循環型社会形成システム研究室 研究内容

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循環資源を取り入れた物量投入産出表の枠組みと分析手法の開発

 物量投入産出表(物量産業連関表)は、経済活動部門間の財の取引を物量単位で記述したもので、ドイツ、デンマーク等では既に国家の統計局で作成されている表です。通常の経済主体だけでなく、「資源の供給者としての自然環境」と「排出物の受容者としての自然環境」を「部門」に含めることにより、資源・廃棄物問題に関わる一連のモノの流れ(マテリアルフロー)を記述することができます。すでに、多次元投入産出表の枠組みを提案し、数表の試作を行ってきましたが、これまでの試作表では、廃棄物・リサイクル問題への展開を視野に入れつつも、資源として投入された物質がどのような産業を経てどのような消費財・資本財に変化していくのか、その過程でどのような副次的な物質の発生や環境への負荷があるかを記述すること、すなわち生産活動(動脈部門)と環境とのかかわりの記述に主眼をおいてきました。現在は,リサイクルや廃棄物処理活動(静脈部門)へも重点を置き,廃棄物やその他の副生物(これらのうち有用なものが循環型社会形成推進基本法の定義による循環資源)に関するマテリアルフローを、物量投入産出表を用いて表現するための拡張法などを検討しています。

 また、通常の産業連関表と廃棄物統計を用いて以下のような分析も行っています。


●産業連関表と廃棄物統計との結合による廃棄物発生構造の分析

 まず、国内の最終需要が産業廃棄物排出量に与えた影響を見てみると、図1に示すように、産業廃棄物の総排出量(家畜糞尿を除く)のうち約32%(約1億トン)が家計消費支出(家庭の消費)によって発生したと考えられ,最も大きいことが分かります。次いで、国内総固定資本形成(土木構造物や建築物、工場の生産設備などの建設)、政府消費支出(政府の消費)、輸出の順となっています。  環境省の資料によると、一般廃棄物のうち、事業系を除いた家庭系の廃棄物の排出量は年間約3500万トンです。一方、家庭による商品やサービスの消費,すなわち家計消費支出によって間接的に誘発された産業廃棄物の排出量は年間で約1億トンですから、家庭からの直接的な排出量の約3倍にのぼることが分かります。家計消費支出の項目との関係でみると、主な内訳は、水道・下水道を利用することによる汚泥が約43%、卸売・小売サービスの提供に必要な紙の生産による汚泥が約20%(主に製紙汚泥)などとなっています。一方、公的資本財(道路、港湾など)、民間資本財(工場、事務所など)の建設による産業廃棄物排出量が全体の約45%と大きな割合を占めています。

 最終処分量に目を向けると,環境省の資料では事業系を含む一般廃棄物の最終処分量は約1360万トンとなっています。この量と、家庭の消費のよって間接的に誘発された最終処分量は同程度でした。排出量では約3倍の違いがあるにもかかわらず、最終処分量ではほぼ同程度になっているのは、誘発される産業廃棄物に占める汚泥の割合が高く、中間処理による減量化量が大きいことなどが寄与していると考えられます。

最終需要別の産業廃棄物発生量・最終処分量への寄与(家畜糞尿を除く)

図1 最終需要別の産業廃棄物発生量・最終処分量への寄与(家畜糞尿を除く)



 ●家計消費支出によって誘発される産業廃棄物最終処分量

 図2は、横軸に各商品・サービスの1人あたり家計消費支出額(百万円)を、縦軸に各商品・サービスの単位消費支出額(百万円)あたりの産業廃棄物最終処分量(kg/百万円)をとったものです。ある商品・サービスの横幅と縦幅を掛けた面積が、その商品を消費した結果、間接的に発生する最終処分量を表しています。縦長の長方形になる場合は、家計消費の金額が小さい割に最終処分量が大きく、横長の場合はその逆になります。この形によって、廃棄物対策の大まかな方向性が異なってくると考えられます。例えば、水道、パルプ・紙、電力などの消費財は縦長の長方形であり、生産者側において技術改良を行い、廃棄物を削減することが効果的と考えられます。一方、サービス業は概して横長の長方形であり、家計での支出を減らしていくことが効果的でしょう。

家計消費支出によって誘発される産業廃棄物最終処分量の鳥瞰図

図2 家計消費支出によって誘発される産業廃棄物最終処分量の鳥瞰図

(注:原単位が大きく消費支出額の小さい4部門を非表示としている)



<主要関連成果>

・ Shigemi Kagawa, Yuichi Moriguchi, and Koichi Tachio: An Empirical Analysis of Industrial Waste Embodied in the 1995 Japanese Economy, Journal of Applied Input-Output Analysis, 9, 69-92, 2003

・ Keisuke Nansai, Seiji Hashimoto, and Yuichi Moriguchi: Calculation of Japanese sectoral embodied intensity of waste emission by input-output analysis, Proceeding of SETAC Europe 14th Annual Meeting, 200, 2004

・ Shigemi Kagawa, Seiji Hashimoto, Rokuta Inaba, and Yuichi Moriguchi: An empirical analysis of hazardous and other wastes embodied in the 1995 Japanese economy: competitive imports I-O model vs. non-competitive imports I-O model, Abstracts from the second ISIE Conference, 65, 2003

・ 森口祐一、松井重和:循環資源のマテリアルフロー分析のための物量投入産出表の設計、第13回廃棄物学会研究発表会講演論文集、54-56、2002

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