これは、個別リサイクル法の問題点を抽出し法の効力評価を行うこと、リサイクル法制度に共通する制度設計上の要点を抽出して制度設計に活かすことをねらいとしています。一方で、大量リサイクルと批判されることのないよう、リデュース、リユースを含めた3R施策をどのように統合化するかについても念頭において進めています。
例えば、現在成立している各リサイクル法の枠組みを横並びで比較すると、リサイクル目標の有無、その達成手段、発生抑制・再使用・リサイクル・熱回収・適正処理の施策の優先順位、各主体の責務と役割の範囲、費用負担方式などにおいて、様々な違いが見られます。一方で、さまざまな文献で指摘されている各リサイクル法の問題点は共通する内容が多く、リサイクル品の需要をいかに確保するか、リサイクルの費用負担をどうするか、上位施策とされる発生抑制や再使用をどのように促すか、国際的な循環をどのように位置付けるか、生産者責任をどのようにすべきかといった事項などが挙げられます。こういった共通項目とリサイクル法が対象とする製品・素材の廃棄物・循環資源に固有な特徴をふまえることが、個別リサイクル法の制度検討に必要と考えられます。
また、リサイクルシステムによる物質循環達成度、その経済的効率性とマネーフロー、物質フローのカバー範囲、関係主体の行動変化の4つに着目した個別リサイクル法評価の過程のなかで、施策評価には検証型、発見型、統合型の少なくとも3種類の評価のタイプがあることが確認できました。循環施策の評価の枠組みを一般化する方向で研究を進めるとともに、3R施策それぞれの適用範囲を明らかにし、統合された施策や制度設計の研究を進めようとしています。
・ 森口祐一:家庭系廃プラスチックリサイクル技術の評価の視点、都市清掃、58(263)、17-22、2005
・ 森口祐一:循環型社会からプラスチックごみ問題を考える?リサイクルするなら付加価値の高い方法で、月刊廃棄物、31(369)、56-62、2005